二次創作小説(紙ほか)

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.498 )
日時: 2014/03/08 06:41
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

無(アウト)法(レイジ)伝説(ビクトリー) カツマスター ≡V≡ 火文明 (12)
エグザイル・クリーチャー:アウトレイジMAX 15000
スピードアタッカー
このクリーチャーが攻撃する時、自分の山札の上から3枚を墓地に置いてもよい。そうした場合、相手のクリーチャーを、コストの合計がその3枚のコストの合計以下になるように好きな枚数選び、破壊する。
T・ブレイカー
ドロン・ゴー:このクリーチャーが破壊された時、名前に《無》または《法》とあるエグザイル・クリーチャーを1体、自分の手札からバトルゾーンに出してもよい。
自分の他の、名前に《無法》とあるエグザイル・クリーチャーをバトルゾーンに出すことはできない。


「《カツマスター》……」
 一歩だけ、後ろへと下がる汐。その伝説となりし無法の力には、指物彼女も圧倒されているようだった。
 《ドン・カツドン》《カツキングMAX》と姿を変えていくエグザイル《カツドン》。その最終段階の一つ、それが《無法伝説 カツマスター》だ。
 レイジクリスタルの力を最大まで解放した《カツマスター》は、大剣を振るい、咆哮する。
「さあ、行くよ。《カツマスター》で攻撃、そして能力発動!」
 《カツマスター》は攻撃時、山札の上から三枚を墓地へ送り、その三枚のカードのコスト合計以下になるよう相手クリーチャーを破壊する。
 墓地へと落ちたのは《蒼狼の始祖アマテラス》《悠久を統べる者 フォーエバー・プリンセス》《戦武帝 ジャッキーBEAT》の三枚。マナコストはそれぞれ6、8、20。つまり、合計は34。
「《血塗られた信徒 チリ》《魔犬人形イヌタン》《冥界王 ブルースDEAD》《地獄魔槍ブリティッシュ》そして——《神聖牙 UK パンク》を破壊だ!」
 《カツマスター》の咆哮で、汐のバトルゾーンのクリーチャーがまとめて消し飛んだ。それでもまだ半数近く残っているが、少なくともブロッカーは根絶された。
 そして直後、《カツマスター》の振りかざす大剣が、振り下ろされる。
「Tブレイク!」
「う……っ」
 汐のシールドが三枚消し飛んだ。一枚目はS・トリガーがなかったが、二枚目のシールドは光の束となって収束した。
「S・トリガー発動です……《インフェルノ・サイン》で《チリ》をバトルゾーンへ……」
 しかし、これだけでは逆転に繋がるはずもない。
 そして、汐の最後のシールドがブレイクされる。
(ここで、あのカードが来れば、まだ……)
 汐にも逆転の一手は残されていた。S・トリガーで出ることのみを想定して、一枚だけ入れたあのカード。それが出れば、まだこの盤面をひっくり返すことも不可能ではない。
 ない。が、汐が引いたカードがもたらす結果は、皮肉にも彼女の慢心が生んだものだった。
「っ、《アポロン》……」
「へへ……まさか、こんな形で夕陽を助けられるとはな……」
 少しだけとはいえ、初めて実体を見せたアポロンは、力なく笑った。
 汐の三枚目のシールドは《アポロン》。彼女がハンデと言って入れたカードだった。
 そのハンデが、彼女を敗北へと導く。
「《ドラゴ・リボルバー》で最後のシールドをブレイク! 攻撃時、パワー6000以下の《チリ》を破壊だ!」
 最後に残った《エルムストリート》のシールドが、《チリ》と共に《ドラゴ・リボルバー》の弾丸に撃ち抜かれた。
「っ、《ドラゴ・リボルバー》……」
 二体の無法者が汐のシールドをすべて粉砕する。そして、汐に最後の一撃を放つのは——未来への絆を誓う、炎の龍だった。
「先輩——」
 彼女はとどめを刺される直前に、呟く。それは、自分の記憶の中で虚像として映る彼なのか、それとも目の前の実像として映る彼なのか、はっきりしない。
 しないが、どちらでもいいように思えた。
 どちらも、自分の尊敬すべき先輩であることに、変わりはないのだから。

「《ボルシャック・クロス・NEX》で、ダイレクトアタック——!」



 神話空間が閉じ、夕陽と汐の二人は、グランドに戻ってくる。
 最後の攻撃の影響か、足元がややおぼつかない汐。そんな彼女の手元から、一枚のカードが零れ落ち、夕陽の下へと滑るようにやって来る。
「夕陽!」
「アポロン! よかった、大丈夫だったか?」
「ああ! まだ槍で刺された痛みとか、アルテミスのよくわかんねえ呪文とかの頭痛が残ってるけど、オイラは大丈夫だ!」
 あまり大丈夫そうな内容ではなかったが、本人が大丈夫というになら大丈夫なのだろう。
 アポロンが戻ってきて、とりあえず一つ、問題は解決した。
 残る問題は、一つだ。
「先輩……私……」
「御舟……」
 どこか虚ろで、悲しげで、寂しげな汐の瞳。彼女はふらふらとした足取りで、一歩、夕陽へと近づく。
「先輩……その、私……私は——」

「役立たず」

 冷たい声が、闇夜に響く。
「少しはやるかと思ったけど、肝心なところでダメすぎる。やっぱり人間は人間ね、アタシの見込み違いだったわ」
「アルテミス……」
 辛辣で冷たいアルテミスの声が、汐に突き刺さる。
 アルテミスの目的はアポロンだ。夕陽の本気を引き出し、彼の本音を引き出すことが汐の目的で、そのために使い道のないアポロンをデッキに入れるという暴挙に走った結果が、敗北だ。アルテミスとしては、怒りを表さずにはいられないだろう。
「こんなことなら、無理やりにでもこんな戦い止めるべきだったわね。あなたのせいでお兄様をまた失った……この責任、どう取ってもらおうかしら」
 まるで夕陽と汐を隔絶するように、アルテミスは汐の目の前へと移動する。アルテミスの表情は夕陽からは見えないが、汐が言葉も出ないところを見ると、相当な剣幕なのかもしれない。
 いや、そうでなくとも、彼女から発せられるオーラは、尋常ではない気迫があった。
「アルテミス……私は……」
「黙って、もうアタシはあなたに用はない、あなたの力なんて不要よ。他の人間とは違うところがあると思ったけど、あなたも他の人間と同じ。役に立たない、塵同然ね」
 か細く紡ぎだされる汐の言葉を、アルテミスは罵声で打ち消す。だが、
「でも……最後に一つだけ、あなたを利用させてもらおうかしら。こんな状況は想定してなかったけど、あなたの身体を使う予定は、なくもなかったから」
「え——」
 アルテミスは、そっと汐の胸に手を置く。
 刹那——アルテミスの身体が、汐の身体へと溶け込んでいく。
「あ……う——」
 小さく呻く汐。アルテミスの溶け込んだ胸を押さえ、ふらふらと頼りない足取りでふらつき——そして、倒れた。
「っ! 御舟!」
 夕陽は思わず駆け出しそうになるが、その前に、汐は立ち上がった。
 いや、それはもう、夕陽の知る汐ではなかったが。
「……うん、いい感じね。やっぱり一度、中に入っておいてよかったわ。まさか人間でここまでアタシと適合できるなんて……それに、内面的な自己主張はしないのね。宿主の精神に邪魔されないから、ゾンビみたいにもならない。主は役立たずのゴミだったけど、身体自体は最高ね」
 汐の姿、汐の声で語る、汐の身体。しかしその口調は、性格は、魂は——夕陽の知る汐ではなかった。
「御舟……なのか……?」
「……違うわよ、人間」
 汐の身体は、夕陽をジッと見据える。刺々しく、敵意のこもった、激しい瞳で。
「見てなかったの、この口振りを見て分からない? これだから無能な人間は……私はアルテミスよ」
 汐は——いや、アルテミスは、汐の姿のまま、そう名乗る。
「アルテミス……どういうことだ……アポロン」
「オイラにも分からねえ……アルテミス、どういうことだ!」
「お兄様には見せたことがありませんでしたね……これはある程度の力を持った闇文明のクリーチャーならできることです。その星の生命体、とりわけ知能の発達した生物に自身の魂を吹き込む術。クリーチャーとしての姿で実体を保つのは難しいですからね、エネルギー消費を抑えたり、その星で活動しやすいよう、適合するための術です。分かりやすく言うのなら……そうですね、憑依、と言ったところでしょうか」
「憑依……?」
 それはつまり、汐はアルテミスに、身体を乗っ取られた、ということだ。
 身体こそ汐だが、その魂はアルテミス。汐の身体は、アルテミスに支配されてしまった。
「なんだよそれ……ふざけんな! 御舟の身体を返せ!」
「それはこっちの台詞よ、人間。あなたこそ、私のお兄様を返しなさい」
 夕陽は叫ぶも、それで屈するようなアルテミスではない。どころか彼女が見ているのは、アポロンだけだ。
 汐の身体も、便利だから使っている、程度の認識しかない。
「くっそ……こうなったら、アルテミスをぶっ飛ばして、御舟の身体から追い出す」
「そんなことできんのか?」
「分からない。でも……このままジッとしていられるわけないだろ!」
 夕陽は叫ぶ。ここまで怒りを見せたことはないかもしれないと、自分で思うほどに、夕陽は憤っていた。
「それに、御舟は僕の後輩だ。あんな奴に乗っ取らせてたまるか!」
「……そうだな! アルテミスだってオイラの妹だ。妹の責任は兄の責任、オイラも戦う!」
 そう言って、アポロンはカードとなり、夕陽の手の内に収まる。夕陽も汐とのデュエルで使っていたデッキを戻し、元々のデッキを取り出す。そしてそこに、《アポロン》を差し込んだ。
「お兄様、ご覚悟ください。これもお兄様のためなのです」
 アルテミスも、汐の持っていたデッキを一度戻し、また違うデッキを取り出した。
「アルテミス、御舟の身体を返してもらうぞ!」
「黙りなさい人間。こちらこそ、お兄様を取り返させてもらうわ」
 夕陽と汐のデュエル、ただしそれは身体だけ。
 その真実は、夕陽とアルテミスのデュエルだ。

 アポロンと共に戦う夕陽と、汐の身体を器としたアルテミスは、再び神話空間へと誘われる。