二次創作小説(紙ほか)

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.543 )
日時: 2014/03/20 21:40
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

「……この程度ですか。ならば、私の勝ちですね」
「はぁ?」
 小さい汐の呟きを、ルシエルは聞き逃さなかった。そして、どこか彼女を嘲るような声を上げる。
「妄言ですね、この状況が分からないのですか? 四体のゼニスに加え、この数のエンジェル・コマンドが揃っているのですよ? ……あぁ、成程。あまりの神聖な気配にあてられてしまったのね。同情するつもりなんて微塵もないけれど、むしろそのまま浄化されて灰になればいいのに……」
 後ろの言葉はともかく、ルシエルの言っていることは間違ってはいない。
 彼女の場には《「俺」の頂 ライオネル》《「獅子」の頂 ライオネル・フィナーレ》《「十尾」の頂 バック・トゥ・ザ・オレ》《「祝」の頂 ウェディング》の四体のゼニスを初めとして、《偽りの星夜 エンゲージ・リングXX》《時空の霊魔シュヴァル》《龍聖霊ウルフェウス》《魔光騎聖ブラッディ・シャドウ》《神門の精霊エールフリート》、《先導の精霊ヨサコイ》《結杯の堕天カチャマサングン》が二体ずつと、相当数のクリーチャーを並べている。
 対する汐は、《ウェディング》の能力で手札四枚がシールドとなり、シールドは九枚あるが、場には《猛菌恐皇ビューティシャン》が二体と《希望の親衛隊ファンク》《貴星虫ヤタイズナ》の四体のみ。これらのクリーチャーで、ゼニス四体を擁するルシエルのクリーチャー軍と戦うのは厳しいだろう。
 この四体では、の話だが。
「このターンに《ヤタイズナ》を除去できなかった時点で、あなたの敗北はほとんど確定しているのですよ。私のターンです」
 《ライオネル》と《ライオネル・フィナーレ》のコンボからS・トリガーでクリーチャーを大量展開したルシエルだが、このターンに攻撃はできず、ターン終了。汐のターンが訪れる。
「ふふっ、各ターンの初め、私の場にコスト6以上のエンジェル・コマンドが二体以上存在しているため《シュヴァル》が覚醒——」
「の前に、です」
 汐がルシエルの言葉を遮る。確かにこのターンの最初に《シュヴァル》は覚醒するが、それよりも前に、発動する効果があるのだ。
「《ヤタイズナ》の能力発動です。私の墓地の進化クリーチャーをバトルゾーンに出すですよ」
「……今更、進化クリーチャーの一体や二体が出て来ても、この圧倒的状況は変わらない。いく足掻こうとも、悪魔に神の救いはないのだから、さっさと諦めて消えなさい!」
 苛立ち叫ぶルシエル。対する汐は、静かに言葉を返す。
「実を言うと、私はあまり神様というものを信じてはいないのです。なのでこの格好も、あまり乗り気ではなかったのですよ」
 汐は身に纏っている巫女服を少しつまんで、そんなことを言う。
「なので神の救いなんて、最初から期待はしていないですよ……ですが、神話の力になら、救われるかもしれないです」
 刹那、汐の墓地が暗く輝いた。《ヤタイズナ》の能力で、進化クリーチャーが蘇るのだ。
 この時、漆黒の渦に飲み込まれたのは《ヤタイズナ》《ファンク》《ビューティシャン》の三体。つまり、

「蘇りし月影の力、禁断の魔術と共に闇夜の空を射抜け。神々よ、調和せよ。進化MV——《月影神話 ミッドナイト・アルテミス》」

 『神話カード』が、降臨する。
「っ、《月影神話》……!?」
 現れた《アルテミス》に目を見開くルシエル。完全に汐と自分の場しか見ておらず、この展開は予想していなかったようだ。
『やっと出て来れたわ……汐、今回はあの女を射抜けばいいのかしら?』
「そうですね。ですが、今回は射殺す前に斬り殺してもらうですよ」
 さらりと恐ろしいことをのたまう汐。そもそも《アルテミス》は射“殺す”とまでは言っていない。
 《ヤタイズナ》の能力解決後、《シュヴァル》が覚醒する。


霊魔の覚醒者シューヴェルト 光/闇文明 (12)
サイキック・クリーチャー:エンジェル・コマンド/デーモン・コマンド 6500
H・ソウル
E・ソウル
相手がクリーチャーをバトルゾーンに出した時、自分の山札の上から1枚目を裏向きにし、新しいシールドとして自分のシールドゾーンに加えてもよい。
相手が呪文を唱えた時、このクリーチャーは相手のシールドを1枚ブレイクする。
W・ブレイカー


 《シュヴァル》が《シューヴェルト》へと覚醒。しかし、汐にとってはそんなことなど些末な問題だ。
「まずは《アルテミス》の登場時能力発動です。手札から闇の呪文をコストを支払わずに唱えるですよ。呪文《英知と追撃の宝剣》」
 次の瞬間、虚空の巨大な剣が出現する。《アルテミス》は自身の弓を一度収めると、その剣を手に取った。
『斬り殺すって……そういうこと。こういうのは《マルス》とかが得意なのよね。私なんて、剣を握ったこともないのに』
 だが握ったことがなくとも、それが呪文による創造物である限り、彼女に扱えないということはない。
「《英知と追撃の宝剣》で選択するのは、《ライオネル》と《バック・トゥ・ザ・オレ》です。片方をバウンス、片方を破壊です」
「っ、くぅ……《バック・トゥ・ザ・オレ》を手札に戻して《ライオネル》を破壊! でも、エターナル・Ωで《ライオネル》も手札に戻る!」
 だが、どちらにせよ除去されることに変わりはない。
『はぁっ!』
 《アルテミス》は《英知と追撃の宝剣》を構えて疾駆する。宝剣を振るい、まずは《バック・トゥ・ザ・オレ》を袈裟懸けに切り裂いた。
『せいっ!』
 続けて《ライオネル》を横薙ぎで切り裂く。エターナル・Ωで両方とも手札へと戻ったが、宝剣を振るった余波でルシエルのマナも吹き飛ばされる。
「ゼニスが二体も……しかし、呪文を唱えたわね……! 《シューヴェルト》の能力で、あなたのシールドをブレイク!」
 呪文を唱えたことで《シューヴェルト》の能力が誘発し、汐のシールドがブレイクされる。だが《ウェディング》でシールドが九枚になっている汐にとっては、むしろ手札補充感覚でそのシールドを手に入れられた。
「このカードですか……なら、続けて呪文《スーパー・チェイン・スラッシュ》。《カチャマサングン》を破壊です」


スーパー・チェイン・スラッシュ 闇文明 (5)
呪文
相手のクリーチャーを1体破壊し、そのクリーチャーと同じ名前を持つ相手のクリーチャーをすべて破壊する。

 二体のうち一体の《カチャマサングン》が破壊され、連鎖的にもう片方の《カチャマサングン》も破壊される。
 呪文を唱えたので、また《シューヴェルト》の能力で汐のシールドがブレイクされるが、まだ七枚だ。
「ですが、やはり少し鬱陶しいですね。呪文《スパイラル・ゲート》で《シューヴェルト》をバウンス」
 《シューヴェルト》は解除を持っていないので、バウンスでも破壊でも除去されれば一発で超次元ゾーンに戻ってしまう。だが、最後の最後でその能力は発動した。
「ぐぅ……最後に《シューヴェルト》の能力でシールドをブレイク!」
 《シューヴェルト》の能力は呪文を唱えた時に発動するので、除去呪文でやられても、除去される前に効果が発動できる。超次元ゾーンへと戻される直前に、《シューヴェルト》は最後の力で汐のシールドをブレイクしたが、
「強制効果なので仕方ないことですが、あまり迂闊にシールドを割り続けない方がいいですよ。S・トリガー発動《地獄門デス・ゲート》……《ウルフェウス》を破壊し、墓地から《邪眼銃士ダーク・ルシファー》をバトルゾーンに」
 汐の呪文連打で、ルシエルのクリーチャーはあっという間に半分にまで減らされてしまった。
 しかし、まだこの呪文乱射は止まらない。
「さあ、いよいよ攻撃しに行くですよ。《アルテミス》で攻撃、その時《アルテミス》の能力発動です。CD12で、墓地からコスト合計12以下になるよう呪文を唱えるですよ」
 あらかじめ墓地を肥やしておかなければ、《アルテミス》はその力を存分に発揮できない。だが、汐はこのターンに呪文を何度も使用している。なにも事前の墓地肥やしをしなくとも、一度使用した呪文を再利用する感覚でも《アルテミス》の能力は発動できるのだ。
「墓地から唱えるのは、このターンに唱えた《英知と追撃の宝剣》と《スーパー・チェイン・スラッシュ》です。まずは《英知と追撃の宝剣》で《ライオネル・フィナーレ》と《ウェディング》を選択です」
 ゼニスにはエターナル・Ωの能力があるのでどちらも手札に戻るが、四体も展開したルシエルのゼニスが、一瞬で消え去ってしまう。
 再び《英知と追撃の宝剣》を携えた《アルテミス》はゼニスへと突っ込み、宝剣を振るう。
『ふっ!』
 一撃目は下から上に向けて振り上げるように宝剣を振るい《ライオネル・フィナーレ》を切り裂く。
『はっ!』
 二撃目は宝剣を投擲する。《英知と追撃の宝剣》の切っ先が、《ウェディング》を貫いた。
「あ、く、ぐぅ……《ウェディング》までも……!」
 歯噛みするルシエル。あれだけ上手くはまって展開できたゼニスが一瞬ですべて消えてしまったのだ。そして相手は汐。相当悔しいだろう。
 だが、悔しがっている場合でもない。まだ《アルテミス》の能力は終わっていないのだ。
「続けて《スーパー・チェイン・スラッシュ》です。《ヨサコイ》を破壊です」
『やっと弓が使えるわ、剣ってどうも手に馴染まないのよね……だから、加減はなしよ』
 《アルテミス》は背負っていた漆黒の弓を掴み取り、素早く構えた。放つ矢は力を失った魔術。そこに新しい力を注ぎ込み、再び術式を発動させる。
『——っ』
 呼気と共に、弓から魔術の矢が解き放たれる。その矢は一直線に《ヨサコイ》を射抜くと、軌道を曲げ、続けてその隣にいたもう一体の《ヨサコイ》も貫いた。
「これで呪文はお終いです。なので」
『Tブレイクよ!』
 次は荒々しく弓を番え、射出する《アルテミス》。荒々しい動きで放たれた矢は、荒々しくルシエルのシールドを三枚まとめて吹き飛ばす。
「っ、ぐぅ……! まだ、まだよ……ゼニスは手札にいるし、また展開し直せば、今度こそ——」
「そんなこと、させると思っているのですか」
 ルシエルの言葉を遮る汐の声は、鋭く彼女に突き刺さった。
「なんのために《アルテミス》に苦手な剣を握らせたと思っているのですか。あなたの場には《ヨサコイ》もいない、なによりマナゾーンのカードがほとんどないのですよ」
「ぐっ、この……!」
 一発だけでも大量のアドバンテージを叩き出す《英知と追撃の宝剣》。それを《アルテミス》の能力と合わせて二発放ったのだ。バトルゾーンだけでなく、ルシエルはマナゾーンもボロボロになっている。
「私のターン! 《ボーンおどり・チャージャー》を発動し、《エンゲージ・リングXX》でWブレイク!」
 残り少ないマナで、必死に足掻くルシエル。《エンゲージ・リングXX》で汐のシールドを割るが、まだ四枚も残っている。《ウェディング》の能力が裏目に出てしまっていた。
「手札を増やしておいてよかったですね……私のターン」
『このターンの初めに、山札をシャッフルするわ。そして山札の上三枚を墓地へ!』
 一見すると、直接的なアドバンテージが取れず、微妙な能力に見えるが、この能力があるからこそ《アルテミス》で墓地から唱えた呪文をまた墓地に落としやすくなり、ついでに他の呪文も墓地に落とせる。
 そして汐にとっては幸運にも、ルシエルにとっては不運にも、墓地に落ちた三枚の中には《英知と追撃の宝剣》があった。
 さらに、
「マナがなくて手札が使いきれないようですね。そんなに手札が多くては持ちきれないでしょう。お節介だとは思うですが、私が取り払って差し上げるですよ。呪文《ロスト・ソウル》」
 相手の手札を根こそぎ叩き落とす呪文《ロスト・ソウル》。この呪文で、ルシエルはさらに目を見開く。もはや絶望なのか憤慨なのか分からない、おぞましい表情を見せていた。
 ともかく《ロスト・ソウル》でルシエルの手札に戻ったゼニス諸共、他のカードがすべて墓地へと落とされる。
「さらに《アルテミス》で攻撃、墓地から呪文《英知と追撃の宝剣》《インフェルノ・サイン》を唱えるですよ。《エールフリート》と《ブラッディ・シャドウ》を選択し、墓地から《邪眼皇ロマノフⅠ世》をバトルゾーンに」
『そろそろこの剣の扱いにも慣れて来たわ。消えなさい!』
 今度は唐竹割のように縦に剣を振り下ろし、ルシエルのブロッカーを一掃する。マナゾーンカードもついでに吹き飛ばし、もはやシノビすら出せない状態だ。
「そして、残りのシールドをブレイクです」
『せいっ!』
 《アルテミス》は振り下ろした剣を、向きをそのままに突き出し、ルシエルの残るシールド二枚を吹き飛ばした。
 割ったシールドのうち一枚が、光の束となって収束する。《ウェディング・ゲート》、祝福の門が開かれるが、手札をすべて叩き落されたルシエルに、呼び出せる堕天使はいない。
 もはや、彼女は無力だった。
「くっ、ぐぅ、この、悪魔があぁぁぁぁぁ!」
 ルシエルの狂気の叫びも、もはや虚しく木霊するだけだ。悪魔ならざる悪魔の使者を操る汐は、最後に命令を下す。
 堕ちた天使と狂気の信者を斃す命令を。

「《邪眼銃士ダーク・ルシファー》で、ダイレクトアタックです——」