二次創作小説(紙ほか)

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.426 )
日時: 2014/02/21 20:47
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

「——で、なんでみんな制服なの?」
 集合場所に指定した駅で、夕陽はそんな疑問を投げかける。
 自分もそうだが、このみも姫乃も流も、汐に至るまで、全員どういうわけか学校の制服を着ていた。
「だってパーティーでしょ? ちゃんとした格好じゃないとダメかなーって思ってさ」
「うん……それに、わたしが持ってる服で一番高価なのが制服だから……」
「右に同じく」
「です」
 ということらしかった。
 まあ概ね夕陽も同じような理由だが、全員が全員ほぼ同じ格好というのも奇妙だ。
「……まあいいや。とりあえず行こう」
 このみが集合に遅れたせいで時間が押している。指定された時刻までまだ時間はあるが、移動のことも考えるとそうゆっくりもしていられない。
 そう思いながら駅構内を進む最中、
「ゆーくん、ゆーくん!」
「なんだよ遅刻常習犯」
「ゆーくん、なにか気づかない?」
「は? なにがだよ。お前はいつも通り——」
「あたしじゃなくて! 姫ちゃん」
「光ヶ丘?」
 このみに指差された人物を見遣る夕陽。前を歩いている姫乃、その後頭部でぴょこぴょこと揺れる尻尾。
「ほら、ね?」
「……いや、別に」
 このみの言葉に素っ気なく答える夕日。それが不服なのか、このみは頬を膨らませる。
「分かってるくせにそういうこと言うのやめなよ。本当にゆーくんはそーゆーとこ変わってないね。ほら、姫ちゃん!」
「え、え!? な、なに、このみちゃん!?」
 急に腕を引っ張られて焦る姫乃。夕陽の正面に立たされ、面と向かう形になる。
「な、なにかな……」
「それはこっちが聞きたい」
「ほら、ゆーくん。姫ちゃんをちゃんと見て。ドヤ!」
「違うだろ」
「ど、ドヤ……?」
「だから違うだろ! 髪型のことだろ」
「やっぱ気づいてるじゃん」
「あ……」
 してやられた。まさかこのみの誘導尋問に引っかかるとは。夕陽、一生の不覚。
 姫乃の髪型がポニーテールに変わっていることは最初から気づいていたが、このみもも汐も流も、姫乃自身もなにも言わなかったので、夕陽もあえてなにも言わなかった。言う必要もないと思っていたのだが、そういうわけにもいかないようだった。
「姫ちゃんも、ほらほら」
「あ、う、うん……」
 このみに押され、姫乃は上目遣いになりつつもしっかりと夕陽を見据える。
 そして、必死に声を絞り出した。
「ど、どうかな……?」
「……いいんじゃないか」
 視線を姫乃から外し、短く答える夕陽。
 直後、このみがまた姫乃を引っ張って、夕陽から離れる。
「ねぇこのみちゃん、空城くん、なんか冷たいよ……?」
「あれは照れてるんだよ。姫ちゃんがあまりに自分の好みにストライクで可愛すぎるから正直になれないだけだよ。まったく素直じゃないよね、ゆーくんは」
 こそこそと話し合う二人を見つめる夕陽。最近、あの二人の様子がおかしいとは思っていたが、今日という日はさらにおかしい。
「なんなんだ、あの二人……」
 さらに言うと、夕陽を含めた三人が急におかしな行動を取り始めたと見る者もいる。
「御舟汐、あの三人はなにをしている?」
「私にもよく分からないです」
 と、そんなやり取りが繰り広げられる夕陽たち。
 それは“ゲーム”だけでなく、夕陽たちの関係も変わりつつあるということを、示しているのかもしれなかった。



 電車での移動はスムーズに行えたが、その語の移動に時間がかかってしまった。
 開錠は大きなビルらしいので、もっと早く見つかるものと思っていたが、地図があっても昼と夜ではものの見え方がかなり違ってくる。その上、思いのほか辺鄙なところに建てられたビルだったので、見つけるのに苦労した。
 だがなんとか、最終的には目的地に辿り着けた。
「うわぁ、大きいねぇ」
「このビルティングのすべてを【神格社界】で借り切っているのですか……どれだけのお金が動いているのでしょうか」
 周りに建物はなく、人通りもほとんどない。そんな辺鄙な場所に、会場のビルは建っていた。
「“ゲーム”の世界というある種、裏社会的な団体が集う場所としては、適切だとは思う」
「この中にも、わたしたちの『神話カード』を狙ってる人はいるんだよね……」
 全員がビルを見上げてそれぞれの感想を述べる。
 だが、いつまでもこんなところで立ち尽くしているわけにもいかない。
 夕陽は先陣を切るように、最初の一歩を踏み出した。
「じゃあ……行こうか」



 開錠のビルは、見た目が巨大だが、中も広大だった。
 しかも絵に描いたような豪華っぷり。天井にはシャンデリア、床は赤いカーペット、そして壺や絵画などの調度品の数々。
 通路でこれなのだ、本会場はどうなっているのか。ある種の期待を抱きながら、夕陽たちは進んでいく。
「借りてるのはこのビル全部なのに、実際に使用するのは大きなホール一つだけって、凄まじい金の無駄遣いだよな……」
「それも、一般人に被害を出さないようにするためなのでしょうが……」
 指定された階に来て、また長い通路を進んでいく。
 そしてその道中。
「なんかすげえな。どこもかしこもピカピカだ!」
「わーピカピカ! キラキラ!」
「すごい豪華ですの。わたくしには、少々もったいないんですの」
「…………」
 アポロン、プロセルピナ、ヴィーナス、そしてネプトゥーヌス。四体にクリーチャーも、この豪奢な内装に見入っていた。
「クリーチャーにも、こういう装飾とかって分かるのかな?」
「さてな。フィーリングで感じているようにも見えるが」
「みんな元気だよねー。さすがのあたしでも、この中で騒ぐ気にはなれないよ……ちょっとわくわくはするけどね!」
「どうでもいいけどさ……君ら、ちょっとうるさいよ。いくら一般人がいないからってはしゃぎすぎだ。あんまりうるさいとカードに戻すよ」
 夕陽の注意など聞く耳持たずで、あっちやこっちやとちょこまか動き回る『神話カード』たち。その様子を見て、夕陽は溜息をつく。
「はぁ、ダメだこりゃ……」
 彼らがコンセンテス・ディー・ゼロと呼ぶ状態、デフォルメされた『神話カード』は、一部を除いてかなり精神面が幼い。
 これからなにが待ち構えているかも分からない状態なので、これ以上精神を削りたくないと思った夕陽は、アポロンたちへの注意を諦めた。
 それからしばらく歩き、会場に繋がると思しき扉を発見した。
 同時に、その扉の横で門番の如く待機する、二人の人物も視界に入ってきたが。
「……双子?」
 思わず、夕陽はそんな声を漏らす。
 視界に入ってきた二人の人物。扉の横、左右に一人ずつだ。長机の上には名簿らしきものや大量に積みあがった紙などがあり、恐らくは受付係だろう。
 だがその受付が、予想の斜め上を行く容姿をしていた。
 まず、明らかにその二人は幼い風貌をしている。ともすれば汐よりも年下なのではないかと思えるほどだ。
 そして次に、その二人の容姿は限りなく酷似している。年相応の小柄な体躯を包むのは、それぞれ水色と黄緑色のワンピースのようなドレス。二人とも、パッと見では同じ顔に見えたが、よく見ると違う。水色のドレスを着ている少女は、目が少々吊り上っており、勝気な瞳をしている。一方黄緑色のドレスを着た少女は、やや垂れ目気味で、弱気な雰囲気がある。髪はどちらもサイドテールだが、勝気な少女は左、弱気な少女は右で括っていた。
「……パーティーにご参加する方々ですか?」
「え? あ、ああ、はい……」
 勝気な少女は、夕陽たちを一瞥すると、少女らしからぬ事務的な口調で尋ねる。そのキャリアウーマン然とした雰囲気に面喰い、夕陽は思わず敬語で答えてしまう。
「では、招待状を拝見させていただきます。招待状を提示して、この名簿にお名前を記入してください」
 だが少女はそんなことなど意にも介さず、淡々と事務的口調で手続きを進めていく。
 夕陽は招待状を机に置き、渡された名簿にボールペンで名前を書く。と、その時。
「『昇天太陽サンセット』?」
 勝気な少女が、疑念を抱いた声を上げる。
「なんであなたがここにいるの?」
「え、いや、なんでって……」
 そして、目の前の夕陽の問うた。その少女らしい口調、しかしどこか敵意を含んだ声に、さっきまでの事務的な口調とのギャップがあって言葉に詰まる。
「……うさ、この五人、呼んだ?」
「えっと、ちょっと待ってて、ささちゃん」
 ささと呼ばれた勝気な少女は、夕陽の返答を待たず向かいにいる弱気な少女に呼びかける。
 うさと呼ばれた弱気な少女は、勝気な少女の言葉を受けて脇に置いてあったタブレットに目を通す。
「……データにはないから、呼んではいない、と思う……」
「そういうわけだから。呼んでない人はここには入れないわよ」
「いやいや、ちょっと待てよ」
 いつのまにか話がどんどん進んでいき、夕陽はストップをかける。
「呼んでないって、僕らはこうして招待状を持ってるだろ」
「でも、それを送った履歴はないわ。なにかの間違いじゃないの」
「さ、ささちゃん……」
 夕陽を突っ撥ねる勝気な少女に、今度は弱気な少女が歯止めをかけた。
「招待状は持ってるんだし、通してあげようよ……招待状なしでここを通した人もいるんだし……」
「それはそれよ、うさ。どうでもい連中ならともかく『昇天太陽サンセット』を中心とするこの五人は“ゲーム”の中の火種みたいなもの。不用意に中に入れて、大事にでもなったらこっちが困るのよ」
「で、でも……」
 どういうわけか、少女二人の間で対立が起きていた。対立というには、弱気な少女が押されているが。
「じゃあ、こうしましょう」
 しばし二人の間で口論があったが、やがて勝気な少女が妥協点を提示する。
「“ゲーム”の揉め事を解決するのはデュエルよ。だから、あたしとうさの二人が、あなたたち五人のうち二人と戦う。あなたたちが二勝すれば、ここを通すわ」
 要するに、通りたいなら押し通れ、ということらしい。
 分かりやすいが、いまいち釈然としない。
「……どうする、みんな」
 とりあえず夕陽は、
「あたしはオッケーだよ」
「分かりやすくていいではないですか」
「う、うん。わたしも、いいよ」
「俺も構わない」
 四人は普通に承諾した。
 夕陽が振り返ると、いつの間にか二人の少女は、扉の前に立ち塞がっていた。
「じゃあ、早く対戦する二人を選んでちょうだい。こっちもスケジュールが詰まってるから」
「ご、ごめんなさい。ささちゃんは、こういう性格で……で、でも、悪い子じゃないんです」
 こちらはこちらで、二者二様の態度。見た感じ双子のようだが、性格は完全に逆方向だ。
「……とりあえず、一人は僕が行く。あと一人はどうする?」
 真っ先に夕陽がカウントされ、あと一人。すぐに手を上げる者はいなかったが、このみが前に出て来た。
「それなら、ゆーくんが行くならあたしが——」
「待って」
 だがそんなこのみを止める者が一人。
 姫乃だ。
「わ、わたしが……行く」
「光ヶ丘……?」
 なにか決意したように前に出て来る姫乃。このみはそんな彼女を見て、大人しく引き下がった。
「うん、分かった。じゃあ姫ちゃんに任せるよ」
「ありがとう、このみちゃん」
 二人の間で、見えないなにかしらのやり取りがあったようだが、夕陽には分からない。
 ともあれ、選出メンバーは決定した。
「決まったようね。そっちは『昇天太陽サンセット』と……『大慈光姫メルシー』か。じゃあ、あたしの相手は『昇天太陽サンセット』、あなたよ」
 夕陽は名指しプラス指差しで指名される。だが、異論はない。
「じゃ、じゃあ、わたしの相手は『大慈光姫メルシー』さんだね。お願いしますっ」
 こちらは姫乃。ぺこりと頭を下げられ、反応に困る。
「なら、自己紹介はしておくわね。あたしはささみ、【神格社界】運営の秘書官よ」
「お、同じく【神格社界】運営秘書官、うさみです……よ、よろしくお願いします」
 運営、という言葉に引っ掛かりを覚えるが、今はさておき。
 対戦カードは、夕陽vsささみ、姫乃vsうさみ。
 この対戦に勝てば、会場へと進める。
(しっかし、パーティーの受付だけで、こんなことになるなんてな……)
 やはりここも“ゲーム”の世界の一つなのだと、思い知らされる。

 そして、四人二組は、神話空間へと突入した。