二次創作小説(紙ほか)

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.413 )
日時: 2014/02/19 18:53
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

 流とハスターのデュエルは、長引いていた。
 だがこれは、ターン数が長引いているという意味ではない。時間がかかっている、という意味だ。
 もうどのくらい経つのか、神話空間の中では時間感覚が狂うが、今回ばかりはいつも以上に狂っている。
 シールドがまだ五枚ある流の場には、《青銅の鎧》《飛散する斧 プロメテウス》《電脳決壊の魔女 アリス》、そして《アクア・スーパーエメラル》と《キング・ケーレ》が二体ずつだ。
 対するハスターのシールドは三枚だが、場がとんでもないことになっている。その状況を今ここで説明することができないほどだ。
 ハスターの場にいたのは《巨人の覚醒者セツダン》《薫風妖精コートニー》《常勝ディス・オプティマス》《魅惑のダンシング・エイリアン》。
 だが、彼はこれらのクリーチャーに加え、さらなるクリーチャーを展開している。ハスターは《コートニー》《ディス・オプティマス》《ラララ・ライフ》の三枚のカードを組み合わせたループコンボを発動させ、マナを自由に増やしまくり、《セイレーン・コンチェルト》のようなマナ回収カードで手札を補充し、タップしたマナは《ボルバルザーク・エクス》でアンタップさせ、山札が切れそうなら一度《悠久を統べる者フォーエバー・プリンセス》を墓地に落として山札を回復、場に出たクリーチャーも《スパイラル・ゲート》で使い回し、さらには超次元呪文を連打してエイリアンのサイキック・クリーチャーまで揃える。
 このようにしてバトルゾーンに並んだのは《ボルバルザーク・エクス》《アクア・アタック<BAGOOON・パンツァー>》一体ずつと《勝利のプリンプリン》が四体だけだが、サイキックの登場時能力も使い回したので、流のブロッカーもアタッカーも動けない。流にとどめを刺すには十分すぎる戦力だ。
「ふぅ、ちょっと冷や冷やしたけど、なんとか揃ったね。今回は少しばかり事故ったけど、まあなにはともあれ、完成してよかったよ」
 ハスターは、まるでプラモデルでも作り上げたかのように、一息吐く。
 だが勿論、彼が完成させたのはプラモデルなどという玩具ではない。流にとどめを刺すための、破壊の布陣だ。
「こういうのはエクストラウィンとかを狙った方が手っ取り早いんだけど、やっぱりコンボは実用性よりロマンだよね。この一撃が決まった時の爽快感! あー、想像するだけでわくわくしてきた」
 映画上映間近の子供のようにうずうずと震えているハスター。もう一度言うが、彼が待ち望んでいるのは映画の上映などというエンターテイメントではなく、流を倒すという結果である。
「……ま、もう御託はいいよね。ここまで敷いた完璧な布陣、もう少し見ておきたいけど、時間ももったいないし、実験台になった君にも悪いからね……これで終わりだよ」
 一瞬、ハスターの目が冷たくなる。
 そして、次の瞬間、

「《魅惑のダンシング・エイリアン》で攻撃、能力発動!」

 ハスターの必殺の一撃が、解放される
 彼のバトルゾーンのエイリアン、四体の《プリンプリン》と《ディス・オプティマス》が爆ぜる。そして、舞い踊るエイリアンの父母、その舞踊が一段も二段も激しくなる。その激しい舞により発生した凄まじい衝撃波が、流へと放たれる。
「《ダンシング・エイリアン》の能力で、攻撃時、破壊したエイリアンの数だけシールドを破壊する。君のシールドはすべて墓地送りだ!」
 衝撃波は流のシールドを根こそぎにする。ブレイクすらされず、直接墓地へと送られたので、S・トリガーに期待することもできない。
 シールドがなくなった流は、エイリアンの父母の攻撃を防げない。
 《ダンシング・エイリアン》の最後の踊が、流へと襲い掛かる——

「——効かないな」

「……え?」
 その時だ。
 《ダンシング・エイリアン》が、水流に飲み込まれて消え去った。
「え? え? な、なに、なにが起こって——」
「お前は」
 軽くパニックに陥るハスターに、流は静かな言葉を放つ。
「シールドをすべて墓地に送れば、S・トリガーも発動させず、そのまま勝てると思っていたのかもしれないが、少し甘かったな。S・トリガーでなくとも、その攻撃を止める手立てはある」
「え……?」
「俺の墓地を見てみろ」
 流が指差すのは、先ほど《ダンシング・エイリアン》の能力でシールドから墓地に送られたカード。
「っ! これは……!」
 そのカードを見て、ハスターは吃驚する。


疾封怒闘(スパイラルアクセル) キューブリック 水/火文明 (7)
クリーチャー:アウトレイジ 6000
マナゾーンに置く時、このカードはタップして置く。
自分のマナゾーンに火のカードが3枚以上あれば、このクリーチャーは「スピードアタッカー」を得る。
W・ブレイカー
このクリーチャーがどこからでも自分の墓地に置かれた時、自分のマナゾーンに水のカードが3枚以上あれば、バトルゾーンにあるクリーチャーを1体選び、持ち主の手札に戻してもよい。


「《疾封怒闘 キューブリック》……どこからでも墓地に送られた時、マナゾーンに水のカードが三枚以上あればクリーチャーを一体バウンスできる。当然、シールドから墓地に送られても発動する」
「っ、そんなカードを入れてたなんて……見たところ、そのデッキに火文明なんてないじゃないか……!」
「タッチで少しだけ加えている。そもそもこいつの役割は、このようなバウンスだ。それに、踏み倒し手段もあるからな、普通に出すことはまずないだろう」
 《セツダン》はサイキック・クリーチャーにバウンス耐性を付けるカードだが、その効果の範囲は「バトルゾーンにいるクリーチャーか
呪文」なので、墓地に送られた時に発動する《キューブリック》のバウンスは防げない。
(手札に来て腐っていたのを、とりあえず邪魔だからシールドに埋めていたが……まさかこんな形で役立つとはな。このカードの投入を発案した御舟汐にも、感謝しなければな)
 墓地へと送られた《キューブリック》は二体。よってリンク解除を持たない《ダンシング・エイリアン》と《ボルバルザーク・エクス》がまとめてバウンスされる。
「で、でも、君のシールドはどの道一枚。ぼくにはまだ《コートニー》と《セツダン》がいる。《セツダン》でダイレクト——」
「それは通さない。《斬隠オロチ》をニンジャ・ストライクでバトルゾーンに」
 これで《セツダン》を山札に戻すつもりかとハスターは思ったが、しかし流が取った行動は違うものだ。
「《青銅の鎧》を山札の底へ」
「自分のクリーチャーを……?」
 流の2ターン前、彼は《電脳決壊の魔女 アリス》を出し、山札を操作していた。
 その操作したカードのうち一枚は、まだ彼のデッキの頂点で眠っているはずだ。つまり、《オロチ》の効果で出て来るのは、
「零佑……お前の力、借りるぞ」
 友人に感謝の意を込めつつ、流は山札の頂点にあるカードを、解き放つ。

「出て来い! 《サイバー・G・ホーガン》!」

 《オロチ》の能力で現れたのは《サイバー・G・ホーガン》だった。零佑も愛用するクリーチャーで、確かに展開力の必要な『神話カード』とは相性が良い。
「そして《サイバー・G・ホーガン》の能力発動、激流連鎖! 山札の上二枚を捲り、こいつよりコストの低いクリーチャーをすべてバトルゾーンへ!」
 勢いよく山札のカードを捲り上げる流。そして捲れた二枚は、
「捲れたのは《キング・シャルンホルスト》と《斬隠テンサイ・ジャニット》だ! 《キング・シャルンホルスト》で《セツダン》をブロック、相打ちにする! そして《テンサイ・ジャニット》の能力で《コートニー》をバウンス!」
「あ、う……」
 ことごとくクリーチャーの攻撃を止められるハスター。気付けば彼の場にはなにもない。
(だが、油断はできない)
 《ディス・オプティマス》の呪文回収能力を如何なく発揮していたハスターだが、《ディス・オプティマス》にはシールド交換の能力もある。
 ループの最中、シールドに埋まっているキーカードを探す目的もあるだろうが、もしもの時、仮に攻撃を防がれた時、防御用のS・トリガーを仕込んでいても不思議はない。
(俺のシールドはゼロ、《ナチュラル・トラップ》程度ならいいが、スパーク系呪文では太刀打ちできない。もし攻撃が止められれば《<BAGOOON・パンツァー>》にとどめを刺される)
 しかし、手札にはもう除去カードがない。だからといって下手に引き延ばすと、スパーク呪文でブロッカーを無力化されてしまう恐れもある。
(場にクリーチャーは揃っている。欲を言えば、次のターンに決めたいところだが……)
 次のターンに決めるか、1ターン伸ばすか、どちらが最善の選択なのか、悩ましいところだ。
 だがその選択権を絞る存在が、流のデッキにはあった。
(こんな時、奴がいれば——)
 ふとそんなことを思った、その時だ。

 ——我を呼んだか

 流の脳内に、重い声が響く。