二次創作小説(紙ほか)

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.376 )
日時: 2014/02/03 02:29
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

 仰向けのまま、流は靄がかかったようにはっきりしない眼で青い空を見上げる。雲一つない真っ青な空、電柱やら電線やら、民家の屋根がなければ、そこは海。どこまでも広がる大海となって見えただろう。
「……負けた、か」
 意識がはっきりしない。頭の中が真っ白になり、まともな思考ができない。身体は指一本動かせず、あらゆる痛みが迸り、声を出しているのかも分からない。もしかしたら心の中で呟いているだけなのかもしれないという錯覚に囚われる。
 だがそれでも、生きている。心臓の鼓動だけは、はっきりと聞こえてくる。
 五体満足ではないが、しかしこうして生きている以上、ハスターはデュエルが終わってからはなにも仕掛けて来なかったようだ。もうこの場からも立ち去っているのかもしれない。
「負けた……か」
 また、呟く。
 今まで流は、様々なものと戦い、様々なものに勝ち、様々なものに負けてきた。夕陽に勝ったこともある、汐に負けたこともある、零佑に負け、ひまりに勝ったこともあった。
 その中で一番大きな敗北は、汐とのデュエルだろう。あの一件で『神話カード』を失った流は、今でもそのことを、多少なりとも引きずっている。
 そんなことはおくびにも出さないが。逆に言えば、外面に現れるほど、気にしてはいないということだ。
 ふと、海の家の店長に言われた言葉を思い出した。

(リュウ坊。お前って、執着心がないよな)

 執着心がない。確かにその通りかもしれない。

(いや、お前が潔いとか、諦めがいいとか、そういうことを言ってんじゃなくてな。なんつーのか……なにかを失ってから、それを奪い返そう、っていう感じの意気込みが足らない、みたいな?)

 これも、その通りかもしれない。
 汐に負け、《ネプトゥーヌス》を失った。
 だが、それほど悔しくはなかった。《ネプトゥーヌス》を取り返そうという気もなかった。
 相手は中学生だ、高二の自分がそんなことでは、と大人気なく思ったというのもあるが、それだけではない。
 きっと、執着心が欠けていたからだろう。
 後悔がない、勝敗に囚われない。それが、水瀬流という人間だった。
 だった、はずなのだが。
「なんだ……この感じは。凄く、不愉快だ……今すぐ、あいつと、もう一度戦いたいと思っている……」
 勿論、この動かない身体でそんなことはできない。そもそもハスターの姿はもうない。今すぐにリベンジなど、できっこない。
 だが流は、紛れもなくリベンジをしたいと思っている。今まで、そんなことを感じたことはなかったというのに。
「なぜだ。なぜ、こんな——」

「リュウッ!」

 その時。
 後方から、怒声にも似た声が飛ぶ。同時に、地面を駆ける荒々しい足音も。
「おいリュウ! どうした、大丈夫か!?」
「……ナガレ、だ」
 そんなことを言っている場合でもないのだが、流は今にも消え入りそうな声で訂正する。
 とりあえず体を起こそうとしたが、その瞬間、全身に燻っていた激痛が全速力で駆け抜け、崩れ落ちそうになる。咄嗟に片手を着いたが、今度はその腕に痛みが集まり自重を支えられない。そして地面に倒れ、その衝撃でまたも鋭い痛みが駆け回る。
「ぁ、が……!」
「お、おい! 無理すんなよ」
 あまり強力な一撃ではなかったはずだが、ダメージが大きい。起き上がるのは無理そうだ。
「誰にやられた……いや、その前にまず病院か。救急車か? 119番でいいのか?」
「…………」
 流は無言でポケットの中の携帯を滑らせる。それだけでも痛みが走るが、先ほどの激痛よりマシだ。我慢する。
「? なんだ、行きつけの病院か? ここに電話しろって?」
「ああ……」
 短く答え、流はふと思ったことを、漏らすように言葉にする。
「……あいつは……?」
「あいつ?」
「朝比奈……ひまり……」
「ああ、朝比奈か。よく分かんねえけど、春永が見つけって、メールを寄越してたぜ。なんか、シダンチョーとかいう奴と戦ってるみたいだが」
「師団長……ジークフリートか……」
 名前だけなら聞いたことがある、掛け値なしで“ゲーム”参加者なら知らない者はいないレベルの超がいくらでもつく有名人だ。
(春永このみ……ということは、空城夕陽や、光ヶ丘姫乃、御舟汐もいるだろうな……俺も)
 そこに行く、と言いたいが、言えなかった。
 こんな様では、言ったところで邪魔なだけだろう。流も、そのくらいは弁えている。
 だから、ここで祈るしかないのだ。ひまりが、ジークフリートに勝つことを。

 

 ひまりとジークフリートのデュエル。
 ひまりのシールドは二枚。バトルゾーンには《緑神龍バルガザルムス》《黒神龍グールジェネレイド》《竜のフレア・エッグ》。
 ジークフリートのシールドも二枚。バトルゾーンには《紫電左神ヴィタリック》とリンクした《霊騎右神ニルヴァーナ》、《光姫左神ブラッディ・バレンタイン》とリンクした《真滅右神ブラー》、《双天右神クラフト・ヴェルク》とリンクした《イズモ》。
 リンク解除を活用し、打点や殴り返し要員を増やすジークフリートに追い詰められるひまり。そんなひまりに、神の腕が振りかざされる。
「《ヴィタリック&ニルヴァーナ》でWブレイク!」
 ひまりの残る二枚のシールドがまとめて消し飛ばされた。まだジークフリートの場には《イズモ》がいる。このままでは、ダイレクトアタックを決められてしまうが、
「S・トリガー発動! 《黒神龍オドル・ニードル》を二体、バトルゾーンに!」
 収束した光から現れたのは、二体の《オドル・ニードル》。これで、少なくともこのターンは凌げる。
「やっぱ出やがった……一応、片方は潰しておくか。二体神《イズモ》で《オドル・ニードル》に攻撃」
 《クラフト・ヴェルク》の能力でカードを引きつつシールドを増やし、光の矢が《オドル・ニードル》を射抜くと同時に《オドル・ニードル》も弾け飛ぶ。そして四方八方に散って行った無数の棘の一集団が《イズモ》へと降り注いだ。
「《イズモ》を残してもパワーが低いから殴り返されるだけか……《クラフト・ヴェルク》を残す」
 降り注いだ棘から《イズモ》は《クラフト・ヴェルク》を守り、破壊された。
「なんとか耐え切った……私のターン」
 この瞬間、《竜のフレア・エッグ》がカタカタと揺れ始める。
「《フレア・エッグ》の効果発動。ターンの初めに山札の一番上を墓地において、それが進化でないドラゴンならタダで場に出せるよ」
 非進化ドラゴンならどれだけ重くても、どんな文明でも踏み倒せるため、様々な文明のドラゴンが詰め込まれているであろう今のひまりのデッキなら、通常の二、三色程度で組まれた連ドラよりも高い効果が発揮されるだろう。
 そしてひまりのデックトップから墓地へと落ちたカードは、


龍聖大河・L・デストラーデ 光/水文明 (7)
クリーチャー:サイバー・コマンド/アポロニア・ドラゴン 6000
H・ソウル
M・ソウル
マナゾーンに置く時、このカードはタップして置く。
自分のターン中、このクリーチャーまたは自分の他のクリーチャーをバトルゾーンに出した時、それがそのターンに出す1体目のクリーチャーであれば、次のうちいずれかひとつを選ぶ。
▼自分のシールドの数が相手以上であれば、自分の山札の上から1枚目を見る。そのカードが、バトルゾーンに出したクリーチャーよりコストが小さいクリーチャーであれば、そのカードをバトルゾーンに出してもよい。
▼自分のシールドの数が相手より少ない場合、自分の山札の上から1枚目を裏向きのまま、新しいシールドとして自分のシールドゾーンに加えてもよい。
W・ブレイカー


 刹那、《エッグ》の殻が弾け飛ぶ
「よしっ、ドラゴンだから《エッグ》を割ってバトルゾーンに! そして《L・デストラーデ》の能力発動! 私のシールドはあなたより少ないから、シールドを追加!」
 1ターンに一度だけ、しかもたった一枚しか追加されないが、それだけでもシールドゼロよりも安心感は段違いだ。
「さらに《インフィニティ・ドラゴン》も召喚!」
「……《インフィニティ》だ?」
 ジークフリートは眉根を寄せる。
 殿堂カードにまで指定されたドラゴンだ、《インフィニティ》は非常に強力な除去耐性を備えている。ひまりの今のデッキでもドラゴンの比率が高いため、十分に効果は発揮するのだが、この場合はそんな生温い意味は持たない。
「《オドル・ニードル》と《インフィニティ》かよ、面倒くせえ……!」
 《黒神龍オドル・ニードル》は、相手の攻撃対象を変更するし、バトルをすれば互いに破壊する、ドラゴンにしては珍しい防御的な能力を持つ。これに《インフィニティ》の除去耐性が加われば、攻撃対象を限定し、バトルをすれば相手は破壊、自身は生き残るという、堅牢なな防御態勢が完成する。
 いつか九頭龍がこれと似たようなコンボで完全に近い防御を構築していたが、この手の守りは相手にすると非常に鬱陶しく、対処が難しい。
 防御の布陣が完成すると、ひまりは一呼吸。そして
「……じゃあ、行くよ!」
 ひまりの掛け声と共に、彼女に付き従う龍たちが、唸りを上げる。