二次創作小説(紙ほか)
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.579 )
- 日時: 2014/07/03 21:51
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)
夕陽と汐が記と一悶着している同時刻、所変わって、カフェ『popple』。
今日この日は定休日であり、店員の姿は見えない。
ただ、店員でないものの姿ならあるが。
「二月十四日! さあ、なんの日だ!」
「えっと、このみちゃん? どうしたの……?」
「二月十四日はバレンタインデー! 女の子なら忘れるべからず! そして今日この日のために、姫ちゃんとあたしは日々チョコレート作りに励んでいたんだよ!」
「バレンタイン、今日じゃないけど……」
「でも、いつまでも練習じゃダメ! そろそろ本番の気持ちで、本腰入れたチョコレートを作らないと!」
「それも習作という練習ではないのですか……?」
「というわけで、みんなには姫ちゃん特製チョコの試食をしてもらいます!」
「それを最初に言えば……まあいいか。とりあえず、私たちがどういう理由で呼び集められたのかは分かった」
と、いうわけで。
このみと姫乃に加え、『popple』に呼び集められた三人のクラスメイト、クロ、仄、葵の計五名が、店内の台所に立っていた。
「えっと、みんな来てくれてありがとう。せっかくの休日なのに……」
「別に……暇だったし……」
「ここに来るくらいなら構いませんけど……」
三人の中には、共通の疑問が浮かんでいた。
聞くべきかどうか、かなり悩ましいものではあるが、しかし気にならずにはいられないことだ。
「……誰に渡すの、そのチョコは」
「はぅっ!」
「なんで驚くんですか……」
わざわざ休日にクラスメイトに召集をかけて、前々から練習をしていたというチョコレートが、義理や友達として渡すようなものだとは誰も思わない。その点でも、この疑問はあたりまえだ。される側も予想できる。
「……でも、少し意外」
「え?」
「確かにそうですね。光ヶ丘さんに、そういった人がいるとは思いませんでした」
「そういう意味では、誰に渡すのか俄然気になるね」
「あぅあぅ……な、なんか怖いよみんな……」
どことなく威圧感が感じられる三人に、後ずさる姫乃。
「まーまー、姫ちゃん。みんなこうして来てくれてるんだし、言わないわけにはいかないよ?」
「う、うん……そうだね」
このみに相談を持ちかけてから数ヶ月。新年直後に自分の気持ちを告白してから一ヶ月。ずっと、彼の事だけを考えていた。
その、相手は、
「……空城くん」
『……え』
三人の声がはもった。
「ど、どうしたの……? なにか、変……?」
「そんなことは……ない、けど……」
「こういったことに否定的な意見を述べるのは良いことではないですし、その気持ち自体はとても尊いものなのですが……」
「まさかとは思ったけど、本当に空城なのか……」
かなり言い難そうに、微妙な表情で淀む三人。
「みんなはゆーくんのことどう思ってるの?」
「……悪い人じゃない」
「温厚で優しくて、気も利いてますし、とてもいい人だと思います」
「ただ、ねぇ……」
「男としてどうかと言われると……微妙」
「友達としてなら、とても良い友人になれそうなのですが」
「異性としてはない、かな……」
(空城くん、みんなからそういう認識されてるんだ……)
夕陽の意外な評価を知った姫乃であった。
「まーねー、ゆーくんはそーだよねー。男の子としてはちょっと頼りないよねー」
「夕陽様がいたら、『お前が言うな!』って言っていそうですの」
「あ……ヴィーナス」
「それと、このみ様と一緒にいるのも、その一因だと思うんですの」
「ああ、それはあるかも」
なにかと暴走しがちなこのみのストッパーとなるのが夕陽なので、学校でも大体そんな認識を受けている。
「……でも、文化祭の時の格好は良かった」
「あ、それは私も思いました。凄く似合ってましたよね」
「最初は誰か本当に分からなかったもんね」
(ゆーちゃんのことだ……)
夕陽にとっては二度と掘り起こしたくない(正月に掘り返されたが)黒歴史。しかしその他の者からすれば、いい話のネタだ。三人はそのまま、夕陽ではなくゆーちゃんとしての評価を続ける。
「あの姿なら、ありかもしれない……」
「そうですね、同感です。また着る機会はあるんでしょうか?」
「男子からも、嫁に欲しいとか言われてなかったっけ?」
(空城くんが聞いたら卒倒しそうだよ……)
心中ではそう思う姫乃だが、彼女たちの意見そのものには賛同できる。確かにあの時の夕陽も、正月の時の夕陽も、女としては良かった。
「ふっふっふ、大丈夫だよみんな、安心して」
「このみちゃん……?」
「今年は難しいけど、来年もこのあたしがゆーくんをプロデュースしてドレスアップしてみせるから! ひーちゃんと秘密裏に押し進めてる『ゆーちゃんプロジェクト』は、着々と進んでいるんだよ!」
「はくしょんっ!」
「先輩、風邪ですか」
「いや……なんか、寒気というか悪寒が……」
どこかで噂をされているような気がする。しかも、自分ではない自分について、そして自分にとって途轍もなく都合の悪い事柄について。
「風邪には気を付けてください。中学校でも、インフルエンザが流行っていて、私のクラスも学級閉鎖になりかけたんです」
「うちの妹は病気とか風邪とかとは無縁な奴だから、あんまり気にしないなぁ……ああでも、柚ちゃんは少し心配かも。あいつ、あの子を振り回してなければいいけど。それで風邪ひかせたとかあったら困る」
「それは考えすぎでしょう。彼女も最近は、随分と落ち着いているように感じられるですよ」
「どうだか」
記と別れ、電車を降り、ショッピングモールへと続く商店街を歩く夕陽と汐。大型ショッピングセンターのすぐ傍に商店街なんて儲かるのかと思うが、こちらもこちらでそれなりに賑わっており、経営不振に陥っているということはなさそうだった。
「とりあえず、この辺でもなにか探してみようか」
「光ヶ丘さんの誕生日プレゼントですよね」
「どんなものがいいだろう」
「やはり、実用的なものがいいかもしれないです」
「実用的なものかぁ……どんなものがあるかな?」
「そうですね。例えば、ああいうのはどうでしょう」
そう言って汐が指差すのは、食器の並べられた店だった。ウィンドウに並べられているのは、カラフルなカップ。
「ベタですけど、マグカップとかならわりとよく使うと思うのですが」
「うーん、でも『popple』では使わなくなったカップをバイトに配ったりしてるし、カップには困ってないんじゃないかな……」
「そうなんですか……」
ならば、とキョロキョロ周囲を見渡す汐。次に見つけたのは書店だった。
「書籍……本はどうでしょう。実用性という面では微妙ですが、内容によっては味のあるチョイスだと思うのですが」
「光ヶ丘は理系だからなぁ……だから本を読まないなんてことはないんだけど、光ヶ丘自身は教科書ぐらいでしか物語は読んだことないって言ってたな」
「言われてみれば、中学の頃に色々あったそうですし、当たり前かもしれないですね」
さらに視線を巡らせる汐は、またなにかを発見したようだった。
「カードショップ……」
「待て待て待て、そんな敵情視察みたいに身を隠しながら向かっていくな! こんな遠くの店じゃ競争相手にはならないって!」
「確かにうちの店はほとんどお客さんが来ないですし、このような人通りの多い商店街のお店とは比べるべくもないですね」
「そんな卑屈にならないでよ。あの店も常連になればかなりいい店だよ」
「ですが立地はどうしようもないです——」
と、その時、汐はハッとなにかに気付いたように振り返る。
「先輩っ」
「え、なに。どうしたの?」
「周りを見てください」
「周り……?」
こんなやり取りさっきもあったな、などと思いつつ夕陽も周囲に視線を巡らすと、再び目を見開く。
また、同じ事態が起こっていた。
「なんだ今日は、一日に二度も起こっていいことじゃないぞ、こんなの……!」
周りを見渡す。そこかしこに、様々な店が立ち並んでいる。
しかし、人は一人もいなかった。賑わっていたはずの商店街から、夕陽と汐を除くすべての人間が消え失せていた。
「またあいつの仕業か……!?」
「いや、違うぞ夕陽! これは神話空間だ!」
「神話空間……いつの間に……」
「お兄様と一緒で油断していたことは認めるけど、まったく気づかなかったわ……!」
また記がヘルメスの力を使ったのかと思ったが、そうではないようだ。言われてみれば、確かに神話空間の中にいる感覚を感じる。
「また【師団】のクリーチャーか、それとも“ゲーム”参加者か……?」
「どちらでも構わないですが、先輩」
「そろそろ来るわよ」
刹那。
空から、なにかが降って来た。
「っ、クリーチャーの方か……!」
「《桜舞う師匠》に《サイレンス トパーズ》ですね」
二体のクリーチャーは、夕陽と汐を挟み込むようにして落下し、二人の退路を塞いでいる。
「逃げることはできない、か」
「構わないですよ。どの道、迎撃するだけです」
夕陽と汐は、互いにデッキを取り出し、背中合わせになってそれぞれクリーチャーと相対する。
「だよね。アポロン」
「おう! いつでも行けるぜ!」
「アルテミス、準備はいいですか」
「当然。お兄様の前で恥はかけないわ」
そして。
二人はそれぞれ、戦いの場へと誘われる。