二次創作小説(紙ほか)

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.441 )
日時: 2014/02/23 18:03
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

 空城夕陽と愉快な仲間たちvsルカ=ネロ。
 結果、愉快な仲間たちが全敗した。
 分かってはいたことだが、ルカ=ネロという男は強い。しかもジークフリートのような異常さが感じられる強さではなく、もっと単純で純粋な強さだ。現実的な強さと言い換えることもできるかもしれない。
 そんなわけで見事無残に散った夕陽たちは、賞金は貰えず、ルカを楽しませただけという特にもならない結果だけを残した。
「まあしかし、よく頑張った方じゃないか? 界長も全力だったみたいだしな。あの人に全力を出させるだけでも評価できることだ。あんまり弱い奴だと、全力を出す前にやられるからな」
 慰めているつもりはないだろうが、夕陽にそんな言葉をかける亜実。
「なんか消極的な評価だな……まあ、褒められたと思っとくよ」
 負けた後は、普通にパーティーを楽しむ夕陽たち。いや、夕陽はこのパーティーが楽しいとは思っていないが。ルカとのデュエルのせいで楽しいという感覚は半ば消え去っている。
「しっかし、あいつは楽しそうだなぁ……」
「『萌芽繚乱ブラッサム』か、確かにな。【神格社界】には戦闘狂と呼べるような輩はごまんといるが、その中でも界長はずば抜けたバトルマニアだからな。並大抵の狂人でも辟易するほどだ。それをああも連続して……」
 現在、このみはルカとデュエルしている。このパーティーではルカと自由対戦できるらしいので、その相手としてこのみが挑んでいるのだが、
「《ジャッキー》でダイレクトアタックだ!」
「うぁー! また負けたぁ……もう一回! もう一回だよ!」
「望むところだ。俺はいかなる挑戦者の挑戦でも受ける」
「あの子、凄いな……もうかれこれ五十戦くらいしてないか?」
「毎回速攻でやられてるけど……ここまで何度もやられていながら、めけずに界長に挑むとは……」
「なんてメンタルだ……」
 このような周りの評価から分かる通り、挑んでいる、というよりは挑み続けている。何度やられても起き上がり、また対戦。それを延々と繰り返しており、飽きないのかと横槍を入れる気にもならない。
「あのメンタルは尋常じゃないな……まさか、現在の“ゲーム”の世界で界長の連戦に付き合える奴がいるとは。驚きだ」
「僕も驚きだよ。ったく、あの根性をもう少し勉強に向けられないのかな。このままだとマジで留年するぞ」
 などと言っても、このみがそんなことを聞くはずもない。
「にしても、このパーティーって一体いつまでやって……ん?」
「どうした?」
「いや……」
 少々口ごもり、曖昧に濁す夕陽。しかしそこまで重要なことというわけではなく、濁したのはわざわざ口に出して言うほどのことではないからだ。本当にどうでもいいことである。
 どうでもいいことだが、どうでもいいがゆえに軽い気持ちで聞いてみる。
「あ、ちょっといい」
「は、はいっ……なんでしょう……?」
 ちょうど各テーブルに料理を追加したり、飲み物を配っているうさみに声をかける。うさみは少々怯えたような声を上げるが、性格の問題だろう。
「さっき御舟となにか話してたけど、なんだったの?」
「え? あ、ああ、御舟汐さん、ですか……」
 どうでもいいことというのがそれだ。
 ふと、汐とうさみがなにか話しているのが見えたので聞いてみたが、その内容はありふれていて、あたりまえのことで、本当にどうでもいいことだった。
「いえ、その、化粧室の場所を、お尋ねされたので……」
「あぁ」
 理解した。聞いた後にも思ったが、本当にどうでもよかった。聞かなければよかった、とすら思わない。
 しかし夕陽は、自分から切っ掛けを作っておきながら、その後なにも行動しなかった。いや、ここで夕陽を責めるのも酷な話なのだが。この状況で、汐に対して慮れというのは、些か無理があるだろう。御舟汐という少女の性格、性質から考えても、ここで夕陽が動くことはほぼありえない。
 だからこそ、ここで夕陽を責めることはできないのだ。

 たとえ汐に、賢愚の魔手が伸びていたとしても。



 汐はうさみに教えてもらった場所へと向かうと、すべきことを終え、手を洗いながらふと考えた。
(あの人の力、なんだか少し懐かしい気がしたです……)
 あの人とは、先ほど戦ったばかりの相手、ルカのことだ。
 直に対戦して、なんとなく思ったのだ。彼の力、もっと言うと彼の使用するデッキ、アウトレイジの力。敵としてではあるが、その力に触れて、汐はなにかを懐古するような感覚を覚えた。
 それがなにを意味するのか、自分の記憶のなにに訴えかけるのかを理解するには、その感覚は曖昧すぎる。だが、それでも、この感じたものは自分の中になるなにかと繋がっているはずだ。
(昔のことは覚えていないですが……もしかしたら、あの人と戦っていれば、思い出すかもしれないですね)
 などと頭の中では言ってみたが、そんなことはないと思う。根拠も裏付けもない、ただの直感だが。
(人間を血液型で分類するなんてナンセンスですし、アウトレイジとオラクルの二つに分けるなんてもっと無意味です。無法と神託以外にも、狩人と異星、武士と騎士……対立していた種族など、いくらでもあるのです)
 だから、誰がアウトレイジ、誰がオラクル、などと分類することはできない。そもそも自分は人間だ。
 そう、思うのだが。
(……もし仮に、無意味であっても、血液型占いをやってみよう程度の認識で分類するとしたら、やはり、アウトレイジなのでしょうか)
 汐は手を拭きつつ、先ほどのデュエルで使用したデッキから、一枚のカードを抜き取る。
「《ブータン》……」
 そのカードは《豚魔槍 ブータン》。ある意味、汐の切り札的カードの一枚ともいえるアウトレイジ、そしてエグザイルだ。
(私はいつこのカードを手に入れたのでしょう)
 それは記憶にない。彼女の記憶から、すっぽりと抜け落ちてしまっていることだった。
(いつもいつも思っていることですが、今日は特に考えさせられるです。私はいつ《ブータン》を手に入れたのか……《ブータン》だけではなく、《ブリティッシュ》や、今のこのデッキのベースとなったデッキ。それはいつ組み上げたのか……)
 目を閉じて、呼吸を整え、静まる。瞑想するように気持ちを落ち着け、ふっと息を吐く。
「……思い出せるはずがないですよね。分かっていたことです」
 なんだか急に馬鹿馬鹿しくなってきた。
 汐は《ブータン》をデッキに仕舞い、その場を出ようとした。
 した、が、
「やぁ、奇遇だね」
「……男性と女子トレイで鉢合わせすることを、果たして奇遇と言ってよいのかどうか。私にはレベルが高すぎてなんと言ったらよいかよく分からないのですが、それでもあえて言うのであれば、ここは女子トイレです」
「分かってるよ? まあ、僕は性差別はしない主義だから」
「主義以前に、衛生空間くらいは男女で隔離しなければならないでしょう」
「それもそうだね。一理ある」
 一理どころか倫理なのだが、しかし彼はどこ吹く風といった様子。
「それで……なんの用ですか、青崎記さん」
 無感動な声と瞳ではあるが、あからさまな敵意と警戒の気配を見せる汐。だが性別で隔離されている公衆トイレの性別を無視するような男が、気配だけの敵意と警戒で屈するはずもない。
 男——青崎記は、軽薄な笑みを浮かべる。
「ははっ、用、要件ね……そんなこと聞くけどさ、薄々感づいてるんじゃないの?」
 記はそう問いかけるようにその発言を促すが、汐はだんまりを決め込んでいる。不必要なことは喋りたくない、とでも言いたげだ。言いたくないのだろうが。
「……ま、今日は時間も無限にあるわけじゃないし、単刀直入に言うよ」
 と言って。
 彼にしては珍しく、本当に、単刀直入に、言い放った。

「《ヘルメス》、返してよ」

 一瞬だけ、怒気のようなものを感じた。
 だがそれも一瞬のこと。すぐに記は軽薄な笑みを浮かべ、
「今も持ってるんだろう? 君は招待状を持っていないから、“ゲーム”参加者である証明が必要だ。《海洋神話》は『大渦流水モスケスラウメン』が持ってるし、なら君が保有するのは《賢愚神話》だけ。違うかい?」
 そう問いかける記だが、汐は素直にそんな問いに答えたりはしなかった。
「……招待状を送ったのは、あなたですか」
「おぉ? 質問を無視されたよ。でもま、正解かな。そうだよ、『昇天太陽サンセット』『萌芽繚乱ブラッサム』『大慈光姫メルシー』『大渦流水モスケスラウメン』……この四人に、本来送られるはずのない招待状を送ったのは僕さ」
 その手の職人に頼んでね、と付け足す。
「なぜ、そんなこと——」
「君を誘い出すため」
 汐の言葉を最後まで待たずして、記ははっきりと告げる。
「正確には、《ヘルメス》を、かな。一度手に入ったし、もう『神話カード』なんていらないと思ってたけど、また欲しくなっちゃった。だから返してよ」
「……あれは、私が実力で勝ち取ったものです。返す、などと言うのはお門違いだと思わないですか」
「それもそうか。じゃあ撤回するよ」
 意外とあっさり、自身の発言を撤回する記。彼も執着心が欠けているのかもしれなかった。
 そして、彼はその発言を言い直す。
「君の『神話カード』、奪わせてもらうよ」
「それができると思うのですか」
 記の威勢を挫くつもり、ではないだろうが、間髪入れずにそんなことを言い返す汐。
「私のデッキに『神話カード』は組み込まれていないのですよ。あなたがいくら私と戦ったところで、それを手に入れることはできないのです」
 『神話カード』を奪い取る条件は、“神話空間内で『神話カード』を組み込んだデッキに勝利する”ことだ。なので記がいくら神話空間を展開したとしても、汐がデッキに『神話カード』を入れていなければ意味がない。
「だったら、君が差し出すまで嬲るよ。女の子を虐めるのは割と趣味だし?」
「……悪趣味、極まりないですね」
 事もなげに言い放った記に、汐はややドン引きしながらも、デッキケースに手を伸ばした。
 闇に染められた無法のデッキ——ではなく、いつもの悪魔がはびこるデッキだ。
「ですが、一度私に負けたあなたが、勝てると思っているのですか」
「僕だって今までなにもしてなかったわけじゃない……と言っても、確かに僕は弱いよ。アミさんとか和登さんとかと比べたら、雑魚みたいなものさ」
 でも、と記は続け、
「相手を一人に絞れば、ある程度強くても勝てないわけじゃあない。まあ詳しくは戦ってからの、お楽しみってことで!」
 刹那。

 神話の空間が、二人を飲み込んだ。