二次創作小説(紙ほか)

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.497 )
日時: 2014/03/08 06:16
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

 夕陽と汐のデュエルは、遂に汐の支配が始まってしまった。
 両方ともシールドは四枚。しかし夕陽の場にはなにもいない。
 しかし汐の場には《特攻人形ジェニー》《一撃奪取 ブラッドレイン》《血塗られた信徒 チリ》二体《魔犬人形イヌタン》三体《闇噛のファミリア ミョウガ》《冥界王 ブルースDEAD》《地獄魔槍 ブリティッシュ》——そして《神聖牙 UK パンク》の、総勢十三体のクリーチャー。
 夕陽はクリーチャーを全滅させられた状態で、ターンを終えるしかなかった。そして汐のターン、夕陽の死刑執行が始まる。
「くそっ……!」
 夕陽は呻く。場にクリーチャーはおらず、手札もない。対する汐の場には十三体ものクリーチャーが並んでいる。S・トリガーで一体や二体除去したところで、状況に大きな変化はない。
 こんな状況では、逆転の可能性に縋ることでさえ、無意味に感じてしまう。しまう、が、
(まだだ、まだ負けない。まだ負けるわけには、行かないんだ……!)
 拳を握り締める夕陽。今自分にできることはないが、逆転の可能性を信じることだけはできる。夕陽はまだ、勝利への可能性を捨てていない。
 そして、汐を引き戻すことも、諦めていない。
「……これで、終わりです」
 そんな夕陽とは対照的に、否定的で拒絶的な汐。彼女の従える闇と零の軍勢が、無力な夕陽に襲い掛かる。
「ここで《トンギヌスの槍》があればよかったのですが……まあ、なくともこの数相手では、どうしようもないでしょう。先輩、覚悟してください」
 《トンギヌスの槍》ではないが、夕陽を滅するには十分すぎるほど鋭利で巨大で、そして禍々しい極刑の神鎗を、《UK パンク》は構える。
「——《UK パンク》でTブレイク」
 《UK パンク》はその槍を突き出し、夕陽のシールドを突き破る。だが、割られたシールド一枚目が、光を放ちながら収束した。
「っ、S・トリガー発動! 《伝説の秘法 超動》!」
 一枚目からS・トリガーとは運がいいが、それは3000以下のクリーチャーを一体しか破壊できない《伝説の秘法 超動》だ。
(この数相手じゃ、一体二体破壊したくらいじゃどうしようもない……仮にこのターンを生き延びたとして、反撃の手もないわけだし、ここはあのカードが出ることに賭けるしかないか)
 そう結論付け、夕陽は選択肢の中から発動する能力を決定する。
「二枚ドローだ」
「手札補充ですか……しかし、火力を選ぼうとドローを選ぼうと、このターンで先輩は終わりです。無意味ですよ。二枚目をブレイク」
 続けて二枚目のシールドが割られるが、これも光を発して収束した。
「これもS・トリガーだ。《ドンドン吸い込むナウ》!」
 次に瞬間、夕陽の山札の上から五枚が浮かび上がり、夕陽の目の前に展開される。夕陽はその中から一枚を抜き取った。
「《ヒラメキ・プログラム》を手札に加えて、残りは山札の下に。加えたのは水のカードだから、バウンスは発動しないよ」
「結局はただの手札補充ですか……三枚目をブレイク」
 今の夕陽に必要なことは、このターンを生き残り、次のターンに逆転するためのキーカードを揃えること。生き残るためのカードは一枚しかないが、逆に言えばそのカードに頼れば絶対に生還できる。なのでここは、無理にバウンスを狙わず、確実にキーとなるカードを引き込むべきだ。
 とはいえ、それも生き残る、つまりはそのカードが出なければ意味がない。夕陽の三枚目のシールドが、《UK パンク》の最後のシールドブレイクとして、粉砕された。
 そしてそのシールドも、光ながら収束する。
「S・トリガー発動《伝説の秘法 超動》! 二枚ドローだ!」
 三枚目のS・トリガーも、《伝説の秘法 超動》だった。
「三枚中三枚がS・トリガーとは、先輩にしては運がいいですね……ですが、その三枚ともただの手札補充とは、論外です」
「どうかな。案外、この最後のシールドが逆転に繋がるかもしれないよ。デュエマは最後までなにが起こるか分からないもの。基本中の基本だろ?」
 得意気に言う夕陽。その言葉は確かに正しい。それがデュエル・マスターズの面白いところなのだから、その通りだ。
 しかし現実では、そのなにが起こるか分からない状況そのものを封じるプレイングだってある。完全な詰みだって、ありえるのだ。いや、むしろその状況の方が多いだろう。
 夕陽はその両側面を知っている。それでも彼が信じるのは、前者だった。
「……だったら、逆転してみてください。先輩にそれができるのであれば」
 汐はこの状況で夕陽が逆転できるとは思っていない。だから、このターンでとどめを刺すつもりでいた。
 その選択は、それはそれで正しいだろう。だから仮に、これで汐が負けるようなことがあれば、それは彼女の失態ではない。
 ただ単純に、純然たる、力の差だ。
「《ブルースDEAD》で、最後のシールドをブレイクです」
 汐の命令で、《ブルースDEDO》は巨大な鎌を構える。大きく振りかざされたその大鎌は、たった一枚しかない夕陽のシールドを、容赦なく切り裂いた——
 これで夕陽にS・トリガーが出なければ、汐の勝ち。仮に出たとしても、場合によっては夕陽が勝つ見込みはなくなる。
(……前にも、こんなことあった気がするな。彼はなんて名前だったか……)
 夕陽は粉々になったシールドの破片を眺めながら、ふと昔のことを回想する。今この状況とは果てしなく無関係だが、無法の力、という意味では共通している過去。
 絶対的なはずの龍の力で決着をつけようとしたはずが、たった一枚のカードで凌がれ、連鎖するようにカードの力を繋ぎ合わせ、逆転されたのだ。
(中学二年生くらいの時だったっけ、どっかのデュエリスト養成学校のオープンスクールに行って……あそこで初めて、無法の力ってものを知ったっけな……)
 あの時は自分の敗北だった。しかし今は、負けるわけにはいかない。
(名前忘れてごめんね……というか、そもそも名前を聞いてなかった気がするな……まあいいや。なんにせよ、ちょっとだけ、君の力を借りるよ)
 本来ならルカの組んだデッキなので、力を借りる相手はルカなのだが、今この状況に関してだけ言えば、昔出会ったあの少年が想起される。
 もうすぐ、このデュエルの時間、夕陽の生きる時間が失われる。
 だが、しかし、
「……残念だったね。君の時間は終わりだ」
 その前に、汐の時間が終了する。

「——S・トリガー発動! 《終末の時計 ザ・クロック》!」

「《クロック》……っ」
 時間が加速する。夕陽が失うはずだった時間は、失う前に飛ばされた。
 闇が支配する月夜の時間が終わり——太陽の昇る時間が、やって来る。
「S・トリガーで《クロック》が出たから、君のターンは終わり、僕のターンだ」
「……ですが、どの道《クロック》一体では、私を倒すことは不可能です。私の場にはブロッカーだっているのですから」
 それは汐の言う通りだ。だが《クロック》が出れば問答無用で汐のターンを飛ばせる。つまり、1ターンだけ夕陽の時間ができる。
 その時間のために、夕陽はカードを引いていたのだ。
「……《双拳銃 ドラポン》を召喚!」
「《ドラポン》……」
 夕陽が最初に呼び出したのは、エグザイルではあるが、《ドン・カツドン》や《カツキングMAX》ではなく、コスト4の《ドラポン》。
 汐はそのクリーチャーを見て、なにか思い出すように呆けていたが、夕陽はそんな彼女を待ったりはしない。
「続けて呪文《ヒラメキ・プログラム》! 《ドラポン》を破壊!」
 破壊された《ドラポン》のコストは4、つまりコスト5のクリーチャーが出る。そしてこのデッキのコスト5のクリーチャーと言えば、
「《ドン・カツドン》をバトルゾーンに! マナを追加して、《ドラポン》のドロン・ゴー発動だ!」
「ドロン・ゴー……」
 《ドラポン》だってエグザイル・クリーチャーだ。破壊されれば、その魂が転生し、新たな姿へと変貌する。
 そして夕陽は、レイジクリスタルのもたらした知識から得た、唯一なる無法の力を解き放つ。

「受け継ぎし交差する魂、新たな力の勝利を呼べ——《弐超拳銃 ドラゴ・リボルバー》!」

 《ドラポン》が転生し、《ドラゴ・リボルバー》へとドロン・ゴーする。龍の如き姿、両手に構えた二丁の拳銃。しかしその力は、二つの武器の威力というものを遥かに凌駕する。数の縛りにも囚われない無法者。
 それが、《ドラゴ・リボルバー》だ。
「さらにもう一発《ヒラメキ・プログラム》だ!」
 《ドラゴ・リボルバー》は出たが、夕陽のターンはまだ終わっていない。今度は《ドン・カツドン》を破壊し、再びクリーチャーを閃く。
「《シンカイ・サーチャー》をバトルゾーンに! 山札からカードを一枚手札に加え、《ドン・カツドン》もドロン・ゴー! 《無敵剣 カツキングMAX》! 能力で《チリ》を破壊!」
 《ドン・カツドン》は山札から手に入れた《カツキングMAX》へとドロン・ゴー。ここまでは通常の流れだ。
 だが、問題はここからである。
「流れるようなドロン・ゴーですが……《ドラゴ・リボルバー》も《カツキングMAX》もスピードアタッカーではないです。このターンでは私は倒せないですよ」
 汐の言う通りだ。いくらドロン・ゴーでクリーチャーを呼び出そうとも、このターンで攻撃できなければ意味はない。
 もっと言えば、このターンで汐のブロッカーを除去し、攻撃しなければならない。マナが大量にあるとはいえ、手札も切れかかっている夕陽では、そこまですることは不可能。
 そう考える汐だが、
「そう思うなら、黙って見てたら。《ボルバルザーク・エクス》召喚! マナをすべてアンタップ!」
「……っ」
 夕陽の大量のマナが起き上がる。
 まだ、夕陽の時間は終わっていなかった。
「《カツキングMAX》の能力でマナゾーンから《二角の超人》を召喚! 2マナ追加して、マナゾーンからクリーチャーを二体回収! さらに今さっき回収した《永遠のリュウセイ・カイザー》を召喚!」
 これで夕陽のクリーチャーはすべてスピードアタッカー。ダイレクトアタックまで持ち込めるだけの戦力を揃えられたが、S・トリガー次第では止められてしまう。
 だが、夕陽は止まらなかった。
「これで最後だ! 《ヒラメキ・プログラム》! 《カツキングMAX》を破壊!」
「っ、《ヒラメキ・プログラム》三連打……っ」
 三度目の《ヒラメキ・プログラム》にたじろぐ汐。しかも破壊したのは《カツキングMAX》だ。
 この場合、破壊するクリーチャーのコストより、破壊したのが《カツキングMAX》であることの方が重要だ。夕陽は破壊する前に《カツキングMAX》で《二角の超人》を召喚している。回収したクリーチャー二体のうち一体は、既に召喚している《永遠のリュウセイ・カイザー》。そして、もう一体は、
「《カツキングMAX》はコスト8、山札からコスト9の《ボルシャック・クロス・NEX》をバトルゾーンに! さらに《カツキングMAX》が破壊されたので——ドロン・ゴー!」
 ドロン・ゴーに三段階目が存在するのは、なにも《神聖牙 UK パンク》だけではない。《ドン・カツドン》《カツキングMAX》にも、まだ先は存在するのだ。
「三段階目……《カツキングMAX》の、ドロン・ゴー……」
 《カツキングMAX》は爆炎に包まれた。レイジクリスタルの力を解放し、さらなる無法者へと昇華し、そして、顕現する——

「無敵と超法、そして勝利の剣に宿せし無法者よ、伝説となれ——《無法伝説 カツマスター》!」