二次創作小説(紙ほか)

デュエル・マスターズ メソロギィ コラボ短編 0・メモリー ( No.474 )
日時: 2014/03/01 14:08
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

「うぁー凄い埃だなぁ……」
 大晦日の直前と言えば、日本では大掃除と呼ばれるイベントが行われる。いや、イベントではなく風習や習慣、と言うべきだが。
 大晦日の直前と言っても、年を越す寸前に掃除如きでバタバタしたいと思う人間は、普通いない。なので大抵の人々は、一週間くらい前には掃除に取り掛かるものだ。
 この空城家もその例に漏れず、それなりに時間をかけて掃除をしているのだが、ことこの空城夕陽に限っては、そうではなかった。
 ビル一つ貸切るレベルのクリスマスパーティーやら、後輩とのいざこざやらで、十二月は大忙し。掃除なんてしている暇はなかった。
 そのツケを払う時が来た、とでも言うのか。夕陽は十二月三十日、自室の大掃除に取り掛かっていた。
 とりあえず手始めに、積み上がっていたカードケースを整理するところから開始したのだが、途轍もない埃が夕陽の繊維を削ぎ落とす。
「いつもならもう少しちゃんとしてるんだけど、“ゲーム”で色々とバタバタするようになってから、こういうのは本当に疎かになるってるよなぁ……地味な被害だよ」
 とりあえず古いカードケースを引っ張り出す。
 同時に、部屋の扉が開いた。
「お兄ちゃー……ってなに!? 埃すごっ!?」
「あぁ、お前か……どうした?」
 入室してきた妹のややオーバーな反応を流しつつ、埃を払う夕陽。
 見れば、妹の格好は外出用のそれであった。
「どっか行くの?」
「うん、シオ先輩のお店に行くんだけど、お兄ちゃんはどうする?」
「見ればわかるだろ、掃除中だ。行くなら一人で行け。お前のために金なんて払うか」
「ちぇ」
 夕陽を同伴させてたかるつもりだった妹の魂胆を見抜きつつ、カードケースを一つずつ分けていく夕陽。普段あまり気にしていないが、こうして見るとかなりの量だ。
「なんか懐かしいなぁ……これとか中学の頃に買ったやつだ」
「っていうかなんで今頃掃除なんてしてるの? お兄ちゃんがサボるなんて珍しいね、いつもはちゃんとやってるのに」
「最近忙しかったからな。それに、お前はこのみに似ているが、家事だけはいっちょ前にこなすからな。僕がそこを疎かにすると、なんか負けた気分になって不愉快だ」
 両親が共働きで不在でいることも多い空城家の家事は、妹に一任している。そのため兄として、夕陽もあまり弱みは見せたくないのだ。兄の意地である。
「にしてもすごい埃……なんでこんなになるまで放っておいたの。デッキの改造と化する時にこのカード使うんじゃないの?」
「最近はあんまりデッキの大筋は変えないからなぁ……それに、ひまり先輩のカードがあるし……」
「え? なに?」
「いや、なんでもない」
 とりあえず埃を払い、雑多に積み上がっていたケースは、まとめて押し入れに入れておく。
 と、その時、押し入れの奥からあるものを見つけた。
「ん……これ……」
「なにそれ? デッキケース? なんか書いてあるけど……」
 年季の入った、とは言えないが、それなりに時間の経過が見て取れるデッキケース。表にはなにか文字が書いてあるが、やや掠れ気味だ。
「きん……やま、まめ……? りゅう……」
「鎧竜だろ。なんで途中で縦読みになるんだよ」
「がいりゅー?」
 首を傾げる妹。どうやら知らないらしい。
「鎧竜決闘学院。端的に言ったら、デュエマをする学校だよ。海戸ニュータウン、だったかな? にあるんだ」
 正確にはデュエリストの養成学校、もしくはデュエマの専門学校だが、妹の知能レベルに合わせるべく、そんな風に説明する。しかしあながち間違ってはいない。
「学校でデュエマするの!? え、それって、授業で、ってことだよね」
 夕陽が首肯すると、妹の目が光り輝く。
「なにそれ天国じゃん! 眠たい授業はデュエマになって、テストも全部デュエマ!? そんな学校があったなんて……!」
「いや、お前が思ってるほど楽なところじゃないと思うぞ。というか別にデュエマだけをするってもんでもないだろうし。普通の授業もするだろ、一応は学校なんだから」
「えー……」
 今度はガックリと項垂れる。アップダウンの激しい妹だった。
「……っていうか、お兄ちゃん詳しいね」
「お前がものを知らなさすぎるんだ。有名なんだぞ、鎧竜は。日本国内は勿論、世界的にも注目されているし、二年くらい先の拡張パックが先行販売されているし」
 反応がないので視線を妹に向けると、唖然としている。驚きすぎて声も出ないようだ。
「なにそれすごすぎ、二年先のパックが先行販売って……あれ? でもお兄ちゃん、中学の頃から《不敗のダイハード・リュウセイ》とか使ってなかったっけ?」
「お前にしてはよくそんなに早く逆算できたな。まあ、それはあれだよ。僕が鎧竜決闘学院に行ったことがあるからだよ」
 事もなげに言うと、ガタッと妹が身を乗り出す。
 というか、押し倒された。
「なにそれなにそれなにそれ!? お兄ちゃん、いつの間にそんな世界の天国に行ってるの!?」
「うるさいうざい離せ重い痛い! とにかく落ち着けどきやがれ!」
 凄まじい反応を見せる妹を撥ね退け、とりあえず順序立てて説明する。
「行ったって言っても、イベントに参加しただけだよ……ほら、鎧竜も一応学校なわけだし、オープンスクールみたいなのがあるんだよ」
 それにこのみと二人で参加したんだ、と言うと、今度は駄々をこねる子供のようになった。
「なにそれ、そんなの初めて聞いた! なんで一緒に連れてってくれなかったの!」
「そりゃ、お前はその時まだ小五だったからだろ。対象者は小学六年生以上だったはずだし、そもそも人数が多いから抽選で選ばれるし。そんでもってこのデッキケースは、そのイベントの参加賞みたいなものだ」
 言って夕陽は、デッキケースを開く。中に入っているのは、一つのデッキ。
「懐かしいなぁ——」
 そのデッキを見て、夕陽は回想する。

 二年前の、あの日のことを——