二次創作小説(紙ほか)

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.503 )
日時: 2014/03/09 04:08
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

「なんだ、大したことないな」

 夕陽は事もなげに言い放つ。笑みを浮かべることもない、真顔と言えば真顔。拍子抜けしたような顔、が最も近いかもしれない。
 そんな表情——いや、それ以上に夕陽の言葉を聞き、《アルテミス》は眉間にしわを寄せる。
『なんですって……?』
「いや、だからお前、案外大したことないんだなーって、思ったことを言っただけだよ」
 この圧倒的状況下で、そんなことをのたまう夕陽。《アルテミス》はそれを強がりだと判断する。なぜなら、彼の逆転の芽は、すべて摘んだはずなのだから。
『なにを言ってるのかしら。あなたのクリーチャーはゼロ、シールドもない、手札だってすべて落として——』
「そこだよ、そこ。お前、クリーチャーしか見てないだろ」
『……?』
 夕陽の言いたいことが理解できない、とでも言うように首を傾げる《アルテミス》。そんな《アルテミス》に、夕陽は手に持った“手札”を見せつける。
「お前は《ロスト・ソウル》で僕の手札をすべて破壊したけど、お前がシールドを割ってくれたお陰で、手札ができたんだよ」
『っ……!』
 驚いたような表情を見せる《アルテミス》。夕陽からすればその反応が驚きだが、
「お前は人間が嫌いみたいだけど、もっとちゃんと知っておくべきだったな。お前らの戦いがなんなのかは知らないけど、僕らのデュエマはクリーチャー同士の殴り合いじゃない。シールドブレイクは相手に手札を与えて逆転手を渡すか、自分を勝利を近づけるかの選択だ」
 夕陽の言う通り、デュエル・マスターズはただ攻撃すればいい、という単純なゲームではない。勝利に直結する基本行動のシールドブレイクですら、相手との駆け引きが付きまとう。
 だが《アルテミス》は、それを失念していた。その理由は《アルテミス》が抜けていたということではなく、彼女が人間というものを嫌っていたからだろう。
 人間を嫌い、人間を知ろうとしなかったがゆえに、人間との駆け引きというものに無頓着だった。それが、彼女の最大のミスだ。
「《ロスト・ソウル》を撃つのが目的ならお前の攻撃は仕方ないにしても、せめて《ロマノフ》は攻撃すべきじゃなかったな。じゃ……僕のターンだ」
 一度はすべて削り取られた手札。しかし今は、潤沢なマナと共に、この盤面をひっくり返せるだけの仲間が揃っている。
「《ファンク》も進化元にしてくれて助かったよ、お陰でこいつが出せる。《コッコ・ルピア》を召喚! 続けて《ボルシャック・NEX》を召喚! 山札から二体目の《コッコ・ルピア》をバトルゾーンに!」
 もうパワーを下げられる心配はないため、《コッコ・ルピア》を展開できる。二体ならんでいるためドラゴンの召喚コストはマイナス4。
「残った3マナで《ボルバルザーク・エクス》召喚! マナをすべてアンタップ! そして《爆竜GENJI・XX》《偽りの名 バルキリー・ラゴン》を召喚!」
 手札を使い切り、ドラゴンをすべて展開する夕陽。《バルキリー・ラゴン》の能力で後続のドラゴンも手札に呼び込むが、そのドラゴンは、ただのドラゴンではない。
「さあ頼むぞ、アポロン!」
「合点だ!」
 《バルキリー・ラゴン》で呼び込むのは《アポロン》だ。
 そして、夕陽の場のファイアー・バードとドラゴンが爆炎に包み込まれる。

「二体の《コッコ・ルピア》と《ボルシャック・NEX》を進化MV! 出て来い《太陽神話 サンライズ・アポロン》!」

 《アルテミス》同様に、夕陽も《アポロン》を呼び出す。これで状況は五分、いや、明らかに夕陽優勢だ。
『お、お兄様……』
 そして《アルテミス》自身も、《アポロン》の力の強大さは理解しているようで、あからさまにたじろいでた。
『いい加減にしろよ《アルテミス》。お前の身勝手も大概は許してきたが、今回ばかりはそうは行かねえ。夕陽の仲間はひまりの仲間、そして俺の仲間だ。俺にとって仲間が一番大事だってのは、俺をずっと見てきたお前がよく知ってるはずだ。なあ、《アルテミス》!』
『ひ……っ!』
 怒気を含んだ声で、《アポロン》は叫ぶ。その一喝に、《アルテミス》は完全に怯えていた。
「……《アポロン》」
『大丈夫だ、任せろ。あいつは俺の妹、俺がきっちりぶっ飛ばして、汐の身体を取り返してやる』
「うん……なら、頼んだ! 《アポロン》で攻撃! そして能力発動! CD9!」
 《アポロン》は一直線に《アルテミス》目掛けて飛ぶ。あまりのスピードに大気が爆ぜ、爆風が巻き起こり、夕陽のデッキの一番上が吹き飛ばされた。
「《ポップ・ルビン》をバトルゾーンに! そして最後のシールドをブレイクだ!」
『はあぁぁっ!』
 《アポロン》が腕を振るうと、火炎の衝撃波が放たれ、《アルテミス》の最後のシールドは吹き飛ぶ。
『くっ、S・トリガー! 《地獄門デス・ゲート》で、《GENJI》を破壊、そして墓地から《ビューティシャン》をバトルゾーンへ……!』
『それがどうした! 《ボルバルザーク・エクス》!』
 《GENJI》が破壊され、ブロッカーも戻って来たが、それでは足りない。シールドのない《アルテミス》を守る《ビューティシャン》は《ボルバルザーク・エクス》の剣に切り裂かれ、一瞬で墓地に送り返される。
『う、くぅ……なぜですかお兄様! なぜ、私の言葉を聞き入れてくれないのですか! 人間の愚かさに、どうして気付かないのですか!?』
『お前こそなぜ気付かない! お前だって人間と触れ合って来ただろう! 人間はそんなにも愚鈍か!? 惰弱か!? お前と一緒に戦おうとした汐は、そんなにも愚劣で薄弱だったか!?』
 《アルテミス》を非難するように叫ぶ《アポロン》は、身体の周りを旋回する小型太陽から無数の熱線を放つ。
 対する《アルテミス》も、素早く弓を引き、正面に展開した魔方陣を通った矢が無数に分裂し、熱線を相殺する。
『人間もクリーチャーも同じだ! いい奴もいれば悪い奴もいる。愚かで弱い人間がいるのは確かだ。だが、お前のその身体。その主は、お前なんかよりもずっと強い! それは俺が今まで見てきたことだ!』
 襲い掛かる弓矢を掻い潜り、《アポロン》は《アルテミス》に接近。炎を纏った拳を振るう。《アルテミス》は紙一重でその拳を躱し、《アポロン》から距離を取ろうとするが、《アポロン》の従える小型太陽から熱線が絶え間なく放たれ、それを許さない。
『俺は人間と出会ってよかったと思ってる。夕陽やひまり、汐、このみ、姫乃、流——みんな仲間だ! プロセルピナやヴィーナス、ネプトゥーヌスたちも、俺たちと共に戦う、仲間なんだ! お前にはそれが分からないのか!』
『くぅ、お兄様……!』
 右から左から、四方八方から乱れ撃たれる熱線を避けきれなくなった《アルテミス》。もう、彼女は敗北から逃げることはできない。
「……《ポップ・ルビン》のタップトリガーで、《アポロン》をアンタップ。《アポロン》で攻撃——」
 ダイレクトアタック、と、小さく夕陽は呟いた。
 同時に《アポロン》の内で熱く燃えたぎる炎は、最高潮に巨大化し、燃え上がっていた。
『お前は昔から、聞き分けの悪い奴だったな。そんなお前に甘くしてきた俺だが、今回ばかりはそうは行かねえ。女だとか妹だとか関係ねえ、反省するまでぶん殴ってやる! 覚悟しやがれ!』
 飛翔する《アポロン》。爆炎を纏った拳を振りかざし、一直線に《アルテミス》へと突っ込んでいく。
『う、くっ……これは、まずい……お兄様——』

『うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!』

 《アルテミス》のか細い声は、《アポロン》の雄叫びに掻き消される。
 そして《アルテミス》には《アポロン》の灼熱の拳が——放たれたのだった。