二次創作小説(紙ほか)
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.541 )
- 日時: 2014/03/20 08:07
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
「しっかし数が多いなぁ……というか、なんか増えてないか? なぁ、リュウ?」
「ナガレだ。確かに、時間の経過と共に数が増えていっているようだな……」
流と零佑はわらわらと湧き出て来るクリーチャーたちを次々と薙ぎ倒していたが、そのあまりの数にそろそろ気が滅入って来た。
最初の頃と比べて確実にクリーチャーの数は増えている。どこかでクリーチャーを放っている者がいるのだろうが、その者が放つペースを上げたのだろうか。
「いっそ移動しながらの方がよかったかもな。恐らく、俺たちが一点に集まって動かないでいるせいで、集中的に狙われている」
「マジかよ……」
あくまで憶測だが、あながち間違ってはいなかった。事実、流と零佑のいつこの場所には、特に多くのクリーチャーが集まっていた。
「しかし、クリーチャーの殲滅が目的ならば、むしろ向こうからやって来る方が効率がいい。クリーチャーの発生源を叩くのは空城夕陽たちに任せ、俺たちは囮になっているのが適任だ」
「適任つーか、もうそうなっちまってんだけどな? まあ、俺としてもただ雑魚を狩ってる方が楽だし、それはそれで構わねえけど」
「そうだな。人なのかクリーチャーなのかは知らないが、探しものは得意ではない。そこは適材適所、役割分担だ。俺たちがこのクリーチャーたちを引きつけ、その間にあいつらが大元を叩けばいい」
つまり、自分たちのすべきことはなにも変わらない。
「んじゃ、休憩終了だ。大事な後輩のためにも、もう一頑張りするとすっか」
「ああ、そうだな」
休憩がてら雑談に興じていた流と零佑は、自分たちを取り囲むように集まっているクリーチャーたちを見遣り、デッキを構えた。
と、その時だ。
「こんなところに集まっているとは……烏合の衆だな。本当に目的もなく動いているのか」
クリーチャーを掻き分けて、一つの人影が姿を現す。
いや、その影もクリーチャーだった。
「っ、《ゾロスター》……!」
羽のように左右に広がった特徴的な赤髪。片手に錫杖を構えたその姿は、《策士のイザナイ ゾロスター》だった。
いつかの文化祭で流が戦ったイザナイの一人。あの時は流が勝利し、確かにカードに戻したはずだ。しかし今、こうして目の間に存在している。
「お前、生きていたのか……?」
思わずそんな言葉が漏れる流。しかし、ゾロスターの反応は流の創造するそれとは異なるものだった。
「? なんの話だ。私は貴様のことなど知らんぞ」
疑問符を浮かべているゾロスター。その言葉に少し戸惑う流だったが、すぐにピンと来た。
(あの時のゾロスターとは別固体ということか……? 考えてみれば当然か。あの時のゾロスターはカードに戻し、俺が回収したはずだからな)
なので【師団】がまた新しい《ゾロスター》のカードを実体化させたと考えるのが普通だろう。
そんな風に考える流に対し、ゾロスターはまたも不可解なことを言う。
「それに、正確には私はゾロスターではない。今は確かに、ゾロスターだがな」
「……? どういう意味だ」
「深い意味はない。そもそも、私はただの偵察だしな」
ゆえに貴様たちの相手をするつもりもない、と告げるゾロスター。
しかし流としては、ここでゾロスターを野放しにしておくつもりもなかった。ゾロスターがこのクリーチャーたちを放っているとは思わないが、ゾロスターだってイザナイのクリーチャーだ。新しいクリーチャーを呼び出すことができるはず。
「……零佑」
「分かってんよ。そいつはお前に任せた。俺はちまちま雑魚を狩ってる」
「すまないな……ネプトゥーヌス」
「分かっている」
ネプトゥーヌスを引き連れて流は歩を進め、ゾロスターの前に立つ。
「……やる気か?」
「ああ」
「私は確かに偵察だが……戦うな、とは言われていない。いいだろう、相手になってやる。だが、負けてから後悔しても遅いぞ?」
「ああ。勝てば問題ないな」
ジッとゾロスターを見据える流。ゾロスターも静かな闘志を表し、錫杖を強く握る。
次の瞬間、流とゾロスターは、神話空間へと突入した。
「…………」
適当にクリーチャーを蹴散らしながらクリーチャーの発生源を探していた希野は、巨人と遭遇した。
いや、巨人と言うには些か大げさだが、人類としてはかなり大柄な男だ。
そして“ゲーム”の世界においても、かなりの大物であった。
「『夢海星辰』……!」
染めているような青い髪を不揃いにたらした大男、【神聖帝国師団】帝国四天王が一人、クトゥルー。
その男は押し黙ったまま、希野を見下ろしていた。
「…………」
普段から口数の少ないクトゥルーは、この時も口を開かない。ただジッと、希野を見下ろしている。
とりあえずこのままではなにも進まないので、希野は言葉を投げかけた。
「【師団】の四天王が、あたしのような一介の研究員になんの用かしら」
「…………」
「もしかしたら【師団】が噛んでいるかもとは思っていたけど、まさか四天王までもが動員されているなんてね。なにが目的?」
「…………」
「確か、『夢海星辰』と言えば四天王のリーダー格よね。他にも四天王はいるのかしら? 隊長クラスもいたり、もしかしたら師団長も?」
「…………」
まったく反応がない、カマをかけてもなにも言わない、不動明王の如く動かない。石像だと言っても通じるほどに不動だった。
「やりにくい……」
“ゲーム”の世界では、参加者同士の敵対心が強すぎてコミュニケーションができないことが多々あるが、それでもなにかしらの言葉は交わされるので、少なくとも相手の考えていることはなんとなく読み取れるもの。
しかしクトゥルーはまったく言葉を発さず、表情すらも変化が見られないので、なにも分からない。やりにくことこの上なかった。
しばらくクトゥルーに見下ろされていた希野は、やがてクトゥルーがローブの中に手を突っ込むのを見た。そしてその手が出て来たとき、握られていたのは、
「デッキ……?」
再びクトゥルーを見る希野。やはり表情は変わらない。
だが、向こうに戦う気があるということだけは理解できた。
「四天王のリーダーが相手なんて……あたしも【師団】内では評価されてるってことかしらね。光栄だわ」
自分で言ってそうではないと思うものの、それでも希野は【ラボ】の中ではそれなりの実力者だ。【師団】がマークしていたとしても、おかしい人物ではない。
「……このまま睨み合っていても時間の無駄だし、お相手するわ」
希野もデッキを取り出し、戦う意思を見せる。
正直、希野は目の前の男に勝てるとは思っていなかった。確かに希野も決して弱いわけではないが、相手は【師団】の四天王、それもリーダー格であるクトゥルーだ。あまり前線には出ないので情報が少なく、どのようなデッキを使用するかもよく分かっていない。
だが、相当な強者であることだけは分かる。それは彼の戦果だけでなく、こうして向かい合っている中で感じる空気からも読み取れた。
しかし、希野は退かない。それは退けそうにないからではない。相手が如何に強かろうとも、撤退できる状況であっても、希野は戦う。
(情報の少ない【師団】の四天王……その情報を持ち帰るだけでも、【ラボ】にとってはプラスになる。さらに、その四天王を倒せれば——)
——所長も、もっと自分を評価してくれるかもしれない。
そんなことを考える希野。自分でも過ぎた向上心、もはや慢心とも言えるような思考だと思うが、彼女も彼女で必死だった。
嫌悪する双子の兄はかなり問題のある人物だが、なんだかんだ言っても優秀な研究者。性格に問題がありすぎて単純比較されることはなかったが、しかしどうしたって比べられてしまう。
その評価がすぐに覆されるとは思っていない。だが、彼を知っているがゆえに湧き上がる劣等感は如何ともしがたかった。
そんな様々な思いが混ざり合い、希野はデッキを構える。
刹那、二人は神話空間の歪みに、飲み込まれていった。