二次創作小説(紙ほか)
- デュエル・マスターズ Mythology オリキャラ募集 ( No.55 )
- 日時: 2013/07/19 01:26
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: PNtUB9fS)
「へぇ、そんなことがあったんだ」
「先輩にも人命救助ができたのですね」
学校からの帰り道。このみとたまたま出会った汐の二人を連れていた夕陽は、昨日の姫乃との話をした。
というより、姫乃が昨日のことで改めて夕陽に礼を言ったのだが、それを耳聡く聞いていたこのみに問い詰められ、その途中で汐と遭遇した、というのが適切か。
「あの姫ちゃんがねー……まあでもあの子、体育とかでたまに貧血になったりしてるしね。そーいうこともあるよ」
「貧血と熱中症は違うだろ……話を聞く限り家事とかは全部、光ヶ丘が担当してるみたいだし、疲労とかが溜まってたのかもしれないけど」
そこで一度、夕陽は溜息を吐き、
「しかし、まさかクラスメイトとこんな形で関わりを持つとは思わなかったよ。高校って本当に妙な縁ができるんだな」
「なにそれ? っていうかゆーくん、姫ちゃんなら中学校も同じだったでしょ? しかもクラスメイト」
「え? マジで?」
素直に驚く夕陽。ストレートに疑問をぶつけると、このみは首肯した。
「同じ中学……東鷲宮中学、ですか」
「そうだっけか……全然覚えてない……」
「まー、クラスメイトって言っても一年の時だけだったし、覚えてなくても無理ないかも。それにゆーくん、毎日がデュエマ三昧で噂とか本当に知らない人だったし」
「噂?」
夕陽が復唱すると、このみは少しだけ神妙な顔つきになり、
「本当にあくまでも噂だよ。うのみにしないでね」
そう前置きするこのみ。その前置きは、噂の内容が良いものではないと事前に知らせている。
「えっとね、率直に言うと……姫ちゃん家って、なんかやばげな宗教に手ぇ出してるって噂なんだ」
「宗教……最近、信者が急増しているという、【慈愛光神教】ですか」
「そこまではわかんないけど、たぶんそうじゃないかなー? 本当にただの噂で、根拠はぜんぜんないんだけど。あたしは信じてないし、姫ちゃんはそんな感じしないし!」
ぶんぶんと否定するこのみ。この手の噂話には敏感な彼女だが、人に対する評価に関しては一物あるというか、自身の評価でしか見ない。良くも悪くも素直で正直なのだ。
夕陽も姫乃が宗教に手を出しているとは思っていない。そのような挙動は見せていないし、あの暮らしでそんな余裕があるとも思えない。純粋な金銭的問題のみを抱えているのなら、宗教に走ることはそうないはずだ。
「まあ、こんなことをここで考えても仕方ない。家庭の事情なんて、外野がごちゃごちゃ口出しして良いものでもないし。それよりさ」
「先輩」
夕陽の話を、汐が遮る。同時に夕陽とこのみの制服の裾を掴んで、足も止めさせた。
「? どったの? 汐ちゃん」
「御舟……?」
いつもの無感動な瞳を、汐はこちらに向けていない。ちらちらと視線を後ろや前にせわしなく動かしている。
「たぶん、もう囲まれていると思うのですが……」
「なんの話?」
夕陽がそう返すと、汐は目線を上げて言った。
「私たち、つけられているようです」
「なっ……!」
「えー……ストーカーってやつ?」
緊張感に個人差があるものの、各々身構える。汐が背後を見つめ、夕陽は前方を凝視している。このみはキョロキョロしていた。
「実は先輩と合流してから視線を感じていたのです。最初はただの気のせいか、このみ先輩の言うようにストーカーかと思いましたが……さっきカーブミラーに映ったものが見えたんです」
「……なにが?」
「デッキケースが、です」
その一言で、夕陽はすべてを理解した。つまりは、そういうことらしい。
「前にいる人たちは普通に尾行が下手でした。隠れながら先行していたようですが、ばればれでしたよ」
「全然気づかなかった……ってことは、どうする?」
前後を塞がれていては、逃げるに逃げられない。それに夕陽だけならともかく、このみと汐もいることを考えれば、走って逃げるのは得策ではないだろう。
「正直不本意ですが、迎え撃つしかないでしょう。いざとなれば、カードを渡してしまえば——」
「ごめん、それはちょっと無理かもしれない。だから引きずり出して迎え撃とう」
「ねーねー、さっきから二人ともなんの話してるの? あたしだけのけ者?」
唯一状況が理解できていない様子のこのみ。相も変わらず能天気だが、そんなこのみでもやがて今がどういう場面かを知ることになる。
夕陽は息を吸い。大声ではないものの、よく通るような声を喉の奥から発する。
「こっちの会話は全部聞こえてたんじゃないのか? だったらもう隠れる必要ないだろ。昨日襲ってきた奴なのか、その仲間なのか、それとも無関係な奴なのかは知れないけど、出て来いよ」
自分で言ってありきたりな台詞だと思いつつも、夕陽の言葉で人の気配は姿を現す。
若い男だ、それも三人いる。三人の共通点は特にない。強いて言うなら年代と性別くらいだろう。金髪に染めた髪にじゃらじゃらとした銀のアクセサリーと、遊び人のような軽そうな男。ぼさぼさの長い黒髪、前髪で目が隠れかけている暗い男。黒いスーツをきっちりと着こなした、美形の男。
三者三様の男たち。さらにもう一つ共通点を上げれば、それは三人とも、手にデッキを握っていることだ。
刹那、場の空気が一変する。
「これって……あの時と同じ……」
「やっぱりか」
「やっぱりってなに? ゆーくん?」
夕陽は溜息を吐き、昨日の姫乃と出会う前の出来事を話した。突然《アポロン》を狙う女に襲われたこと。なんとか撃退したこと。相手は問答無用で襲ってきたことなど、すべて。
「……成程、それは分かったのですが、ならば先輩。なぜ今まで黙っていたのですか」
「最初から話すつもりだったよ。ただこのみが変な探りいれるから、順番が前後して、その前にこいつらが出て来ただけ」
なんにせよこんな状況となってしまえば、もう戦うしかないだろう。前後にいる男三人も、完全に臨戦態勢に入っている。
「ねー、だからこれってどういう状況?」
「まだ分かんないのかよ……」
相手は三人こちらも三人。となれば、どうやって迎え撃つかは一目瞭然。
「一人一殺でやった方が効率はいいか。まさかその辺の輩に負けるだなんて思ってないよね」
「当然です。戦う気はないですが、負ける気はもっとないです」
どうやら夕陽の軽い挑発で、汐もやる気になったらしい。あとは状況の分かっていないこのみに説明するだけだが、詳しいことを話すのは後にして、今言うべきことは一つだ。
「このみ」
「なに、ゆーくん?」
「適当な奴とデュエマしてこい」
「はーい!了解だよっ!」
これでとりあえずは解決。デュエマをするだけならこのみでも分かる。
というわけで、軽そうな男はこのみが、暗い男には汐が、スーツの男には夕陽が、それぞれ相対することとなった。
「さて、と。相手も決まったことだし」
「始めようじゃないですか」
「デュエマ・スタートだね!」
次の瞬間、三人の目の前に五枚の盾が展開される。