二次創作小説(紙ほか)

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.521 )
日時: 2014/04/29 14:03
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)

『平和が保たれていたはずの世界。しかし今、この世界のマナが枯れている。すべての命も源たるマナの枯渇により、すべての文明は徐々に衰退していくのだ。マナに溢れていたこの森も、いつまでもつか…… ---緑神龍ガラギャガス』

『徐々にだが、確実に世界を衰退へと導くマナの枯渇。その原因究明と問題解決のために、十二神話たちは急遽集会を開いた。 ---会談記録係 アクア・マスター』

『十二神話と呼ばれる者たちは、ゼロを含むそれぞれの文明に二名ずつ存在している。彼らはそれぞれの領を統治し、その文明を代表する存在であった。』



「《緑神龍ガラギャガス》《アクア・マスター》そして《「武」の頂 マキシマム・ザ・マックス》か……」
 さり気無くフレーバーテキストにめ目を落とすが、やはりそこに書かれている文章は通常のものとは違っていた。
 それはさておくとして、汐に手渡された三枚のカード。これらが実体化していたようだが、見ての通りもうカードに戻っている。
 なら、汐はなにに頭を悩ませているのだろうか。
「先輩は気付かないですか、その三枚のカード——いや、先輩のものも含めれば四枚のカードについて」
「え? このカードについて……?」
 《スミス》も合わせて四枚のカードをもう一度見る夕陽。だが、それでなにかが変わるわけでも、汐の言いたいことが分かるわけでもなかった。
「うーん、気付かないとか言われてもな……そもそも、こいつらなんの共通性もないし——」
「それです」
 またしても夕陽の言葉を遮って、しかし今度は肯定するように指を指す汐。
「《緑神龍ガラギャガス》《アクア・マスター》《「武」の頂 マキシマム・ザ・マックス》そして先輩の《破界の右手 スミス》……これらのカードの間には、なんの共通点も存在していないのです」
「ん、まあ、確かに言われてみればそうだね」
 再録も含めれば収録エキスパンションが近いが、すべて同じパックに収録されているわけではない。文明、種族、パワー、コスト、能力、サイクル——どれを取っても、この四枚に共通点は存在していなかった。
「でも、だからなんなのさ? 共通点がないからって、それがなんになるっていうんだ?」
「思い出してください、先輩。これらの実体化するクリーチャーをばら撒くのは【師団】、そしてその【師団】が、私たちに対して最初にクリーチャーを使って襲ってきた時、どのようなクリーチャーを遣わせてきたか」
「え? えっと……」
 少々唐突だったので、夕陽も考え込む。夕陽自身が【師団】の送り込んできたクリーチャーと初めて戦ったのは、去年の秋、文化祭の時だ。
 あの時は、イザナイと呼ばれるクリーチャーを呼び出すクリーチャーが何体が実体化しており、そのイザナイたちがまた新しいクリーチャーを呼び出すという連鎖で、数多くのクリーチャーを殲滅していた。
「そうですね、私も《天草》と戦ったですよ。では先輩、その時【師団】が放ったクリーチャーは、なんですか」
「いやだからイザナイだろ? あ、でも、僕は《神誕の大地ヘラクレス》とも戦ったか」
「ならば続けて聞くですよ。その後に【師団】が送り込んできたクリーチャーはなんですか」
 汐にしては珍しく、一つの話を先送りにして次の話に移る。恐らく意図的にやっているのだろう、なにか意味があるのだろうと思いつつ、夕陽はまた記憶を辿っていく。
「えーっと……僕が戦ったわけじゃないけど《神託の王 ゴスペル》だったかな」
 呪文を操るオラクルで、ひまりが苦戦していたのを覚えている。
 加えて言うと、同時期に汐、このみ、姫乃もそれぞれ《暗黒の悪魔神ヴァーズ・ロマノフ》《呪紋のカルマ インカ》《閃光の神官 ヴェルベット》と戦っている。
「さらに言えば、一番最初に【師団】のクリーチャーに襲われたのがこのみ先輩で、相手は《妖精のイザナイ オーロラ》だったそうです。そしてあの十二月の戦争の時も《戦攻のイザナイ アカダシ》《封魔のイザナイ ガラムマサラ》《爆裂のイザナイ ダイダラ》《絆のイザナイ デカブル》の四体が現れたと聞いているです。具体的なクリーチャー名を出せばもっと多くなるのですが、これらの実体化したクリーチャーたちを見て、なにか気づかないですか」
「……ほとんどオラクルだな」
 言われて初めて気づいた。夕陽が神話空間以外で実体化するクリーチャーを見たのは、黒村がけしかけて来た二体のクリーチャーだけだが、あれは観察者である黒村の思惑だ。【師団】は関係ない。
 そして【師団】が今まで送り込んできたクリーチャーは、そのすべてがオラクル、とりわけイザナイに属する者が多い。
「先輩の《ヘラクレス》や私の《ヴァーズ・ロマノフ》のような例外こそあるようですが、それがルールなのかなんなのか【師団】はオラクルのクリーチャーを主に遣わせているんです」
「成程、それは新発見だけど……だからなに?」
 多少はその発見に驚き、感心する夕陽だが、結局はふりだしに戻る。それが分かったからなんだというのだ。
「つまり、【師団】が送り込んでくるクリーチャーのほとんどはオラクルである、という事実があるのです。ですが、今ここにあるクリーチャーたちを見てください」
 再び夕陽の手にあるクリーチャー四体を指差す汐。
 夕陽もその四体を見るが、見るまでもない。その四体は、すべてオラクルではないクリーチャーだ。
「四枚が四枚とも、オラクルではないのです」
「確かに……」
 たまたま例外がこの四枚だったとも考えられるが、しかしその可能性は、今までのパターンから鑑みて除外するべきだ。重要なのは、オラクルとは無関係なカードばかりが実体化していることである。
「ってことは、今回の件は【師団】とは無関係ってこと?」
「それはまだなんとも……しかし、その可能性は考えられるのです。仮に【師団】だとしても、今回は今までとどこか違うような、そんな気がするんですよ」
 成程、確かにその見解は興味深い。
 だがしかし、今はそれ以上に考えなければいけないことがあるのだ。
「とりあえず、今はクリーチャーによる被害を食い止めないと……このみ、お前ラトリさんの連絡先知ってたよな」
「え? うん。トリッピー呼ぶの? でも、すぐに来てくれるとは限らないんじゃ……」
「いやあの人、今この神社に来てるんだよ。事情を話して呼べば、すぐに来てくれると思う」
 いい加減な性格をしているものの、今の状況を説明すれば突っ撥ねられることはないだろう。このみは頷くと、携帯を取り出してラトリへと電話をかける。



 五分ほど待つと、ラトリと希野の姿が見えた。はてミーシャはどこへ行ったのかと思ったが、後から聞くと研究所に戻ったらしい。なにやら、彼女が所属する部署の方で呼び出しがかかったようだ。
 それはともかく、ラトリに軽く事情を説明すると、ラトリはなにやら含みのある笑みを浮かべながら、頷いていた。
「成程ねー。やっぱジー君だなぁ、相も変わらずロートルというか、拘りがあるねぇ」
「なに言ってんのかよく分かんないんですけど、それより今は……」
「うんうん、言わずともアンダスタンド、だよ。私の《アテナ》の力で、神話空間をオープンすればいいんだよね?」
 言ってラトリは、一枚のカードを取り出した。
 ここでふと、夕陽は思い出す。『神話カード』と呼ばれる十二体のクリーチャーは、《アポロン》とひまりの力を糧に、神話空間外でも実体化できるようになっている。
 夕陽の《アポロン》も、このみの《プロセルピナ》も、姫乃の《ヴィーナス》や流の《ネプトゥーヌス》亜実の《マルス》、つい最近出会ったばかりの《アルテミス》も、例外なく実体化している。
 記が汐から奪い取った《ヘルメス》は実体化しなかったそうだが、ラトリの持つ《守護神話》は、彼女の手元に長い時間あった。あまりデュエルはしないと言っていた彼女だが、しかしその力とは長い時間共にあったはず。ならばそれだけ、『神話カード』の方にも影響が出ていて然るべきだ。
 つまり、
「コール、《アテナ》」
 ラトリの手元のカードから、一体のクリーチャーが飛び出した。