二次創作小説(紙ほか)

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.539 )
日時: 2014/03/24 17:37
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

 神話空間が閉じたのは、ほぼ同時だった。ほぼ同時にクトゥグアとハスターは地に降り立ち、ほぼ同時にささみとうさみは地に倒れる。
「ふぅ……さっすがルカ=ネロの側近ってだけあって、そこそこ強かったね」
「でも……所詮は雑魚。私たちの敵じゃない」
 それぞれ軽く息をついてからデッキを収め、地に伏した双子を見下ろす。
「う、うぅ……ささちゃん……」
「これは、ちょっとまずいわね……」
 眼前に立つ二人の存在は、やはり自分たちには大きすぎたようだ。結局、最後はいいようにされてしまった。
「さーてクトゥ、この二人どうしようか?」
「……拘束、連行、処理。それだけ」
 双子が自身の敗北に悔いを感じている間も、二人の間では不穏な会話が繰り広げられていた。
 まずい、たった三文字の言葉だけが、ささみの脳内を駆け巡る。うさみに至っては思考回路が完全にショートしており、混乱している。
 このままではなにをされるか分かったものではない。逃げたくても逃がしてはくれないだろう。戦おうにも自分たちは既に敗北している。
 もうどうしようもないのか。どう思い、諦めかけた、その時だ。

「あれ? ささちゃん、うさちゃん? こんなプレイスでなにしてるの?」

 聞き覚えのある声と口調。ささみはバッと顔を上げ、その発生源を見遣る。
 そこにはやはり、見覚えのある顔があった。いや、見覚えがある、などというレベルではない人物が、そこにはいた。
「ラトリさん……!」
「え……ラトリ、さん……?」
 うさみも顔を上げ、彼女の姿を視認する。そこには呆然としていながらも驚きがあり、そして安堵と安心感があった。
「ダイレクトなミートは久し振りだね。なんかボロボロだけど……あぁ、成程。アンダスタンドしたよ」
 その人物——ラトリは、双子の様子、そして彼女たちの前に立つクトゥグア、ハスターを見て、状況を理解したようだ。
「君たちはジー君とこの、なんとか四天王だっけ? マイフレンドになにをしてくれたのかな?」
 ラトリの表情も口調も、いつも通りのどこかフレンドリーさがあった。だがしかし、その声の裏には、彼女らしからぬ怒りに似た感情も読み取れる。
「ラトリ・ホワイトロック……あー、また厄介というか面倒というか、この人と遭遇しちゃうなんて、ついてないなぁ……どうしよう、クトゥ?」
「…………」
 ラトリの問いを無視して、クトゥグアに意見を仰ぐハスター。クトゥグアはなにか考え込むようにジッと動かないが、やがてゆっくりと口を開いた。
「……私たちの目的は、ロッテちゃんを探すこと。相手が格下なら、雑魚を掃除する感覚で潰せばいいけど……ラトリ・ホワイトロックの実力は、未知の部分が多い」
「ということは?」
 聞くまでもないと分かってはいるが、ハスターは再び問う。それは確認でもあり、同時に自分たちの為すべきことの自覚と宣誓でもあった。
「最優先事項……この場は退去して、ロッテちゃんを探す」

「あぁ、そうしろ」

 突如、クトゥグア、ハスターの背後から、男の声が飛んでくる。
 その声に軽く飛び上がりそうになる二人は、慌てたように振り返る。そしてそこにいたのは、ある意味この状況下で最も会いたくない人物。
 自分たちのボス、【神聖帝国師団】師団長、ジークフリートだった。その後ろには、学生と思しき少年と、異様に巨大な青年がいる。
「し、師団長……!? なんで日本に……」
「あ、えっと……その……」
 驚きを禁じ得ない二人。二人は、ありていに言って失態を犯してしまっている身なので、その失態を隠匿できる状態になるまで、彼には会いたくなかった。いや、合わせる顔がなかった、と言うべきか。
 本来ならジークフリートは日本にいるはずがない。だから二人は、焦りながらもどこかで安心があった。しかしここで、その安心は吹き飛ばされる。
「話は全部聞いたぜ、クトゥグア、ハスター。てめぇら、ロッテのことちゃんと見とけつったろうが。誰があいつの世話係だと思ってんだよ」
「ぼ、ぼくらです……はい……」
「すみません……」
 さっきまで軽薄な笑みを浮かべたり、表情がなかったり、形は違えど余裕を見せていた二人は、一瞬で頭が垂れ、勢いも沈んでいた。
「……まあいい。俺もあんま人のこと言えねえしな。頭下げてる暇があるなら有言実行しろ。さっさとあいつを探しに行け」
「は、はい……」
「分かりました……」
 意気消沈とまでは行かないが、やや沈んだまま二人はそれぞれ別方向へと駆け出す。その時、ジークフリートの背後で侍っていた少年が何気なく嘲笑的な笑みをクトゥグアに向け、クトゥグアも無感動だが睨むようにそちらへと視線を送った。言葉のやり取りはなく、それだけだが。
「……また会ったね、ジー君。しばらく君と会うことはないと思ってたよ」
 クトゥグアとハスターがいなくなると、ラトリはゆっくりと口を開く。その口調はいつもの軽いものではなく、ある意味では普通の口調だった。
 ただし、彼女の性格から考えれば、その口振りは必要以上に重苦しく思える。
「だな。俺も同感だ。俺としては会いたくもなかったがな……つーかその呼び方やめろよ。俺たちは敵どうしだぜ」
「だからなに? 確かに今、私の組織と君の組織はほぼ対立関係だけど、敵対してるからって、それは友達が友達であることとは無関係だよ。ルカ君も、そしてジー君も……私の大事な友達だよ」
「黙れよ、胸糞悪い……いつまで餓鬼のつもりでいやがるんだ。人間がいつまでも同じ関係でいられると、本気で思ってんのか?」
「事実は関係ないね。ただ、私がそうありたいと思ってるだけ。そうありたいから、そうだと考えてるだけだよ」
 どちらもあまり抑揚が感じられない、平坦な声。しかしその言葉の応酬は、言い様もない重みがあった。
「ま、こんなとこでする話でもナッシングだよね。本当なら君とルカ君とで会談でもオープンしたいところなんだけど」
「会談なんざまっぴらごめんだぜ。お前と話すことなんざねえし、ルカの野郎に至っては、顔すら見たくねえ——」
 思い出したくもない男の顔を思い浮かべてしまいながら、ジークフリートが嘆息混じりに呟く、その時。
 咆号の如き雄叫びのような声が、耳をつんざく。

「俺を呼んだか——ジークッ!」

 爆音と共に、男が爆走してくる。その男は一直線にジークフリートへと突っ込んでいった。
「っ、ルカ……誰がてめえなんざ呼ぶか、馬鹿野郎が!」
 叫ぶジークフリート。正面衝突でどちらも大怪我必至だと思われるような突撃を、ジークフリートは両手を使って拒むように止める。その表情は怒りに近いが、どちらかと言うと面倒や憂鬱といった感情が強い。面倒な目に遭わされて憤慨している、といったところか。
「か、界長……」
「かいちょーさん……」
 か細く呟くように彼を呼ぶささみとうさみ。その消え入りそうで聞き逃してしまいそうな声も、ルカ=ネロは聞き逃さなかった。
「ようお前ら。頑張って戦ったみたいだな、よくやった」
 とはいえ彼の関心は完全に目の前のジークフリートにあるようで、どこか軽い印象を受けてしまう。しかしそれもいつものことなので、逆に安心する。
「ちっ……邪魔なんだよ! 失せろ!」
「おっと、毎度のことながらつれねえなぁ」
 ルカを突き飛ばすジークフリート。しかしルカは軽く着地し、辛辣な言葉も受け流す。
「あの、師団長……」
「分かってる。ここでこいつらに構ってる暇はねぇ。俺たちもロッテを探しに行きたいところだが……」
 眼球だけを動かして周りを確認する。目の前にはラトリ・ホワイトロックとルカ=ネロ。その後ろにはささみ、うさみがいるが、この二人は既に満身創痍、戦力としてカウントする必要はないだろう。
「……ねぇ、さっきからずっと気になってたんだけどさ。そこの彼、誰? 空城君……じゃ、ないよね? あの子、今日は巫女服着てるはずだし」
 ジークフリートの背後で控える、空城夕陽の姿をした少年に疑問を感じていたラトリは、ジークフリートとルカの鍔迫り合いが一段落したところでその疑問をぶつける。
「あぁ? こいつか? 誰が教えるかよ、こいつは【師団】の秘密兵器だ。どうしても知りたいなら自分で調べやがれ、調べるのは得意だろ」
 だが、その疑問は一蹴されてしまった。当然と言えば当然だが。
「んなことより、どうすっか……ラトリはお前らでも問題ないだろうが、ルカの馬鹿野郎を相手取れるのは、この世界じゃ俺だけだしな……」
 戦力だけで言えば三対二、ジークフリート側が有利だ。しかしジークフリートとしては、ルカとは戦いたくない。だが後ろの二人では、ルカには敵わないだろう。
 しばし考え込むジークフリートは、気が進まないものの、ベストと思われる判断を下した。
「仕方ねぇ、ルカは俺が止める。その間、お前らはロッテを探せ。最優先事項は《ユピテル》と《ユノ》の保護だ。だからブラックリストに載ってる奴を見つけたら潰しとけ」
「分かりました」
「……御意」
 次の瞬間、少年と大男が違う方向へと駆ける。ラトリもルカも、それを追おうとはしない。
「……ふっ。まさかお前から俺に戦いを挑むとはな。今度こそ決着をつけるぞ!」
「いつも決着ついてるだろうが、お前が俺に勝てたことがあるか? つーか、俺だってお前なんかと戦いたくはねえんだよ。今回は仕方なくだ」
「そんなことよりさ」
 さらに高揚するルカと、対照的に憂鬱そうな息を吐くジークフリートの間に、ラトリが割って入る。
「私のこと忘れてない? もしかして私、戦力としてカウントされてないの?」
「しなくてもいいような気はするがな。だが、お前はお前で放っておくと面倒だ。かと言ってロッテを探す役はあいつらの方が適任だしな。だから……こいつが相手だ」
 言ってジークフリートは、一枚のカードを取り出し、ラトリへと投げつけた。そのカードはラトリに到達する前に、実体となって顕現する。