二次創作小説(紙ほか)

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.425 )
日時: 2014/02/21 16:31
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

「それは【神格社界】からの招待状だな」
 十二月二十二日、クリスマスイヴの二日前。
 いつものように賑わいを見せるカフェ『popple』の一角で、二人の男女が向かい合っていた。
 空城夕陽と、火野亜実。半ば協力関係が築かれつつある二人だ。
「招待状……? なにそれ、パーティーでもするの?」
「その通りだ」
 夕陽の問いに、亜実は即答。
 先日、夕陽の家の郵便受けに一通の手紙が投函されていた。しかもその差出人が【神格社界】。あまりにも予想外の相手だったため、夕陽はとりあえず情報を得ようと、亜実をこの店に呼んだのだ。
「というかお前、その手紙の中身、見ていないのか」
「いやぁ……なんかこういうのって、下手に開けない方がいいかなって……」
「なんでお前はそういうところだけ慎重なんだ……まあいい。ともかく、明後日【神格社界】のパーティーがある、それはその招待状だ」
「明後日? クリスマスじゃん」
「そうだ。クリスマスパーティーだからな」
 はっきりとクリスマスパーティーと言い切った亜実。“ゲーム”の世界はもっと殺伐としていると夕陽は思っていたが、そんなこともするのかと、少々意外に思った。
「まあ、一口に“ゲーム”と言っても、組織の数は膨大だからな……確かに戦うための組織も多いが、中には娯楽的な組織や、賭博を目的とした組織も存在する。【神格社界】はそういった組織をも飲み込むほど巨大な組織だ」
「……前々から思ってたんだけどさ、【神格社界】って、結局はなんなの? どういう組織?」
 【師団】や【ラボ】は、やっていることが非常に分かりやすいので、その組織の全体像というものがなんとなくでも見えてくる。しかし【神格社界】は、全く見えてこない。
 そもそも夕陽が、【神格社界】に属する者でよく知る相手が亜実だけというのもあるが、それれでもやはり分からない。
「そうだな、いい機会だ、教えといてやろう」
 亜実は注文したコーヒーを一口啜り、語り始める。
「前にも言ったが、【神格社界】は様々な目的を持った者が集い、各々の目的を遂げるための手段として、自らを磨く場所だ。今では少数派だが、中には“ゲーム”参加者ですらない者もいる」
「そうなの?」
 意外そうに声を上げると、亜実は首肯する。
「ああ。そもそも【神格社界】自体は、元々は“ゲーム”とは関係ないところで設立したらしいからな。この辺りはあたしもよく知らないが……話を戻すぞ。【神格社界】はそういった、組織としての共通目的がない組織、烏合の衆とも言える。むしろ組織ではなく、コミュニティと言った方がいいかもしれないな」
 共通目的を持つ者同士が手を取り合い、そうでないものは対立する。組織として一つの目的を目指すのではなく、各人の目的を達成するための中継地点となる場所。
 それが【神格社界】。
「一応、今の【神格社界】のトップの意向で、ここに所属するものには強さのランクが付けられているがな」
「そういえばいつか、AとかA+とかなんとか、そんな感じのこと言ってたな。それのこと?」
「そうだ。それがとりあえずある共通目的だが、そえを無視するものもいるし、それを咎める者もいない。咎める道理もないしな。さらに言えば、他の組織に属していながら【神格社界】にも属する者がいる。流石に【師団】や【ラボ】の人間ではいないだろうがな」
 そう聞くと【神格社界】とは、“ゲーム”の世界においてかなり特異な組織に聞こえる。
「実際、相当異質な組織だとは思う。構成員の数も、ずば抜けて多いしな。それの【神格社界】は元々、社交界的な組織でもあったらしい。パーティーなどというのも、その名残だ」
 さらに言えば、と亜実は付け足す。
「この手の集会は定期的に行っている。今まで言ったように、構成員が個々に分散しているために、組織としての一貫性や整合性が欠けている。このように集まる機会がなければ一生会わないような奴らもいる。まあ、情報交換とか、新しいコネクションを作ったりだとか、そんな風に活用されている」
「成程ねぇ……それで、亜実はどうするの? このパーティー、行くの?」
 まだいまいちよく分からない点もあるが、概ね理解したので頷いておく。さらに夕陽は、亜実にそう問いかけた。
「あたしか? あたしは参加するつもりだ。今年に入ってから……特にお前たちが参戦した時から“ゲーム”は急激に加速している。今のうちに、手に入る情報は手に入れておきたい」
 それから、と亜実は夕陽を指差して言う。
「お前も、参加した方がいい」
「え……?」
「お前たちはまだ、こっちの世界を知らなさすぎる。今回の催しはたかだかパーティーだが、少しでも“ゲーム”の世界の空気というものを知っておいた方がいい。強制まではしないが、参加すべきだと、あたしは思う。だがな……」
 今度は椅子の背もたれに体重をかけ、悩ましげな表情を見せた。
「少し引っかかるところもある。本来、その招待状は【神格社界】に所属するものにしか送られないはずだ。それをお前が持っているのは、はっきり言って不自然だ」
「そんなこと言われても……これは郵便受けに入っていたし、僕の名前だってはっきり書いてある」
 さらに言えば、この招待状をもらったのは夕陽だけではない。このみ、姫乃、流も同様の招待状を貰っている。夕陽たちがこのパーティーに呼ばれていることは、一目瞭然だ。
「私は貰っていないですが」
「御舟……いつの間に」
「さっきです」
 気付けば、いつの間にか汐がすぐ横にいた。まったく来店に気づかなかった。
 汐は空いている椅子に腰かけつつ、夕陽の持つ招待状を眺める。
「私は、先輩たちのように『神話カード』を使用していないですからね。その辺りが原因かもしれないです」
「……かもな。だが、正直な話、こんな紙切れなんてなくても、入ろうと思えば入れる。要するに、自分は【神格社界】とかかわりがあることを証明できればいいんだ。そしてそれは、“ゲーム”と関係している、という事実を証明することとイコールで結ばれる」
 汐の言葉を受けて、亜実が口を開く。そして一枚のカードを、テーブルの上に置いた。
「そんなにパーティーに行きたいなら、これと同じ奴を持ってくればいい」
「『神話カード』……」
 亜実がテーブルに置いたのは《マルス》。今は他の客がいるので、実体化はしていない。
「御舟も、一応持ってるんだよね?」
「……はい」
 彼女が“ゲーム”に関わった初期も初期。その時に手にした『神話カード』。
 一度もデッキに入れなかったそのカードが、彼女が“ゲーム”の関係者である証明となる。
「……話はまとまったな。なら、その手紙の中に時間が指定されている。まあはっきり言って夜だが……お前らだっていい歳だ、多少の夜遊びくらいなら問題ないだろ。その指定された時間に、指定された会場に来い。幸い、会場は県内でここから近い。その招待状と『神話カード』を忘れず持って来いよ」
 言って亜実は、小銭をテーブルに置き立ち上がる。そしてそのまま、店を後にした。
「……見た目よりも、いい人でしたね」
「うん、そうだよ。意外といい奴なんだよ、亜実は」
 と、いうわけで。

 夕陽、このみ、姫乃、流、そして汐の五人は、【神格社界】主催のクリスマスパーティーへと、参加することとなった。



 十二月二十四日、夜。
 夕陽はできる限りの正装をして、家から出ようとするが、
「あれ? お兄ちゃんどこ行くの? こんな時間」
 妹に見つかってしまった。
(面倒だなぁ……)
 だが逆に考えれば、見つかったのは妹だ。頭の中身が残念な、文字通りの愚妹なら、いくらでも言い訳できる。
「……このみが赤点ラッシュで留年しそうだから、クリスマス返上で関係者総出で救済しに行くんだよ。なにかあったら僕の携帯にかけてくれ」
「ふーん、今年はこのみさんからなにも言われなかったから何事かと思ったけど、そういうことだったんだね。分かった。お母さんたちにもそう言っとくよ」
 わりとリアリティのある嘘(前半は真実)だったのもあってか、彼女は簡単に納得した。
 夕陽はコートに腕を通しながら、扉に手をかける。
「ああ、頼んだ。じゃあ行ってくる」
「いってらっしゃーい」
 妹の見送りを受けながら、家から出る夕陽。十二月も下旬だ、夜になるとさらに寒い。
「しかし」
 玄関の門を潜りながら、ふと呟いた。
「あいつ、僕が制服でいることについてはなにも突っ込まなかったな……」