二次創作小説(紙ほか)

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.397 )
日時: 2014/02/15 09:42
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

「——『昇天太陽サンセット』」
 夕陽とアポロンが再び共戦の盟約を交わした、その時だった。
「師団長の話を聞く限りでは、ほとんど再起不能、そうでないにしてもしばらく動けなさそうな感じだと思ったのですけど……意外とお早い復活で」
 木々の間から、人影がゆらりと現れる。
 モノクロチェックのコート羽織った、長身の女。長い銀髪は流麗かつ美麗だが、意外と童顔で幼さの残る顔つきをしている。
 どこあで見たことのある風貌。類似した人物ならすぐに思い出したが、微妙に差異があるような気がする。
「お前……ニャルラトホテプ、か……?」
「おや? 分かりますか……って、そうでしたそうでした、今は昨日あなたと戦った“身体”の妹さんでした。そりゃあ似てるわけですよね」
 少し首を傾げたが、ニャルラトホテプはすぐに納得したように手を打った。言葉の意味は、夕陽には微塵も理解できない。
「っていうか、なんかキャラ変わってないか……?」
 どころか、声も少し高くなっているような気がする。
 昨日戦ったニャルラトホテプも、たまに軽口を叩いてはいたが、ここまで能天気でお気楽ではなかった。まるで別人になったかのような変化に戸惑う夕陽だが、今はそれ以上に、気になる点がある。
「……お前、なんでここに」
「ん? 別に大した理由はありませんよ。昨日の一件で、ラトリ・ホワイトロックが神話空間を展開していましたが、町を丸々一つ完全に掌握できるかどうか、ちょっと疑問なんですよね。ですから念のためにその事後処理をしていたんです。それでやっとこさ終わったと思ったら、あなたが全力疾走している姿が見えたので、気になって後を追ってみました。いやー、やはり若い男の子は元気ですね。流石にこの身体じゃあ登山は厳しかったですよ」
 つまり、ここに居合わせたのは偶然だった、ということらしい。
「でも、無理して山を登った甲斐はありましたね。師団長も少し言ってましたけど、『神話カード』が本当に実体を持つとは……それに、まさかこんなところに《太陽神話》が埋まっていたなんて、驚きです」
 師団長が聞いたらまた激怒しますね、などと言いながらくすくす笑うニャルラトホテプ。
 だが、笑ってばかりではない。夕陽は、彼女の手の動きを見逃さなかった。
「せっかくですし、ここで仕留めさせていただきます。昨日の身体より幾分マシという程度の性能ですけど、デッキはそれなりにガチのを持ってきましたし、たぶん大丈夫でしょう」
 彼女の手には、デッキが握られている。神話空間に入ったら自動で展開されるとはいえ、それは今から戦うことを示す合図であった。
「……いいよ。昨日と同じように、返り討ちに——」
 と言って腰に手を伸ばす夕陽だが、その手は空振った。
「あ……」
 いつもならそこにあるはずのものがない。いつも腰につけているはずのデッキケースは、そこにはなかった。
(そういえば、なにも考えずにすぐに家を飛び出したから、なにも持ってきてなかった……)
 デッキも、家に置いてきたままだ。
 しかし、
「夕陽!」
「アポロン……?」
 夕陽の目の前に、アポロンがやって来る。
「オイラを使うんだ。さっき約束したばっかりだろ、一緒に戦うって!」
「……そうだったね。じゃあ、頼むよ」
「合点だ!」
 威勢のよい返事と共に、アポロンはカードの姿へと変化する。
「《太陽神話》……確かにそのカードを使われるのは厄介ですが、如何に強力な『神話カード』でも、戦いに置いては単体じゃ紙切れみたいなものですよ?」
「どうだろうね。それに、カードは《アポロン》だけじゃない」
 夕陽は、先ほど発掘したばかりの箱から、適当なデッキケースを一つ、掴み取る。中身は確認していないが、しかし四十枚にはギリギリ足りないと、直感的に理解する。
「先輩、早速あなたの遺した力、使わせてもらいます……!」
 ひまりが残したもの。その力の一部を、今ここで、解放する。
「行くぞ《アポロン》!」
「おうよ!」
 三十九枚のカードの束に、カードとなった《太陽神話》を組み込み、二人は、神話空間へと誘われた。



 夕陽とニャルラトホテプのデュエル。
 互いにシールドは五枚。
 夕陽の場には《コッコ・ルピア》が一体。
 ニャルラトホテプの場には《青銅の鎧》《ヤミノザビグライド》《躍動するジオ・ホーン》。
「おいおい夕陽! クリーチャーの数で押されてるぞ! 大丈夫か?」
「大丈夫。相手は小型ばっかりだし、まだなんとかなる。っていうかデッキから出て来るなよ」
 実体化できるようになってフリーダムになったアポロンを押さえ、夕陽は次の手を考える。
 どうやらこのデッキは、火と自然のステロイド。ひまりが夕陽たちとのデュエルでよく使用していたデッキとよく似ている。癖があまりなく、夕陽も似たタイプのデッキを使用していたことがあるので、動かすことに苦はない。
(奴は前のターンに《ジオ・ホーン》で《次元流の豪力》を手札に入れてる……いくら小型ばかりといっても、このまま数で押されるのもまずい。こっちも展開力で勝負するか)
 方針を決め、夕陽は手札のカードを一枚抜き取る。
「《ボルシャック・NEX》を召喚! 効果で山札から《コッコ・ルピア》をバトルゾーンに!」
 これでドラゴンの召喚コストは4下がる。次のターンから一気にドラゴンを展開し、数と打点で押し切るのだ。
 しかし、
「ふっふっふ……あなたの手の内なんて見え透いているんですよ。私のターン《希望の親衛隊ファンク》を召喚!」


希望の親衛隊ファンク 闇文明 (5)
クリーチャー:ダークロード/ハンター/エイリアン 5000
バトルゾーンにある相手のサイキック・クリーチャーすべてのパワーは−5000される。
バトルゾーンにある相手のサイキック以外のクリーチャーすべてのパワーは−1000される。


「な……っ!?」
「あなたのクリーチャーのパワーはすべてマイナス1000! 二体の《コッコ・ルピア》は破壊です!」
 《ファンク》の発する瘴気で、夕陽の場の《コッコ・ルピア》は全滅してしまう。
「ドラゴンの召喚コストを下げる《コッコ・ルピア》は優秀ですけど、この手の全体除去に弱いのがネックですよね。ターンエンドです」
 ドラゴンを大量展開するつもりが、その出鼻をくじかれてしまった。
 しかしこの程度では、夕陽は止まらない。
「まだだ……《エコ・アイニー》を召喚! 追加したマナをドラゴンだから、もう一枚加速!」
 これで7マナ、コスト軽減に頼らずとも、普通にドラゴンを召喚できる圏内だ。
「さらに《NEX》で攻撃、Wブレイクだ!」
「その攻撃は《ヤミノザビグライド》でブロックです。そして《ヤミノザビグライド》が破壊されたので、あなたの手札を一枚捨ててもらいましょうか」
 軽量ブロッカーで、破壊されれば相手の手札を一枚捨てさせる《ヤミノザビグライド》。速攻相手でも、そして手札補充が苦手な今の夕陽のデッキにも、有効に作用する。
 ——例外を除いては、だが。
「残念だったな! 手札から捨てるのは《永遠のリュウセイ・カイザー》だ! 《リュウセイ・カイザー》は手札から捨てられる代わりにバトルゾーンへ!」
 手札を減らすつもりが、夕陽のアタッカーを増やしてしまったニャルラトホテプ。しかも《リュウセイ・カイザー》の能力で、《エコ・アイニー》もスピードアタッカーだ。
「行け! 《リュウセイ・カイザー》でWブレイク!」
 《リュウセイ・カイザー》の振りかざす炎の剣が、ニャルラトホテプのシールドを二枚、まとめて切り裂いた。
 だが、そのシールドが光の束となって収束する。
「S・トリガー発動です! 《地獄門デス・ゲート》で、《エコ・アイニー》を破壊!」
 《エコ・アイニー》は地獄の門から伸びる魔手に捕えられ、引きずり込まれる。そしてその命を糧にし、死者が呼び戻された。
「墓地から《ヤミノザビグライド》をバトルゾーンに出しますよ。さらにもう一枚S・トリガーです。《死海秘宝ザビ・デモナ》を召喚! 効果で《ザビ・デモナ》自身を破壊し、開け、超次元の門! 《時空のジキル ザビ・ガンマン》をバトルゾーンに!」
「ブロッカーを並べてきたか……」
 S・トリガー発動で場に並べられたのは、どちらもブロッカーだ。そのせいで攻め難くなってしまう。
「私のターン。さらに《凶星王ザビ・ヒドラ》を召喚!」


凶星王ザビ・ヒドラ 闇文明 (6)
クリーチャー:ダークロード/エイリアン 6000
自分の他のエイリアンをバトルゾーンに出した時、《凶星王ザビ・ヒドラ》以外のエイリアンを1体、自分の墓地から手札に戻してもよい。
W・ブレイカー


「《ザビ・ヒドラ》……また厄介な奴を……!」
 現れたのは、エイリアンに取り込まれた《凶星王ダーク・ヒドラ》、その名も《ザビ・ヒドラ》。
 《ダーク・ヒドラ》は強力すぎるゆえに力の解放を禁じられてしまったが、《ザビ・ヒドラ》は弱体化した代わりにその制約が消えている。
 このまま押し切ることも出来そうになく、苦しい展開になりそうだが、
「……いや、まだだ。まだやれる……!」
 自身を鼓舞し、ゆっくりと、彼女のデッキに手を置いた。