二次創作小説(紙ほか)
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.444 )
- 日時: 2014/02/24 17:43
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
「……《暗黒導師ブラックルシファー》を召喚です」
大量のグレートメカオーと《封魔ゴーゴンシャック》に囲まれ、呪文は唱えられない、マナはアンタップできないと、クリーチャーはフリーズされたり手札に戻されたりと、動きを妨害される汐。
だが手札には《「謎」の頂 Ζ—ファイル》と《暗黒導師ブラックルシファー》、マナも9マナあり、墓地に落ちるカード次第では《Ζ—ファイル》で逆転することもできるはずだ。
汐は呪文をタップしないよう気を付け、《ブラックルシファー》を召喚する。
「《ブラックルシファー》の能力発動。山札の上五枚を墓地へ」
いつもなら《ブラックルシファー》を二回も出せば、マナ加速と合わせて山札が一気に削られるが、今回はあまりマナ加速ができていない。なので、大きく削られることに違いはないが、まだ山札の残量にも余裕がある。
墓地へと落ちたのは、《フェアリー・ライフ》《魔刻の斬将オルゼキア》《再誕の社》《死神明王ガブリエル・XENOM》《悪魔神ドルバロム》の五枚。
(来たですよ、《ドルバロム》です)
最も欲しているカードが墓地に落ちてくれた。これで次のターン、《Ζ—ファイル》で《ドルバロム》が出せれば、水単色の記の場とマナは全滅。以前戦った時と同じ光景を見せてやることができる。
「ターン終了です」
「ふーん、それで終わりかぁ……じゃあ僕のターン、行っちゃうよ?」
どこか含みあり気に自分のターンを迎える記。だが彼が含みある発言をするのもいつものこと。それより汐は、《Ζ—ファイル》の生贄となる《ガル・ヴォルフ》がやられたり、大量展開したグレートメカオー軍団で一斉攻撃されたらどうしようかを考えていた。
正直に言って、記はその手も取れた。《ヴォルビック》で《ガル・ヴォルフ》をバウンスすることも、グレートメカオーたちで一斉攻撃することも、可能だった。
しかし彼はそうはしない。そんな簡単に、希望を潰したりはしない。
そんな安っぽい潰し方ではなく、もっと彼女に絶望を与えるように、
彼は希望を潰すのだ。
「《サウンドシューター》を直接召喚。山札の上から三枚を捲って、グレートメカオーとキカイヒーローを手札に入れるよ」
こうして捲られた三枚は《賀正電士メデタイン》《氷結カッチ・コチーン》《埋没のカルマ オリーブオイル》。
「全部メカオーだから、手札に加えるよ。さらに《メデタイン》《カッチ・コチーン》を召喚、《ガル・ヴォルフ》をフリーズ」
そして、
「《埋没のカルマ オリーブオイル》を召喚!」
埋没のカルマ オリーブオイル 水文明 (5)
クリーチャー:オラクル/グレートメカオー 2000
S・トリガー
ブロッカー
このクリーチャーは攻撃することができない。
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、プレイヤーを一人選ぶ。そのプレイヤーは、自身の墓地のカードをすべて山札に加え、シャッフルする。
「《オリーブオイル》、ですか……」
「そうだよ」
《スタバック》と同じオラクルの新階級カルマに属する《オリーブオイル》が封じるものは、墓地。
自分に使えば墓地に落とされたカードを間接的に回収できるが、このカードの真価は相手に使用してこそだろう。
「選択するプレイヤーは勿論、君だよ。さあ、墓地のカードをすべて山札に戻して」
「う、くっ……」
小さく呻く汐。
次の瞬間、《オリーブオイル》の謎の法術により、汐の墓地はすべて山札へと戻されてしまう。
「どうせ手札に《Ζ—ファイル》でも持ってたんでしょ。まあ、出したいなら好きにすれば? なにも戻ってこないけどね!」
実際には、生贄として破壊する《ガル・ヴォルフ》が戻ってくるのだが、そんなことはどうでもいい。
呪文も、マナも、クリーチャーも、墓地すらも封じられてしまい、汐はもう、身動きができない。
(なんでしょう、この不自由な感じ……最初からなんとなく感じてはいたのですが、それが、私に纏わりついているような……)
本格的に汐を束縛し始めた謎の感覚。そしてそれは、記自身からも滲み出ている。
以前戦った時の記すとは、少し違う感じだ。以前は、まだ“ゲーム”の世界での戦闘経験がなかったということもあるだろうが、それを差し引いても、《賢愚神話》からはともかく、記からなにかを感じることはなかった。精々、軽薄だと思った程度だ。
だが今はなんだ。記から感じられる異様な気配。それも、汐に対して強烈に突き刺さる、この感覚。
「教えてあげようか?」
突如、記は汐に問う。
汐の疑問に答えるか、否か。
だが元から言うつもりだったのか、汐の返答を待たずして、記は続けた。
「君は結構敏感なんだねぇ……“ゲーム”の世界のデュエルっていうのは、ある種の精神感応が発生する場でもあるんだよね。俗に言う、空気で感じる、とか、強者の気配、とか、そういうの。強い人だとS・トリガーの有無も感覚で分かっちゃうくらいだし、もはやエスパー染みてるよね」
その説明を聞き、そのことについては納得する汐。今まで彼の言う感覚は、体感で、なんとなくだが分かっていた。ただの気のせいという風にも思っていたが、そうではない気もしていた。
「他にもバリエーションはあるんだけど、全部それと同じことさ。対戦する時、自分の天敵に対しては、身体が反応しちゃう。自分のデッキに対する思い入れ、シンクロ率が高ければ高いほど、ね」
とはいえ、それらの感覚には、さしたる強さははない。『神話カード』のような、強大な力が内包されたカードが絡むのならともかく、普通のカードを用いたデッキによる対戦では、よほど感受性が高くない限り、はっきりと感じることはできない。
「だけど君は感じている。もしかしたら君、“ゲーム”に参加する前に一度こういう体験をしたことあるんじゃない? 僕は知らないけど、こんな愉快なことが起こるんだ、それが今だけじゃなく、過去に、そして別の“世界”であったとしてもおかしくはない」
この場合の世界は、“ゲーム”の世界と同様、裏社会的な意味合いだろう。
「それはともかくとして。いろいろぐだぐだ言ったけど、つまりだ。君が今感じている気持ちの悪さ、不自由さ? なんでもいいけど、そういうのはすべて今言ったものと同じさ。君は今、そのデッキの気持ちになっている。そしてそのデッキは、自分の嫌いな相手、苦手な相手、天敵を前にして、怯え恐怖しまっている。さらに直接干渉までされて、竦み上がって委縮してしまっている」
要するに、
「僕のデッキは君への対策デッキ、というわけさ」
言われて、やっと理解した。
記のデッキは、一見すればグレートメカオーの種族デッキだ。しかしその実、汐に対して非常に効果的なカードが揃っている。
まず最初に見せた《封魔ゴーゴンシャック》。これで汐は、呪文によるマナ加速や墓地肥やしが行いづらくなる。次に《害悪のカルマ スタバック》。《ゴーゴンシャック》と合わせて呪文を腐らせ、マナの使用を遅らせる。極めつけは《埋没のカルマ オリーブオイル》。《Ζ—ファイル》によるデーモン・コマンド大量展開を考えていた汐の戦術を、一発で無為にする。
他にも、手札破壊対策の《機械提督サウンドシューター》、パワーと打点を生かして殴ってくる方針に転換した場合の《氷結カッチ・コチーン》など、汐のデッキをピンポイントで狙ったかのような対策カードが盛り込まれている。
「……私だけを倒すためのデッキ、ということですか」
「その通り。言ったろう? 僕は弱いって。だからこうして対策して、確実に勝てるようにデッキを組むんだよ」
なにか言いたげな汐だが、口をつぐむ。ピンポイントで個人を狙うのはどうかと思うが、しかし特定のデッキ、戦術に対する対策カードを入れること自体は、咎められることではない。そんな対策カードが数多く入っている記のデッキは、その延長でしかないのだ。
「……ま、それだけじゃないけどね。これは僕なりのリベンジだから。とりあえずターン終了」
クリーチャーを展開し、汐の墓地をまとめて消し去り、それでもまだ動かない記。
「……《魔刻の斬将オルゼキア》を召喚、《ガル・ヴォルフ》を破壊です」
「ならこっちは《DJアフロ・スピーカー》二体を破壊、する代わりに手札を捨てるよ」
騒音(じゃかあし)機装DJ(ディージェイ)アフロ・スピーカー 水文明 (4)
クリーチャー:グレートメカオー/アンノイズ 4000
ブロッカー
このクリーチャーは攻撃することができない。
このクリーチャーが破壊される時、グレートメカオーを1枚、自分の手札から捨ててもよい。そうした場合、このクリーチャーは墓地に置かれるかわりにバトルゾーンにとどまる。
《DJアフロ・スピーカー》は破壊される代わりに手札を捨てれば、破壊されない。そしてこの時捨てられるのが、
「一枚は《特警機装パトロール・ファンクション》、もう一枚は《機械提督サウンドシューター》だ」
《サウンドシューター》は相手ターン中、手札から捨てられる代わりにバトルゾーンへと出る。そして、三体のグレートメカオーを補充するのだ。
「さて、なにが出るかな」
捲られたのは、《害悪のカルマ スタバック》《埋没のカルマ オリーブオイル》《機械提督サウンドシューター》。
「すべてメカオーだから、手札に入れるよ。ターン終了かな?」
「…………」
汐は答えなかったが、これ以上なにもできないことは明白だ。それは記にも分かっている。
そして記のターン。
「……じゃ、行きますか。僕の逆襲、第一段階だ」
静かに言ってから、記は手札のカードを抜き取る。
「まずは《オリーブオイル》を召喚、君の墓地にいる《ガル・ヴォルフ》を山札へ戻すよ。そして二体の《メデタイン》と《オリーブオイル》を進化」
三体のグレートメカオーが、水流に飲み込まれる。同時のその水流は膨張し、増大し、巨大化していく。
水流は巨大化を続け、神の星を超えるほどの巨躯に達したところで、その姿を表す。
「最終魔導破壊兵器、発射許可、承認。世界を滅ぼす権利は君の手に——《超神星ペテルギウス・ファイナルキャノン》」