二次創作小説(紙ほか)

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.564 )
日時: 2014/03/31 13:51
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

 一度このみと別れ、次から次へと湧き出て来るクリーチャーたちを倒し、カードへと戻していく夕陽。その最中、一つのことを考えていた。
(“ゲーム”とか『神話カード』なんて名前は、たぶん僕らが住んでいるこの世界の人間が付けた名前……アポロンたちは、自分たちのことを十二神話と呼んでいたし、あの時の《スミス》のカードにも十二神話と書かれていた)
 それは、アポロンたちのこと。厳密に言えば、アポロンたちのいた世界のことだ。
 今まで意識していなかったが、しかしそろそろ、彼らのことにも目を向けなければならないと思ったのだ。アポロンたちは共に戦う仲間。ゆえに彼らのことを知りたいと思う。
 さらに言えば、彼らの世界のことは、この“ゲーム”の根幹に関わることだと、夕陽は考えている。そもそも“ゲーム”という戦争の持つ意義が、夕陽には分からなかった。だが“ゲーム”の中心となる『神話カード』。その『神話カード』そのものであるアポロンたちの世界を知れば、それも分かるかもしれない。
 さらに言えば、この“ゲーム”が終わりを告げるかもしれないのだ。
(先輩がそれを望んでいたかは分からないけど、あの人もこんな殺伐とした世界が続いて欲しいだなんて思ってないだろうし、僕も興味がないわけじゃない……《スミス》に書かれていた一文『十二神話と呼ばれる神々が統治する超獣世界』。この一文から読み取るに、アポロンたちは、一つの世界を収めるほどの権力者だったんだろうな)
 ふとアポロンを見遣る夕陽。ふわふわと宙に浮いて、周りをキョロキョロしている。今は周辺にいるクリーチャーを殲滅し終えたが、またいつ出て来るか分かったものではない。それを警戒しているのだろう。
(まあ、いい奴だしわりと真面目なんだけど、今のデフォルメされた姿を見ると、とてもそうは見えないよな……いや、でも力を抑えているからこの姿ってだけで、実際の世界だとあっちの姿になるのかな)
 もしそうなら、まだ分からないでもない。
(うーん、ダメだ。やっぱりまだ情報が足りない。実体化したクリーチャーのフレーバーが変化するって言っても、フレーバーがない場合もあるみたいだし、ある奴もある奴で、私生活のことばっかり書いてあるしで、役立たずだもんな……)
 なぜ、アポロンたちは元いた世界を離れ、夕陽たちのいる世界にいるのか。
 その上で、なぜ記憶を失くしているのか。
 “ゲーム”とは、『神話カード』とは。その本質はなにか。
 疑問は湧いて来るが、答えは出ない。疑問を感じるようになっただけ前進したような気がするが、その答えを解明するのは、遠い先の話になってしまう気もする。
「やっぱり、もっと多くの実体化するクリーチャーを集めるべきかな……」
「おい、夕陽」
「でも、そういうのって【師団】がばら撒くから、その時になったらそれどころじゃないし……」
「夕陽、夕陽よぅ」
「いやでも、『神話カード』の影響を受けることが実体化に繋がるんだよな。だったら、アポロンがいれば僕もカードを実体化できるのか?」
「夕陽。聞いてるのか? 夕陽」
「なあ、アポロン——」
「夕陽!」
 遂にアポロンが怒鳴った。
「な、なんだよ大声出して……」
「なんだじゃねぇ! あれ見ろ、あれ!」
「あれ?」
 アポロンが指差す方角の空に目を向ける夕陽。その先には、なにか黒々としたものが見え、こちらに向かってきている。
「な、なんだあれ……?」
「分かんねぇ! でもなんか、すげぇやばい感じがする……!」
 夕陽はなにも感じないが、しかしこのままこちらに突っ込まれては確かにやばい。夕陽とアポロンは、一旦後退してその物体を認識する。黒い霧のようなものに包まれているが、見たところクリーチャーのようだ。
「つーかこれって、《ヨミ》か……!?」
 遠目なので確信はないが、特徴的な頭部が見えているので、恐らくはそれで正解だろう。しかし、なぜ黒い霧が纏わりついているのか。
「他のクリーチャーと違うのか……?」
「たぶん違うぞ。なんか、やばい……!」
 戦慄するように体を震わせているアポロン。確かに、地上に近づくにつれて、なにか危険な気配のようなものがじわじわと感じられていた。
 やがてヨミは地上へ降り立つが、それは降りるとか立つなどという表現よりも、落下したと表現すべきかもしれない。砂塵を巻き上げて、隕石の如く神社の敷地へと落下したのだ。
「ぐっ、見えない……!」
 砂煙に顔を覆う夕陽。しばらく前方を確認することはできなかったが、やがて砂煙も晴れてくる。
 だが、砂煙の代わりに待っていたのは、ヨミを包む黒い霧。いや、包んでいるのではない。黒い霧は、ヨミを飲み込んでいる。
「な、なんだ……?」
 ここまで近づけば、どうでなくともこの光景は、明らかにやばい。アポロンでなくともそれは伝わってくる。
 黒い霧に飲み込まれるヨミ。やがて、完全にその姿が見えなくなったかと思うと、今度はその霧が少しずつ消失していく。
「夕陽、気をつけろ」
「分かってる」
 夕陽もアポロンも、気を引き締める。なにが起こってもいいように身構え、目の前の事象を凝視する。
 霧が消えていく。そして、その中にいたヨミが現れる——

 ——が、そこにいたのはヨミであり、もはやヨミではない存在だった。

「《クロスオーバー・ヨミ》!? おいおい、さっきまで普通の《ヨミ》だっただろ……!?」
「クリーチャーが変化するなんて……!」
 そこにいたのは神人類 ヨミ》ではないヨミ。《クロスオーバー・ヨミだった。
 目の前で変化を遂げたヨミ。その変化にはアポロンも驚いており、彼もこの現象については知らないようだった。
「さっきの霧か……? あれが、ヨミをクロスオーバー・ヨミにしたのか?」
「オイラが知るわけないだろ。でも、たぶんそうなんじゃねぇか……? さっきのあの霧、なんかやばい感じがしたし——」
 と、考察している場合でもなかった。
 クロスオーバー・ヨミの雄叫びが響き渡る。また砂塵が舞い、木々は揺れ、思わず踏ん張ってしまう。
「な、なんて威圧感だ……他のクリーチャーとは、全然違うな……」
「どうする夕陽? こいつ、やばいぞ」
 やばいのは分かっている。だが、
「こいつを野放しにはしておけないだろ。それに、僕らのすべきことはクリーチャーを倒すこと。なら、やることは変わんないよ」
「けど、こいつはマジでやばいぞ。他のクリーチャーとは違う感じがするって言うか……上手く言えねえけど、とにかくやばいんだ」
 必死に夕陽を引きとめようとするアポロン。彼の言いたいことは、夕陽にも分かる。言語化が難しいが、確かに目の前にいるクロスオーバー・ヨミは、他のクリーチャーとは一線を画している。どこか危険で、別次元の存在であるかのように思えた。
 だがアポロンも分かっているはずだ。この存在を、このままにしてはおけないと。
「どの道、誰かはこいつを倒さなきゃいけない。だったら、今ここにいる僕らがやるべきだ」
「そうだけどよ……」
 まだ煮え切らない様子のアポロンだったが、やがて意を決したように、
「……分かった。ここまで来たら、オイラも腹を括る。最後までついて行くぜ、夕陽!」
「最後って、こんなところで終わってたまるかよ」
 アポロンの言葉に、夕陽は軽く笑いながら返す。
 カードとなった《アポロン》を掴み、デッキを取り出し、クロスオーバー・ヨミへと立ち向かう。
 そして、クロスオーバー・ヨミの咆号と共に、神話空間へと誘われた——