二次創作小説(紙ほか)
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.540 )
- 日時: 2014/03/20 01:04
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
「《マントラ教皇 バラモン》……!」
実体を伴い現れたのは、筋骨隆々な神官。内部分裂を起こしたオラクルの、マントラ派をまとめる教皇だ。
「バラモン、そいつの相手はお前に任せた」
「はっ」
ジークフリートに頭を下げると、バラモンはラトリと、その後ろにいるささみ、うさみの前に立ち塞がる。
「……なんか、ストロングな気配がするなぁ」
「たりめーだ、そいつは量産型の雑魚とは違う。《ユピテル》と《ユノ》が生み出した、数少ない傑作だぜ。果たして、お前が敵うか?」
ラトリは一度バラモンをジッと見据える。その眼光は、見るからに強者のそれだ。眼だけではない。立ち振る舞いや彼の纏う空気からも、その強さは感じられる。
「マスター」
唐突に、カードからアテナが飛び出した。一体どうしたのかと問う前に、アテナはラトリにい放つ。
「はっきり言います。マスターのデッキでは、あのクリーチャーには勝てません」
「ワォ、本当にはっきり言われたよ……でも、君が言うならそうなんだろうね」
バラモンが強いということは、ラトリにも理解できる。だからと言って、逃げるわけにはいかない。後ろには小さな双子がいるのだ。
かといってバラモンの相手をルカにさせると、今度はラトリがジークフリートの相手をしなければならなくなる。それならまだバラモンの方がマシだが、どちらにせよ敗北の色が濃厚だ。
「せめて君が入ったデッキでプレイできたら、もう少し違ってたんだろうけどね」
「その行為自体は止めません。しかし、そうした場合に発生する可能性のある損失については、責任を負いかねます」
「だよねぇ」
神話空間を支配しているのはラトリなので、無理やり神話空間に引きずり込まれてデュエル、という状況は起こらない。だが、物理的に逃げることも不可能だ。
ここでずっと睨めっこしているわけにもいかないので、最後には戦わなくてはならないが、戦っても負ける可能性の方が高い。
「ラトリさん……」
心配そうに見上げる双子。彼女たちも、今ラトリが抱えているジレンマが理解できないわけではない。かといって自分たちになにかができるわけでもない。これ以上戦えない自分たちは、むしろ足手まといなのだ。
そんな事実を改めて自覚してしまい、暗くなる。だが同時に、光も見えた。
「……あっ、そうだ、ささちゃん」
「な、なによ」
「あのデッキがあるよっ。この前、かいちょーさんと作った……」
「あ、あぁ、あのデッキ……確かに、界長も手を加えたデッキだし、もしかしたら……」
意を決し、二人は立ち上がった。そして、ラトリの白衣の裾を引っ張る。
「ラトリさんっ」
「え? な、なに? ホワット?」
「このデッキを……!」
二人は、一つのデッキをラトリに手渡す。ラトリはやや困惑したようにそのデッキを受け取り、ざっと眺めた。
「これって……もしかして、ルカ君が作ったデッキ?」
「正確には、界長とあたしたちが組んだデッキです」
「かいちょーさんは、ラトリさんのことを考えて、そのデッキを組んだそうです」
二人はこのデッキを作っていた時のことを思い出す。ルカが気まぐれを起こしてラトリにも使えそうなデッキを組もうとしたが上手くいかず、そこでささみとうさみが引っ張り込まれたのだ。なので最終的には、ラトリと、ささみ、うさみの三人らしさの詰まったデッキとなった。
「かいちょーさんは、このデッキはいらないって、言ってましたけど……ラトリさんなら、このデッキも使いこなせるはず、なのです……っ!」
「あたしたちも口出ししてるので、あんまり強いデッキじゃないかもしれませんけど……」
どこか強気になるうさみと、弱気になるささみ。いつもと違う挙動を見せる二人だが、その思いはどちらも同じだった。
ラトリは少し意外そうに目を見開いていたが、やがて二人の気持ちを汲み取ったように、彼女たちの頭を撫でた。
「……ありがとう、ささちゃん、うさちゃん。このデッキ、使わせてもらうね」
「……はいっ」
「ありがとうございます!」
二人の顔が明るくなる。そしてラトリも、決意したようにバラモンと相対する。
「……用は済んだか? 今まで待ってやったのだ、ありがたく思え」
「オーケー、ベリーベリーサンクス」
バラモンの威圧的な声に、ラトリは軽く適当に返した。微塵もありがたく思ってなどいない。
「マスター」
「大丈夫だよ、アテナ。ささちゃんとうさちゃん、それにルカ君の三人が、私のために組んでくれたデッキだもん……負けるはずがないよ」
どこか自分に言い聞かせるように、ラトリはそのデッキを構える。左右の斜め後ろにはささみ、うさみ。頭上にはアテナがいる。
「……こっちもとっとと始めようや、ジーク!」
「ちっ……気は乗らねえが、仕方ねぇ。相手してやるよ」
そしてジークフリートとルカも、戦う態勢に入った。
「……アテナ!」
「了解。対戦式局地神話空間、展開します」
刹那、二つの神話空間が開かれた。
ラトリ、ささみ、うさみの三人とバラモン、そしてジークフリートとルカが、それらの神話空間の中へと、吸い込まれていく——
わらわらと湧くクリーチャーたちを速攻で排除していく中、黒村は人影を見た。
それは見知った顔ではないが、知らない顔でもなかった。実際に見るのは初めてだが、頭の中には入っている顔。有事の際、知っておくべきだと判断したために頭の中に入れている。ブラックリストに載っている人物。
即ち、それは敵だった。
「ヒャッハァー! まさか、かの『傀儡劇団』と、このような辺境地で会い見えるとはなァ!」
「……シーザー・ジャン・ジャック、か」
鼓膜が破れるのではというほどの声量と、海賊のような出で立ちの変わった男だ。所長はなんと呼んでいたか、と記憶を探る黒村。顔は覚えているが異名までは覚えていない。そこまで覚える必要性を感じていなかったからだ。
「正直、お前などに構っている暇はない」
「そうかァ。実は私も、今回は人探しをしている身なのでなァ……戦うことが目的ではないのだ。ならば、ここはお互い見て見ぬ振りをして、穏便に——」
「だが、【師団】の隊長クラスをここで見逃す手もないな」
次の瞬間、黒村を中心とした神話空間が展開される。
シーザーは問答無用で、その神話空間へと飲み込まれてしまった。
黒村がシーザーと双う遇した一方、九頭龍も【師団】の隊長と相対していた。
それも、懐かしの顔だ。
「えーっと、なんて言ったっけ、君……なんとかって名前だったよね。なんとなく僕の名前と似てたから覚えてるよ。えーっと……なんだっけ?」
「全然覚えてねえじゃねえか」
思わず真面目くさって突っ込む葛葉龍泉。フェイスペイントや奇妙な柄のTシャツなど、どこか狂った印象を与える男だった。
「ま、名前なんてどうでもいいや。で、なんで君はここにいるのかな? 初詣に来たにしては、神頼みをするって柄じゃないよ、君。というか神様に見捨てられてそうだよね」
「お前にだけは言われたくねえなあ、九頭龍希道。なに、心配するな。なにも俺は初詣に来たんじゃねえ」
人探しだ、と短く答える龍泉。しかしすぐに狂的な笑みを浮かべ、その言葉も信用ならない。
そして実際、彼は人探しなどどうでもよくなっているようだ。
「ここで会ったが百年目だ、九頭龍希道! 今度こそお前を、俺の《バイオレンス・サンダー》の雷で射殺してやる!」
「……もうあの雷は喰らってるけどね」
デッキを取り出して臨戦態勢の龍泉。対する九頭龍は、ふぅ、と息をつく。
「別に僕としては君に興味なんてないんだけど……まあしょうがないかな。ちょっとだけ相手してあげるよ」
ただ、と付け加え、九頭龍は続ける。
「先に言っとくけど、君に勝ち目はほとんどないよ。初見の相手ならいざ知らず、僕だって【ラボ】の人間だからね。二回目の戦闘で、同じデッキを使って勝てるだなんて思わないで欲しいな」
「はんっ、ほざけ。そんな余裕かましてられるのも、今のうちだぜ」
「それは僕の台詞……なんて言うのはやめよう。君みたいな思考回路の人間には、こんな言葉は無意味だからね」
暗に龍泉を馬鹿だと言っているような九頭龍も、デッキを取り出して構えた。後は二人の意志で、いつでも戦いが開始される。
次の瞬間、二人は神話空間の中へと入っていく。