二次創作小説(紙ほか)

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.522 )
日時: 2014/03/12 17:24
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

「お呼びですか、マスター」
 ラトリの持つカードから飛び出した一体のクリーチャー。上下に分かれた民族的な衣装とミスマッチな近代的なアーマー。装甲の一部なのかサンバイザーのようなもので目元が隠れている。
 夕陽たちは初めて見たが、これがラトリの持つ『神話カード』、《守護神話 エンパイアス・アテナ》なのだろう。ただ、アポロンたちの例に漏れずデフォルメ化されているが。
「そうそう、マスターからのリクエスト。実はね——」
「おぉ! アテナじゃねえか!」
 ラトリの言葉を遮って、夕陽のデッキからアポロンが飛び出す。
「ワーォ、私のボイスをカットするなんて、なかなか見上げた根性——」
「アテナだ! アテナー!」
「アテナ様ですの! お久し振りなんですの!」
 それにつられて、プロセルピナとヴィーナスも出て来た。なにか言おうとしていたラトリだったが、最後に出て来たアルテミスを見ると、口を噤んだ。
「今まで何度か存在は感じていたけど、こうして会うのは初めてだな!」
「会いたかったよー、アテナー!」
「また会えて、わたくしも嬉しいんですの!」
「うん、まあ、同じ十二神話だし、あなたには別段恨みもなにもないし、アタシとしてもこのまま会わずじまいより、一度でも会っといたほうがいいような気はしてたんだけど……とにかく、またよろしくお願いするわね」
「はい。お久し振りです、皆さん。今後ともよろしくお願いします」
 子供のように騒がしいアポロンたちだったが、対してアテナの態度は非常にクールで、ともすれば冷淡とも思われてしまいそうなものだった。
 だが、それでも同じ『神話カード』の一体だ。アポロンたちがお互いにそうであったように、彼女もまた仲間意識というものが存在している。同胞と出会えたというだけで、どこか嬉しそうではあった。
「うんうん、ビューティフルなフレンドシップだね。そこにウォーターを差すようでバッドなんだけど」
「すみません、マスター」
 淡々と頭を下げるアテナ。あまりに抑揚のない声のため、謝る気があるのかと言いたくなるが、ラトリの性格では気にしないだろう。
 それより今、重要なことは別にある。
「じゃあプリーズね、アテナ。レンジはこの神社のインサイドでいいかな」
「了解です。守護式広域神話空間、展開します」
 刹那、アテナを中心とした空間の空気が一変する。今まで幾度となく感じてきた気配、空気感。
 間違いない。アテナの力による神話空間が、展開されたのだ。
「これで良いでしょうか、マスター」
「うん、オッケーだよ。ね? 空城君」
「はい……とりあえず、これで一般人を巻き込むことはないですね」
 ひとまず最優先事項である、無関係な一般人を巻き込まないようにする、というタスクは達成した。ならば次に考えることは、どうやってこの事態を防ぐかだ。
「今回は今までと違って、イザナイによるクリーチャーの光臨ではないと私は思うのです。私が思うに、どこかにクリーチャーが実体化するカードをばら撒いている主犯が存在するはずです」
「その人を止めればいい、ってことなのかな? やっぱり」
「同時に、実体化したクリーチャーたちもすべて倒さなくてはならないわね。この神話空間が解除されてから、それらのクリーチャーが野放しになるのはまずい」
 とりあえず目的と方針は決定した。なに、いつもとそう変わることではない。ある種、いつも通りと言えるような展開だ。ただ少し、謎が残っているだけ。
「この神社、結構ラージだし、固まってムーヴするよりもシングルプレイの方がベターな感じだね。私はともかくとして、みんなストロングだし、ここで分かれようか」
 珍しく自分を卑下しながらのラトリの提案。ラトリ自身それほど弱いわけでもなく、また他の面々もデュエマの腕には自信がある。
 彼女の提案を拒否するものはおらず、夕陽たち六人は、そこで分かれるのだった。



「……おいリュウ」
「ナガレだ。なんだ?」
「春永からメールが来たぞ。俺にはよく分からんが」
「……この文面は俺も理解に苦しむ。だが、分かる言葉だけを抜粋し、そしてこの状況から推察するに、実体化しているクリーチャーを倒す、またはその実体化するクリーチャーを放っている者を倒す、ないしはその両方、といったところか」
「なんだ、じゃあ今やってることと変わんねえじゃん」
「そうだな」
 流と零佑、それぞれの正面にいるのは、どちらもクリーチャー。《蛇魂王ナーガ》と《味頭領ドン・グリル》だった。
「なんか急に変な感じがしたと思ったら、クリーチャーが出るんだもんな。流石にもう慣れたぜ」
「これで四体目か……まあ、ほとんど雑魚なのが幸いか。こいつらが雑魚かどうかは分からないが」
 一息つきながら、流と零佑は背中合わせに、それぞれの正面にいるクリーチャーを見遣る。そしてまた、デッキを手にした。
「あと何戦あるのか知らないが、もう1ラウンド行くとするか」
「だな。ただデュエマしてるだけならどうってことねえ。やるだけやってやる」
 そして二人は、再び二重の神話空間へと溶け込んでいく。



「…………」
「どうします、黒村さん? 所長たち、行っちゃいましたけど」
 夕陽たちが集まっていた林の、木の上に上っていた黒村と九頭龍。当然ながら二人は、彼らのやり取り、その一部始終を見ていた。
 なので今がどういう状況なのか、そして自分たちがなにをすべきなのかも、理解している。
「……とんだ面倒事に巻き込まれたものだ。まあいい、これもむしろ好都合だ」
「どういう意味です?」
 九頭龍が問う。彼の疑問に答えるのも癪だったが、黒村はその問いには答えた。
「あのままだと、あの人はただ神社の参拝と観光だけで終わっていたが、“ゲーム”と関わる事象が発生し、なおかつ全員が単独行動を取っている、つまり所長も今は一人ということだ」
「そこを僕らで襲っちゃおうってことですか? うーわー、よく変人とかクズとか言われる僕ですが、いくら僕でもそんなことはしませんよ。そんな欲望的かつ変態的な性犯罪に僕を巻き込まないで欲しい——」
「死ね」
 背中を蹴り飛ばされた。
 今一度言うが、二人がいるのは木の上、言い換えれば不安定な足場だ。そんな場所で後方からの強い衝撃を受ければ、その後は当然の帰結に辿り着く。
 つまり、九頭龍は木の上から突き落とされた。とはいえ高さが上れる程度の高さなので、若い成人男性なら落とされたとしても、上手く着地できれば死にはしない。上手く着地できれば、だが。
「っ……おおぅ、下手したら本当に死んでたな……」
 そして運よく着地に成功した九頭龍だが、危ないところだった。足がじんじんと痛む、もしかしたら捻挫くらいはしているかもしれないと思いつつ、黒村を見上げる。
「しかし随分と直球に言われたなぁ」
 それほど黒村は怒り心頭ということだろう。そもそもの相手が九頭龍なのだから、遠慮も躊躇も微塵も見られない。
「あの人が一人だということは、あのふざけた口調もないだろう。つまり、素の所長を垣間見ることができる」
 さっきの話の続きだろう、何事もなかったかのように黒村は続ける。と、同時に黒村も木から降りてきた。
「人間は誰しも、場所や相手によって顔を使い分ける。そして所長にも【ラボ】におけるラトリ・ホワイトロックと、それ以外のラトリ・ホワイトロックがあるとすれば、今は後者の所長を見ることのできる絶好の機会だ」
 そしてそのラトリは、黒村の知りたい謎を抱えるラトリだ。この好機を逃すわけにはいかない。
「さしあたっては、まず所長がどこにいるのか探さなくてはならないな。さっきは空城たちもいたから出なかったが、どの方向へ行ったかくらいは見ておくべきだったな。クリーチャーと戦うために神話空間にでも入られたら、探すのは困難だ。さて、どうするか——」
 と、その時。
 近くの空間が歪むのが見えた。その様子を黙って見ていた黒村と九頭龍。
 やがて空間の歪みは、一つの生命体の姿へと変わっていく。いや、膨大な生命の集合体、と言うべきか。
 そのクリーチャーは《神聖奇 トランス》、トライストーンのオラクリオンだった。
 強力なクリーチャーとは言えないが、仮にもオラクリオン。その存在感と威圧感は凄まじい。初見の者なら腰を抜かしてしまいそうな気迫がそこにはあるが、
「……失せろ」
 短く、黒村はトランスへと言い放った。
「お前に構っている暇はない。消えろ」
 どこか怒気を含んだ声で、さらに畳みかける。
「なんか黒村さんお怒りだし、本当に消えた方がいいよ? と言っても、クリーチャーに、しかもトランス状態のトライストーンに通じるはずもないか」
 九頭龍の言う通り、トランスは徐々に周りの空間を歪ませ、黒村を飲み込もうとする。
 対する黒村は、鋭い視線でトランスを睨みつける。そして、デッキケースからデッキを一つ取り出し、
「……速攻で終わらせてやる」
 その歪んだ空間の中へと、飲み込まれるのだった。