二次創作小説(紙ほか)

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.586 )
日時: 2014/07/12 19:40
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)

 突如街中で、大量のクリーチャーが発生した。その現象の根本的な原因は不明だが、街の各地に大きな力が確認されている地点が存在している。
 力が確認されているポイントは六ヵ所。その場に居合わせた夕陽と汐、亜実と栗須、そして【ラボ】の研究員四名の計八人は、二人ずつのペアに分かれ、それぞれのポイントに向かうこととなった。
 夕陽と汐が向かうのは、『和登栗須探偵事務所』から最も近い地点。確認されている力が一つの地点だ。
 しかし、拠点から近いとはいえ、道中には夥しい数のクリーチャーが行く手を阻んでいる。
 だが夕陽たちは、それを突破する術を、ラトリから教わっていた。



「とりま、夕陽君と汐ちゃんはここから一番ニアなポイントに向かってもらうよ」
「はぁ、それはありがたいんですけど」
「途中にはクリーチャーがわんさかいるですよ。それはどう突破するのですか」
 この事務所に来るまでは、亜実の《マルス》の力で焼き払っていたが、ツーマンセルで行動するのなら、その手が取れるのは亜実と栗須だけだ。
「ノープロブレム! ちゃんとシンクしてるよ」
「道中のクリーチャーが邪魔なら、クリーチャーで倒せばいい」
「? どういうことですか?」
 それは《マルス》の力を使うこととなにが違うのだろうか、と夕陽が疑問をぶつける。実際、黒村の言っていることは夕陽の思っていることとは全く違っていた。
「前にも少し言ったと思うが、カード状態のクリーチャーは『神話カード』の影響を受けることで、実体化する」
「それは知ってますけど……」
「この時、『神話カード』の力で影響力をコントロールできるんだが、その調整次第で実体化する際のクリーチャーの性質が変わる」
「性質……?」
 その説明では、まだよく分からない。
 そこで黒村は、たとえばだ、と例を挙げる。
「以前、お前が九頭龍……希道と戦った時」
「黒村さんが僕のことを名前で呼ぶのって、初めてですね。なんか新鮮」
「うるさい黙ってろ。あの時、お前がダイレクトアタックを受ける直前に、神話空間が閉じただろう」
「あぁ……そういえば、そんなこともありましたね」
 九頭龍に挑発されてデュエルを挑んだものの、大敗したのだった。思い返したら腹が立ってきたが、なんとか自制する。
 同時に思い出す。そう言えばあの時、九頭龍からダイレクトアタックを受ける直前、神話空間が裂かれ、強制的にデュエルが中断されたのだった。
「あれは俺の持っているカードの一部が、所長の《アテナ》の力によって、神話空間に干渉できるよう調整されていたからだ」
「へぇ、《アテナ》ってそんなことできるの?」
「できます」
「オゥ、アテナ……サドンディに出て来たね」
 急にカードから現れるアテナは、さらに続ける。
「十二神話ごとに多少の差異はありますが、この力は十二神話全てが有している能力です。なのでアポロンさんもアルテミスさんも同様に、他のカードを実体化させることが可能です」
「そうなのか……オイラ、ほとんどそういうことしたことねぇから、自信ねぇや」
「おいおい、大丈夫なのか……?」
「アルテミスもですか」
「アタシは結構そういう使われ方されてたから、もう慣れたわ」
 ともかく、ここで最初の話に戻ってくる。
「こうして実体化したカードは、神話空間内とはいえマナを支払って召喚したわけではないから、長時間維持することは難しい。特にカードと繋がっている場合は、カードの持ち主がクリーチャーをコントロールしやすいが、持ち主不在で放り出している時よりも短時間しか姿を保てない」
「でも安心していいよ。他のクリーチャーにアタックするくらいのタイムは実体化できるから」
 要は『神話カード』の力でクリーチャーを実体化させ、その実体化させたクリーチャーで街中に蔓延るクリーチャーを蹴散らしながら、目的のポイントに向かえということだ。
「なら、先にここで準備しておいた方がいいな。戦争でも、弾切れが起こらないように、先に十分な弾薬を用意しておかなくてはならない」
「わざわざ戦争で喩えなくとも……」
「事前準備が大事だということについては、同意しますけれど」
 ともかく。
 そういうわけで、夕陽と汐は早速アポロンやアルテミスの力で、自分たちのカードを実体化させられるように影響力を及ぼすのであった。



「——《爆竜 GENJI・XX》! 邪魔なブロッカーと、ついでにもう一体も破壊だ!」
「《希望の親衛隊ファンク》……これで、小型クリーチャーとサイキックは全滅です」
 と、いうわけで。
 夕陽たちはアポロンやアルテミスが影響を及ぼすことで実体化するようになったクリーチャーで向かい来るクリーチャーを薙ぎ払っていた。
「でもこれ、たまに起き上がって来る奴いない?」
「あくまでクリーチャーの攻撃であって、カードに戻しているわけではないですからね。攻撃が浅かったり、受け流されたりで、確実に倒せていないこともあるでしょう」
 デュエルで直接戦った方が確実だということを思い知らされる。
 さらにこうしてクリーチャーを操っていて分かるが、相手クリーチャーも反撃をしてくることがある。というか、攻撃されるのだから当然、それに対して反抗してくる。その反撃を受けて、こちらのクリーチャーが倒されることも多々あるのだ。
「こっちの方が楽かと思ったけど、そうでもないな」
「そうですね。神話空間に引きずり込んで、直接手を下した方が確実です」
「……ちょくちょく思ってたけど、御舟ってたまに怖いこと言うよね」
 そんなこんなでクリーチャーを倒しながら進んでいく二人は、やがて足を止める。そして夕陽は、携帯を取り出した。
「力が確認されてる地点は、この辺りのはずだけど……」
「それらしいものは見えないですが」
 強いて言うなら、蔓延っているクリーチャー数がこの周辺だけやたら少ない程度だ。しかしそれも、単に場所ごとにクリーチャーの密集度にばらつきがあるだけとも取れる。
 少数だけ残っているクリーチャーを消し飛ばし、汐は夕陽の携帯を覗き込んだ。
「この地図では、細かいところまでは分からないのですね」
「うん。この地図自体、緊急で作ったものらしいから、大雑把な座標しか分からないらしい」
 そして、とりあえずその座標の地点に行けばなにか分かるだろうという安易な考えだ。
「まさかこの地図が間違っている、なんてことはないですよね」
「それはないと思うわ」
「ああ。この近くで、やたらでかい力を感じる……絶対になにかあるはずだぜ」
 そうアポロンとアルテミスは言う。彼らが言うのなら、そのなのだろう。
 とりあえずもう少しこの近辺を捜索することにした夕陽と汐は、目の前のT字路を右に曲がる。
 そして、見つけた。
「クリーチャー……」
「《聖邪のインガ スパイス・クィーンズ》……!」
 道路の中央に並ぶ、小さな二つの影。それぞれ青い装束と紫の装束を着た、少女のようなクリーチャー。二人一組でゴッド・ノヴァ OMGをサポートするオラクル、青い方が《聖者のインガ バジル》、紫の方が《聖者のインガ ミント》、二人合わせて《聖邪のインガ スパイス・クィーンズ》だった。
「いや、それよりも……」
「……あれは、なんなのでしょうか」
 クリーチャー自体にも注目が行くが、それ以上に目を奪われるのは、彼女たちの頭上に浮かぶなにか。
 そもそも浮かぶという表現すら怪しい。それは物体というよりも現象、これだけ近い距離から目視することで、夕陽たちにもその力を肌で感じることができる。
「空間が歪んで見える……」
「あれを、あのクリーチャーたちが作り出しているのでしょうか」
 それは分からないが、バジルとミントの頭上に見えるということは、なにかしらの関係性は疑ってもいいだろう。
「……よし。じゃあ予定通り、あのクリーチャーをカードに戻すよ」
 力が確認された地点にクリーチャーがいるだろうことは想定内だ。なので事前の取り決めとして、異変と関係がありそうなクリーチャーを見つけたら、カードに戻すことになっている。そのためには、相手を神話空間に引きずり込まなくてはならない。
「アポロン。準備はいい?」
「いつでもオーケーだぜ」
 デッキに手を添える夕陽。バジルはジッとこちらを見つめるだけで、動く気配がない。
「……先輩」
「大丈夫。先に僕が行くって、最初に決めた——」
「違うわよ無能。その眼球は自分の欲望を満たすためだけにあるのかしら? 相手をよく見なさい」
「え……?」
 アルテミスに罵倒混じりに言われて、再びバジルを見遣る夕陽。
 先ほどと変わらない光景がそこにはある。だが、夕陽はこの時気付いた。
「っ、スパイス・クィーンズ……!」
 そこにいるのは、“バジル”だけなのだ。
 見れば、夕陽たちの背後に紫色の影——ミントがいた。
「挟み撃ちにされたわね。どうする?」
「……先輩はそちらの青い方をお願いするですよ」
「ごめん……じゃあ、そっちは任せたよ」
 二人一組という固定概念に惑わされ、まさか二体で分かれてくるとは思わなかった。ツーマンセルで動いていて良かったと思わされる。
 そして二人は、それぞれのスパイス・クィーンズを相手取るために、神話空間へと入っていく。