二次創作小説(紙ほか)

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.573 )
日時: 2014/04/24 21:08
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)

「へぇー……昨日そんなことがあったんだ」
「うん……」
 カフェ『popple』の店内にて、このみと姫乃は一つの丸テーブル越しに向かい合っていた。
 一月二日の今日はまだ正月休みで店は閉まっている。流石の姫乃も私服だったが、このみはわざわざ『popple』の制服に着替えていた。
「ゆーくんの偽物かぁ……汐ちゃんとゆーくんが喧嘩したのも、その人が原因なの?」
「たぶん……そう、だと思う……」
 昨日、皆と初詣に行った先で、彼女たちは【師団】と戦った。正確に言えば、【師団】の起こした不祥事に巻き込まれ、その被害を被ったついでに戦闘となったのだが、そんなものは些末なことだ。
 このみや夕陽は終始クリーチャーと戦い続けたが、しかし姫乃はそうではなかった。クリーチャーだけではなく、明確に【師団】の者と戦ったのだ。
 しかもただの団員ではない。帝国四天王が一人、『無貌混沌ニャルラトホテプ』だ。
 彼とも彼女とも言えないニャルラトホテプの異質な点はただ一つ。その姿を自由自在に変えられることにある。変装などという生易しいレベルではなく、骨格や声帯、身体的な機能に至るまで、他人のすべての性質を模してしまう。
 姫乃は、そんな異質な存在と出会ったのだ。
 そしてその時のニャルラトホテプは、空城夕陽の姿をしていた。
「あの人は、巫女さん姿の空城くんの姿をしていた。わたしは空城くんが女の子の格好をしていてもドキドキしたけど、空城くんに成りすましてたあの人のことは、空城くんだと勘違いしてた時でも、なにも思わなかった」
 だからこそ彼女は、ニャルラトホテプが夕陽に成りすましていると分かったわけだが、これは同時に、姫乃の中でも大きな意味を持っていた。
「普通のゆーくんと女装したゆーくんにはドキドキして、ゆーくんの偽物さんにはドキドキしなかった。ってことは」
「うん……」
 夕陽が女装させられたことで自分の気持ちを認めた姫乃だが、そこに夕の偽物まで出て来て、しかもその偽物に対しては本もに抱いていた感覚が湧いてこなかった。
 それによって姫乃は、本当に誤魔化しが利かなくなった。これは、完全に認めざるを得ない。

「やっぱりわたし、空城くんが好き——」

「…………」
「——かも」
「あぁー」
 期待通りではなかった、と言うようにこのみが項垂れる。
「そこははっきりと、好き! って言って欲しかったなぁ」
「あぅ、ごめん……」
「あたしは姫ちゃんのそーいうところも好きだけどね。でも姫ちゃん、その気持ちを形にしたいなら、今のままじゃダメだと思うよ」
 微笑みを見せてはいるものの、このみは彼女なりに真面目に、そして真摯に、まっすぐ姫乃を見据える。
「その気持ちをゆーくんにぶつけたら、少なくとも姫ちゃんとゆーくんの関係は、今までと同じじゃなくなる。変わっちゃうよ」
「う、うん……」
 今は友達という関係で、共に戦う仲間という繋がりだ。しかしひとたび姫乃が自身の思いを夕陽に告げれば、夕陽の反応がどうであれ、絶対に二人の関係に変化が生じる。それは間違いない。
「流石のあたしもゆーくんがどう返すのかは分からないけど、ゆーくんがなにを思うにしろ、少なくとも姫ちゃんは今のままじゃダメ。変わらなきゃ。じゃないと悪い方に流れて行っちゃう」
 分からない、と言うものの、それでもこのみには夕陽の考えていることは大体分かる。
 夕陽は比較的、保守的な思考の持ち主だ。特に対人関係に関しては、ある程度親交が深まるとその地点で止まり、現状を維持したがる。汐と一悶着あった時も、汐がそれを望んだとはいえ、最終的に先輩と後輩という根本の関係はまったく崩れなかった。
 だからこそ、姫乃が今のままでは、二人の関係に変化が訪れた時、夕陽の現状維持と姫乃の踏み出せない心が歪を生み出し、悪い方向に進んでしまうのではないかと、このみは懸念している。
 夕陽に変われとは言えない。なにもきっかけがなく、いきなりその考えを変えろと言うのも無理な話だ。
 だから、姫乃がまず変わるべきなのだ。
「ま、変わると言っても、そんなに大袈裟なことじゃないよ。ただ、一歩踏み出せばいいだけ。姫ちゃんは、それだけでいいんだよ」
「一歩を、踏み出す……」
 その一歩さえ踏み出せれば、あるいは夕陽自身にも変化が現れるかもしれない。
「で、でも、どうしたらいいのかな……どうやって一歩踏み出せば……」
「そうだねー、とにかく思い切ってなにかをするべきなんだろうけど、なにがいいかなー……」
 うーん、と唸りながら考え込むこのみ。彼女の視線が、ふとカレンダーに向いた時、彼女は閃いたように体を揺らした。
「そうだ、あれで行こう。時期的にはピッタリだし、姫ちゃん的にもドンピシャだし、時間もある」
「え、あの、このみちゃん……?」
 姫乃が心配そうにこのみを覗き込むと、このみはガタンッと椅子を蹴飛ばすように立ち上がった。
「姫ちゃん。姫ちゃんとゆーくんの関係については、あたしが責任を持って取り持つよ」
 そして自信満々に、姫乃に告げる。
「だから——任せて」