二次創作小説(紙ほか)
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.406 )
- 日時: 2014/02/16 20:26
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
「……これはどういうことだ?」
静かに、しかし怒気を含む声で、亜実は夕陽を睨みつける。
手元には夕陽に渡されたデッキ。その中に眠っているのは、かつて亜実から鹵獲した《焦土神話 フォートレシーズ・マルス》がある。
「んーと……なんて言うか、その《マルス》は、亜実の方が上手く使いこなせると思うんだ。実際、僕は今までそいつを使ってこなかったし、そのデッキも軽く動かしてみたんだけど、いまいちしっくりこなくてさ。だから《マルス》は、亜実が持っていた方がいいと思う。僕には《アポロン》がいるしさ」
「返す」
亜実は手にしたデッキを、叩きつけるようにテーブルに戻した。
「え、返すって……」
「こんな敵から情けを受けたみたいに『神話カード』を渡されて、なんの意味がある。あたしは強くなるために“ゲーム”の世界に身を投じている。ただ強いカードがあればいいというものではない。それに、あたしだって自分のデッキがあるし、そのデッキの強さにはそれなりの自信がある」
言いながら、亜実は自分のデッキを、夕陽が持ってきたデッキの隣に置く。
亜実としても《マルス》というカードの力は魅力的だが、なにもせずそれを受け取っても無意味だ。自分の力で勝ち取ってこそ意味がある。勝ち取るに至る過程、その力が亜実には必要なのだ。
「いや、でもさ……それに、別に僕らは敵じゃないだろ」
「今は停戦協定を結んでいるようなものだ。あたしは、その時が来れば戦うことも辞さない。いずれお前の《太陽神話》を狙い、また襲い掛かるかもしれないぞ」
「…………」
亜実の言葉に、口をつぐんだ夕陽だが、やがてゆっくりと閉じた口を開く。
「わざわざそれを今ここで言うって、やっぱり戦う気なんてないんじゃないのか?」
「っ……今は、確かに戦う気がない。だが、いずれそうなる可能性も考慮しろということだ」
少々焦ったように言葉を付け足す亜実。さらに、
「とにかく、あたしはこんな情けなんていらない。これは持って帰れ。お前も帰れ」
「そう言うなよ。それに、僕が持ってたら《マルス》もいつまで経っても実体化しなさそうだしさ」
「実体化?」
夕陽の発言を復唱する亜実。まだそのことは知らないらしい。
「そっか、実体化が始まったのは昨日のことだから、亜実はまだ知らないのか。ここは人いないし、見せた方が早いよね。アポロン」
夕陽はデッキケースから一枚のカードを抜き取る。そして呼びかけると、
「おう! なんの用だ、夕陽?」
「っ!?」
アポロンが実体化する。その様子に、亜実も言葉を失って驚愕していた。
「…………」
「実体化っていうのは、こういうこと。ひまり先輩がアポロンの力で、『神話カード』に力を注いだから、こうしてデフォルメした状態でだけど、実体化できるようになったんだ」
「そんなことが……」
この詳しい経緯については、このみや姫乃には学校で話した。次遭った時には、汐や流にも伝えるつもりだ。
ひまりのお陰で実体化するようになった『十二神話』たち。しかし、現時点で不明なこともある。
「……そのアポロンが実体化するのは分かったが、そこのデッキに入っている《マルス》は実体化していない。これはどういうことだ?」
「僕にもよく分かんないけど、しばらく実体化してなかったから、デュエルする中でなにか切っ掛けがないと実体化できないんじゃないかな」
「こんなこまい姿でも、オイラたちが実体化するのはすげぇパワーが必要だし、結構コツもいるからな。たびたび実体化してねぇと、どうやってこの姿になればいいのか分からなくなるんだ。たぶん、そいつはいまそんな状態にあると思う。だから何度も戦っているうちに、慣れてきて実体化するはずだぜ」
夕陽の見解に、アポロンがそう付け加える。
このまま《マルス》をただのカードにしておくのは、些か残酷に思える。しかし夕陽には《マルス》を使いこなすことができない。そして夕陽が知る人物の中で、最もこのカードの扱いにたけていそうなのが、亜実だ。なので亜実に《マルス》を譲渡しようと考えたのだった。
「……成程な。事情は理解したが、どの道いらん。お前たちの事情なんて知ったことではない、早く帰れ」
「そう言うなよ。頼むからさ、僕を助けると思って」
「オイラからも頼むよ。オイラもそいつをカードのままにしておきたくはないんだ」
「断る。帰れ」
「そう言わずに——」
亜実との押し問答が続く中、不意に病室の扉が開いた。
「貴様の言うことも一理あるが、『神話カード』が手に入る絶好の機会を自ら放棄するとは……やはり愚かだな、『炎上孤軍』」
「和登……!」
身を乗り出し、あからさまな敵意を剥き出しにする亜実。
入室してきたのは、『深謀探偵』の異名を持つ男、和登栗須。亜実と同じ【神格社界】に属するが、亜実とは絶望的に反りが合わない。
「なにしに来やがったてめぇ……!」
「そう噛みつくな。貴様に用などない」
「ならなんであたしの病室にいやがる」
「僕の目的の人物が、たまたまお前の病室にいたというだけの話だ。そのくらい推理しろ」
栗須の目的の人物が、偶然亜実の病室にいる。つまり、
「僕が用があるのは、『昇天太陽』、貴様だ」
「……僕?」
一瞬、なぜ自分なんだと疑問を感じたが、しかし夏に栗須が現れた時も、よくよく考えれば夕陽を狙っていた。
「貴様が再び《太陽神話》を手に入れたのは知っている。それを蒐集しに来た」
栗須の狙いは『神話カード』。よって彼の矛先も、夕陽に向く。
夕陽はアポロンを傍に引き寄せ、デッキに手を伸ばすが、
「待てよ」
そこに、亜実の声が割り込む。
「あたし抜きで話を進めるな」
「なにを言っている。貴様が入り込む余地のない話だ。貴様はそこの『神話カード』を手にしないのだろう? ならば下がっていろ」
「確かに『神話カード』は使わねぇ。だが、お前には用があるんだよ、和登」
手元のデッキを一つ掴みながら、亜実は地に足を着ける。
「お、おい、無理するなよ……」
「無理なんてしてない。こんなもの、医者が大げさなだけだ。本来なら入院の必要なんてなかったくらいだ」
夕陽の制止を振り払い、亜実は立ち上がった。
「夏はお前に負けたが、次はそうはいかない。今度こそお前を討つ」
「……僕は貴様に用がない。貴様と戦う理由もない。貴様は病人だろう、どうせ互いに得るものない無意味な戦いだ。大人しく寝ていろ」
「言ったろうが、こんなの医者が大げさなだけだ、心配には及ばねぇよ。それに、お前には無意味でも、この戦いは、あたしにとっては意味のある戦いだ」
亜実はまっすぐに栗須を見据え、相対する。
「これはお前を討つために組んだデッキだ。ここで会ったが百年目、などとは言わないが、今日の日を待ち侘びた。今日この日に、リベンジを果たす」
「……僕にとっては無意味なのだがな。一方的に戦いを押し付けるとは、これだから貴様は好かない。しかし、少しでも前向きに考えるのであれば、『昇天太陽』と戦うにあたっての肩慣らしくらいにはなるだろう」
栗須もデッキを取り出し、戦う意思を見せた。
「……あ。亜実——」
ふとあることに気づいた夕陽は、慌てて亜実に声をかけようとするが。
二人は神話空間へと飲み込まれてしまった。
亜実と栗須のデュエルが始まった瞬間、亜実は自身のデッキの異常に気付いた。
(この手札……)
手札には見たことのないカードばかり。いや、見たことはあるのだが、デッキに入れた覚えはない。
というか、これは、
(空城の作ったデッキじゃないか……!)
自分のデッキも夕陽のデッキも、どちらのデッキも裏向けでテーブルに置いていたので、間違えて夕陽が作った方を取ってしまったようだ。
「くそっ、あたしとしたことが、こんなところでしくじるとは……!」
「なにをぶつぶつ言っている、『炎上孤軍』。貴様のターンだ」
「くっ、仕方ない、このまま行くか……あたしのターン!」
とんだ失敗を踏んでしまった亜実は、このままこのデュエルに臨むことにした。
そして彼の作ったデッキから、カードをドローする。