二次創作小説(紙ほか)

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.418 )
日時: 2014/02/20 01:33
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

 葵が入店した直後、このみと姫乃はハッと気が付いた。そして、その気付いた対象へと目を向けるが、時既に遅し。
「このみー? どうしたの?」
「姫乃様? どうかなされたんですの?」
 彼女たちの視線の先にいるのは、疑問符を浮かべながら自身もふわふわと浮いている、プロセルピナとヴィーナス。
 このみと姫乃からすれば、葵はただのクラスメイト。自分たちとは何の関係もない一般人だ。その一般人に『神話カード』を、それも実体化した姿で、さらに喋っている様子まで見られてしまった。
「あっちゃー……どうしよ、姫ちゃん」
「わたしに言われても……と、とりあえず、ヴィーナスもプロセルピナも、一旦カードに戻って——」
「プロセルピナ?」
 葵は驚いたような表情をしていたが、その驚きもそこまで大きくないように見える。そして、姫乃の言葉に、もっと言えばプロセルピナと言う名に、反応した。
「今、プロセルピナって、言いましたか……? それは、《萌芽神話 フォレスト・プロセルピナ》ですか?」
「そうだけど……」
 このみはカードに戻った《プロセルピナ》を見せる。葵の反応は驚き。だが未知の存在に対してではない。むしろ、既知の、そしてなにかを懐かしむような驚きだった。
「なぜ、そのカードがここに……」
「え? いや、なぜって、あたしのカードだから……?」
「っ……!」
 いまだに状況が飲み込めていないこのみ。姫乃も同じだ、この状況が理解できない。
 葵はというと、このみの発言に、衝撃を受けたような表情を見せている。どこか絶望的で、後悔するような。その直後、彼女は決意したように、このみへと鋭い視線を向ける。
 そして、

「……そのカード、返してください」



 某所に存在する【ミス・ラボラトリ】の研究所、日本支部。
 【ラボ】は【師団】のように、全世界に拠点を構えているが、その中でも日本に構える研究所は一際規模が大きい。さらに小さな研究所が多く点在するのも日本だ。
 そんな研究所の一角、その休憩室で、二人の男が向かい合っていた。どちらも若い男だ。そしてどちらも【ラボ】の研究員。
 黒村形人と九頭龍希道だった。
 黒村は、休日なので久し振りに本部へと顔を出し、部署移動になったらしい研究員と顔を合わせてから軽く業務をこなしてから休憩室で軽く休もうと思ったのだが、その直後に目の前にいるこの九頭龍希道という男と遭遇してしまったのだ。
 十一月の下旬、黒村と九頭龍は争ったことがある。理由自体は大したこともない、結果を辿れば私闘で黒村が勝利した、程度のことでしかないが、この二人の人間関係はいろいろとややこしいことになった。そう思っているのは、恐らく黒村だけだが。いや、黒村もそこまでややこしいとは思っていないが。
 ともかく、端的に言って黒村は九頭龍が苦手である。嫌い、とはっきり言ってもいいだろう。できれば顔も合わせたくない。
 だが九頭龍の方ではそうでもないようで、妙に気さくに接してくる。正直、不愉快だった。
「——で、そいつらは僕が適当に処理しておいたんですけど、まだ残党が残ってたみたいで、どうやってこっちも処理すればいいのかなーと黒村さんの意見を聞きたいと思うのですがどう思いますか?」
「……九頭龍」
 黙れ、と口を開きかけたが、ふと止まった。
 彼の語りは、いやさ九頭龍希道という存在は不愉快なものだが、しかし彼に一任していた案件があったのを思い出す。ついこの不愉快さで忘れていたが。
「お前に聞きたいことがある」
「おおぅ、まさか質問を無視して質問してくるとは。まあいいですけどね、どうでもいいことですし。で、なんですか?」
「向田葵についてだ。あいつは何者だ?」
 黒村は、単刀直入に問う。
 向田葵、教師としての黒村が受け持っているクラスの生徒。本来ならそれだけの存在でしかないが、先日の【師団】との戦争に偶然巻き込まれ、“ゲーム”との関わりを持ってしまった少女。
 その時、黒村はラトリから託された《守護神話》の制御でそれどころではなかったので、葵については遺憾ながらも九頭龍に任せていたのだ。
「あー、そのことですか……一応、所長には報告しましたが、黒村さんにも言っといたほうがいいんですかねぇ」
「御託はいい、言え」
 命令形だった。
 その命令に従ったのではないだろうが、九頭龍は簡単に口を割った。
「分かりましたよ。でも、どこから話しましょうか……まず、あの子、向田葵さん? が“ゲーム”の戦いに巻き込まれた件ですけど、たぶんあれ、偶然とかじゃないです」
「……どういうことだ?」
 黒村が問い返すと、九頭龍は少し困ったように頭を掻く。
「いや、実際のところ偶然だったんでしょうけど、運命的には必然と言えるって言うんですかね……ちょっと説明が難しいんで、因果関係をつけながら説明しますけど、彼女は“ゲーム”に関わりがあったわけではないみたいです」
「だろうな。雀宮の生徒で“ゲーム”に関わりがある人物がいるのだとすれば、とっくにリストアップされているはずだ。なにか裏工作でもされない限りな」
「ですよね。でも、彼女は“ゲーム”に関係はなくても、『神話カード』とは関係があったようなんです」
「……どういうことだ?」
 同じ聞き方で問い返す黒村。向田葵という人物に対して、ますます疑問が募っていくのを感じる。
「僕も詳細まで聞きだせなかったんですけど、どうやら彼女、『神話カード』を所有していた時期があったみたいです」
「本当か? 『神話カード』の所有者の変移は厳格にチェックされるが、そんな記録はどこにもないぞ」
「そうなんですけど、でもそれが細かく記録されるようになったのは、“ゲーム”が本格化しだす頃……十年、十二年? そのくらい前の話ですよね」
 “ゲーム”の起こりを知る者は、実はいない。いつの間にか発生し、いつの間にか参加者たちが争っていたのが“ゲーム”だ。【ラボ】はそんな“ゲーム”の起源についても調べている。
 そんな“ゲーム”だが、つい最近まではかなり多くの少数組織が散り散りとなって戦っており、『神話カード』の移動も激しかった。大きな軍隊を持たず、雑兵戦が各地で繰り広げられているような状態だったのだ。
 だが約十年ほど前になって、巨大な組織が三つ生まれた。その一つが【ラボ】であり、【師団】であり、【神格社界】である。ラトリが重鎮よ呼ばれる一人であったり、ジークフリートが歴代“ゲーム”最強と謳われるのも、その辺が理由だ。
 今のゲームの根幹は彼らが作ったと言っても過言ではない。もはや“ゲーム”の支配権はその三つの組織に分配されているようなものだ。
 そういったことから、約十年前から“ゲーム”は本格化された、というのが参加者たちの一般認識なのだ。
「でも逆に言えば、それより以前のことは、結構曖昧なんですよね」
「そうだな。“ゲーム”が本格化しだす以前の所有者がはっきりしているのは、《支配神話》《生誕神話》《太陽神話》くらいなものだ。あの所長ですら《守護神話》は偶然手に入れたものだと言っている」
「その言葉がどこまで真実かは疑問ですけどね。まあつまり、十年以上前ののことは、十年以上前の『神話カード』の所在は、僕らでも把握できていないってことです」
 だから、向田葵が『神話カード』を所有していたことがあっても、不思議ではない。それはただ、自分たちの未知の時期だった、というだけだ。
「彼女だけじゃなくて、彼女の幼馴染だったか親友だったかも深く関わってるみたいなんですけど、そこまでは教えてくれませんでした。やっぱり僕って、女の子に警戒されるんですかね?」
「正直、胡散臭い男には見える。まあしかし、向田についてはまだ保留だ。聞き出す必要がある時に聞きだせばいい。それより今は、《太陽神話》と【師団】についてだ。とりあえず実戦部隊の何人かが【神格社界】と協力して【師団】の小隊を食い止めているようだが」
「それと、《月影神話》と《豊穣神話》の所在も探らないとですね。【師団】の手から離れた二枚ですけど、どこに行っちゃったんですかね」
 最近【師団】が失った二枚の『神話カード』。その在処についても、【ラボ】は把握しようとしている。
「それについては、お前の妹とやらが調べている」
「ああ、そういえば最近黒村さんのところに配属されたって言ってたっけ。どうです、僕の妹は?」
「お前の数億倍まともだ。血縁関係にあるのが信じられないほどだ。同情するな、お前の妹には」
「……流石にちょっと言い過ぎな気もしますけど、まあいいです。じゃあ僕はそろそろ休憩終わりにしますので」
 九頭龍は立ち上がり、休憩室の扉に手をかける。
「……九頭龍」
 彼が出て行く前に、黒村が呼びとめた。
「最後に聞いておきたいことがある」
「なんですか?」
「向田が所有していたという『神話カード』はなんだ?」
 ほとんど興味で聞いた。こんなことを聞いても、今更意味はないと思っていた。そもそも九頭龍がそこまで聞き出しているかも分からない。
 だが、九頭龍は答えた。素っ気なく、淡々と、事務的に、その神話を口にする。

「《萌芽神話》です」