二次創作小説(紙ほか)
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.523 )
- 日時: 2014/03/14 23:11
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
各人が散会したと言っても、一度に六方向へと散らばれることもなく、とりあえず夕陽は少しの間だけこのみと同じ道を辿っていた。
「なあ、このみ」
「なに? ゆーくん——じゃなかった、ゆーちゃん」
「もうその呼び方やめろよ。それと、もう着替えていいか? 正直、こんな格好でクリーチャー退治とか、なんか気が乗らないんだけど」
忘れてはならないのが、夕陽はいまだに巫女服のままだということだ。この神話空間内ではひづきもいないので、夕陽としてはいい加減に着替えたいところなのだが、
「またまたー、文化祭の時だってメイド服で学校中駆け回ってたくせにー」
「着替えても良かったんなら着替えてたっつーの」
なにも夕陽は好きでこんな格好をしているのではない。むしろ、着替えられるのなら今すぐにでも着替えたいくらいだ。
だが、このみがそれを許すはずもなく、
「あの時と同じで、そんなの気にしてる場合じゃないよ。それに……今日一日はゆーちゃんのままでいるっていうのが、ゆーくんに課せられた使命だからね」
「使命というか罰ゲームだろ。なにも悪いことしてないのに」
強いて言うなら、このみやひづきの我が儘に付き合わされている、といったところか。
「こうなったら、今から本殿に戻って着替えてこようかな……」
「無駄だと思うけどねー、ふっふっふ」
「変な笑い方してんじゃねえよ、驚くほど似合わない」
しかし今から戻ろうというのは、半ば本気だった。夕陽はふと本殿の方に目を遣ると、あるものを発見する。
ある意味では、夕陽たちの目的とも言えるものが。
「……出やがった」
「え? うわぉ、こっちにも」
本殿の方から一体、そしてその逆方向からもう一体、計二体のクリーチャーが姿を現す。
「《聖皇エール・ソニアス》と《大昆虫ギガマンティス》……随分と時代錯誤なクリーチャーだな」
そして汐が言っていた通り、今までのクリーチャーと合わせて、本格的に関連性が薄くなってきた。こちらは古いカードで、しかも進化クリーチャーだ。
「はぁ……仕方ない、着替えるのは先送りにするか」
「そうそう、もう諦めてがんばろーよ」
「お前は黙ってろ」
しかし、このみの言う通り夕陽は諦める必要があるかもしれなかった。そして口では言うものの、夕陽自身も半ば諦めかけているのだ。
そんな会話の後、二人はそれぞれのデッキを手に、神話空間へと突入する。
夕陽、このみと同じように、ラトリと希野同じ方向へと向かっていき、適当なところで分かれる予定だった。その道中。
「……そろそろカムしないかなぁ」
「どうしました、所長?」
「ううん、なんでもナッシング。ちょっとフレンドをウェイトしてる感じなだけ」
「はぁ……」
曖昧に頷く希野。よく言われることだが、ラトリのエセアメリカ人被れのような口調は、耳で聞くとなにを言っているのか理解が追いつかないことがある。そのうえ、ラトリの気楽なテンションとテンポで発せられるため、いまいち追求しづらい。黒村も毎度のこと同じようなことを思っている。
「まあそれはサイドにプットしておくとして、今日はサンキューね、希野ちゃん。黒村君がフォローしてくれればグッドだったんだけど、断られちゃったからね。でもシングルで行くのはドントライクだし、希野ちゃんがいてくれてグッドだったよ」
「い、いえ、これくらいなら別に……私も、仕事が終わって暇でしたし……」
ストレートなラトリの言葉に、控えめに返す希野。
ラトリと対面したことのある者、とりわけ【ラボ】の研究員やラトリが「マイフレンド」と呼ぶ彼女に気に入られた人物が抱くラトリの評価は、馴れ馴れしすぎて辟易するか、ある意味素直で、研究者としては有能、人間としても友好的な彼女に惹かれるかのどちらかである場合が多い。希野はどちらかと言えば後者だった。
多くの者は前者に位置するのだが、こんないい加減な性格でも一組織の長、なんだかんだでカリスマ性はあったりするのだ。もっとも、嫌われようが鬱陶しがられようが、それを気にしてブルーになるような彼女ではない。それが逆に、辟易を増進させているのだが。
「いやー、九頭龍君も含めて君らが【ラボ】に入ってきてくれて本当にグッド、いやさベストだったよ。うちはバトルメンバーが不足気味だったし、そういうのをオール黒村君に任せてたから、彼も大助かりだと思うよ?」
「あ、やっぱりそこに戻るんですね……」
九頭龍(希道)はよく黒村をラトリとの関係についておちょくっているが、しかし口には出さないだけで【ラボ】の研究員のほぼすべては、二人の一際親密な関係を理解している。
ラトリは重要な案件は黒村に任せることが多く、プライベートでも黒村と一緒にいることが多い。なにかにつけ黒村の名を出すことも多く、「ベストパートナー」を自称しているほどだ。
対する黒村は、そんなラトリに辟易している素振りを見せているが、最後には彼女の言う通りに行動しており、傍から見ても所長に尽くしているだろうことは分かる。人によっては唯々諾々と従っている操り人形のようだと称する者もいるが。
聞くところによると、黒村は【ラボ】が設立してからかなり早い段階で【ラボ】に所属していたようで、ラトリとの付き合いも他の研究員より比較的長い。さらに非常に有能なので、ラトリが頼るのも理解できる。
加えてラトリが黒村のことを気に入ったということもあるだろう。そういった諸々の要因が積み重なり、ラトリと黒村はもはやセットとして扱われている。他の組織からも、ラトリ・ホワイトロックと言えば側近に『傀儡劇団』がいる、と認知されているほどだ。
「……およ、ロックオンされた、かな?」
「はい?」
唐突に意味不明なことを言い出すラトリ。とはいえいつものことなので、驚くほどでもなく、希野はほぼ条件反射で問い返す。
「あれだよ、ルック」
ラトリはやや斜め前方を指差す。するとその空間が歪み、一体のクリーチャーが現れた。
「っ、《真姫ヴィクトリア》……!」
「あっちにもいるね、《エンペラー・マルコ》か」
出現したクリーチャーに、希野はデッキケースに手をかけて身構える。対してラトリは、まじまじとそのクリーチャーたちを眺めていた。
「アテナ、行ける?」
「厳しいです」
ずっ黙ったまま浮いていたアテナに、ラトリは呼びかける。だがアテナは首を振った。
「実体化してから初めてこの空間を開いたので、まだ感覚を取り戻せていません。デュエル中、アテナの開いた神話空間が解除される可能性を承知した上であれば、ご随意に」
「そっかー、なら仕方ないね。こっちでプレイしよう」
いくらラトリでも、一般人を巻き込みたいとは思わない。無関係な者を関与させないアテナの神話空間が解かれてはラトリだって困るのだ。
なのでラトリはアテナを組み込んでいない、別のデッキを取り出した。
「そっちは任せたよ、希野ちゃん」
「はい。この程度の相手なら、すぐに片付けます」
そんな希野言葉を皮切りに、二人はそれぞれの相対するクリーチャーと共に、もう一つの神話空間へと入っていく。