二次創作小説(紙ほか)
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.558 )
- 日時: 2014/03/29 03:38
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
なぜ、【師団】などという組織に属しているのか。
九頭龍はクトゥルーに問う。だが、その問いに意味はないと思っている。
(極端に口数が少ないってキャラみたいだし、希野の言葉にも無反応だったし、質問するだけ無意味だよねぇ……)
無意味だと思いつつも、この場合の九頭龍にとっては、質問するという行為そのものが重要だった。
最近は黒村に色々と連れ回されていたのでそれどころではなかったが、そもそも自分は“ゲーム”参加者になにかを問う者だったはずだ。途中からなにかねじ曲がっていたような気もするが、それはさておき。
今この危機的な状況で、自分という個人そのものまでも見失ってしまえば、どうしようもなくなる。気持ち一つでデュエルに勝てるのかと言えばそうでもないが、それでも自分を見失わないということは大事だ。
だから九頭龍は問う。それが無意味な質問であったとしても、自分自身を見失わないために。
だがこの時に限っては、九頭龍の予想は大きく外れることとなるのだった。
「……師団長」
「え?」
「我らが【神聖帝国師団】には、師団長がいる」
それはそうだろう。【師団】のトップ、師団長と呼ばれる“ゲーム”最強の男、ジークフリートは【師団】に属している。その組織の長なのだから当然だ。
などという揚げ足取り染みた答えはやや的外れではあるが、この時の九頭龍は少しばかり動揺していた。動揺と言うよりは困惑か。まさかクトゥルーが、このような質問に答えるとは思わなかったのだ。
「今まで負けたことはなかった……如何に強い敵が相手であろうと、この力を超える者はいなかった……師団長に出会うまでは」
「えーっと……つまりはあれかな? 今まで最強だったけど、自分よりも強い人が現れたから、なんやかんやで従うことになったとかいう、ありがちな設定?」
「…………」
違う、と否定はしなかった。それはそれで、その通りなのだろう。だが、クトゥルーの力の本質を知る者なら、多少なりとも彼の心中にある複雑さを理解していたかもしれない。
誰が相手であろうとも、その相手よりも強い、高き壁となるのがクトゥルーだ。だからこそ、彼が負けることは、ほぼありえない。
それを、ジークフリートは容易く打ち破った。
「勝負の後、師団長は言った。『お前の壁は、立ち塞がるだけじゃもったいねぇ。敵を潰す壁になれ』、と」
「敵を潰す、壁……?」
つまりはそれが、今のクトゥルーのスタイルの原点なのだ。
「自分が高き壁となる自覚はあった。だからこそ、自分は壁のまま、相手を超えさせない、立ち塞がる者でしかないと思った。しかし、師団長はそれを否定した。その結果が……今だ」
そう言って盤面を指すクトゥルー。今の状況は、九頭龍の不利。どんな行動も、先に潰されてしまっている。
九頭龍の戦略が、クトゥルーという高き壁に、潰されているのだ
(ああ、そうか)
やっと理解できた。
このデュエルを開始してから、クトゥルーの戦い方を見てから、ずっと感じていたこの感覚が、彼の言葉によって理解まで達した。
(この人のスタイルは……個人を否定するものなんだ)
クトゥルーのデッキは、九頭龍希道という個人に対して対策を施しているようなデッキだ。そして希野とのデュエルでは、希野デッキを抑えるようなデッキを使用していた。
恐らく、それが彼のやり方なのだろう。戦う相手の戦略を潰すカードを盛り込んだデッキを使用し、相手の戦略を潰す戦い方を見せる。それこそが、クトゥルーのスタイル。
そのスタイル自体は、否定できるものではない。大会において強力なデッキタイプに対して対策するように、名の知れた“ゲーム”参加者に対して対策を施すことは、決して咎められることではない。
(でもこの人は、それとは少し違う……最初から、相手のデッキを潰しにかかっている)
それがジークフリートの言葉による影響なのか、それともクトゥルー自身がその意味を見出したのかは不明だが。
自分が勝つために対策するのではなく、相手のデッキを潰すために対策をする。その結果が勝利に繋がっているというだけだ。
デッキとは、“ゲーム”に限らずデュエリストにとっては個性そのものと言ってもいい代物だ。“ゲーム”の世界なら、そのアイデンティティ性がより強い。
だからこそ、相手のデッキを潰すということは、その相手の個人を、個性を、意思を潰すことと同義である。
(ふぅん、そうか。そうかそうか……成程ねぇ……)
なにか胸中から湧き上がってくるような感覚を覚える。それがなにかを考える前に、九頭龍はカードを一枚マナに落としていた。
「……行くよ」
ほんの少し、九頭龍の声のトーンが下がる。
「《仰天無双 鬼セブン「勝」》を召喚。ターン終了」
九頭龍は、手札のない状態でターンを終えた。それは、つまり、
「……《時空の凶兵ブラック・ガンヴィート》覚醒。《凶刀の覚醒者ダークネス・ガンヴィート》」
凶刀の覚醒者ダークネス・ガンヴィート 闇文明 (13)
サイキック・クリーチャー:デーモン・コマンド 9000
B・ソウル
このクリーチャーが攻撃する時、相手は、自身の手札を1枚選んで捨て、その後、自身のクリーチャーを1体選んで破壊する。
《ブラック・ガンヴィート》が覚醒してしまう。
強力なアタックトリガーを持つ《ダークネス・ガンヴィート》。このクリーチャーの存在があるからこそ、相手は手札を使い切ろうとせず《ブラック・ガンヴィート》のまま残しておくのだが、
「攻撃するつもりもないのに覚醒なんて、無意味極まりないね。せっかくのサイキック・クリーチャーが可哀そうだ」
「…………」
九頭龍はその覚醒を、一笑に付して見せた。
確かに《ダークネス・ガンヴィート》の能力は攻撃時にしか発動しないため、そもそも攻撃しないのであれば無意味だ。
九頭龍の言葉にほんの少しだけ眉を動かし、クトゥルーは誰にも聞こえないほど小さく呟く。
「……超えたか、か……?」
まだ分からない。だが、その予兆はあった。
クトゥルーはその未知に警戒しながら、カードを引く。
「……《百発人形マグナム》を召喚。さらに呪文《フォース・アゲイン》。《未知なる弾丸 リュウセイ》を破壊」
「《リュウセイ》を破壊……ってことは」
また《リュウセイ》が墓地から戻り——
「互いのマナを六枚残し、それ以外は墓地へ」
——マナが破壊される。
クトゥルーは2マナ、九頭龍は5マナ削られ、またしても速度を遅くされる。
「流石にこう何度もマナを削られるときついなぁ……」
口ではそう言うものの、少しだけ笑みを浮かべている九頭龍。
「とりあえずマナチャージして……さ、ここからが始まりだ」
なにはともあれマナがなくては始まらない。九頭龍はたった一枚の手札をマナに落とすと、場のクリーチャーに手をかける。
「《鬼セブン「勝」》で攻撃。そしてこの時、能力発動」
攻撃する時《鬼セブン「勝」》の能力で、クトゥルーは九頭龍のシールドを一枚選択し、九頭龍はそれを手札に加える。
それだけならシールドを減らすデメリットだ。手札補充になると考えられなくもないが、速攻デッキでもない限り、シールドを削ってまで手札補充をしたいとは、普通は思わない。だが《鬼セブン「勝」》の能力はそれだけではないのだ。《鬼セブン「勝」》がいれば、九頭龍のコスト7以上のクリーチャーはすべてS・トリガーを得る。そして《鬼セブン「勝」》の能力で手札に入ったシールドは、S・トリガーを使うことができる。
「さあ、いつもと挙動が違うけど、君の運命の選択だ。どのシールドを選ぶ?」
九頭龍のデッキは重量級ドラゴンがひしめくデッキだ。軽量ファイアー・バードや呪文が当たれば最高だが、そう上手くも行かないだろう。
クトゥルーはジッと九頭龍のシールドを見つめると、中央のカードを選択した。
「へぇ、真ん中を選ぶんだ。意外だね……じゃあ、これを手札に加えるよ」
九頭龍のシールドが一枚、手札に加えられる。そして彼は、口の端を少しだけ歪めた。
「……流石だ。もしかしたら君、ドラゴンを見る目があるのかもしれないね」
「…………」
「知ってる? クトゥルフ神話に限った話じゃないけど、クトゥルーという邪神には様々な表記があるんだよ。クトゥルー、クトゥルフ、クルウルウ、クスルー……日本語表記では、九頭龍なんて呼び方もするらしいね」
僕の苗字みたいに、と付け加える九頭龍。
そして、
「まあだからこそ、なんて思わないけど。『昇天太陽』と違って、君からはドラゴン的な力はあんまり感じないし。でも……君は最高のドラゴンを引き当ててくれたよ。ありがとう」
嫌味ったらしく礼を言い、
「S・トリガー」
九頭龍は手札に加わったそのカードを、降臨させる。
「《偽りの王 カンタービレ》召喚」