二次創作小説(紙ほか)

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.489 )
日時: 2014/03/05 20:46
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

「お前、御舟汐に勝てるのか?」
 ルカのストレートな発言。しかしそれは、汐との関係を修復するにあたって、最も大事なことでもあった。
 力で屈服させるということではないが、しかし勝たなければどうしようもない。汐が夕陽の信頼を喪失しているのには、夕陽が汐に負けた、即ち夕陽が弱いから、だということもある。
 いや、事実夕陽は汐より弱い。純粋なセンスで言えば汐の方が圧倒的なのだが、『神話カード』がある場合はその差もかなり埋まる。
 しかしその埋まるはずの差を、汐に覆されてしまった。デュエルの結果自体は僅差だったとはいえ、負けたことには変わりない。
「このまま負け続けて、御舟汐がお前を認めるとは思えない。それにお前だって、何度もダイレクトアタックを受けてたら、そのうち死ぬぞ。俺みたいにとどめを刺され慣れてるならともかくな」
 最後の一文になにかおかしな引っ掛かりを感じたものの、今は置いておくとして。
 それはその通りだ。少なくとも、敗北を重ねる夕陽を、汐が許すとは到底思えなかった。
「でも、やるしかないだろ。それに何度も戦ってれば、向こうの弱点だって見えてくる。それを踏まえてデッキを作れば——」
「それ以前の問題だ」
 また夕陽の言葉を遮るルカ。
「俺もラトリからちっとしか聞いてないが、お前と御舟汐は、それなりの付き合いなんだろ?」
「ん、まあ……」
 と言っても、まだ二年足らずだが。
 しかしその二年足らずの時間なら、汐が夕陽のことを知るには十分な時間だ。
「俺の見立てでは、あいつはお前らの中で一番洞察力と理解力に優れている。恐らく、二年もあればお前の弱点なんて全部お見通しだ。それはプレイングだけじゃなく、デッキの組み方そのものにまで及んでいるはず」
 だが逆に、夕陽は汐のことを知らない。特に、アウトレイジを使用する彼女は、今年初めて知ったもの。さらにそこに、オラクルによる変化をつけたのだから、対応できるはずもない。
「……だったらどうするって言うんだ。まさかこのみや光ヶ丘のデッキを借りるわけにもいかないし、そもそも二人のデッキを僕が使いこなせるとも思えない」
 二人は二人専用の構築で、二人にとって最も使いやすいベストな形に仕上げている。デッキのクオリティ自体は悪くないだろうが、それを夕陽が使ったところで、その力を十分に発揮することはできないだろう。
「大丈夫だ、俺に考えがある」
「なんだよ、考えって」
 しかし自分から言い出すだけあって、ルカはちゃんと考えていたらしい。とはいえこんな性格なので、あまり期待はしていない。
 そしてルカが提案する、考えとは、

「俺が作る」

「……は?」
 なにを言ってるんだこいつは、と言いたくなるが、言葉が出ない。そしてルカはなにを思ったのか、再び口を開き、
「だから、俺がお前のデッキを作ってやるんだ。それ以外の解釈があるか?」
「……えーっと……」
 今それ以外の解釈を探しているのだが、しかしいくら探せど考えど、答えは見つからなかった。
「安心しろ、俺はこう見えても人を見る目はある。それにお前とは二度も戦ってるからな、お前がどういう文明、どういう種族、どういう戦法を得意としているかは理解したつもりだ。あとはそれを、御舟汐の思いもよらない形に仕上げるだけだ」
「いや、簡単に言うけど、そんなことできるのか?」
 夕陽の得意な文明と種族と言えば、火文明のファイアー・バードやドラゴンだが、夕陽もデュエマ歴は長い、その手のデッキは作り尽くしたと言っても過言ではない。火文明のドラゴンが絡めば即興でデッキを作り、それなりの結果を残すことができるほどだ。
 それくらいファイアー・バードとドラゴンに精通した夕陽に使わせるデッキで、汐の穴を突くなんて可能なんだろうか。
「大丈夫だ、任せとけ。デッキメイキングにも自信はある。それに、目には目を、歯には歯を、って言うだろ」
「なんのことかよく分かんないけど、それ、悪名高きハンムラビ法典の罰則だからな」
「そして無法には無法だ。後はお前好みの……ドラゴンか? を突っ込めば完成する。ほら、簡単だろ」
 夕陽の話などまったく聞いていないルカ。スイッチが入ってしまったのだろうか。
 とはいえ、彼のデッキの完成度は確かに高い。少なくとも、ルカ=ネロという男が使うにあたっては、この上ないほど適切なデッキと言える。それは夕陽も、そしてこの場にいるこのみも姫乃も分かっている。
 だから、半ばなし崩し的とはいえ、デッキはルカに任せることとなった。
「それはそれとしていいんだけど……なんで、僕たちにそこまでしてくれるんだ?」
「あん?」
「僕らは、一昨日のパーティーで会ったばかりだろ。お前にとっては対戦相手としていいのかもしれないけど、こんな風に手を貸してくれるなんて……」
 敵対しているわけではないが、友好条約を結んでいるわけでもない。赤の他人と言うと流石に冷たすぎるが、協力関係にはないはずだ。
「……俺はな、ラトリとはまた違う方向でだが、お前たちには注目してるんだ」
 それは、夕陽たちが実力者だから。自分が楽しむ相手として、注目している。それは間違いない。
「俺は、とにかく相手が強ければいい。が、同時に強くなっていく相手でもいて欲しい。【神格社界】も、今じゃ色んな奴らがいるが、元々はそういう組織だ。そしてお前らも、同じだろう」
 一人ではなく、複数でいることで、個々が強くなる。
「大勢で競い合い、切磋琢磨し合うのはいいことだ。俺があの組織でランキングなんてしてるのも、それを促すためだしな。だが、中にはそうでない奴もいるだろう。一人で、独学で、自力で強くなっていく奴もいるはずだ。それはそれでいいと思う。強くなれるのならな」
 だが、とルカは続け、
「お前たちはそうじゃない気がする。確かに、今の御舟汐はこの前俺が戦った時よりも強くなってるかもしれないが、その強さの天井はどこだ? 後どのくらい強くなる——どこで、その強さは止まる?」
 ある意味真理とも言える、強さの上限。強さというものを追い求める者が目指す場所。
 正に、最強。
 強さの頂があるのだとすれば、人は誰しもそこに辿り着けるのか。この答えを否とするのなら、人は必ず、どこかでその強さが止まる。
「お前たちにはどんどん強くなって欲しい。そのためには、強さが止まるなんてことはあってはならない。そしてお前たちは、一緒にいることでその強さが伸びていくと、俺は思っている。【神格社界】とはちっと違うが、それでも通じるところがあるからな、なんとなく分かるんだ……だからお前らが喧嘩してると、俺も不安不安で仕方ねえんだ。グループ一つで五人相手にできるのが、一人減って四人になったらつまんないしよ」
 最後の言葉でやや台無しになった感があるが、しかし、終始彼の言葉は本音そのものだった。
 その本音を、無下にすることができるほど、夕陽も嫌味な人間ではない。
「ま、そういうわけだ。俺も好きでやってるわけで、俺の利得を考えてやってることだから、お前もあんまり気にすんな。むしろ、手を貸してやるんだから頑張れよ」
「……ああ。ありがとう」
「例には及ばないさ」
 こうして、夕陽の目的は決まり、ルカによる協力も得られた。

 翌日、夕陽は汐の内包する闇を、知ることになる。



 《アポロン》を手に入れ、ひとまず帰宅した汐。これからどうしようかと考える一方で、このままどうにもならないのではないかと思っていた。
 あの様子では、自分の先輩に自白させるのはほぼ不可能。彼は汐のことなど見ておらず、《アポロン》が奪われることにしか反応していなかった。アルテミスとの同盟があると同時に、ある種の人質のようにして活用する予定だった《アポロン》も、これでは役に立たない。
 これからどうしようかと、闇の中を探るように家の扉を開くと、男の声が聞こえる。
「——……以上……すな……とはいえ、あいつは……だ……」
 この家の中で男の声と言ったら一つしかない。汐はその音源へと向かうと、そこにいたのは自分の兄——御舟澪が、受話器を握っている姿があった。
「……汐、帰ったのか」
 ちょうど受話器を下したところで、澪は汐の帰宅に気づいたらしい。
「どうしたのですか、兄さん。なにやら不機嫌そうな声でしたが、今の電話はどちら様ですか」
 いつもポーカーフェイスで声のトーンも一定を保っている澪だが、妹である汐には、その声に苛立ちやら怒気やらが含まれていることは察することができた。
 澪はそのポーカーフェイスのまま、心中では苦虫を噛み殺したような表情を浮かべ、口を開く。

「……母さんだ」