二次創作小説(紙ほか)
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.435 )
- 日時: 2014/02/22 21:54
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
『皆様、大変長らくおまたせいたしました』
突如、どこからか声が聞こえて来る。
いや、どこからかなどと曖昧にする必要もなく、それは前方——広すぎてどちらを前と断定すればいいのかは分からないが——の段が高くなっているステージから聞こえてきたものだった。
「なんだ……?」
夕陽は人混みを掻き分けて、ステージが見えるところまで移動する。そこでマイク片手に立っていたのは、ささみだった。
「あの子……なんであんなことしてるんだ? 受付じゃなかったのか?」
「奴は界長の秘書だからな」
いつの間にか亜実がすぐ横にいた。
「界長はあんな性格だからな、【神格社界】の運営はほぼ彼女が受け持っている、らしい」
「らしいって、曖昧だな……それに運営?」
夕陽の【神格社界】、ひいては“ゲーム”絡みの組織のイメージとはそぐわない言葉に首を傾げる。
「言っただろう、【神格社界】は他の組織とはかなり異なる組織だ。人が集まれば自然と金も動くし、その管理も必要だろう。帝国主義の【師団】や秘密主義の【ラボ】はともかくとして、“ゲーム”の世界における組織は会社染みた側面もあるからな。特に【神格社界】は相当オープンだ。組織に投資するような者もいるし、それを目的とした組織も存在する」
「マジか……」
今まで【ラボ】や【師団】との関わりが強く、ラトリの言葉もあったので、夕陽は亜実のその言葉に少なからず驚いていた。
“ゲーム”の、殺伐とした世界とはまた違う側面を垣間見た夕陽だった。
『——それではまず、【神格社界】界長、ルカ=ネロから挨拶を頂きたいと思います。界長、よろしくお願いします』
ささみの言葉を受けて、壇上に現れたルカ。着替えたのか、きっちとしたスーツを着ている。
こうして見ると意外とまともな人物に見える。さきほどはいきなり戦いを挑まれ、わけの分からないうちに敗北したが、そのスタンスは他の“ゲーム”参加者とは違う。だからといって完全に気を許したわけではないが、悪い人物ではない、と思う。
ルカは壇上に設置されているマイクの位置を調整し、そこに口を近づける。とその時、ふとなにか思いついたような表情を見せた。
(う……)
ぞわりと、なにか悪寒のようなものを感じる。そしてその嫌な気配が気のせいではないことを示すかのように、ルカは大きく息を吸い込み——
『空城夕陽! と、その愉快な仲間たち!』
——叫ぶ。
『今からお前たちに、決闘を申し込む!』
「決闘……?」
突然言われたその言葉の意味を見失う夕陽。なんとか必死にその意味を、知りたくもないが考えているうちに、
『って、ちょっとー!? 界長! なにまた勝手なこと言ってんのよ! 挨拶は!?』
『ルールはこうだ! 俺とお前たち五人がそれぞれ順番に戦う、つまり俺はお前たちと五連戦だ! そこでお前たちが一勝でもすれば……』
ささみを無視して続けるルカ。だが途中で言葉が繋がらない辺り、思いつきで言っているようだ。深く考えてのことではないらしい。
『……どうするか。そうだ、一千万円、賞金として一千万円贈呈しよう! 五人で分配すれば一人二百万だ!』
『一千万!? そんなに払えるわけないじゃない! この会場借りるのだってかなりのお金かかってるんだからね!? 一千万も払ったら今月も大赤字よ!』
『さ、ささちゃん……これ以上は、その、もう、滅茶苦茶……』
うさみが仲裁に入ろうとするが、ヒートアップするささみと夕陽たちしか見ていないルカの二人を止めることなどできず、混沌としてきた。
結局、挨拶とやらは有耶無耶になって消失し、代わりにルカと夕陽たちとのエキシビションマッチという催し物だけが、残ったのだった。
壇上ではルカ、ささみ、うさみの愉快なコントが繰り広げられていたが、夕陽たちはそれを他人事と見てもいられない。ルカが押し通してしまった特別企画は夕陽たちとの五連戦、つまり夕陽たちはある意味メインの存在なのだ。
「……で、どうする? 僕らの同意なしでなんか決まっちゃったけど」
同意はないが、しかしこの会場から抜け出せば戦わずには済みそうだ。夕陽は緊急招集をかけてこのみ、姫乃、汐、流の四人と相談タイムに入る。
ちなみに会場から抜け出す案は、先ほどうさみがやって来て提案したものだ。彼女曰く、ルカはよくこういう無茶苦茶な企画を提案しているらしい。そのたびにささみやうさみ、またその他の者たちが振り回されるのだとか。この場合のその他の者たちは夕陽ら五人。ルカは自分が楽しむことしか考えていないようだ。
「あたしはいいと思うけど? だって一千万だよ? 一千万」
「いや、でも、お金のためにデュエルって、なにか違うような……」
姫乃の言うことも分かる。夕陽も本気で一千万円も貰えるとは思っていないが、賞金目的で戦うというのは自分たちらしくない。自分たちにとってデュエル・マスターズというのは、そういうものではないはずだ。
「では、逆に考えればいいのです。デュエルすることを目的として、そのついでに勝てば一千万円が貰えると考えれば、そこまで後味が悪くなることもないでしょう」
「そうだな。相手は【神格社界】のトップ、負けて『神話カード』を失う恐れもない。その経験も、無駄にはならないだろう」
「意外と乗り気だなぁ、みんな……」
姫乃は性格からかやや消極的なものの、このみはともかく汐や流は意外にノリノリだ。
「どうする、光ヶ丘?」
「わ、わたしっ? んっと、まあ、御舟さんや水瀬先輩の言うことも、分からなくはないかな……」
「そーだよ! 確かに料理は美味しいけど、このまま食べるだけで帰るなんてもったいないよ!」
このみとしては、ただ食べるだけは不満らしい。
うさみが言うには、本来なら他に企画があった(それもルカが誰かしらとデュエルするというもの)らしい。要は対戦相手が夕陽たちに入れ替わったというだけの話だ。
「んー……まあ、賞金云々はともかくとして、僕たちのレベルアップとかを考えると、ありなのかな……?」
正直な話、夕陽はついさっきルカと戦ったばかりなので、進んで戦いたいとも思わない。少し、最初の印象が悪すぎた。その後の彼の性格からかなり緩和されたものの、まだその印象の悪さは引きずっている。
しかし夕陽と姫乃が渋っても、やる気な三人に対しては多数決で押し切られ、結局はルカと戦うことが決定してしまうのだった。
「あーもう! またこうなった……しかも今回は最悪一千万の損失って! なに考えてるのよあのばかいちょう!」
「さ、ささちゃん、落ち着いて……かいちょーさんも、すごく楽しそう、だったし……?」
「楽しいからって一千万はないわ。まったく、好き勝手やってくれちゃって、うちの家計をやり繰りしてるのが誰だと思ってるのかしら……うちが破産してもいいのかしら……」
「で、でも、ささちゃん、最後はかいちょーさんのわがまままも、許すよね……」
「はぁ?」
「だって、本当に嫌だったら、止めてるもん……でも、止めなかったのって、かいちょーさんが勝つって、信じてるから、だよね……?」
「……ま、まあ、自分勝手な界長だけど、実力は本物だし、それはあたしたち自身がよく分かってることだし……いやでも! それでも負ける時は負けるわよ、あの界長も! もし最悪の事態になったら、明日からどうすれば……」
「大丈夫だと、思うけど……あの人たちも、事情を説明すれば、分かってくれるよ……たぶん」
「だといいけど……」
そんなわけで始まった、空城夕陽と愉快な仲間たちvsルカ=ネロの変則エキシビションマッチ。
夕陽たちは先鋒、次鋒、中堅、副将、大将と順番に出て来て、各人ルカと戦う。この五戦の間に夕陽たちのチームが一勝でもできれば賞金獲得。負けたとしても、神話空間内でのデュエルではないので『神話カード』を奪われることはない。仮に奪われたとしても、すぐに返されるだろうが。
なお、五連戦の途中、ルカは一戦ごとにデッキの変更が認められている。
何千なのか何万なのか、桁数すら分からないほどのギャラリーに囲まれながら、今、夕陽たちは壇上へと上がっていく。