二次創作小説(紙ほか)

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.591 )
日時: 2014/07/16 03:27
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)

「——消えた?」
「みたい、ですね……」
 神話空間から出て来る夕陽と汐。
 夕陽は足元に落ちる《聖邪のインガ スパイス・クィーンズ》のカードを拾い上げつつ、周囲を見渡す。
「あのよく分からないなにか……どこに行ったんだ?」
「さっきまで感じてたすげぇ力は、もう感じねぇぞ」
「急にぷっつり途切れたわね」
 《スパイス・クィーンズ》の頭上で発生していた、謎の力の塊。夕陽たちにも目視できていたそれが、気付けば消えていた。
「やっぱりさっきのクリーチャーが発生源だったのか……? そのクリーチャーを倒したから、発生した力も消えた、とか?」
「可能性としてはありえそうですが、断定はできないですね」
 とはいえ、ここでいくら考えても答えなど出ない。その答えを導き出すのは、ラトリたちに任せるしかなさそうだ。
「……そういえば、この辺ってさっきの商店街のすぐ近くなんだね」
「そういえばそうですね」
 ふとそんなことを言いながら、夕陽は歩を進める。すると、本当にすぐに——徒歩一分足らず——商店街へと戻って来た。
「どうしたのですか」
「いや、そもそも僕らはここになにしに来たんだっけ、ってことを思い出してさ」
「ああ、今なら店員さんもいないですからね。お金を払わずともばれないですね」
「そんなことは言ってない!」
 勝手に人を犯罪者にしないでほしいものだ、と思いながら、夕陽はそこらの店を物色する。
「でも、人がいないのはいいかもな。人目に付かないなら、普段じゃ気恥ずかしくて入りにくい店にも入れるし」
「会計する時はどうするのですか」
「…………」
 一瞬でメリットが消失した。
「……ま、まあ。入ってなにもなかったのと、我慢して目当てのものだけ買って会計するのとは、後者の方が無駄が少ないし……」
「メリットなのかデメリットなのか分かりにくいですね」
 とりあえずそれをメリットと考え、夕陽はまず、近くのファンシーショップを覗くことにした。
「へぇ、こういう店って入ったことないけど、中はこうなってるのか……」
「私もファンシーショップには滅多に入らないですね。ちょっと新鮮です」
 などと言いながら、二人はそれぞれ店内を見て回ることにした。
 思ったより中は広く、二階建てになっていた。汐が一階を回っているので、夕陽は二階に上ることにした。
「こういう店ってぬいぐるみとかばっかり置いてるもんだと思ったけど、意外といろんなものが置いてあるなぁ……」
 この辺りはネックレスなどのアクセサリーがメインのようだが、その前には文房具やバッグなどもあった。少々チープに感じられるものが多いが、値段が値段で、しかも若者向けなので仕方ないだろう。
「……ん? これ……」
 夕陽はふと、とあるものが目に付いた。
 華やかな店内と商品の中では、比較的地味に見えるそれを、夕陽はそっと手に取って見る。
(……そういえば、あの子の誕生日に送ったのも、こんな感じのものだったっけ)
 特に大した理由もなかったのだが、妹の親友である少女の誕生日にも、プレゼントを贈ったのだった。
 そのプレゼントは今でも大事にしてもらっているようだが、中学生と高校生では感性が違うかもしれない。
「…………」
 そんなことを思いながら夕陽は、手に取ったそれをジッと眺めているのだった。



 亜実と栗須のペアは、街の北西方面へと進んでいた。
 道中は、やはり数多のクリーチャーが行く手を阻むのだが、
「マルス!」
「任せな。お前のために、すべてを焼き払おう」
「そういうのはいらねぇから」
 そのクリーチャーは、亜実の有する《焦土神話》の力で焼き払っていく。
「ふむ、随分と強引だな」
「うるさい。お前も一緒に焼いてやろうか」
「できるものなら。それに、僕がいなくなれば、貴様の負担が増えるだけだぞ」
「……ちっ」
 露骨に舌打ちする亜実。
 確かにこの状況では、一応は協力関係にある栗須にいてもらった方がいいことは確かだ。夕陽たちは反応が一つの地点に向かっているが、亜実たちが向かているのは、反応が二つ、重なっている地点。ゆえのツーマンセルだ。
「しかし、あれだな。こうなってくると、貴様と組んで正解だったかもしれないな」
「はぁ? なに気色の悪いことを」
「僕は【ラボ】との関わりが薄く、『昇天太陽サンセット』と接触する時も、大概は貴様が邪魔していただろう? もう一人の少女に関しては、面識すらない」
 だが、亜実とは何度もいがみ合っている。これが初顔合わせでもないし、夏よりも前から、ずっと犬猿の仲だ。
 なので、
「貴様の力を気兼ねなく利用できる。ほら、またクリーチャーが来たぞ、早く焼き払ってくれたまえ」
「てめぇ……やっぱ先にこいつから焼くか」
 栗須は『神話カード』を持っていない。なのでクリーチャーを実体化させることはできないのだ。
 【ラボ】のように誰かの『神話カード』の力を借りることもできたのだが、亜実や夕陽や汐は渋り、ラトリは承諾したがアテナは「アテナはマスター以外にこの力を行使するつもりはないので。あと疲れました」と一蹴。
 そう考えれば、険悪であるがゆえに遠慮のないこの組み合わせは、最適だったのかもしれない。
 そんな風にいがみ合いながら進む二人は、やがて座標に示された地点に辿り着いた。
「この辺りだな」
「それらしいものは目視できないが……マルス、なにか感じるか?」
「感じるな、すぐ近くに。かなり大きな力だ」
 周囲を見回しながら、神妙な面持ちを見せるマルス。彼がそう言うのなら、ここで間違いないようだ。
 二人はマルスを先頭に住宅街を歩いていく。しばらく進むと、やがて空地の横を通り——
「——あれだな」
「推理するまでもなく、見ただけで明らかだな」
 目標らしきものを発見した。
 まず最初に目に飛び込むのは、二体のクリーチャー。
「《機神装甲ヴァルボーグ》とは、随分と時代遅れなクリーチャーだな」
「もう片方は《拷問の魔黒スネーク・テイルコート》か。微妙なところが出て来たものだ」
 とりあえずはそんな感想を述べる二人だが、それ以上に気になるものが、その二体の頭上にはあった。
「……あれはなんだ?」
「あたしが知るわけないだろう」
 二体のクリーチャーの頭上には、なにかがある。それがなんなのか、亜実にも栗須にも言葉にはできない。
 時空が歪んでいるようにも見える。そして、なんとなくだが、強い力も感じる。見るからに危なげな空気の漂う現象だ。
「マルス……」
「すまないアミ。あれがなんなのかは、俺にも分からない。だが、放っておかない方がいい。俺の勘がそう告げている」
 それは亜実も同感だ。そもそも、謎の力の原因を探りに来ているのだから、それに大きく関係していそうななにかを放置するわけがない。
「で、どうする。あれがなんなのかが分からないのなら、どう対処すればいいのかもわからないだろう。情報がなさ過ぎては推理もできない」
「……とりあえず、あのクリーチャーをどかすか。あのなにかがそれ単体で存在しているのか、それともあのクリーチャーありきのものなのかは知らないが、クリーチャーを野放しにしておくわけにもいかない」
 それらしいクリーチャーを見つければ、確固撃破ということになっている。
 亜実と栗須はそれぞれデッキを手に、亜実の傍らにはマルスが付く。
「勝手にやられるなよ。お前の取りこぼしを処理してやるほど、あたしはお人好しじゃない」
「それはこちらの台詞だ。軍人気取りに酔って、自滅なんてしてくれるなよ」
 互いにそんな憎まれ口を叩きながら、それぞれクリーチャーの下へと向かう。
 そして二人は、神話空間の中へと誘われる——