二次創作小説(紙ほか)

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.531 )
日時: 2014/03/17 18:00
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

 アテナの開いた神話空間により、無関係な者はすべてこの空間から弾かれている。これは外部からの人間にも該当し、無関係な者であればその空間が開いていることにも気付かず、なにも知らないままその空間とは違う、そのままの世界へと入っていく。
 だが、外部から“関係者”が入ってきた場合は、その限りではない。
 神社の鳥居を潜り境内へと入った瞬間、特殊な神話空間がそこには広がっている。神話空間の内外の狭間に、三人の人影が見えた。
「おーおー、なんかラトリに呼ばれたから来てみたが、なんか凄いことになってんな」
「クリーチャーが、こんなに……どど、どうしよう、ささちゃん……」
「どうしようもないでしょ。いくらなんでも多すぎ、あたしたちがちまちま倒していける数じゃないわ」
 三者三様の反応。しかし、目の前に群がっている夥しい数のクリーチャーたちを目の当たりにしても、さほど悲観的ではないように思えた。
 それはそうだろう、彼らは【神格社界】のトップにして“ゲーム”ナンバー2のルカ=ネロに加え、その側近とも呼べるトリオだ。たかだかクリーチャー程度に恐れをなすような連中ではない。
 とはいえこの数を相手にするとなると、彼らでも厳しい。倒すこと自体は簡単でも、倒し切るまでに体力がもたないだろう。ルカはともかく、ささみとうさみは体力的にきついものがある。
「つっても、こいつらが邪魔で先には進めねえなぁ……仕方ない、うさみ! ささみ!」
「っ! な、なんでしょうか、かいちょーさん……?」
「なによ? まさかあたしたち二人でこいつら倒せとか言うんじゃないわよね?」
 二人の名を呼ぶルカ。ささみとしては、たった二人でこのクリーチャー群と戦うなんてまっぴらごめんだが、ルカならそのように言いかねない。
 だがこの時に限っては、そうは言わなかった。
「俺もクリーチャーの相手なんざ好き好んでしたくはないが、流石にこの数はお前らじゃあ荷が重い。雑魚狩りは俺に任せろ」
 代わりに、とルカは二人にその役目を告げる。
「お前らはラトリを探して来い。連絡があったタイミング的に、この雑魚を掃除する手伝いをさせるために呼んだんじゃねえだろう」
「一緒に初詣に行こう、って連絡があったわけだし、そりゃそうでしょうね」
「クリーチャーが出るなんざ俺たちの世界じゃ日常茶飯事だが、この数は妙だ。俺でもちっとばかし気になるところではある……あいつならなにか知ってんだろ。あいつ呼んで来い、説明させっから」
 確かにこの状況は、ルカでなくとも説明が欲しいところではある。
「それに、俺の推測だとこの場所にはなかなかの手練れが多くいる、気がする。雑魚ばっかとはいえ、その肩慣らしくらいにはなるだろ」
 デッキを取り出し、首や指をコキコキと鳴らしながら、ルカは前方のクリーチャーたちを見遣る。
「っていうかそれが目的よね。まあいいわ、どの道この数相手にするのはきついし。それでいいわよね、うさ」
「あ、うん。じゃ、じゃあ、かいちょーさん、無理、しないでくださいね……?」
「おう」
 次の瞬間、石畳を蹴りつけるように駆け出し、ルカはクリーチャーの群れに突っ込む。同時に、ルカの姿がクリーチャーと共に消えていく。
 そうしてできた隙間を縫い、ささみとうさみはクリーチャーの群れを突っ切っていく。



「……んだ、こりゃ」
 ルカたちとは別の鳥居から入った三人組の姿がそこにはあった。
 ただこちらは、白銀の髪をした外国人、学生と思しき少年、2mはあろうかという大男という異色の三人組であり、神話空間に入るまでは一般たちから浮きまくっていた。
 白銀髪の男——ジークフリートは、少々の怒気を見せて吐き捨てる。
「ロッテ仕業か……くそっ、『神話カード』は玩具じゃねえんだぞ。こんなにカードをばら撒きやがって」
「まあ、シャルロッテ様のことだから仕方ないとは思うんですけどね。まだ子供ですし、師団長だって日本に渡る許可出したじゃないですか」
「日本に行く許可は出したが、《ユピテル》を持ち出す許可を出した覚えはねえ。あいつ、俺の『神話カード』を勝手に持っていきやがって。帰ったら仕置きが必要だな」
 事の始まりは、ジークフリートが自身の持つ『神話カード』がないことに気付いたことだ。本来、ジークフリートは日本に来る余裕などないはずなのだが、しかしシャルロッテが彼の持つ『神話カード』、《支配神話 キングダム・ユピテル》を持ち出したらしいと推測したジークフリートは、大慌てで日本に渡り、こうしてシャルロッテがいるはずの神社へとやって来たというわけである。
「つーか、ロッテの身勝手も大概だが、クトゥグアとハスターはなにやってんだ。《ユピテル》を持ち出したことには気づかなくとも、なんでこんなことになってんだよ」
「それもシャルロッテ様の身勝手でしょうけど……やっぱクトゥグアの奴は使えませんね。ハスター君はまだ甘いところがあるから仕方ないにしても、あいつのせいでこの状況が出来上がってしまっているという風にも取れますよ」
「ニャルラトホテプ、お前がクトゥグアと絶望的に険悪なのは知っているが、こんな時にまで悪態ついてんじゃねえよ」
「……すみません」
 どんな姿になろうとも、ニャルラトホテプとクトゥグアの険悪さは変わることがなかった。
 それはそれとして、
「とにかく、まずはロッテを探す。もし《ユピテル》が他の奴らの手に渡ったら最悪だ。それだけは絶対に阻止するぞ」
「分かりました」
「…………」
 有声と無声でそれぞれ返事し、三人を歩を進めていく。辺りには無数のクリーチャーが蔓延っているが、彼らはそれらを無視。出所が出所なので、こちらを襲うことはまずないはずだ。
「……そういえば、隊長連中はどうしました? 確か、何人かは来るんですよね」
「ああ、《ユピテル》と《ユノ》を失う可能性があるなら、手の空いてる奴は全員出撃だ。奴らは準備ができ次第、個人でこっちに向かうことになっている。たぶん、そろそろ来ると思うがな」
 険しい面持ちで答えるジークフリート。それだけ《支配神話》と《生誕神話》の二枚、特に自身の所有する『神話カード』の存在は、彼にとって大きいものなのだろう。
「……そうだ。偵察用のクリーチャーを放っておくか。念のために溜めといて良かったぜ」
 思い出したようにそう言って一枚のカードを取り出すと、ジークフリートはそれを適当な方向へと飛ばす。同時に、そのカードへと命令を下した。
「手段は問わない、如何なる手を用いても構わない。ロッテを探せ——《ゾロスター》」
 遠くで「御意」という声が小さく響く。ジークフリートはもはやその声の方を見てはおらず、正面を向いて歩を進めながら、その声を聴いた。
 それから、彼も小さく呟く。
「さて、ロッテの馬鹿はどこにいやがるのか……」
 小さな幼女のことを思いながら、ジークフリートは冬空を仰ぐ。そして憂鬱そうに、溜息を吐いた。