二次創作小説(紙ほか)

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.519 )
日時: 2014/03/11 23:19
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

「……ここにはいない、か」
 赤毛の少女に迷子の所在を聞かれた後、無関係だとは思いつつも、夕陽は彼女の言っていた人物を探していた。それほど積極的に捜索しているわけではないが、この神社の散策も含めてのことなので、見つかったらいいな、程度の低い意識だ。
 境内や本殿の周辺は大体見たので、最後に向かったのは裏の林。少しだけ中に踏み入ったが、思った以上に深そうだったので、すぐに引き返した。
「でも、もしこの林の中に入ったら、見つけられないだろうな……」
 踏み入れば軽く遭難はしそうだが、柵などはなく、進入禁止の張り紙があるわけでもないので、この中に入ってしまったという可能性も考えられる。
「そうなると、野田さんに任せるしかないか。つっても、確証もないしな」
「だったらプロセルピナを呼ぶか?」
 夕陽が一人で呟いていると、周りに人がいないからか、アポロンが実体化する。
「あいつは森とか野原とかが好きだからな。迷わずに探せる思うぜ」
「悪いけど、プロセルピナを呼ぶとこのみも一緒について来るから却下だ。それに、流石にこっちの方まで来たら他の参拝客が気づいてるって」
 一応、軽く聞き込みもしたが、そのような子供を見たという情報はなかった。なにもない場所というのは逆に目立つもので、その場所に行こうとするだけで不審がられる。
「まあでも、もし運悪く野田さんにでも会ったら、一応言っておこうか——」
「夕陽!」
 アポロンが、夕陽の言葉を遮って叫ぶ。
「どうしたんだよアポロン、いきなり叫んで……」
「なんか来るぞ!」
「は? それってどういう——」
 夕陽が疑問を口にするより先に、周囲の空間が歪んで行く様子が見えた。同時に、夕陽の気が一気に引き締まる。
「これって、神話空間……しかもこのタイプは……」
「クリーチャーだ!」
 夕陽たちが故意に発生させることのできる神話空間の他に、クリーチャーがこの世界に一時的に実体を保つために展開される神話空間。最近はあまり見かけなかったのだが、それがここに、開いている。
 歪んだ空間はその中で一つの形を作り出す。最初は絵具を撒き散らしたように滅茶苦茶で曖昧だが、徐々にその形は明確となり、一体の確固としたクリーチャーとなる。
「《スミス》……!」
『…………』
 現れたゼロの無法者は、自らの右手を握ったり開いたり、自分が実体を持っていることを確かめているような仕草を見せる。
 次に夕陽へと視線を向けた。するとスミスは口の端を釣り上げてシニカル笑みを見せる。
 そして次の瞬間、スミスは凶悪な形状をした右手を振りかざし、夕陽目掛けて一直線に飛び掛かった。
「夕陽!」
「……っ!」
 アポロンが叫ぶ。夕陽も声を出すより先に手が動いた。
 右手で緋袴に引っかけていたデッキケースからデッキを取り出し、左手でカードの姿になった《アポロン》を掴む。
 刹那、夕陽とスミスはさらなる歪んだ空間の中へと、吸い込まれていった。



「くそっ、一体全体どうなってんだ! なんでこんなところにクリーチャーが……!」
 まっさきに考え付く可能性は【師団】だ。しかし、少し妙な感じもする。
 だが、とにかく今は戦うしかない。
 現在、夕陽の場にクリーチャーはいない。対するスミスの場には《巳年の強襲者 コブラ》が一体。
『オレのターン。《ボーンおどり・チャージャー》を発動だ』
 山札の上から二枚を墓地に送りつつ、マナも伸ばしていくスミス。夕陽はスミスのマナゾーンに目を遣りながら、思考を巡らせる。
「無色、それに闇と火か……バニラビートにしては変な色だな」
 バニラと俗称される能力なしのクリーチャーでビートダウンするデッキ、いわゆるバニラビートと呼ばれるデッキは普通、水と自然文明をメインにして組まれる。これはその二つの文明のバニラクリーチャーの質が良いということもあるが、それ以上に、水と自然には優秀な専用バニラサポートカードが存在するためである。サイドカラーとして無色や闇、火文明が追加されることはあるものの、軸となる色ではない。
 なのでほぼ必須とも言えるほど重要な二文明が入っていない構成に、夕陽は疑問を抱かずにはいられなかった。デッキの回りが悪くなるので四色構成ということはないだろうし、そもそもバニラビートと呼べるようなデッキでもないのかもしれないが、マナと墓地を見る限りはバニラが多い。
「まあいいや。まだ展開されてるわけじゃないし、そんなすぐには決めて来ないだろ……僕のターン、《エコ・アイニー》を召喚。マナを一枚追加だ」
 さらにマナに落ちたのが《レグルス・ギル・ドラゴン》なので、もう1マナ追加し、一気に2マナ加速させる。
 大量マナブーストから大型ドラゴンを呼び出すいつもの流れ。2ターン目の《メンデルスゾーン》もあって夕陽のマナはもう7マナもある。順調な出だしだ。
 しかし順調なのは、なにも夕陽だけではなかった。
『ふん、マナばかり溜めても、オレには勝てないぜ。オレのターン《砂場男》を召喚!』


砂場男 闇文明 (5)
クリーチャー:ヘドリアン/ハンター 3000
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、カードに能力が書かれていない自分のクリーチャーを2体まで、自分の墓地からバトルゾーンに出してもよい。


 召喚されたのは《砂場男》。能力なしのクリーチャーだけとはいえ、一気に二体ものクリーチャーを並べられる能力は強力だ。
 スミスは前のターンに《ボーンおどり・チャージャー》で墓地を増やしている。運がいいことに、その二体はどちらもクリーチャー、それもテキストに能力の書かれていないバニラクリーチャーだ。つまり、
『墓地からこいつらを蘇らせる! 呼び出すのは《封魔神官バニラビーンズ》! そしてこのオレ《破界の右手 スミス》だ!』


破界の右手(ブレイキン・ライト) スミス 無色 (5)
クリーチャー:アウトレイジ 11000


 墓地から復活したのはオラクルである《封魔神官バニラビーンズ》と、アウトレイジである《破界の右手 スミス》の二体。
 《バニラビーンズ》は3マナでパワー3000の平凡なクリーチャーだが、《スミス》は5マナでパワー11000と、破格のパワーを備えている。
「出たか……でも、所詮はパワーが高いだけだろ」
 《スミス》を軽んじたような夕陽の発言だが、それもそこまで間違っているわけではない。
 デュエル・マスターズは基本的に相手のシールドをブレイクして勝利を目指すゲームであり、クリーチャーのパワーはクリーチャーどうしのバトルやパワーを参照する除去呪文を受けるか否か、程度の意味しか持たない。そのため重視されるのは、クリーチャーのパワーよりも、そのクリーチャーのコストに対する能力の質、つまりはコストパフォーマンスだ。
 勿論パワーも高いに越したことはないのだが、ビートダウンにしろコントロールにしろ、重要視されるのは能力の方だ。いくらパワーが高くとも、そのパワーを無視されてしまえばそれまでなのだ。
「つっても流石にクリーチャー四体は厳しいか……《不敗のダイハード・リュウセイ》を召喚」
 夕陽は念のために保険をかけておくことにした。ついでに《ダイハード・リュウセイ》がいれば、疑似的に味方ドラゴンの打点が増える。次のターンにスピードアタッカーのドラゴンを出せれば、そのままとどめまで持って行くことも可能だ。
 無論、それは次の夕陽のターンまでに《ダイハード・リュウセイ》が生きていればの話だが。
『このターンで終わりにしてやるよ。《解放の女傑 ドラクロワ》を召喚!』


解放の女傑 ドラクロワ 火文明 (6)
クリーチャー:ヒューマノイド/ハンター/エイリアン 6000
カードに能力が書かれていない自分のクリーチャーが攻撃する時、そのターン、そのクリーチャーのパワーは+6000され、シールドをさらに1枚ブレイクする。
W・ブレイカー


「なんだと!?」
 ここで出て来たのは、バニラクリーチャーのパワーと打点を上げるバニラサポートの一枚《解放の女傑 ドラクロワ》だった。
「まさかこいつが出て来るとは……!」
 バニラビートでは比較的マイナーなカードなので見落としていた。しかし、これはまずい。
 《スミス》の場にいるアタッカーは、《巳年の強襲者 コブラ》《砂場男》《封魔神官バニラビーンズ》そして《破界の右手 スミス》。この四体のうち三体が能力なしのクリーチャー。
 つまり《スミス》の場には、攻撃できるWブレイカーが三体、プラス通常の殴り手が一体並んでいることになる。これらを合計した打点は、夕陽にダイレクトアタックを決めるには十分だった。
『オレを舐めるからこういう目に遭うんだ! さあ行くぜ! まずは《砂場男》でシールドをブレイク!』
 最初に夕陽のシールドが一枚割られた。さらに、
『続けて《ドラクロワ》でパワーアップした《巳年の強襲者 コブラ》でシールドをWブレイク! 《封魔神官バニラビーンズ》でもWブレイクだ!』
「ぐぁ……!」
 あっという間に夕陽のシールドはゼロとなってしまう。S・トリガーも出ない。
『最後はオレが決めてやる! 《破界の右手 スミス》で、ダイレクトアタックだ!』
 シールドを失った夕陽に、《スミス》の右手が襲い掛かる——
「くっ……《ダイハード・リュウセイ》の能力発動!」
 ——だがその直前、《スミス》の凶悪な右手は、炎の壁に阻まれる。
「僕がゲームに負ける時《ダイハード・リュウセイ》を破壊する! そして《ダイハード・リュウセイ》が破壊されたターン、僕はゲームに負けない!」
『……ケッ。しぶとく生き長らえたか』
 夕陽のとどめを刺せなかった《スミス》は、つまらなさそうに右手を引っ込める。
『だがどの道、次のターンにはお終いだ。それまで残りの命を楽しんでな』
 《スミス》の言う通り、これは夕陽にとってかなりやばい状況だ。
 夕陽の場にいるのは《エコ・アイニー》が一体。対する《スミス》の場には、《ドラクロワ》を含む五体のクリーチャー。シールドも五枚ある。
「とりあえず、このターンになんとかしないとな……」
 まず最初に思いついたのは、殴り返し。《スミス》のデッキにスピードアタッカーはいなさそうなので、相手クリーチャーを殲滅して安全に行きたいところだが、流石に五体は数が多い。1ターンで対処できる数ではないし、《ドラクロワ》はアンタップされている。《コブラ》はパワー2013と微妙に高いので《エコ・アイニー》では相打ちにできず、《スミス》に至っては手札にいるどのドラゴンでも倒せない。
 夕陽のデッキにはブロッカーもシノビもいない。となると残る選択肢は、このターンで勝負を決めることだ。
「……ま、それくらいならなんとかなるだろ。僕のターン」
 正直、殴り返すよりもシールドをすべて割る方が、夕陽としては楽だ。今までもそうやって逆転してきた。
「だから、今回も同じようにひっくり返してみせるさ。《コッコ・ルピア》を二体召喚。さらに《ボルバルザーク・エクス》を召喚してマナをすべてアンタップ!」
 シールドブレイクで手札が大量に入ったため、豊富なマナと合わせて大量展開を目論む。
「《爆竜 GENJI・XX》を召喚! 《セルリアン・ダガー・ドラゴン》を召喚! 僕の場にドラゴンは三体いるから、三枚ドローだ!」
 ドラゴン展開から《セルリアン・ダガー・ドラゴン》に繋げ、さらなる手札補充。
「よし、こいつを引けた……《闘龍鬼ジャック・ライドウ》召喚! アポロン!」
「合点承知! 遂にオイラの出番だな!」
 そして引いてきたカードから、切り札を呼び込む。夕陽の残ったマナは2マナ、場には《コッコ・ルピア》が二体。
 つまり——
「《コッコ・ルピア》二体と《ジャック・ライドウ》を進化MV! 《太陽神話 サンライズ・アポロン》!」
 ——《アポロン》が召喚できる。
 マナゾーンにファイアー・バードがおらずCD12が使えないため、進化元の合計を11にして、打点の高いクリーチャーを残して召喚された《アポロン》。とはいえ、その微妙な差は、あまり気にはならない。
『ぬぅ……これは……!』
 呻く《スミス》。追い詰めたつもりが、たった1ターンで立場がひっくり返ってしまったのだから、当然だろう。
「形勢逆転だな。《アポロン》で攻撃!」
『Tブレイクだ!』
 《アポロン》の周囲を旋回する小型太陽から熱線が放たれ、《スミス》のシールドを三枚吹き飛ばす。同時に熱風が吹き荒れ、夕陽のデックトップも吹き飛ばした。
「捲れたのは……《エコ・アイニー》か。一応バトルゾーンに出して、《ボルバルザーク・エクス》でWブレイク!」
 《ボルバルザーク・エクス》が《スミス》の残る二枚のシールドも切り裂く。S・トリガーは出ず、これで《スミス》のシールドはゼロ。
 抵抗することもできない《スミス》に、夕陽のドラゴンたちがとどめの一撃を放つ。
「《爆竜 GENJI・XX》で、ダイレクトアタック!」
『ぐあぁぁ!』
 《GENJI》の双剣に切り裂かれた《スミス》は、断末魔の叫びと共に光の泡となって消えていくのだった。