二次創作小説(紙ほか)
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.365 )
- 日時: 2014/02/01 21:04
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
多数の【師団】の団員が巣食う廃墟。
その一室で、男は己の傍らで眠る少女に手を伸ばした。
「おい、起きろ」
「んん……んにゅ」
雑だが、どこか気遣うような優しい手つきで、彼は少女を揺り起こす。少女もゆっくりと瞼を持ち上げ、もそもそと上半身を起こした。
「んー……おはよぅ」
「おう……じゃねえよ。もう昼前だっての。朝と呼べる時間じゃねえ」
その辺は人によって判断が微妙に別れる範疇だが、彼の言うことも概ね正しい。というのはさておき。
「どーしたの?」
「そろそろ俺たちも出るぞ」
彼のそんな言葉を聞き、彼女は首を傾げる。
「もう、いくの?」
「ああ。『太陽一閃』以外の連中なら、隊長の奴らや四天王に任せとけばなんとかなると思ったが、ちっとばかし奴らの実力を見誤ってたみてえだ。つーか、はっきり言って舐めてたぜ。甘く見すぎた」
などと口ではそう言うが、その声にはまるで反省の色は見えない。
「あの女が介入してくることも予想外だったが……これももう少し考えてりゃよかったな。あいつの性格を考えれば横槍を入れて来ることも十分に考えられた。らしくもなく焦っちまったんかね、俺は」
大きく溜息をつくように、灰の中の空気を吐き出す。それは失敗して焦っているというよりは、面倒なことになったから憂鬱だ、とでも言うような仕草だった。
「でも、なんでいまなの? みんなは?」
「お前の言うみんながどの範囲を指してるかは分からねえが、とりあえず現時点で隊長クラスが全滅した。四天王はまだ連絡ねえから、まだ交戦中か、そもそも戦ってすらねえかのどっちかだろ。普通に考えりゃ、一つの組織が俺たちにこれだけ抵抗できるなんてありえねえ。できたとしたら奴らは相当な手練れってことになる。ま、そもそも人数が合わねえし、たぶんあの女んとこの連中と、あとは【神格社界】の馬鹿野郎どもが嗅ぎつけてきたってとこだろ」
ともかく、今回連れてきた隊長クラスのメンバーは全滅したのだ。ゆえに、そろそろ彼らも、のうのうと居座っていられる場合ではなくなってきた。彼らにも彼らの面子というものがある。
「ふーん。みんなしっぱいしたんだ。みんなしょけい?」
「なわけねえだろ。あいつらは歴代隊長の中でも、一位二位を争うレベルだ。一度や二度に失敗くらいで捨てるなんざもったいなすぎる。労働力は殺さない程度に死ぬまで使わねえとな」
「でも、だいごしょーたいのひとだっけ? あのひとはこのまえ、しんじゃったよ?」
「別にあいつは俺が手を下したわけでもなんでもねえがな……つーかなんで死んだかも分かんねえんだよな、あいつ。あいつが死んじまったせいで《月影神話》も失い、【師団】として所有する『神話カード』も三枚になっちまった。その前はどっかの馬鹿が【神格社界】なんかに負けやがって、《豊穣神話》もねーし。ここんところ踏んだり蹴ったりだ」
だが、と彼は笑う。
「《冥界神話》はともかく、俺たちにとって『神話カード』は二枚あればそれでいい。他の『神話カード』なんざ、おまけみてえなもんだ。そのうち手に入るだろ」
『神話カード』を二枚失う。その重さを知らない彼らではないが、しかしその重さですら、彼にとっては些末な問題だった。
重さを知ってはいても、その重さを実感することはない。
「……まあそういうわけだ。流石に隊長クラスが全滅ってなると、『太陽一閃』を捜索する効率も落ちる。奴らは強いが癖も強いからな、もう一度出撃させるのも危険だ。それに、俺個人としては『太陽一閃』自身にも興味がある」
とにかく俺たちも行くぞ、と言って、彼は立ち上がる。彼女もそれに合わせて、彼に寄り添う。
そして彼と彼女は、軋んだ扉を押し開け、外へと出て行った——
雀宮高校の保健室。生徒も教師もほぼ全員がいなくなったこの学校にはほとんど人間がいないが、その一室には二人の男女がいた。
男はベッドで目を閉じ、女はその傍らに座っている。
「ん——」
「あ、起きた」
男がゆっくりと目を開くと、女は軽い口調で男の顔を覗き込む。
「所長……?」
「やっほー黒村君。ボディはいかが? グッド? バッド?」
とりあえず男——黒村は体を起こす。
彼の隣にいるのは、彼の上司であるラトリだった。
「…………」
「なにかトークしてよ。サイレントなままじゃあ気が滅入っちゃうよ?」
「すみません」
反射的に謝ってしまったが、黒村は決して形の上だけで頭を下げているのではない。
黙ったままでいたことについて謝るつもりは毛頭ないが、謝る必要性を感じるところはあった。
「所長に《守護神話》を託されたのに、こんな体たらくで……」
「いやー、別にいいよ。ドント、ウォーリー。《守護神話》自体は無事だったしね。それに」
少しだけ声のトーンを下げて、ラトリは口を開く。
「謝るのは私の方だよ。元々、こうなるかもしれないって思って渡したんだし、結果を言えば自分がその負荷に耐えきれないから、黒村君に押し付けたんだし。ごめんね」
「所長……」
その口振りは、表面上ではいつもの軽い彼女のそれであった。しかしその裏に、彼女なりの重荷があることを読み取れないほど、黒村は鈍感ではない。
「……そんなことをセイしておきながらバッドなんだけど、もう少しそのカードはハブしててくれるかな? ダメそうなら、九頭龍君にアスクするけど?」
「いえ……俺は大丈夫です」
実を言うと全然大丈夫ではない。頭痛やら嘔吐感やら疲労感やらが凄まじい勢いで押し寄せ、口を開くのも辛いくらいだが、ここで弱みは見せたくない。黒村にも、彼なりの矜持や意地というものがあるのだ。
「そっか。まあ今の所有者は黒村君なわけだし、本当にやばかったら九頭龍君をコールすればいいよ。隣のクラスルームで……向田葵ちゃんだっけ? とスピークしてるはずだから」
と言って、ラトリは立ち上がった。
「? どこ行くんですか、所長」
「少し野暮用……って言うか、昔のマイフレンドとちょっとね。すぐにはバックしないけど、まあ大丈夫だよ」
「はぁ……」
よく分からないが、これ以上追及するほどの元気は、黒村にはなかった。ラトリが大丈夫だと言うのなら大丈夫なのだろう。
彼女も彼女で、それなりに危険な現場へと赴いている。しかし彼女が負傷したり敗北したりしたことは、いまだかつて一度もない。
「……じゃあね、黒村君」
そして彼女は、その部屋から出て行った——