二次創作小説(紙ほか)
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.487 )
- 日時: 2014/03/04 20:51
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
「う……」
「あ、ゆーくん。目、覚めた?」
「このみ……? ここは……」
「『popple』だよ……ルカさんたちが、ここに運んでくれたの」
「光ヶ丘……ルカ……?」
体を起こす夕陽。全身がズキズキと痛み、顔をしかめながら周りを見渡す。
すると、すぐに視界に飛び込んできた三人組。一人の大柄な男と、二人の小柄な少女。
「よぅ、起きたか」
「いや、起きちゃダメ、ですよぅ……まだ安静に、してないと……」
「ちょっと心配しすぎじゃない? この人だって、伊達に今まで“ゲーム”の世界で戦ってきたわけじゃないんだし」
「ルカ……ネロ……え? なんで、お前がここに……?」
一応は正装していたパーティーの時とは違い、今はファーの付いたコートを着ていたりと、わりとラフなスタイルだ。その横のささみとうさみも、それぞれ色違いのダッフルコートに身を包んでいる。
まだ状況が認識できていない夕陽は、とりあえず真っ先に浮かんできた疑問をルカにぶつけた。
「春永このみに会いに来たんだ。暇だったから、この前の千番勝負の続きをしようと思ってな。まだ三百七十九番しか戦ってねえし」
「そんだけ戦えば十分じゃない……っていうか、別に暇じゃないし。暇なのは仕事しない界長だけでしょ」
「さ、ささちゃん、それより、今は……」
ささみの小言をうさみが止める。そして、それで思い出したというように、ルカが手を打った。
「そうだ、お前に聞きたいことがあったんだ。なんであんな道端で寝てたんだ?」
「寝てたんじゃなくて倒れてたの! どう見ても誰かにやられてるじゃない! この傷!」
ビシッと、夕陽を指差すささみ。夕陽はそれで初めて気づいたように、自分の身体を見遣る。
「傷……」
服もズタズタで、刺し傷や裂傷のようなものが多かった。大きな傷だけは止血され、包帯が巻かれている。小さな傷も、血は止まっていた。
「そうだよ、空城くん、酷い傷……」
「ねぇ、ゆーくんはどこで倒れてたの?」
「あたしたちもこの町にはほとんど来たことないから彷徨い歩いてたんだけど……」
「裏路地、みたいなところの手前、でした……人通りの、少ない場所で……」
「え……それって……」
その場所に心当たりのあるこのみ。姫乃もピンときた。
だが、この傷をつけた主をはっきりと認識しているのは、他ならぬ夕陽であり、夕陽がその名を告げる。
「……御舟」
御舟汐、自分たちの一つ下の後輩。
「そうだ……僕は、御舟に負けたんだ……」
と同時に、なにかを思い出したように体を動かそうとする夕陽。だが、急激な筋肉の運動に彼の身体は悲鳴を上げ、夕陽は結局動けなかった。
「あ、だから安静に、してないとって……傷は塞ぎましたけど、身体のダメージは、残ってるんですから……」
うさみに抑えられ、身を退く夕陽。だが
「アポロン……そうだ、アポロンが……」
夕陽の持つ『神話カード』、《太陽神話 サンライズ・アポロン》が、御舟に奪われた。
そう、矢継ぎ早に説明する夕陽だったが、
「やっぱり、そうなんだ……」
「え? そうって……?」
「さっきね、プロセルピナとヴィーナスが、ゆーくんのデッキに潜ってクリーチャーから話を聞いたんだって」
「デッキに、潜る……?」
ちょっとよく分からない説明だったが、とりあえず飲み込む。
「それで、ゆーくん《アポロン》のカード持ってないし、クリーチャーたちもアポロンがいなくなった、奪われたって、言ってたみたいだから、誰かにやられちゃったんだって思ったけど……」
「御舟さん、だったんだね……」
今、プロセルピナとヴィーナスは、アポロンの所在を探しに行っているらしい。
「……御舟だけじゃない。御舟は、『神話カード』を手に入れたんだ」
「え? なにそれ?」
「どういうこと? 空城くん」
「俺も気になるな。詳しく聞かせろ」
そんな促しを受け、夕陽は語り出した。
汐のこと。彼女が『神話カード』、アルテミスと共に行動していること。そして夕陽に神話空間での戦いを挑み、《アポロン》を手にしたこと。
すべてを、明白にする。
「……汐ちゃん、そんなに怒ってたんだ……」
「それに御舟さんが『神話カード』を……アルテミス、だっけ」
「ああ、そう言ってた。なんか、随分と毒舌だったけど——」
「アルテミス!?」
「ですの!?」
その時、窓から二つの影が店内に飛び込んでくる。
「うおっ!? プロセルピナ、ヴィーナス……戻ったのか」
「そんなことよりゆーひー! いま、アルテミスって言った?」
「う、うん、そうだけど……」
「アルテミス様、この町に来ていらしたんですの……ということは、先ほどまで感じていたあの気配は、アルテミス様のもの……」
なにやらよく分からないが、プロセルピナやヴィーナスはアルテミスについてなにか知っているようだ。有益な情報になるかと思い、聞いてみたが、
「ゆーひー、アルテミスはね、アポロンの妹なんだよ」
「うん、それは知ってる」
本人が言っていたことだ。
「妹と言っても、双子の妹ですの。ただアルテミス様はアポロン様をとても尊敬しているんですの」
「ああ、まあ、そんな感じだったな」
まず呼称がお兄様なのだ。尊敬の念はすぐに見て取れる。逆に、アポロンに対する敬意が強すぎるゆえに、夕陽に対して辛辣だったのかもしれない。
「で……それだけ?」
「え? うーんとねー……うん、それだけ」
「ですの……わたくしたちが覚えている範囲では、それだけですの」
「…………」
有益な情報は特になかった、ほとんど既知の情報だった。
「……ま、まあ、そのアルテミス? についてはともかくとして、御舟さんのことを、考えないとね……」
「そうだね……ゆーくん、汐ちゃんはどうだったの? って、聞くまでもないよね……」
「あぁ……」
汐から見た夕陽の信頼と信用は、ほぼ完全に喪失している。
これを元に戻すには、とにかく汐が求める答えを夕陽が出さなければならないのだが、
「いまだに御舟がなにを言ってるのかよく分からないんだよな……僕に襲われたって言うけど、あの夜、僕はまっすぐ家に帰ったよ」
「だよね。あたし、途中まで送ってもらったし」
難癖つけるとしたら、その後で襲撃したということなのだろう。汐は時間まで明確に記憶していたわけではないので、完全に夕陽のアリバイが証明されるわけではない。
だが、それは些か現実味に欠ける。不可能とは言わないまでも、このみを送り届けてから、汐の帰り道を辿るのは、徒歩では流石に時間がかかる。汐は一足先に帰ったので、なおさら厳しいだろう。
「ってことは、やっぱり空城くんじゃないんだよね……」
「うん、断じて僕じゃない」
「だが、御舟汐はお前だって言ってるんだろ?」
「だよねー……ゆーくんのそっくりさんとかかな? ドッペルゲンガー?」
ふざけた物言いだが、それすらも現実味を帯びてしまうほどに今の状況は謎だらけだ。暗闇で相手の顔がはっきり確認できなかった可能性もあるが、その後で汐はその相手と神話空間でデュエルしている。それで見間違えたということはないだろう。
「ここで話してても、埒が明かないな」
「でも、汐ちゃんのところに行っても……」
「さっきの二の舞になるだけじゃない? 界長とのデュエル、あたしは傍から見てただけだけど、あの子が一番センスを感じたわ」
「それに、その体じゃ、もう一度デュエルするのは、無理、です……しばらく休まないと」
ささみとうさみの言うことはもっともだ。もう一度話をしたいと彼女に会いに行った結果がこれなのだ。なにも考えずに話したところで、また《ブリティッシュ》や《UK パンク》の槍に串刺しにされるだけである。
だが、
「それでも、実際に会って話をしないとなにも解決はしない。それにあの時、御舟と戦って少しだけ分かったんだ」
「なにを……?」
恐る恐る尋ねる姫乃。逆に夕陽は、なにかを悟ったような、そして決意したような声で続ける。
「今の御舟は、どこか歪んでる。いや、軋んでる……違うな、悲鳴を上げている、みたいな、そんな風に感じるんだ」
夕陽の感覚的なものなので上手く説明はできないが、それでも今の汐は、苦しんでいるように感じた。
「それでもまだ、御舟がなにをどう思っているのかとかはよく分からない。でも、もっと御舟と戦うことで分かる気がする。それに僕は、それを知らないとけないような気もするんだ」
謎多き後輩、御舟汐。
ミステリアスなところが彼女の魅力でもあったのだが、しかしいつまでもミステリアスでいるわけにはいかない。
これから先も、彼女とは親しい仲でいるはずだ、いや、そういう仲でいたい。
親しい仲なのに、相手のことを知らないのであれば話にならない。
「それに、僕は御舟の先輩だからね。先輩として、やっぱり後輩はリードしたいよ」
いつもはリードされがちだからね、と夕陽は笑った。この日、初めての笑みだった。
それに影響されたのか、このみと姫乃の表情も綻ぶ。
「……あはっ。なんか、やっとゆーくんらしくなったね」
「うん……わたしたちも協力するよっ」
沈んでいた二人の表情が、少しだけ明るくなる。晴れやかとはいかないが、その明るさには、活力を感じた。
さらに二人は夕陽に協力的な姿勢を見せる。それもありがたい。ありがたいが、
「そうか。だけどごめん、今回は僕一人でやらせて欲しい」
その申し出は、やんわりと、しかし即座に断られる。
「今回の不和は、僕と御舟の間だけで起こってることだ。残念だけど、二人が介入してもなにも変わらないと思う」
「あぅ……そっかぁ、そうだよね。これは、ゆーくんと汐ちゃんの問題だもんね……」
「結局、わたしたちが手を出す余地はないんだね……」
しゅん、と項垂れる姫乃。このみも残念そうな表情を見せている。沈んだ表情から明るくなったと思ったら、また沈んだ。
ああ言えばこうなるだろうと、流石の夕陽も予測できていた。なので、二人にしか頼めないことを、頼むことにした。
「いやまあ、そうなんだけど。代わりに、御舟との関係が修復したらさ」
確かにこのみと姫乃は、夕陽と汐の関係を立て直す上では手を出す意味がない。だが、その後のことを考えれば、彼女たちも必要だ。
「御舟のこと、可愛がってやってよ。僕がやるよりも、君ら二人の方がいいだろうし」
二人に気を遣ったというのもあるが、あながち間違ったことでもない。夕陽とこのみの関係ならともかく、やはり男女間の壁というものは確実に存在するのだ。
だからその壁のないこのみや姫乃も、関係が修復したばかりで不安定であろう汐のメンタルを癒すためには必要不可欠。
こんなことでもいいのかどうか、夕陽としてはやや不安であったが、
「……別にゆーくんでもいいとは思うけど、了解だよっ! 女の子を可愛がるのは得意なんだからっ」
「御舟さんとは今まであんまり接点がなかったけど……いい機会だし、ここで仲良くなるも、いいかな……」
二人も乗り気のようだった。
これで方針は固まった。いや、最初から変わりないが、意識の問題で、大きく前進したように思える。
「じゃあ、明日早速、もう一度御舟の家に——」
「ちょっと待てよ」
夕陽の言葉を遮って、ルカの言葉が飛ぶ。
「なかなかいい友情を見せてもらったのはいいんだが、そもそもお前、またあいつと戦う気になってるじゃねえかよ」
「……その通りだ。たぶん、話だけじゃ御舟との関係は戻ってこない。僕の身体がボロボロでも、僕は戦うよ」
「そいつは結構だ。だがな——」
結構じゃないですよぅ、とうさみの苦言が聞こえたが、ルカはそれを無視。
そして、最も重要で、しかし単純で、根源的な、最大の問題を——突きつける。
「——お前、御舟汐に勝てるのか?」