二次創作小説(紙ほか)
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.468 )
- 日時: 2014/02/28 03:11
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
「汐ちゃん、大丈夫だったかなぁ……」
【神格社界】のパーティーの翌日、十二月二十五日。
夕陽たちは日常という縛りを受け、学校へと登校しなければならない。昨日の今日なので授業は上の空。結局、ほとんど机に座ったままの一日を過ごし、下校していた。
「さあな……」
「で、でも、御舟さんはしっかり者だし、大丈夫じゃないかな……?」
「だといいけど……」
昨日の夜、夕陽が最後に見た汐の後姿。あれは、いつもの彼女ではなかった。
夕陽の見間違え、勘違いかもしれないが、ずっとそのことが気にかかる。
「僕とこのみが御舟と出会ったのは、中学三年の春だ。なんだかんだ言って、僕らと御舟との付き合いはまだ二年にもならない。まだ、僕らの知らない御舟がいてもおかしくはないよ」
「汐ちゃん、自分のことはあんまり話さないもんね……澪にーさんからも汐ちゃんの話は聞かないし」
「謎が多いよな、あの兄妹……」
汐は自ら自分のことを語る人間ではない。澪に至ってはなにを考えているのかすら分からない。
「ならさ、今日、行ってみる? 汐ちゃん家」
「……そうだな。少し、ちゃんと話した方がいいかもな」
杞憂かもしれないが、むしろ杞憂であることを望むが、昨日の一件から汐になにかしらの変化が訪れただろうことは察するにあまりある。
汐に聞いて答えが出るかどうかは分からないが、こんな問題、本人がいなければ解決しない。外野だけで騒いでいても、どうにもならない。
「じゃあ今すぐ行こう! この時間ならもう中学校は授業終わってるし、汐ちゃんも家にいるはず——」
このみの言葉が止まった。
「……このみ?」
「このみちゃん? どうしたの?」
唐突に言葉を失い、不審に思う夕陽と姫乃。このみは、ぽつりと声を漏らす。
「……汐ちゃん」
「え?」
その漏れた声に反応し、二人はこのみの視線の向こうを見遣る。
そこにいたのは、見慣れた少女。
御舟汐、だった。
「…………」
まるで夕陽たちを待ち構えているかのように、道の真ん中で立ち尽くしている。制服姿で、鞄も持っているので、こちらも学校帰りのようだ。
「……御舟、大丈夫——」
「先輩」
夕陽の言葉を遮る。
彼女のその声は、いつになる刺々しく感じられた。
「昨日のあれは、どういうつもりだったのですか」
「……? 昨日の、あれ……? なんのこと?」
思い当たる節はないわけでもないが、しかしわざわざこうして出て来てまで聞くことなのだろうかと思う。
だが、そんな夕陽のぬるい思考で導き出されるような答えは、汐は求めていない。汐は、自らその答えを示す。
「私を神話空間に引きずり込んで、戦ったことです。私の惨敗でしたが」
彼女らしからぬ最大限の皮肉がこもった言葉だった。そんないつになく敵対的な態度に戸惑うが、それ以上に彼女の発言に驚きを禁じ得ない。
「神話空間……? え? なに、どういうこと……?」
「しらばっくれるつもりですか。しかし、証拠は私の身体にあるんですよ」
言って汐は、セーラー服の裾を掴み、グイッと引き上げる。同時に、彼女の白い柔肌が露わになった。
いや、それはもう、白くも柔肌でもなかったが。
「なっ……!」
「……!」
「う……っ」
三者同様の反応。姫乃に至っては視線を逸らし、口元を押さえている。
「これが証拠ですよ」
それは火傷だった。彼女の白くなめらかな肌は、水ぶくれができ、赤く焼けている。
むごいと言うほど大きな火傷ではない。だが、それは紛れもない傷。彼女の負った、痛々しい傷なのだ。
「昨夜、先輩との戦いでとどめを刺された時にできた火傷のようです」
淡々と語る汐。しかし淡々としているのはペースだけで、その声は、いつもの彼女ではない。
夕陽たちも突然そのようなものを見て、軽くパニック状態になっていた。
「ゆ、ゆーくん!」
「いや、違う……僕は知らない! どういうことだよ、御舟!」
「それを私が聞いているのです」
思わず叫ぶ夕陽。だが、一方汐は冷静に返す。
「はっきり言うとです、先輩。私は怒っているのですよ。しかし昨夜のあの行為になにか意味があったとするのであれば、私の怒りは収まるかもしれないです。私が納得するような理由でなくてもいいです、とりあえず説明してください。昨日の夜、あれはどういう目的があったのですか、先輩」
「いや、だから、僕は知らないよ……昨日の夜は、君と別れた後、そのまま帰って——」
「先輩のデッキ」
また夕陽の言葉を遮る汐。
「《メンデルスゾーン》や《エコ・アイニー》は勿論、《レグルス・ギル・ドラゴン》《鬼カイザー「滅」》も入っているですよね」
「え……まあ、確かに入れてるけど……」
ひまりの遺したカードを少しずつデッキに組み込み、いろいろと試行錯誤を繰り返している夕陽のデッキ。確かに今あるデッキの中に、汐が挙げたカードはすべて入っている。
「私は、今挙げたカードでやられたのです……先輩のデッキにそれらが入っているのも、証拠となりえるのではないでしょうか」
「だから知らないって! なんで僕が御舟と、神話空間で戦わなくちゃいけないんだよ!」
「だから言っているではないですか。私がそれを聞いているのです」
まったく話が噛み合わない。汐の主張と夕陽の主張、どちらの主張にもなにかが欠けているようで、まったく相いれない。
衝突しているようで、すれ違っている。そんな、相容れなさが、そこにはあった。
「……先輩なら、直接聞けばちゃんと話してくれると思ったのですが、私の思い違いでしたか。幻滅です」
「なんだよそれ……!」
明らかな敵意と侮蔑のこもった眼で、夕陽を見つめる汐。
「……もしかしたらこのみ先輩や光ヶ丘さんに聞かれたくない理由でもあるのかもしれないですね。それならそれで構わないですよ。これは最大限の譲歩です」
そんな風に前置きして、汐は夕陽に背を向けた。
「今日中に、私に連絡をください。そこで昨日の一件について、弁明することがあればいくらでも聞くですよ。今回は、それで全部チャラです」
そして、そのまま去っていく。
「なっ……お、おい! 待て……御舟!」
夕陽が呼びとめようとする。だが、聞こえていないわけではないだろう、汐はその言葉を無視して、歩を進める。
やがて、彼女の姿が見えなくなった。
「……ゆーくん、どういうこと?」
「空城くん……」
怪訝、というより心配そうに夕陽を見上げる二人。その言葉をそのまま返したいくらいだ。
「僕にだって分からない。御舟はなにを言ってるんだ?」
「御舟さんは、空城くんに襲われたって、言ってるんだと思うけど……」
「ゆーくんは、そんなことしないよねぇ……?」
このみも姫乃も、それは分かっている。なにより夕陽自身が、自分はそんなことはしていないと証明できる。
「一体、どうなってるんだ……?」
言い過ぎたとは思わない。むしろ控えめなくらいだった。
汐は帰路につき、我が家に続く裏路地を進んでいく。
幻滅したのは本当だ。まさかこうも言い逃れようとするとは思わなかった。
いつも通りの暗く細く、誰もいない道をひたすら歩く。
これからどうするか。恐らくあの調子では今日中に連絡なんて寄越さないだろう。
目的地へと目指す、その途中、彼女の足が止まった。
「……なんなんですか、あなたは」
振り返り、問いかけるように言葉を発する。それも、どこか苛立っているような声だ。
そこにいたのは、一人の男。しかし、見るからに正常ではない異常者だった。
「ウ、ウ、ウゥ……」
容姿自体はおかしくない。至って普通の出で立ちの青年だ。しかし、目は白目を向き、手はだらんと垂れ下がり、口もだらしなく開き、まるでゾンビだ。
生きたゾンビ、とでも言うのか。
「……兄さん曰く、私は容姿がいいみたいですが、生まれてこの方ストーカーというものに付きまとわれたことは一度もないのです。なのでその手の経験がないのですが、ストーカーと言われるような方々は、すべからくしてそのような出で立ちをしているのですか」
ふらふらとした足取りで近づいてくる男に対し、汐はさり気無く携帯電話を探りながら、じりじりと下がる。
その時だ。
二人の間の空気と空間が、一変する。