二次創作小説(紙ほか)
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.419 )
- 日時: 2014/02/20 13:46
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
聞くところによると。
葵は以前【師団】が戦争を仕掛けて来た時に、クリーチャーに襲われ、【師団】の隊長クラスの人物とも交戦していたらしい。
その時、“ゲーム”の概要と共に九頭龍希道から雀宮高校で特に深く“ゲーム”に関わっている五人、空城夕陽、春永このみ、光ヶ丘姫乃、御舟汐、水瀬流の存在を教えられた。
そして葵は、“ゲーム”についてより知ろうと、自分からその五人を訪ねようとしたらしい。
その最初の一人、もとい二人が、このみと姫乃だ。
なので葵は、定休日だと知って、むしろ定休日だからこそ『popple』を訪ねたらしい。
だが今は、そんなことはどうでもいい。いや、どうでもいいとまでは言わずとも、優先すべきことが他にある。
「《プロセルピナ》を返してほしいって、どういうこと……?」
このみが問うと、葵は力強く言葉を返す。
「それは私と、私の親友の大事なカードです。一度はこの手を離れましたが……それでも、大切なものであることは変わりません。返してください」
いつも教室で見る彼女とはまるで違う迫力だ。それほど、彼女にとってこのカードが大事ということなのだろうか。
「返してって言われてもなぁ……プロセルピナ、どうする?」
「ルピナはいやだ!」
カードから飛び出したプロセルピナは、首を激しく振る。
「ルピナはこのみーと一緒がいい! アポロンもヴィーナスも、ゆーひーもひめのんも一緒! おかしとお茶もおいしいもん!」
「最後の理由はいらないよね……」
姫乃が突っ込むが、そこは流され、
「ルピナは、ルピナはこのみーから離れたくない!」
「……って、言ってるけど」
「関係ありません」
一蹴された。取り合う気はないようだ。
「どうしよう、姫ちゃん」
「困ったね……まさか、向田さんが『神話カード』と関係があるだなんて思ってもみなかったし……」
さらに言うなら、ここまで思い入れが強いとも思っていなかった。まあ、思っていたとしてもどうしようもないだろうが。
「このみ様はどうなんですの? プロセルピナ様を手放したくないんですの?」
「うーん……そりゃあ、あたしにとってもプロセルピナは大事な相棒だし、簡単には渡せないけど、あおいんの大切なカードだっていうのなら、仕方ないような気もするなぁ……」
「このみー!」
このみはプロセルピナを手放すことも考え始めたためか、プロセルピナが非難するように声を上げる。
プロセルピナを巡る対立関係は、プロセルピナ自身と葵の二つに割れた。プロセルピナ自身はこのみから離れたくない。葵はプロセルピナの返還を求めている。残る姫乃、ヴィーナス、そして所有者のこのみはほぼ中立。
対立しているのだから、当然プロセルピナも葵も引く気はない、妥協するつもりもないようだ。
駄々をこねるようにこのみを引っ張っているプロセルピナと、敵意剥き出しな視線をこのみにぶつけている葵。そんな二人に囲まれて弱った表情を見せるこのみ。
一触即発の緊迫した空気。姫乃もその様子をハラハラしながら見守る。
その時、
「ですの!」
緊迫した空気を打ち破る声が、響き渡る。
「ヴィーナス? ど、どうしたの?」
「こういう時こそ、デュエリストはデュエマで決着をつけるべきですの! わたくしたち『十二神話』も、そうやって人の手を渡って来たんですの」
それは確かに正論で、最も手っ取り早く解決しそうなことだった。
《プロセルピナ》というカードを巡ってデュエルする、“ゲーム”の世界においても、この上なく分かりやすい基本のルールだ。
「でも、プロセルピナはデュエルできないんじゃ……」
クリーチャーも実体化してデュエルすることはあるが、力が足りないとかでプロセルピナやヴィーナスは、デフォルメ状態ではデュエルができないらしい。
だが、ヴィーナスには考えがあった。
「そこは、今のプロセルピナ様の所有者であるこのみ様が、代わりに戦えばいいんですの。お三方、異論はないんですの?」
「あたしはいいよ。プロセルピナとあおいんは?」
「ルピナもオッケー! このみーが負けるわけないし!」
「……構いません」
このみ、プロセルピナ、葵、三人共承諾する。
この戦いに勝った方が、プロセルピナの所有権を得る。分かりやすい、シンプルだ。
「じゃあ早速はじめようか。行くよ、プロセ——」
「あっ、でもこのみちゃんがプロセルピナを使うのって、いいのかな?」
対戦が決まるや否や、デッキを取り出して戦う気満々のこのみ。だがそこに、姫乃の一言が飛び込む。
「そういえばそうですの。このような言い方はプロセルピナ様に申し訳ないですが、プロセルピナ様はこの対戦の勝者に与えられる賞品ですの。“ゲーム”のルールで戦うわけでもないのですし、このみ様だけ『神話カード』を使用するのは、些か不公平な気がするんですの」
「えー!? じゃあ、どうするの、このみー!」
プロセルピナが喚く。このみは手にしたデッキを一旦戻し、
「じゃあ、あたしが別に組んだデッキを使うよ」
「え? このみちゃん、デッキを組んだの?」
「うん、一ヶ月くらい前に、まりりんせんぱいと一緒にね……ちょっと待ってて」
「あ、このみー! 待ってー!」
言って、このみはパタパタと走って行ってしまう。プロセルピナも、その後を追う。
「……ねぇ、プロセルピナ」
「なにー?」
「プロセルピナはさ、あおいんのこと、どう思ってるの?」
自室に戻り、このみはひまりのアドバイスを受けながら作ったデッキを探す。その最中、ふとプロセルピナに問うた。
プロセルピナが葵のもとにいた時期があったというのであれば、プロセルピナ自身にもなにか葵に対して思い出があるはずだとこのみは思ったのだが、
「どう思ってるって言われても……よくわかんない」
「よく分かんないって、なんで? あおいんのところにいた時もあったんじゃないの?」
「おぼえてないの、昔のことは。ルピナがおぼえてるのは、このみーやゆーひー、ひめのん、しおん、りゅーたちと一緒にいた時だけ。あとはアポロンとか、ヴィーナスとかもおぼえてる」
でも、昔のことは覚えてない。
このみの元を離れたくない、逆に言えば、葵の手に渡りたくないというのは、プロセルピナの記憶に葵が存在していない、ということも関係しているのかもしれない。
プロセルピナは、見た目通り子供っぽい。というか、完全に子供だ。ゆえに相棒であるこのみの元を離れたがらない、子供ならではの意識があるのも、理解できる。
だからと言って、そのわがままを通して言いのかどうかは、このみには分からない。
「……あおいんのことも気になるけど、今はとにかく、こっちかな」
このみは探し出したデッキを、今デッキケースに入っているデッキと入れ替える。
「じゃ、行くよ、プロセルピナ。みんなが待ってる」
「うん! このみー、負けないでね!」
「もちろん、あたしはいつだって全力だよ! 負けるつもりでは戦わないって」
プロセルピナに明るく言葉を返してから、このみは自室を後にした。
「じゃあ……はじめようか」
「はい」
緊迫した空気の中、向かい合うこのみと葵。
このデュエルで勝った者が、プロセルピナの所有権を得る。
「このみちゃん、大丈夫かな……」
「姫乃様は、このみ様に勝ってほしいんですの?」
二人の様子をハラハラとしながら見つめる姫乃。ヴィーナスはそんな様子を微塵も感じさせないが。
「わたしにも分からないよ。このみちゃんには勝ってほしいけど、プロセルピナが向田さんの大切なカードだっていうのなら、それを無下にはできないし……でも、このみちゃんはちょっと心配」
「なぜですの?」
「このみちゃん、デッキを作るのは苦手だから……ひまり先輩が手伝ってるなら大丈夫かもしれないけど」
だがその後で、このみが自分で中身を弄った可能性もある。そう考えると、心配でならない。
「それに、どっちが勝っても禍根が残りそうなデュエルだし……正直、怖いよ。ヴィーナスはそう思わないの?」
「思わないんですの」
即答だった。
まるで、デュエルの結果など分かり切っているかのように、いや、デュエルの結果すら関係なく、誰に元にかの神話があるべきか、理解しているかのように、彼女は言う。
「わたくしも、姫乃様とこうして一緒にいることで気付いたんですの。この勝負の結果は見えないですが、プロセルピナ様が誰の元へと行くのか。誰が彼女の所有者となるべきかは、分かり切っているんですの。見ていれば分かるんですの」
「そうかなぁ……」
ヴィーナスの優しい声で少しだけ安心したが、まだ姫乃の不安は拭い切れていない。
そして今、このみと葵のデュエルが、始まる。