二次創作小説(紙ほか)
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.584 )
- 日時: 2014/07/10 15:43
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)
「終わったか」
「大した相手じゃなかったな」
デュエルが終わり、夕陽と汐が神話空間から出て来る。
「…………」
「御舟? どうした?」
「いえ、さっきのクリーチャーは、誰が呼び出したものかと思いまして……」
もう慣れてしまっているが、本来“ゲーム”の世界においてでも、クリーチャーが現実世界で実体化することは普通はありえない話なのだ。
誰かが作為的にクリーチャーを実体化させ、解き放たなければクリーチャーが人を襲うことはない。あの【師団】だって、むやみやたらとクリーチャーを放つようなことはしない。
そして今回の件、一体誰が先のクリーチャーを遣わせたのか。
「最も可能性が高いのは【師団】でしょうが、それにしてはあまりに——」
「汐!」
唐突にアルテミスが声を荒げる。汐もそれに言葉を止めた。
「……どうしたのですか、アルテミス」
「あれ見なさいよ、あれ!」
「夕陽!」
「……うわ」
アルテミスとアポロンが、それぞれ違う方向を指差す。しかし、それぞれが指差しているものは同じだった。
「これは……」
「ま、まずくないか……?」
それは、大量のクリーチャー。夥しい数のクリーチャーが、商店街を両側から闊歩している。
というより、明らかにこちらに向かっている。
「流石にこれは、対処しきれないですよ……」
「逃げるしかない……御舟!」
夕陽は汐の手を取って、即座にその場から駆け出した。
「ちょっと、人の主人に来やすく触れないでくれるかしら。不浄な人間の不浄な汚物が感染するんだけど」
「そんなこと言ってる場合か!」
叫びながら脇道に逸れて町に出るが、向かう先にもクリーチャーが構えていた。
「こっちもか……くそっ!」
クリーチャーが道を塞ぐたびに脇道に逸れ、町の中を駆け回る夕陽と汐。
しかしこんな来たこともない町で走り回っているのだ。どこか目的地があるわけでもなく、適当にクリーチャーのいない方に走っているだけである。
そんなことを続けていれば、いつか、
「先輩っ、この先、行き止まりです」
「な……っ!?」
闇雲に走りすぎた。気付けば夕陽と汐は袋小路に追い詰められていた。
「なにやってんのよ人間! もっと考えて走りなさいよ能無し! あなたの頭は飾りなの?」
「だからそんなこと言ってる場合じゃ……ああもう、こうなれば」
夕陽はデッキを手に進み出る。
「先輩、まさか戦うつもりですか」
「こうなっちゃった以上、そうするしかないだろ」
とはいえ、狭い通路を埋め尽くすほどの数がいるクリーチャーたちだ。ちまちま倒していてもキリがない。
戦おうが戦うまいが、結末は目に見えてしまっている。
と、その時。
突如、通路が炎上した。
「な……っ」
「なんだ……!?」
ギリギリ夕陽たちの所には到達していないが、轟々と燃える火柱が通路を埋め尽くし、その前に通路を占拠していたクリーチャーたちを焼き尽くす。
「これは、焦土の炎……」
「焦土……? って、まさか、これ……」
アポロンの言葉を聞き、目の前の光景を思い出す。夕陽は以前にも、このような光景を見たことがある。
「ったく、いきなり神話空間が開いたり、クリーチャーが街中を行進したりしてるから、なにがあったかと思えば……またお前らか」
火柱が鎮火する。すると、通路を埋め尽くしていたクリーチャーはすべて燃え尽き、代わりにその消し炭を踏みしめる者がいた。
それは——
「亜実……」
——《焦土神話》の現所有者、火野亜実であった。
「まったく、相変わらず危なっかしいな、お前ら」
「助かったよ亜実、本当にもう終わりかと思った……」
「ありがとうございましたです、亜実さん」
礼を言いながら、汐は頭も下げる。
窮地を亜実に救われた夕陽たちは、とりあえず彼女と同行することとなった。
「ところで、さっきの炎ってさ」
「ああ、そうだ。《マルス》の力だ」
言って亜実は、ピッと一枚のカードを取り出す。同時に、そのカードから光が発され、クリーチャーが飛び出した。
「久し振りだな、空城夕陽……それに、アポロン」
「マルス!」
実体化したのは、二頭身でデフォルメされてはいるが、《焦土神話》の名を持つ『神話カード』マルスだった。
その登場に、アポロンが飛び出し、マルスと腕を交差させる。
「会いたかったぜマルス」
「俺もだ、アポロン。この姿になるまでは、同じ所有者の元にいたが……直に会うことは少なかったからな」
「……マルスから聞いた話だが、マルスとアポロンは旧友——というより、戦友だったそうだ」
「へぇ、それで」
今にも昔話に花咲かせそうな雰囲気の二体だったが、今はそれどころではない。
マルスの力があれば、炎を発生させることができる。その炎で先ほどのクリーチャーを焼き払ったわけだが、なにも無条件で使えるわけではない。あの炎を発生させるたびに、マルスのエネルギーが消費される。使い続ければいつかマルスのエネルギーが尽きてしまうので、無尽蔵に使えるわけではない。
だがクリーチャーの方は、無限に湧いて来るのではないかと思うほどに存在している。実際、この道中でも何度かマルスの世話になっていた。
「そういえば、亜実さんはどうしてこの町に来ているのですか」
「地元なの?」
「違う」
低い声で否定する亜実。まるで、こいつらと取り合うのは面倒だとでも暗に言っているかのようだ。
だが内心どう思っているのかは分からないが、彼女は自身がここにいる理由を語る。
「少しばかり、この町に用のある奴がいるんだよ」
「用のある奴? 誰?」
「もうすぐ着く……ほら、ここだ」
そう言って亜実は足を止める。
目の前にあるので、それほど大きくない雑居ビル。エステやらどこかの事務所やらバーやら塾やら、様々な店が詰め込まれたビル。
そんな中で最も目を引くのは、このご時世、というかこの現実世界において、ある意味非現実な一文。フィクションの中でしか存在しないようなものの名だった。
広い窓ガラスに大きく書かれているそれを、夕陽は読み上げる。
「『和登栗須探偵事務所』……?」
「……やれやれ、あろうことか貴様に見つかってしまうとはな『炎上孤軍』」
「いや、あれだけでかでかと書かれてたら誰でも分かるだろ……」
雑居ビルの三階に『和登栗須探偵事務所』はあった。
如何にもな探偵っぽい恰好をしていたのはただの趣味だと思っていたが、まさか本当に探偵事務所を開いているとは思いもしなかった。
そもそも探偵なんてフィクションの世界のような活躍などしないし、依頼する人だって少ない、その上に賃金も低い。儲かるような仕事ではないので、趣味で営んでいる自営業、といったところか。
「しかし、なぜこの場所が分かった?」
「いつか襲撃してやろうと思って、青崎に調べさせた」
「『機略知将』か……僕も情報収集力には自信がある方だが、奴には敵わないな」
襲撃、という言葉はスルーする栗須。単純に聞き流していたのか、それとも亜実に襲撃されても問題などないという意味か。彼の性格を考えれば恐らく後者だろう。
「で、なんの用だ。これでも僕は忙しいんだ」
「よく言う。どうせ仕事なんてないんだろ、探偵かぶれニートが」
あからさまな罵倒だった。仕事が来なくても職に就いているのだから、ニートとは言えないと思うのだが。
「本来ならここでお前をぶっ飛ばしているところだが、今は状況が違う。というかお前、気付いていないのか?」
「神話空間のことか?」
気付いていたようだ。当然か、彼も伊達に“ゲーム”の世界を生き抜いていない。
「今、外には大量のクリーチャーが蔓延っている。あたしらも、迂闊に外には出れない状況だ」
「ここは避難所ではないのだがな」
「とりあえずここにいさせろ。どうせ暇なんだろう」
「凄い言い分だな……」
傲岸不遜というか、図々しいというか、栗須相手だからか、亜実も随分と言いたい放題だ。
そんな亜実に、栗須は息を吐く。
「はぁ……今日は忙しいのだがな」
「どの口が言う。どうせ今は神話空間が開いている。まともな仕事なんて——」
「普段は人など来ないが、客が多すぎるのも考えものだ。一日に二団体も来るとは」
「二団体、ですか……」
少し引っかかる言葉だ。たかだか三人の集団を団体とは言わないものだが、三人を一つのグループと考えれば、分からないこともない。
それが、二つ。それはつまり、
「栗須くーん、座標の割り出しフィニッシュしたよー。電源サンクス!」
と、その時、奥の扉が開いた。そして中から出て来たのは、総計四人の男女。
そのすべてに、夕陽たちは見覚えがあった。
「っ、え、この人たち……」
「まさか、こんなところで出会うとは、ですね……」
「おいおい、どんな連中匿ってんだよ……!」
驚愕を隠せない夕陽たち。
扉の向こうから出て来たのは——
「お? おぉ! エブリワン、久し振りだね!」
——【ミス・ラボラトリ】の研究員、黒村形人、九頭龍希道、九頭龍希野、そして【ラボ】の所長、ラトリ・ホワイトロックの四人であった。