二次創作小説(紙ほか)
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.516 )
- 日時: 2014/03/11 18:54
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
「あの……すみません……」
「はい?」
ラトリたちと別れた後、出店を眺めながら適当にふらふらしていた夕陽は、声をかけられ、振り向いた。
(わ……外国人、かな……?)
目に飛び込んできたのは、夕陽と同じくらいの年齢に見える少女。それも日本人らしからぬ赤毛の髪を長いツインテールにしている少女だ。
あまり表情がなく、囁くような声ではあったが、少女はどこか焦っているように口早に告げた。
「女の子を、見ませんでしたか……?」
「女の子……? どんな子ですか?」
振り向いた時は思わず素になってしまったが、裏声を意識し、声のトーンにも気を払いつつ、夕陽は質問を返す。
「長い黒髪で、背は……これくらい……? 白いコートを着た、小学生くらいの子、です……」
少女は手を水平にして、自身の胸の位置まで掲げる。大体130cmくらい、だろうか。
(このみより小さいな……いや、小学生ならそんなもんか。しかし流暢な日本語だな)
“ゲーム”の世界では日本語が達者な人物が多く、夕陽もそれらの人物と何度も関わっているため、そこまでの驚きはないが、少女の日本語は、声こそ小さいがかなり流暢で、夕陽はそれなりに感心した。
勿論、感心している場合ではないのだが。
(っていうかこれ、迷子だよな……はぁ、遂に来たよ。正直、迷子探しほど面倒なことはないよな……)
確かこんな時はどうするんだったか、と夕陽はひづきに言われたことを思い出しつつ、言葉を紡ぐ。
「うーん……見てない、と思います。ちょっと、社務所の方にも連絡してみますね。それでも分からなかったら、放送かなにかして——」
「いえ、結構です……あまり大事にしたくないので……」
声だけは控えめだが、はっきりと夕陽の申し出を断る。少女は軽く頭を下げると、そのまま人混みへと消えてしまった。
「なんか妙な参拝客だな……まあいっか」
大事にしたくない、という言葉は引っかかったものの、向こうには向こうの事情があるのだろう、自分には関係のないことだ、と夕陽は結論付け、また歩き出す。
「おーい、クトゥ! こっちだよ」
少女は左右で赤い二つの尻尾を揺らしながら、金髪の少年の下へと駆け寄る。
「姫様、いた?」
少年の言葉に、少女はふるふると首を振る。すると少年は溜息をつき、困ったような表情を浮かべた。
「まだ見つからないか。どこ行っちゃったんだろ、姫様。本当に落ち着きがないなー」
「ロッテちゃんは気まぐれだから……でも、このままだと、私たちが師団長に怒られる……」
「姫様の勝手な行動はいつものことだけど、よりによって『昇天太陽』のいる町だしね。っていうか、神社ならこんな辺鄙なところじゃなくても、伊勢神宮とか稲荷神社とか出雲大社とか、もっと有名どころいっぱいあるのに。ぼくはどうせならそっちの方が……いやまあ、神社なんて微塵も興味ないけど。なんで姫様はこんなとこに?」
「この前、この町で戦争した時、ロッテちゃん、ここを見つけたみたい……」
「なーる、それで。気に入っちゃったのか」
どこに気に入る要素があるんだ、とでも言いたげだったが、少年は諦めたようにまた息を吐く。
「あぁ、早く姫様を見つけないと。この近辺にはもっと大きな神社もあるみたいだから、流石に『昇天太陽』たちもこんなところにはいないと思うけど、もし姫様になにかあったら大変だ」
「私たち、怒られるどころか……師団長に殺される」
「普通にあり得る話なのが怖いね……とにかく、一刻も早く姫様を見つけ出さないと。こんなことなら携帯くらい持たせておくべきだった」
「今更言っても後の祭り……それに、ロッテちゃんはたぶん、携帯使えない……」
そんな会話を最後に、二人はまた別れた。
その少女——いや、幼女とも言えるような年齢の娘は、この神社の中でも一際高い、木造の塔にいた。
本来なら最上部で鐘を鳴らすための塔なのだろうが、老朽化のせいか、その役目は新しく造られた塔に譲っており、今この塔の役割はない。ただそのまま朽ち果てるか、いずれ取り壊されるかの二択だ。
さて、彼女はそんな人気のないところにいるわけだが、その中にいるわけではなかった。彼女はその塔の、屋根の上に腰かけている。
危ないどころの騒ぎではなく、まずどうやってそんなところに上ったのか。まだ小学生程度の、年端もいかぬ少女の身体能力ではそんなところに上ることはまず不可能なはずなのだが、しかし彼女に至っては、そんな常識など無意味だ。
もっと言うのであれば、彼女の生きる世界では、か。
「——ユノ、ユピテル」
少女は二枚のカードを手に、微笑んでいる。まるで遊園地に行く子供のような、これから先にあるであろう楽しみに期待を膨らませるかのような笑みだった。
その二枚のカードは、薄い側面を合わせて、まるで一つの存在であるかのように繋がっている。そしてその繋がりから、言い様もない、不可思議な、そして圧倒的な力——生命の力を感じる。
「サンセット……」
少女はぽつりと呟く。
あの時、少女は一人の少年を見た。なぜか女の格好をしていたが、彼の発する気は、以前彼女が感じたものと同じであり、間違えることはなかった。
「ジーク、サンセットのはなし、いっぱいしてた……」
そのせいか、いや、そうでなくても、彼とは一度、戦ってみたいと、少女は思っていた。
それはただの好奇心、興味でしかなく、そこには自分が楽しむ以上の目的など存在していなかった。だが、自分たちが属する組織の長が最も意識している人物と言ってもいい。彼女なりのそのことが意味することの重大さは理解しているつもりであり、それもこの好奇心を助長する。
「あそんでみたいなぁ……このまえはジークばっかりあそんでたし、ロッテだってあそんでもいいよね」
自分の中で自分を正当化しつつ、
「とりあえずはデッキをつくらなきゃ。ユノ、ユピテル、おねがい」
少女は手元のカードに視線を落とす。同時に、今まで強い力を発していたその二枚のカードから、まるで新たな生命が誕生するような、神秘的な力と共に、また新たなカードが少女の手中へと収まった。
「んー……これはいらない」
しかし、少女はそのカードを中空へと捨てた。カードは風に乗り、どこかへと飛ばされる。
また、二枚のカードから、新たなカードが生み出された。少女はそのカードをまじまじと眺めると、今度は捨てず、コートのポケットに入れた。
「これは……いる。あと、さんじゅーななまい? どんなデッキになるかな」
期待が膨らんでいくように、笑みを隠さない少女。そしてまた新たなカードが生み出され、少女はそれを捨てる。次に生み出されたものも捨て、その次に生み出されたものは収めた。
カードが生み出されるたびに、少女の期待も大きくなり、顔も綻んでいく。さらに、自分が愛すべき彼に対する、優越感もあった。
「たのしみ……ジークよりさきに、ロッテがサンセットとあそぶんだから——」