二次創作小説(紙ほか)

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.434 )
日時: 2014/02/22 17:45
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

 神話空間が閉じ、夕陽と男は現実へと戻ってくる。
「くっ……アポロン……!」
「夕陽……!」
 神話空間の中で、夕陽は負けた。それはつまり、『神話カード』の所有権を失うことと同義だ。
 カードへと戻った《アポロン》が、夕陽の手から離れる。そして、男の手へと渡った。
「ぐ……っ」
 悔しそうに歯噛みする夕陽。
 唐突過ぎて納得のいくデュエルではなかったが、それはそれだ。結果は変わらない。
「空城くん……」
 夕陽はキッと男を睨みつけている。姫乃が心配そうに声をかけるのも、聞こえていないかもしれない。
「……お前は一体、何者——」
「楽しかったぞ、『昇天太陽サンセット』。いや、空城夕陽」
 夕陽が敵意剥き出しで男に問おうとするその時、男は手にした《アポロン》を手放し、夕陽の足元へと滑らせる。同時に、夕陽の中になにかが戻ってくるような感覚を得た。
「これって……」
「夕陽!」
 アポロンがカードから出て来る。
「夕陽、オイラ……」
「ああ、僕にも分かる。これは……」
 《アポロン》の所有権が、夕陽に戻った。
 つまりこの男は、《アポロン》を手に入れたにも関わらず、すぐさまその所有権を夕陽へと返還したのだ。
「どういうことだ……お前は一体、何者なんだ!」
 わけが分からない。いきなり勝負を仕掛けられたことも、《アポロン》を奪われたことも、そしてそれをすぐに返されたことも、なにもかもが意味不明だ。
 そんなやり場のない未知への不満をぶつけるように、男に問う。
 そして男は、敢然とした態度で、答えた。

「【神格社界】界長——ルカ=ネロだ」



「かい、ちょう……?」
 目の前の男、ルカ=ネロは、確かにそう言った。
 【神格社界】という組織は、様々な目的を持った者が集う組織。そしてこのルカは、その長。つまり、
「この人が【神格社界】の創始者ってことだ」
 亜実は夕陽を引き起こしながら言う。
「【神格社界】の創始者……それ、かなり凄いんじゃ……」
「そうだ。まあ、だから負けたからってあまり悔やむな。お前が勝てるような相手ではないんだ」
 亜実の説明によると、ルカは現時点の“ゲーム”の世界におけるナンバー2、二番目に強い男らしい。知名度で言えば、【ラボ】の所長ラトリ、【師団】の師団長ジークフリートと同列に語られるほどで、この三人が主に重鎮と呼ばれる存在らしい。
 そして歴代“ゲーム”最強と謳われるジークフリートと、まともに渡り合える数少ない参加者だそうだ。夕陽が勝てないわけである。
「いや、そうでもない。今回はかなり危なかったぞ……流石は巷で騒がれている『昇天太陽サンセット』というだけのことはある。なあ?」
 語りかけるような口調のルカ。その顔をよく見てみると、どこかで見覚えがあるような気もする。
「……先輩、この人」
「え? なに?」
「ひまり先輩が、その、亡くなった時……師団長の人と戦おうとしていた人です」
「あぁ……」
 言われて思い出した。
 ひまりを倒し、怒り心頭のジークフリートが夕陽にも迫った時、ラトリがその間に割って入った。だが彼女自身はジークフリートに対してはなにもしていない。代わりにジークフリートを追い払ったのが、この男——ルカだった。
「そういえば、あの時もあの場にいたんだったか。悪いな、ジークしか見てなかった。あいつとまた戦いたかったが、逃げられた……まったく付き合いの悪い奴だ」
「…………」
 まるで友達を遊びに誘って断られたかのような素振りのルカ。あの時は、そんな状況ではなかったと思うのだが。
「……まあ、それは分かったけど、なんでアポロンを返してくれたんだ……?」
「興味ないからだ」
 即答だった。
 さらにルカは、自分の戦う意義についても語り出す。
「俺は強い奴と戦えればそれでいい。俺が『神話カード』を持って強くなるより、他の『神話カード』を持って強くなった奴と戦う方が断然楽しいからな。奪うとか奪われるとか、そういうのはいらない。楽しいデュエルをすることこそが、俺の戦う意味であり、俺が“ゲーム”に参加している理由の一つだ。だから、そいつはお前が持ってろ。お前にはそいつが必要だろ?」
「…………」
 夕陽は言葉を失う。
 つまりルカは、戦うことそのものが目的なのだ。『神話カード』を集めるだとか、強くなるだとか、そういうことは彼にとって不必要なこと。戦いは楽しい、その戦いで楽しめればそれでいい。それこそが、彼の戦う意義。
 戦闘狂などと言ってしまえばそれまでだが、戦い終わった彼の、心の底からデュエルを楽しんだような笑みは、そんな陳腐な言葉で表すべきではないと思える。
「ま、そういうわけだ。たまたまお前たちが入ってくるのが見えたから、つい我を失って突っ込んじまったけど、楽しかったからよかったよな?」
「はぁ……」
 よくない、と反論しようとしたが、少年のような屈託のない笑顔を見せられては、毒気が抜ける。夕陽は曖昧に頷いておいた。
 と、その時。背後の扉が開く。
「界長! また勝手なことして! ほら、もうすぐ時間なんだから、早く準備してよ!」
「かいちょーさん、大丈夫、ですか……? お怪我とか、お洋服が破れたり、とか……」
 飛び出したのは、受付にいたささみとうさみ。
「お前たちか。どうした?」
「どうしたじゃないわよ、ほら、もうすぐ挨拶しなきゃいけないんだから!」
「なんのことだ?」
「始まる前に言ったじゃない! あーもう! とにかく来て!」
 疑問符を浮かべるルカに対して、まるで子供の世話でもしているようなささみ。彼女はルカの腕を引っ張る。
「で、では、みなさん、また、後ほど……」
「じゃあなー」
 ぺこりと頭を下げるうさみと、ひらひらと手を振るルカ。そうして三人は、どこかへと行ってしまった。
「……まあ、あんな人なんだ、うちのトップは」
「なんか……本当に変な組織だね、【神格社界】って」
「そうだな……」



 夕陽とルカとのデュエルがあり、会場はしばらく騒がれていたが、亜実が睨みを利かせているとその騒ぎも時間の経過と共に自然と収まっていった。
 夕陽は亜実と共に行動しているが、このみ、姫乃、汐は三人で、流は単独でそれぞれパーティーを満喫している。
 とりあえず騒がれないのは夕陽にとってはいいことだが、そんな中でも、近づいてくる者はいる。
「やあアミさん、今日は来てたんですね」
「半月ぶりだな、『炎上孤軍アーミーズ』」
「青崎、和登……」
 騒ぎが沈静化した頃合いを見計らってか、二人の男がやって来る。一人はこの場に溶け込んでしまいそうな正装だが、どこか軽さも残したカジュアルスーツを着込んだ青年。もう一人は、正装でこそないがわりときっちりしたコートを着込んだ男。
 『機略知将ノウレッジ』青崎記と、『深謀探偵シャーロキアン』和登栗須の二人だった。
「アミさん、こういうパーティーとかはあんまり参加しないと思ってたんですけど、今回は参加したんですか。どういう心境の変化です?」
「お前の目的とそう変わらん。情報収集だ」
「のわりには、高校生の男の子を侍らせてますね?」
「侍らせてるとか言うな。焼くぞ」
 《マルス》のカードを取り出しつつ、青年を睨みつける亜実。
 なにやら親しい、とは少し違うが、交流のある様子の二人。夕陽は、栗須とは面識があるが、こちらの青年は知らない。
「亜実、誰……?」
「ああ、そういえば君とは初めましてだね。『昇天太陽サンセット』、空城夕陽君」
 青年——記はフランクに夕陽へと話しかける。
「僕は青崎記、『機略知将ノウレッジ』って呼ばれることが多いかな。【神格社界】に限らず、いわゆる情報屋を営んでるんだ。なにか知りたいことがあったら僕に——」
「高校生に売り込むな馬鹿」
「痛いっ!?」
 亜実の鉄拳が記の脳天に直撃する。わりと勢いよく振り下ろされたように見えたが、記は大丈夫だろうか。蹲って悶絶しているが。
「……相変わらず愉快なことをしているな、貴様たちは」
 その光景を見ながら、しかし愉快そうではない栗須。そうだろう、彼と亜実は犬猿の仲、つい半月前も争い合ったばかりだ。
 そのこともあってか、亜実はデッキケースに手を伸ばすが、
「そう身構えるな。今日は戦うつもりはない」
「ですよねー、和登さん。界長がドンパチやらかしたお陰で、下手に騒ぐと巻き添えになっちゃいそうですもんね」
 敵意は剥き出しだが、戦う意思は見せない栗須。青崎の言う通り、ルカが夕陽たちの登場で軽く興奮状態なので、下手に戦う気を見せると戦いたくもない相手と戦う羽目になる。無駄な戦いは避けたい栗須にとって、ここで『神話カード』奪取のために動くのは得策ではない。
「……先輩」
「あ、御舟。どうしたの?」
 唐突に、ぬっと汐がやって来る。このみ、姫乃と行動していたはずだが、戻って来たようだ。
 いや、彼女にとってはただ戻って来ただけではないが。
「見覚えのある顔を見つけたので、戻って来たのですが……」
「やぁ」
 汐のジトッとした眼差しなど意にも介さず、片手を上げる記。
 そういえば、と夕陽は思い出す。汐と記は、夕陽たちが“ゲーム”に巻き込まれ始めた時に一度戦っている。ある種、因縁の相手ともいえる。
「久し振りだね、御舟ちゃん。元気してた」
「……どうも、です」
 だが『神話カード』を奪われた側の記は妙にフレンドリーで、逆に奪った側の汐は警戒度マックスだ。
「そう警戒しないでよ。僕は、今日は純粋にパーティーを楽しみに来たんだから。ほらほら、君ももっと楽しんだら?」
「……あなたがいなければ、もっと楽しめたでしょうね」
「手厳しいなぁ」
 汐に冷たくあしらわれる記だが、くすくすと笑っている。まったく堪えていない。
「まあそういうわけだから、今日くらいは仲良くやろうよ」
「やめとけ。こいつと仲良くするとロクなことにならない」
「誰かと仲良くしているところなど、見たこともないがな」
「二人も手厳しいなぁ」
 まだ出会って数分だが、なんとなく記のことが分かってきた夕陽。
 滲み出る胡散臭さが原因なのかは分からないが、この青崎記という男の仲間外れにされている感がひしひしと伝わってくる。本人はそれほど気にしていないようだが。
 【ラボ】や【師団】の面々ともそれなりに関わってきて、そのたびにこのように思ってきた夕陽だが、この【神格社界】の者たちに対しては、特にそう思う。
(なんか、【神格社界】って、変な人ばっかりだな……)