二次創作小説(紙ほか)
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.512 )
- 日時: 2014/03/10 04:37
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
何事にも区切りというものは存在する。
人間とは不思議な生き物で、なにをするにせよ、なにかしらを、どこかしらを一つの節目として、その節目が来たらふりだしに戻るように始まりへと行きつく。
そして時に、その節目は重要な意味を持つときもあるのだ。
そのうちの一つが、一月一日。
即ち、元旦である。
「《ボルシャック・NEX》でWブレイク、《エコ・アイニー》でブレイク。S・トリガーはないな? だったら《コッコ・ルピア》でダイレクトアタック」
「うぁー……負けたぁ……」
早朝、まだ外は暗く、早すぎるほどに早い早朝、空城家の兄妹は向かい合って——デュエマをしていた。
「お兄ちゃん最近強くなったよね……前からあんまり勝てなかったけど、最近は本当に勝てないよ。このみさんとかシオ先輩とか、後はこのみさんのカフェでバイトしてるおねーさんとか、みんなすっごい強いよ」
「まあな。僕らはお前の知らないとこで命を懸けたデュエマをしてるんだ。そりゃ強くもなるさ」
「なにそれ」
ほとんど真実をそのまま言ったのだが、当の妹の反応は薄い。仕方ないと言えば仕方ないが。
「というか、なんで僕らは年明けて早々デュエマをしてるんだ。もっと他にやることないのかよ」
「羽子板とか福笑いとかすごろくとか?」
「そんな時節に則った遊びじゃなくてもいいけど……」
最初に誘って来たのは妹の方。とはいえ、夕陽も暇を持て余していて、それに乗っかったことも事実だ。
「お母さんとお父さんがいれば、また違ったんだけどね」
「あの二人はもう仕事か……正月だってのに忙しいな」
「まったくだよ」
などと話していると、ふと妹が思い出したように立ち上がる。そしてテーブルの上に置いてあった紙の束を手に取った。
「そういえばお兄ちゃん、年賀状来てたよ」
「早いな。誰から……って、聞くまでもないか。このみと御舟だろ」
「うん……あと、もう一人女の人から。姫乃さん、だっけ? 『popple』でバイトしてるおねーさんだよね。お兄ちゃん、いつの間に仲良くなったの?」
「いつの間にもなにも……クラスメイトだし」
姫乃と親しくなった経緯については、あまり軽々しく言えることでもないし、そもそも簡単に説明できることでもないので、適当に流す。適当な妹にはその程度で十分だ。
「ふーん。ま、いいけどさ……にしても、枚数が少ないのはいいとして、お兄ちゃんは相変わらず女の人からの年賀状ばっかりだよね」
「ほっとけ。小中高とこのみに振り回されてたせいで男友達なんてできなかったんだよ」
高校はまだマシだが、小中ではこのみと一緒にいる時間が多かったせいで、同性と遊んだりしたことはほとんどなかった。どころか、このみは見てくれだけはいいので、常に一緒にいることに対して恨みを買ったりもしたほどだ。いい迷惑である。
そのせいで、小学校から今に至るまで、男の友人はほぼ皆無。そもそも友人と言えるような相手も、姫乃が初めてと言っていい。勿論このみは除外されている。
「せめて流に住所教えとくべきだったか……」
友達というより先輩だが、恐らく現時点では、同性の中では最も接点が多いであろう水瀬流。とはいえ、夕陽も流と会う機会はそれほど多くない(そもそも連絡先すら知らない)ので、親しいかと言われると微妙だ。
「あ……もうこんな時間か。そろそろ準備しないとな」
「どっか行くの?」
「ああ、このみに呼ばれてるんだ。お前も行くか?」
「いや、こっちもこっちで友達と約束が……って、だからどこ行くの?」
「お前、自分で約束がどうこう言ってるじゃねえの。聞くまでもないだろ」
元旦のこの日、しかも早すぎる早朝。行く場所、そしてその目的は一つに決まっていた。
「初詣だよ」
十二月の末も末の頃、このみから一緒に初詣に行かないか誘われた。
その誘い自体に驚きは欠片もない。どころか、やっぱ今年もか……と溜息交じりに呟くだけだ。
夕陽は毎年のように、というか毎年このみと一緒に、時に妹がいて、時に木葉がいて、中三の頃は汐がいて、という風に初詣に行っていた。
なのでそのこと自体に驚きはない。しかし今回、驚きと言うよりも少々奇妙というか、不可解な点があった。それは、集合場所——現地集合なので、もっと言えば参拝する神社。
夕陽たちの住む町にはあまり神社はないが、隣町に行けば大きな神社がある。大抵の人々はその神社へと足を運ぶもので、去年までは夕陽たちもそこで参拝したのだが、このみが今年選んだ神社はそこではなかった。
智雅宮神社。
聞きなれない、というか聞いたことのない神社だ。とりあえず鳥居の手前まで来たが、人はほとんどいない。まだ早朝より早いくらいの時間ということもあるのだろうが、それ以上に人のあまり訪れない神社なのだろうと、直感的に理解する。
どうやら一番乗りで来たようで、このみたちの姿は見えない。なので鳥居の手前から神社を眺める。
それほど大きな神社ではないよう見える。それでもそれなりの敷地はあるようで、社も古ぼけているのではなく年季と時代を感じさせる威厳はあった。奥には林と思しき木々が立ち並んでおり、その深さはここから出は窺えない。
悪い場所ではないと思う。大人気の神社、というわけではないようだが、いわゆる穴場スポットのようなものなのだろう。神社に穴場があるのかどうかが疑問だが。
などと神社を観察していると、視界の端に見慣れた少女の姿が映る。
「ゆーくーん!」
パタパタと走って来るのは、小学生かと見紛うような背丈の幼馴染、春永このみだった。その後ろには、友人と後輩の姿も見える。
「このみ……と、光ヶ丘に御舟も一緒か」
「うん、ちょうどそこで会ったから、一緒に来た」
横目で視線を後ろの二人に向けるこのみ。すると姫乃と汐は、それぞれ頭を下げる。
「あけましておめでとう、空城くん。今年もよろしくね」
「あけましておめでとうです、先輩。今年もよろしくお願いするですよ」
「ああ、おめでとう」
定型句だが、それぞれのらしさの出ている挨拶だとは思う。とはいえ夕陽は、こういう畏まった挨拶は苦手なクチなので、軽く返す。
「あ、言い忘れてた。ゆーくん、あけおめっ! 今年もよろしくね!」
「できればお前とはよろしくしたくないけどな」
なのでこのみの軽い新年の挨拶は、逆に安心する。
役者が揃ったところで、夕陽は今まで抱えていた疑問をこのみにぶつける。
「なあ、このみ」
「なに?」
「僕らは一緒に初詣に行くためにこうして神社まで来たわけだが、なんでこんな辺鄙なところにある神社なんだ? もう少し足を伸ばせばもっと大きな神社があるのに。去年までみたくそこでいいんじゃないか?」
「あー……それはね、実は——」
「辺鄙で悪かったね」
このみの言葉を遮って、声が飛んできた。ほぼ反射でそちらを向くと、白い小袖に緋色の袴姿——いわゆる巫女服に身を包んだ少女。
「ひーちゃん! あけおめー」
「おめでとー、このみちゃん」
真っ先に反応を示したのはこのみ。いつも通りのフランクな口振りで、新年の挨拶などしている。
だが、夕陽と姫乃は、決して小さくない驚きを隠せないでいた。そして口から言葉が漏れる。
「……野田さん?」
「野田さん……だよね……?」
「空城くん、光ヶ丘さん、あけましておめでとう。そしてようこそ……いや、いらっしゃいませ? なのかな?」
神社だからいらっしゃいはおかしいか、と彼女はまたすぐ訂正する。
野田ひづき。夕陽たちのクラスメイト。そして夕陽たちが在籍する一年四組のクラス委員長だ。
入学してすぐの席割の時、このみと席が前後になって仲良くなったらしく、どんな相手でもフレンドリーに接するこのみでも、彼女とはとりわけ仲が良い。夕陽も少しだけ、その関係で関わったことがある。
だがそれでも精々その程度のプロフィールしか出て来ない。それほどに、今まで関わりの薄いクラスメイトだった。
ただ、どういうわけか夕陽は彼女に対して、仄とはまた違う潜在的な苦手意識が働いており、彼女を前にすると妙な緊張が襲い掛かる。そのせいもあってか、普段クラスメイトは呼び捨てている夕陽だが、彼女に対しては野田さんと、さん付けで呼んでいる。
「っていうかその恰好……野田さんの家って……」
「うん、見ての通り神社だね。今日は来てくれてありがとう。いかんせん辺鄙なとこにある神社だから、人手も集まり難くてねー」
「人手……?」
姫乃が復唱する。なんだその不可解なワードは、とでも言いたげだった。
「あれ? このみちゃんから聞いてないかな」
「サプライズにしようと思って言ってないんだ」
「あ、そっか。なら改めて言っちゃうよ」
改めてじゃないし、言わなくて結構、と喉元まで押し寄せていた言葉は、ひづきの宣言でかき消された。
「今日はみんなに、巫女さんになってもらいます!」