二次創作小説(紙ほか)

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.475 )
日時: 2014/03/01 22:12
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

「うぁー凄い人だなぁ……」
「人いっぱい……なんかわくわくするね!」
 海戸ニュータウンの一角に居座る、鎧竜決闘学院。
 この日は鎧竜決闘学院の、一般的に言うオープンスクールが開かれる日だ。
 会場自体は誰でも入れるのだが、学院で行われているイベントや模擬授業、模擬デュエマ(なにが模擬なにかは不明)に参加するためには、事前申し込みが必要となる。しかもその申し込みも、規定人数を超過すると抽選になるため、それらのイベントに参加できる者は限られている。
 それほどに、鎧竜決闘学院は注目された学校であり、人気も高い。
(まあ、絶対普通の授業がデュエマになる、とか思って来てる奴もいるよな……)
 そんなことを思いながら、夕陽はすぐ隣で目を爛々と輝かせている幼馴染、春永このみを見遣る。こいつなんか正にそうだし、などという呟きは心の中でとどめておいた。
「……っておい、このみ! あんまうろちょろするな……あぁ、もう!」
「うー……」
 ちょこまかと動き回るこのみの首根っこを掴み、動きを固定する。中学生になっても一向に140cmを超えない低身長の彼女なので、この人混みでは速攻で迷子になることは明白だった。
「木葉さんからお前を見るように言われてるんだ。頼むからあんまり動き回るなよ」
「だってー……ほら、あれ見てよ! 拡張パック先行販売会場だって! 行きたい行きたい!」
 その気持ちは夕陽もよく分かるが、今はとりあえず受付に行って、イベント参加などについての案内を貰わなくてはならない。
「それに、先行販売のエキスパンションなら、この学校じゃなくても海戸ニュータウン内にあったぞ」
「ほんとに!? うわー、ぜんぜん気付かなかった……」
 そんなこのみを引っ張りながら、夕陽は受付に向かう。
 ちなみに、夕陽もこのみもこの時は中学二年生。東鷲宮中学なる某県某市の中学校に通っている。そのため、もし鎧竜に来た目的を学校の視察とするのなら、来年くらいにはここへ転校することになる。
 しかし二人にそんな考えはなかった。視察目的でこの場所にいるのではなく、お祭り感覚で来ていた。そもそも住んでいる都道府県も違う。抽選も、当たったら儲けもの、程度の意識だ。それで二人まとめて当たってしまったのだからラッキーだ。
 というわけで、二人は完全に楽しむ目的でこの場所にいる。
 受付を終え、参加賞らしい鎧竜決闘学院のシンボルや名前の書かれたデッキケースを貰いつつ、渡された案内に目を通す。
「どうするこのみ。模擬授業とか部活動イベントとかは時間が決まってるみたいだけど……あ、ちょうど五分後に模擬試験があるのか」
「なんでここに来て試験なのさ! ゆーくんはなにしにここ来たの!?」
 試験、というワードだけで拒否反応を示すこのみ。分からないでもないが、そんなに速攻で否定しなくてもいいような気はする。
「いやだって、デュエマ関係のテストとか、どんな問題か少し気にな——」
「まずはデュエマ! 模擬なんちゃらにゴー!」
「っておい! 動き回るな!」



 このみが向かったのは、模擬デュエマのゾーンだった。
「あ、ゆーくん見て! ここにも先行販売が!」
「デュエル前にデッキを強化しろ、ってことか……? まあせっかくだし、新しく手に入れたカードを試すのもいいかな」
 模擬デュエマ、というのは、簡単に言えばフリーデュエルのスペースのことだった。とはいえただのフリーデュエルではない。
 鎧竜にはD・リーグという、S・ポイントなるものを溜めて成績を決めるシステムがあるのだが、それを模したものらしい。
 今日一日、オープンスクールが終わるまでの時間に、どれだけそのS・ポイントを溜められるかを競い、上位者には景品もあるらしい。しかし景品に興味のない、純粋にデュエマで対戦したいだけの参加者は、それはそれで自由に頼んでくれればいいというスタンスで行っている。
 なお、基本的に対戦相手は同じオープンスクール参加者だが、たまに鎧竜の生徒が混じっているらしい。彼らも彼らで、勝てば実際の成績に関わるS・ポイントを手に入れるので、中には躍起になって参加者たちを薙ぎ倒していく生徒もいるとかいないとか。
「わ、なんかレアっぽいの出た……《神々の地 ディオニソス》? なんか分かりにくい説明だなぁ、クリーチャーが破壊されたらマナに行くってこと? ゆーくんはどうだった?」
「…………」
「ゆーくん?」
 反応のない夕陽の顔を覗き込むこのみ。
 夕陽の表情は、なんとも言えない、なんと表現したらいいのかよく分からないものとなっていた。
 分かりやすく言うのなら、歓喜と困惑を絶妙な比率で混成したような、そんな表情。
「どしたのゆーくん? なんか、変な顔してるけど……」
「やばい……」
「なにが?」
「これ……」
 夕陽の手元には、先ほど開封したらしいパックから出て来た五枚のカード。またその他のパックから出て来たものもあった。
 その中で目を引くのが、
「う、わ……え? なに? スーパーレアがこんなに? ベリーレアとかもいっぱいあるし……すごいラッキーじゃん!」
「ああ、生まれてこの方、ここまで引きのいいのも初めてだ……特にこいつ、なんか凄そうだ。せっかくだし、こいつ中心にしてデッキを組み直そうかな」
 と言って、デッキを組み替えるために設置されていると思しきスペースに移動し、鞄を広げる。
「今あるカードで組み直すの? できるの?」
「たぶん大丈夫だろ。ある程度はカード持って来てるし。それに、当てたカードも汎用性の高そうなカードが多いから、こいつらを多く投入してもなんとかなりそうだ」
 なんにせよ、夕陽たちも一端のデュエリスト。新たなカードを手に入れたら、使いたくなるのが性。
 夕陽は一際目を引くそのカードから視線を外さないまま、デッキの組み直しに取り掛かった。



 デッキの枠組み自体は簡単に出来上がったので、完成は早かった。
 しかしやはり、もっと入れたいがカード枚数が足りなかったり、実際に動きを見ていないデッキなので、不安要素は残る。だがそれでも、それなりの自信作ではあった。
「よし、じゃあこれで早速誰かと……」
 と立ち上がり、辺りを見渡す夕陽。このみがいない。いや、それは知っている。待ちきれなくなったこのみは、一足早く対戦しているはずだ。
 だがその対戦スペースに、空きがない。どこもかしこも対戦中だ。
「嘘だろ……」
 せっかく自信作のデッキが組み上がったのに、対戦できなければ意味がない。どこかのテーブルが終わるまで待てばいいだけの話だが、やや興奮気味でテンションも上がり、ノリノリな夕陽にとっては、その時間さえも苦痛だ。
 夕陽は眼をギラギラと光らせながら空いているテーブルを探す。そこで、対戦が終わったのか、一人の少年がテーブルから離れていくのが見えた。
 その少年の相手は、小柄な少女だった。あまりにも華奢で背も低いので、小学生かと思ったが、鎧竜の制服を着ているのでそうではないとすぐ理解する。
(まあ、このみだって似たようなものだしな……)
 身体的にある一点(ないしは二点)だけが絶対的に違うので、単純比較できるものではないが。
 などと思っていると、その少女の向かいに、ピョコッと人影が割り込んできた。
「あ……」
 先を越された。しかも、その人影というのが、
「このみ……!」
 だったのだ。
 なにか言ってやろうかとも思ったが、すぐに対戦を始めてしまったので、ここでちょっかいを出すのもマナー違反だと思い、引き下がった。
 さてそうしたらどうしよう。また新しい相手かテーブルを探さなければと思っていると、
「なんだよ、どのテーブルもいっぱいじゃねーか!」
 すぐ隣で、愚痴るような叫び声が聞こえる。結構な大声だったが、これだけの大人数から生み出される喧騒に、その叫びもすぐ飲み込まれてしまった。
 見たところ鎧竜の生徒のようだ。室内にもかかわらず、頭にかけたサングラスが目を引く少年だ。
 どうやらこの少年も、夕陽同様に対戦相手、もっと言えば対戦するスペースがなく、嘆いているようだ。同じ境遇の者として同情する。
 と、他人事のように思っていると、
「ん? お前、もしかして相手いなくて暇してる?」
「え? あ、ああ、まあ、そんな感じかな……」
「だったら俺の相手してくれよ。さっきから同じ学校の生徒としか当たんなくてな……ちょっとトイレ行ってる間にスペースも埋まるしよ」
 少年の申し出に、とりあえず首肯する夕陽。
 対戦相手はできたが、しかしもう一つの問題は解決していない。対戦スペースだ。空いているテーブルがなくては、相手がいても対戦できない。
 しかし、
「おーい! レン、コトハ! なんでお前ら同じ鎧竜の生徒同士で対戦してんだよ!」
「うるさい黙れ! 元はと言えばヒナタ、貴様の責任だ! 貴様が真面目に試験勉強をしないから僕たちまで巻き添えを食ったんだ! あの時の成績不振がまだ尾を引いているんだぞ! お陰で自由参加のこのD・リーグでS・ポイントを稼がなけれならなくなった! どうしてくれる!」
「いやあれは俺だけのせいじゃないだろ!? お前だって試験中に居眠りしてたくせに!」
「あたしは赤点もないし成績も大丈夫なんだけど……なんで付き合わされてるの? ねえ、おかしくない?」
 わいのわいのと、傍から見ればいがみ合いながらも仲の良さそうな三人組だ。友人だろうか。
 その後も数分ほど押し問答といがみ合いがあり、最終的にヒナタと呼ばれていた少年が、友人らしき少年少女二人をテーブルから押し退けた。
「よし、これでテーブルは空いたぜ!」
「いいのかなぁ、これ……」
「構うかよ。元よりオープンスクール参加者優先だしな」
 それはそうかもしれないが、背後のレンと呼ばれていた少年の、殺気に満ちた視線が気になって仕方ない。
 それはともかく。
 夕陽とヒナタのデュエルが、これで決定した。
「よーし、じゃあ始めようぜ!」
「うん、よろしく」
 二人はそれぞれシールドを展開、手札を持ち、対戦準備を整える。
 そして、二人の掛け声と共に、デュエルが開始された。

『デュエマ・スタート!』