二次創作小説(紙ほか)
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.409 )
- 日時: 2014/02/18 08:09
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
「《焦土神話》だと……!?」
爆炎より顕現した神話の神に、栗須は目を見開く。
「貴様、受け取らないなどと言っておきながら《焦土神話》をデッキに入れていたのか! 僕を嵌めるとは……!」
「そんなものじゃない、ただの偶然か事故だ」
栗須の言葉をいなしながら、亜実は自ら召喚した神を見上げる。
「《マルス》……」
『心配するな、亜実。俺が来たからには、お前に最高の勝利を授ける。俺に任せておけ』
ふっ、とキザっぽく微笑む《マルス》。その挙動はともかく、この《マルス》という存在そのものは、非常に心強い。
「……まあいい。任せたぞ《マルス》」
『ああ、任された!』
亜実の命令と同時に、《マルス》は疾駆する。
「《マルス》で攻撃! 残りのシールドをすべてブレイクだ!」
疾駆する最中《マルス》は全身に備え付けられている火器の砲門をすべて開く。
『全砲門開放! 一斉掃射! 撃ち方、始め!』
《マルス》の号令に伴い、もはや彼の身体の一部となっている火器から砲煙と爆炎が噴き出す。
「ぐっ……!」
絶え間なく撃ち込まれる砲弾で、栗須のシールドがまとめて吹き飛ばされる。さらに、
「シールドが……!」
吹き飛ばされたシールドの破片は、集合せず、そのまま焼け落ちてしまう。
栗須が《エメラル》で仕込んでいたのは《DNA・スパーク》。亜実がいくらクリーチャーを展開しようとも、まとめて動きを封じるS・トリガー呪文。だがそれも、墓地へと送られてしまえば意味がない。
「《マルス》のCD11、お前のシールドは墓地送りだ」
さらに直後、栗須の場の《エメラル》《アクア・スペルブルー》そしてマナゾーンのカード二枚が炎上する。
「っ……!」
「続けてブレイク・ボーナスでパワー4000以下のクリーチャーと、マナを二枚ずつ破壊させてもらうぞ。まあ、特に意味はないがな」
栗須の場にブロッカーはいない。シールドもゼロ。もはや、彼を守るものは消え去った。
『さあ、お前の邪魔をするものはすべて焼き払った。お膳立ては整ったぞ』
「ああ、上出来だ! これで終わらせる!」
亜実は最後に残ったクリーチャーに手をかけ、横向きに倒す。
「《鬼斗マッスグ》で、ダイレクトアタック!」
最後の残った戦士は、得物を構え、突貫する。
栗須は炎を纏った剣の一閃を受ける。その一撃によりこの戦は、終戦を迎えたのだった——
「……まさか、この僕が負けるとはな」
栗須は目を細め、睨みつけるように亜実を見据える。
「それも、『神話カード』入りとはいえ、他人の借り物のようなデッキに敗れるとは……」
「気付いていたのか」
「当然だ、僕の推理力を甘く見るな……とはいえ、気付いたのは貴様が《焦土神話》を召喚してからだが」
栗須はそう言うと、亜実に背を向けた。
「今日のところは引き上げる。だが、僕の目的は『神話カード』だ。また次の機会に、貴様の『神話カード』も蒐集する」
「やれるものならな。あたしはいつでも相手になる」
「……ではな」
そして、栗須は足早に病室から去ってしまった。
それから少しの沈黙が流れる。亜実は少々危なっかしい足取りでベッドまで戻り、腰かけた。
「ふぅ……」
「お、おい亜実、大丈夫か?」
「問題ない。だが、少しばかりハードなリハビリテーションだったな」
強気を見せる亜実だが、しかし実際は心身ともにかなり疲弊している。やはり傷が完治しないままに戦うのはまずかったようだ。体が軋んでいる。無理をしすぎたようだ。
だが、そんな亜実を称賛するものも、存在していた。
「アミ」
「マルス……」
デフォルメ状態のマルスが、亜実の元へとやって来る。
「お前と共に戦うのは久し振りだったが、いい作戦指揮だった。流石だ。自身を省みず、無理をしてでも戦おうとするその勇ましい姿勢、俺は評価する」
「やめろよ、そういうの……あたしは別に、評価されたいがために戦っているんじゃない」
まっすぐなマルスの言葉を、まっすぐに受け止められない亜実。だが、その言葉が届いていないわけではなかった。
「……空城」
「え? なに?」
「気が変わった。このデッキ、貰っておくぞ」
亜実は夕陽に渡されたデッキを手に取った。
「どうやら、あたしにはこいつが必要らしい。今まで『神話カード』なしでも戦えると思っていた、実際それなりに戦えていた。だが、今日この日、またマルスと戦い、気付いた」
失って初めて気づくことがあるように、失ったものを取り戻して気付くことも、この世には存在する。
亜実はこの日、それを強く感じた。
「あたしの力は、こいつと共にある時が、最大限に発揮できる。あたしには、マルスが必要だ」
「俺も、アミがいると嬉しい。今まで数々の軍師と共に戦ったが、その中でもお前が一番だ。お前と共に戦わせてくれ。俺にはお前の作戦指揮が必要だ」
亜実の言葉の直後、マルスも同じように亜実を求める。
求め合う二人。どちらもが、どちらをも必要としている。
ならば、その二人が行き着く果ては、一つしかない。
「今日からお前はあたしの兵だ、マルス」
「了解。今日から俺はお前の兵だ、亜実」
亜実とマルスは、それぞれ拳をぶつけ合う。
その様子を傍らで見つめる夕陽は、《アポロン》のカードを取り出し、問いかけるように口を開く。
「……ま、良かったかな。アポロン?」
「ああ、あいつもいいパートナーを見つけられたみたいだ。よかったじゃねぇか、マルス!」
「アポロン! ふっ、お前も久しいな」
飛び出したアポロンとマルスも、腕を交差させる。プロセルピナやヴィーナスと出会った時とは違う感じだ。あちらは仲間という感覚が強かったが、こちらは友情のようなものが感じられる。
「それより、空城。お前に言いたいことがある」
「え……? なに?」
「このデッキについてだ」
亜実は夕陽の組んだデッキを持ち上げながら言う。
「これは本当にあたしに合わせたデッキか? ビートダウン性能とコントロール性能が中途半端だ。こんなもの使い難くて仕方ない。これなら速攻一本に絞った方がマシだ」
「えぇ? でも、亜実の使ってたデッキって、大体そんな感じじゃん……」
「まったく違う。あたしは攻撃クリーチャーと除去カードを適切な割合で分配しているが、これは適当に突っ込んだだけだろう。S・トリガーも少ない、除去カードも足りない。なにより手札が補充できない。こんなことでは、すぐに手札が枯渇する」
「で、でも赤黒だし、それはしょうがないんじゃ……」
「アウトレイジや墓地回収を使えばいいだろ。《マルス》を出すことが目的なら、もっとコントロール色を濃くしてもいい。一定量のヒューマノイドがいれば、あとは色を合わせるだけでいいんだ。お前は種族にとらわれすぎだ、ったく。手札補充なら《禍々しき取引 パルサー》や《新世界 シューマッハ》がいいな。墓地回収は、マナを伸ばすことも考えて《リバース・チャージャー》か……いや、サイキックも利用して《超次元リバイヴ・ホール》という手もあるな——」
途中から、夕陽に対する不満ではなく、自身のデッキについて思考に没頭し始める亜実。
なんにせよ。
この日、《太陽神話》の少年から、《焦土神話》の女へと、『十二神話』が譲渡されたのだった。