二次創作小説(紙ほか)
- Re: デュエル・マスターズ Mythology オリキャラ募集 ( No.52 )
- 日時: 2013/07/17 02:20
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: PNtUB9fS)
しばらくして、夕陽と姫乃は昼食の席を囲む。メニューはブロッコリーのポタージュに食パン。貧相な感じではあるが、基本的に料理のできない夕陽としては仕方ないのだ。
「おいしい……空城くんって、料理もできたんだね」
「いや、まあ、大したものは全然作れないんだけど……」
本音である。しかも、
(《シャーマン・ブロッコリー》のフレーバーテキストで覚えたなんて言えないよな……)
ということである。基本的に空城家の家事は夕陽の妹が担当しているため、夕陽はほとんど料理ができない。
そんなことは置いとくとして、とりあえず昼食を終えると、夕陽が立ち上がる。
「さて、じゃあそろそろ行こうか」
「え? どこに?」
「君の家。送るよ」
夕陽がこともなげに言うと、姫乃はぶんぶんと大きく手を振った。
「そ、そんないいよ。お昼ごはんまでごちそうになって、送ってもらうなんて悪いし……」
「熱中症で倒れるような奴を一人にはできないって。僕らはフライングしちゃったけど、本当は買い物する予定だったんでしょ? 荷物持ちも兼ねてさ」
「で、でも……」
いまいち煮え切らない様子の姫乃。こうなって来ると、多少は強引にでも動かす必要がありそうだ。勿論、姫乃は病み上がりのようなものなので、物理的にではない。
「また倒れられるとこっちも困るんだよ。最初に倒れた時に無視してたならともかく、こうして運んだわけだし、一度処置しただけで後はケアもせずに送り出した、とか思われたくはない。昨今の情報伝達は凄まじいからね」
そう言われてしまえば、姫乃の性格からは無下にもできず、少々悩んだ末に、
「うぅ……うん、じゃあ、お願いします……」
小さく、首を縦に振るのだった。
光ヶ丘宅は、空城家からは案外近かった。姫乃が徒歩で近くのスーパーまで来ようとしてたのだから当然だが、徒歩でも普通に辿り着ける範囲だ。聞けば、姫乃は徒歩で通学しているらしい。
(これだけ近いなら、中学とか同じ学校だったかもな……)
などとどうでもいいことを考えながら歩いていくと、不意に姫乃の足が止まる。
「じゃあ、ここだから」
「え……? ここ?」
夕陽も足を止め、姫乃が指差す方を見遣る。
それはアパートだ。二階建てで上に三部屋、下に三部屋と、ごくごく一般的なアパートだ——少なくとも、構造は。
外装はと言うと、酷いものである。パッと見では廃屋かと思ってしまうほど、非常に古く傷みの激しい木造アパート。トタン製の階段は完全に錆びついており、しかもかなり傾いている。
「ここに、住んでるの……?」
「えっと、まあ……そうだね。ちょっと、いろいろあって」
「…………」
言葉を失う、というより何も言えない夕陽。そのいろいろというのは、彼女の家庭が関わってくるのだろう。そこに土足で踏み入れられるほど、夕陽は鈍くもないし図々しくもない。
しかし、一応雨風防げる家屋とはいえ、年頃の女子高生がこんな廃墟染みたアパートの一室に住んでいると思うと、少々心配ではある。値引きセール目当てでわざわざ遠いスーパーに赴くことから、あまり裕福ではないのだろうということは想像できていたが、ここまでとは思わなかった。
「それじゃあ、ありがとう、空城くん。また明日、学校でね」
「あ、ああ、うん。また明日……」
夕陽は持っていた買い物袋を姫乃に渡す。それを受け取ると、姫乃は慎重に階段を上っていく。両手に荷物を持っているため、傾いた階段で倒れないように気を配っているのだろう。
「……帰るか」
やがて姫乃が扉の奥へと入って行くのを見届けると、夕陽は踵を返した。後ろからは、姫乃の帰宅を知らせる声が聞こえてくる。防音設備もなっていないようだ。
「……光ヶ丘姫乃、か」
最初に名前を聞いた時は、自分もあまり人のことを言えないとはいえ、随分と大仰な名前だと思った。
しかし実際の彼女のライフスタイルは、一般的な高校生とはやや異なる。貧しい暮らしをしているようだった。
「それで光ヶ丘が良いのなら良いのかもしれないけど……ま、いっか。それは——」
——光ヶ丘の問題だ。
夕陽はそう結論付ける。
姫乃のことを考えても仕方ない。今日は色々なことがあったが、あくまでも彼女は一人のクラスメイトに過ぎない。少なくとも今の夕陽にとってはそうだ。
そう、“今の”夕陽にとっては——
「あ、またこの宗教か。よくやるなぁ、ていうか宗教がチラシ配りってどうなんだ……こんな胡散臭いのに騙される奴なんて、実際にいるのかな?」
帰宅すると、夕陽は郵便受けの中にあるチラシやら封筒やらを抜き取り、家に入る。封筒はリビングのテーブルに、チラシも一緒にテーブルに、ただし宗教はゴミ箱に。それから二階の自室に戻る。
「最近やたらあの宗教のチラシが多い気がするんだよな……」
夕陽が言っているのは、【慈愛光神教】という、ここ最近で信者が増えているらしい新興宗教のことだ。この街に本部がありまだ信者はこの街の住人が大半を占めているらしいが、勢力を着実に伸ばしているようだ。
「ま、そんなことはどうでもいいか。それより今は、《アポロン》のデッキを改造しないと」
今日襲ってきた女とのデュエルはとりあえず勝てたが、今の夕陽のデッキは、従来までに使用していたデッキにやや無理やり《太陽神話 サンライズ・アポロン》を押し込んだデッキだ。なので少しだけデッキの指針がぶれてしまっている感が否めない。
「御舟はああ言ってたけど、僕も素直にこのカードは渡したくないんだよね……それに今日襲ってきた女の人は、本当に問答無用って感じだった」
カードを差し出しても、ゲームの参加者という理由だけで何か危害を加えられそうだ。だったらこちらから返り討ちにした方が良い。身の保全のためにカードを渡すのは、本当に危険な時だけにしよう。夕陽はそう結論を出した。
「とりあえず《ライジング・NEX》は抜こうかな。究極進化は元々出し難いし、進化MVも同じく出し難いから、手札事故が起こりやすい。能力の噛み合わせも特別良いわけじゃないし……」
ぶつぶつと呟きながら大量のカードが収納されたボックスを取り出し、デッキのカードを一枚ずつ並べて置く。《アポロン》の力を最大限に発揮するためには、どのようなカードを使えばいいのかを考える。
「とりあえず、クリーチャーの比率は多めかな。《アポロン》の能力は《バルガゲイザー》にファイアー・バードと火文明のクリーチャーを足している感じでかなり応用が利くし、連ドラに近い構成かな。あ、でも《アポロン》そのものを召喚する方法も考えないと。とりあえず火をベースにして、他の文明は——」
翌日。
「——なので、この時期から円高のため、外国為替市場が……」
現代社会の時間。いつもの新任教師の声は多数の生徒を微睡の世界へと落としていた。かくゆう夕陽も、その中の一人となりつつある。
(眠い……なんで黒村先生の授業はこんなにも眠いんだ……)
結局、昨日は一晩かけてデッキを作成したが、完成にはいたらなかった。まだ試作段階である。
というのも、夕陽はまだ《アポロン》のカードを一回しか使用していない。その強さがいまいち実感できていないのだ。
そしてもう一つ、《アポロン》の能力は汐が言ったように、既存クリーチャーと類似する点はあるが、逆にまったく新しい点もある。
《アポロン》なら、踏み倒せる範囲がやたら広いこと。まず火文明全て、そして強力なドラゴン全て、さらには進化元になりドラゴンのサポートをするファイアー・バード。これらがコストなしで出て来る上に、スピードアタッカーまで持っている。
続いて《萌芽神話 フォレスト・プロセルピナ》のマナチャージするたびにマナからクリーチャーを呼び出す効果や、《賢愚神話 シュライン・ヘルメス》の互いのターンに召喚や呪文を一度だけ無効化にする効果も、既存のクリーチャーにはない効果だ。《焦土神話 フォートレシーズ・マルス》のブレイク・ボーナスとシールド焼却効果の組み合わせも然り。
このように今までにない効果で、《アポロン》の場合は踏み倒す範囲が広すぎるため、いまいち何を踏み倒すのかが絞れないのだ。
(三つ目の効果も有効活用したいし……あぁ、もうダメか……)
睡魔が夕陽に襲い掛かる。ゆっくりと瞼を下ろした夕陽を待つのは、長い長い、夢の世界だった。