二次創作小説(紙ほか)

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.482 )
日時: 2014/03/03 00:14
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

 夕陽とヒナタのデュエル。過程はどうであれ、その結果は、夕陽の敗北だった。
「はぁー……負けたか。やっぱ即興で作ったデッキじゃ限界があるな……」
 とはいえ、いつものデッキなら勝てた、などと言い訳するつもりもない。負けはしたが、悪い気分ではない。ここまで清々しい敗北も久し振りだ。
 などと、夕陽が感傷に浸っていると、
「うぁー、負けたー!」
 隣から聞きなれた幼馴染の叫びが聞こえてくる。
「なんだこのみ、お前も負けたのか……って、なんか凄い場になってるな……」
 このみのバトルゾーン、マナゾーン、シールドゾーンにカードが一枚もない。シールドがないのはともかくとして、クリーチャーもマナも一掃されたらしい。
「あ、ゆーくん。隣でやってたんだ」
「先輩よりも早く終わらせるつもりだったのですが……僅差で追い抜かされてしまったですか」
「シオ? お前、隣でやってたのか」
 どうやらこのみは夕陽が隣で対戦していることに気付かなかったらしい。そしてこのみの相手をしていた少女とヒナタも、知り合いだったようだ。
「この子は君の後輩?」
「あー……まあ、後輩、みたいなもんだけど、同級生だよ。同じ一年生」
「へぇ、君、一年生だったんだ。ってことは年下かぁ」
 高校生という風体ではないため、そう判断する夕陽。年下だからどうというわけではないが。
 しかしヒナタからすれば、夕陽が自分よりも年長であることが重要だったようで、
「!? え、なに、あんたまさか年上だった!? うわ、すみません! 同い年だと思って、タメ口だった……!」
「いや、いいよ気にしないで。僕、負けちゃったし」
 勝敗が序列に関係するわけではないが、夕陽としてはそこまで気にするものでもない。中学二年生のこの時はまだ、夕陽も成長期を迎えておらず、背も低かった。同い年の子供から年下に見られることもよくあったし、年下から同学年に見られることも少なくなかった。
「しかし、後輩かぁ……いいなぁ、僕も君みたいな後輩が欲しいよ」
「後輩、いないんすか?」
「うん。部活動に入ってるわけでもないし、ずっとこいつに付き合わせれてるから……」
「? どしたの、ゆーくん?」
 やや恨みまがしい視線をこのみに向ける夕陽だが、このみはその視線の意味に気付いていないのか、首を傾げている。
「僕も来年は三年だし、高校に入ってからも部活動するつもりもないし、このまま後輩ってものに関わることは、なさそうだ——」
「そんなこと、ないんじゃないんすか?」
 夕陽の言葉は、ヒナタに遮られる。
 ヒナタは、シオと呼んでいた少女に視線を向け、告げるように言った。
「俺なんて、まだ一年だってのに後輩みたいな仲間がいるんだ。なら、あんたにだってできるさ。世の中、どう転ぶかなんて誰にも分からない。人生ってものは、案外簡単に、自分の予想から外れるんだ」
「……年下の君に、人生を説かれるなんてね」
 夕陽はくすくすと笑う。年下のはずの彼の姿は、自分よりもよっぽど大きく感じられた。
 だからか、意識せずに、口をつくように言葉が出て来る。

「まあ、じゃあ……君の言葉、信じてみようかな——」



 それから一年後、中学三年生になった春。
 あの時のオープンスクールの記憶も掠れ、薄らいでいく中、幼馴染である春永このみに引っ張られ、空城夕陽という少年は、一つ下の学年——つまりは二年生——が授業を受ける校舎へと来ていた。
「おい……おい、このみ! いい加減に手、離せよ! っていうかなんだよ、急に!」
「早く早く! 急がないと帰っちゃうかもしれないじゃん!」
「だからなにがだ!」
 夕陽が叫び、このみの手を振り払う。するとこのみは、その時だけ足を止めた。
「二年生にね、転校生が入ったんだって。えっと、なんかデュエマの学校……が、がい、がい、りゅ……なんだっけ? まー名前は忘れたけど、転校生が来たんだよ!」
「だからなんだ。それは二年生の話だろ、僕らはもう三年生だ。お前、中学で留年する気か?」
 高校に入ったら絶対に留年の危機に陥るだろう幼馴染の脳みそを心配する夕陽だったが、このみにとってその転校生は、転校生であること以上に重要な要素を含んだ転校生だった。
「その転校生の子がね、すっごいデュエマ強いんだって! これはもう、東鷲宮の双肩を成すあたしたちが、デュエマを挑まないわけにはいかないじゃん!」
「双肩とか、お前にしては難しい言葉を使うな。つーか、そんなものを成した覚えはないし、挑まないわけもあるだろ。転校生ってことは、まだクラスとかにも馴染んでいないんだろ? 僕らが出張って引っ掻き回すなよ、可哀そうだから。そもそもデュエマが強いって、ソースはなんだよ?」
「友達の後輩ちゃんがね、見たんだって」
 なにを、という前に、このみが次の言葉を紡ぐ。
「その転校生の子が、デュエマのカード持って来てるの」
「へぇ……まあ、ここは一般の学校だし、褒められたことじゃないけど、そこまでのことでもないだろ。僕らだって持って来てるし、他にも持って来てる奴はいくらでも——」
「でね、その子のカードを見て、対戦を挑んだ子がいたんだけど、その転校生、次の日にはデュエマを挑んできたクラスメイト全員を倒しちゃったんだって!」
 そのエピソードに、夕陽の目も丸くなる。
「クラスメイト全員……それは、確かに凄いな」
「でしょでしょ? しかも他のクラスでこの話を聞きつけて挑んだ子も、次々と負かしてるらしいよ。これはもう、上級生のあたしたちが行かないわけにはいかなでしょ! 一番乗り!」
「いやその理屈はおかしい……って、待てよ! このみ!」
 夕陽の制止も聞かず、このみは一人で突っ走ってしまう。そして彼女は転校生が在籍していると思しき教室へと辿り着き、その扉を勢いよく開け放つ。
「お、おい、やばいって……!」
 帰りのホームルームが終わったところなのか、帰り支度をしている生徒が目につく。だがそんな下級生たちの視線は、このみと夕陽に注がれた。
(というかこいつ、その転校生が誰なのか知ってるのか……?)
 そんな懸念事を気にする夕陽だが、このみの情報網は甘くない。一直線に一人の女子生徒の下へと進んでいく。中学生にしては小柄で、突然教室に奇妙な二人組が現れたにも関わらず表情一つ変えない少女だ。どこかで見たことがあるような気もするが、思い出せない。
「君だね! 転校生!」
「え……えっと、はい、そうですが……」
 その女子生徒は、無表情ではあるが、明らかに戸惑っていた。当然だ。
 だがこのみは、そんな彼女の戸惑いなど意にも介さない。
「あたしは三年の春永このみ! 君の名前は!?」
「月夜野シオ——」
 あまりの勢いに押され、女子生徒は口早に名乗るが、すぐに訂正した。
「いえ……御舟」
 そして、

「御舟汐、です」

 彼女は、御舟汐と名乗った。
 そしてこれが、夕陽の初めての後輩ができた瞬間だった——