二次創作小説(紙ほか)
- デュエル・マスターズ Mythology オリキャラ募集 ( No.60 )
- 日時: 2013/07/24 15:25
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: PNtUB9fS)
夕陽らに撃退された男三人衆は、先日の女のように一目散に逃げていった。行動パターンが単純だ。
「ふぅ……なんとか片はついたな」
「ですね。大した相手ではなかったようですが」
「うん、なんかもっとこう、別次元の強さ! みたいなのかと思ってたけど、そんなんでもなかったねー」
夕陽の感覚としては、先日の女とそう変わらない。一般人と戦っているような気分で、『炎上孤軍』の時のような気迫はなく、戦争と比喩される“ゲーム”にしては拍子抜けの相手だ。
「……それはそれとして、先輩方」
くるりと、汐が踵を返し、夕陽とこのみに面と向かう。表情はないが、妙に迫力のある佇まいだ。
「な、なに、どうした、御舟?」
「汐ちゃん、なんか怖いよ……」
「先輩方のデッキ、明らかに『神話カード』を主軸に据えたものでしたね。このみ先輩はまんまスノフェアリー、先輩に至っては『神話カード』そのものを使用していたようですが、私の忠告を忘れてしまったのですか」
少なくとも夕陽は、忘れてはいない。汐は出来る限り『神話カード』を使わず、穏便にことを済ませようという提案をしていた。そして夕陽とこのみのデッキは、その提案を真っ向から否定するものだ。
「い、いや、だってさ……そんな簡単にカードを渡すのって、なんか癪じゃないか?」
「そーだよ、せっかくこんなすごいカードがあるのにさ!」
「癪でもなんでも、身の安全の方が大事です」
ズバッと切り捨てる汐。彼女は一度溜息を吐き、
「今回のことで、ことの危険性は理解できたでしょう。毎度毎度こんなことに巻き込まれていては、身が持たないです。そのカードは私たちが持っているべきではないんですよ」
汐の言うことは一理ある。確かに『神話カード』を持っていればそれだけで危険だ。だからその危険を回避するために、『神話カード』を手放すという選択は間違ってはいないのだろう。だが、
「手放せないよなぁ、なんか」
「だよねー」
夕陽とこのみは、それぞれの持つカードからそれを感じていた。
翌日。
この日は普通に平日であり、つまりは学校にいるわけだ。そこで、思いもがけない事態に直面した。
「えー……そういうわけで、担任の白石先生がいないので、代わりに私がHRを進行することになりまして……」
雀宮高校には週に一度、一限分の時間を取って長いHRを行うのだが、その進行は基本的に担任教師が行う。しかし一年四組の担任が早退だか行方不明だかでいないため、代わりに副担任の影が薄い現代社会教師が進行することとなった。
それはいい。まったくもって構わない。それだけなら夕陽にとってはデメリットなどは存在しない。
「えっと……それで、今日の案件が文化祭についてなのですが……本当は先週までに決めなくてはいけなかったことなので、すみませんが、急いでお願いします……」
そういえば先週は自習だったと思い返す夕陽。そんな大事な案件があるというのに、随分といい加減な教師だ、と自分の担任を再評価する。
それも、まあいい。問題はこの先だ。
「それじゃあ、とりあえず委員の方……えぇっと、文化委員は——」
夕陽としては、今は文化祭のことなどどうでもいい。いや、どうでもいいとまでは言わないが、それよりも今現在の夕陽にとっては、文化祭よりも“ゲーム”のことの方が重要なのである。
昨日、一昨日と連続して襲われ、しかも昨日は三人組で現れた。偶然かもしれないが、一昨日と昨日の襲撃は繋がっており、今回襲ってきた者たちは一つの集団に属しているとも考えられる。
そんなことを頭の中で考えていると、
「——空城さんと、光ヶ丘さん、お願いします……」
「……え?」
(僕って文化委員だったのか、というかいつのまにそんな委員会に入ったんだっけ……しかも光ヶ丘と同じ委員だったのかよ。よく忘れてたな)
とはいえ、雀宮高校の生徒の大半はなにかしらの委員会に所属する義務があるので、夕陽がそのうちの一人でもなんらおかしなことはない。
なので夕陽の驚きの中心は、どちらかというと姫乃と同じ委員会だったということだ。
出身中学は同じで、一年間だけだがクラスメイト、今まで活動がなかったとはいえ同じ委員会に所属している人間のプロフィールをこうまで忘れているとは、我ながら大した記憶力だ、と自分で自分を皮肉る。
「……? 光ヶ丘?」
それはそれとして、重い足取りで教壇に向かう夕陽がふと姫乃の方に目を向ける。姫乃は今しがた席を立ったところのようだが、挙動の一つ一つがやたら遅い。
それだけではない。目はどこか虚ろで、呼気は荒く、顔もやや紅潮している。足取りは若干ふらついており、見るからに体調不良そうだ。
思えば昨日の姫乃も気分悪そうにしていた。一昨日のこともあり、疲れが抜け切っていないのかと思っていたが、それだけではないのかもしれない。
周りの生徒もそんな姫乃を見て、少し不審な目を向ける。
「大丈夫か? 体調悪いなら、僕一人でもやるけど」
「う、ううん……だいじょうぶ……」
流石に見かねてそう言うも、拒否される。しかし姫乃の言葉にはまったく覇気が感じられない。
「光ヶ丘さん……?」
副担任も光ヶ丘の異常さに気付いたのか、声をかける。その時だった。
姫乃が、前のめりに倒れ込む。
「っ! 光ヶ丘!」
すぐ近くにいたので、なんとか姫乃を抱きとめる夕陽。周囲は軽くパニック状態で、心配するような目線を送る者が大半だが、その大半の生徒はどうしたらいいのか分からず、おろおろしている。副担任も同じだ。
夕陽がここで取るべき行動は一つ。いや、夕陽でなくても、学校という場所においては、一つしかない。
「先生! 光ヶ丘を保健室に連れて行くので、後は任せます!」
「え……あ、は、はい……」
そんな生気のない声を背後に聞き、姫乃を抱え上げ、野次馬のように集まった生徒をどかして走り出す。
一昨日と変わらず、姫乃の身体はとても軽かった。
「先生! 先生って……誰もいない?」
保健室に着くや否や、声を荒げる夕陽。しかし部屋の中には誰もいなかった。
「学校の保険医ってこういう時に限っていないな……! どうしよう、とりあえず寝かせた方が良いかな……」
と呟きつつ、ベッドスペースを区切るためのカーテンを開けると、
「っ、すいません……!」
先客がいた。
しかし、思い返してもう一度カーテンを開けると、
「って、先生じゃないですか! なんでこんなとこで寝てるんですか!」
そこにいたのは一年四組の担任教師、白石だった。HRにも出ずになにを呑気に寝ているのかと憤慨する夕陽。
「んー……? あっれ、空城? なんでここにいるの?」
「それはこっちの台詞……いや、もういいか。先生、ちょっと今、緊急事態で……光ヶ丘が倒れたんです」
「マジ? それはやばいな、とりあえず寝かせなよ」
グッと背伸びして、白石は場所を空ける。そこに姫乃を寝かせた。
「そういえば昨日も具合悪そうにしていたなぁ、光ヶ丘は。で、保健室の先生は?」
「いないんです。どこに行ったか知りません……よね、そう聞いたってことは」
ともかく、緊急事態と言うからにはそれなりに危機的な状況ではある。
普通に体調不良で寝込む生徒なら、まあそれなりにいる。しかし倒れるほどとなると相当だ。夕陽の一朝一夕で習得したとも言えないような技術と知識だけでは対処できない。
どうしたものかと頭を悩ませていると、
「うーん、熱中症というか、普通に風邪っぽいね、これ。っていうか光ヶ丘、かなり痩せてるな、女の子なのに全然脂肪がついてない……放っておけば栄養失調になりかねないよ」
「……分かるんですか?」
「うん。実は医療系の大学を出てるからね、先生」
得意げに胸を張る白石。普段の怠惰な素行がなければ尊敬できるのだが、今現在という限定的な状況においては、その知識は大いに助かる。
「光ヶ丘の家庭の事情はちょっとだけ知ってるから推測できるんだけど、疲労が溜まってたのかな。それで体調を崩して、免疫力も低下して、風邪を引いたと……分かりやすいね。ただこの痩せ具合は気になるな……とりあえず」
体を夕陽の方に向ける白石。
「光ヶ丘は早退させよう。ここにいるのが先生でよかったな、うちの学校の教師は軒並み頭が固いから、ちゃんと担任が出した届じゃないと早退が認められないんだよね。とりあえず先生が早退届を出しておくから、空城は光ヶ丘を送って……って、空城は光ヶ丘の家がどこか知ってるの?」
「あ、はい、一応……」
「そっか、それは良かった。光ヶ丘はあんまり友達とかいないみたいだし、生徒の住所を今から漁るのも時間かかるし、こういう時は早く休ませた方がいいしね」
一昨日、やや強引に家まで送ったことがこんな形で役に立つとは思わなかった。
白石はポケットから財布を取り出し、一万円札を押しつけるように夕陽に手渡す。同時に携帯も取り出し、耳に当てていた。
「え? なんですか、これ?」
「タクシー代。先生は自転車通勤だから送れないんだよ。でも女子校生を負ぶっていくのは流石に大変だし、下手したら通報されかねないからね。最近はナントカ教とか絡みで変な事件も起きてるし」
つまり、白石はタクシーを呼んでくれているらしい。適当な教師だと思っていたが、案外面倒見が良いのかもしれない。
「そんじゃ任せたよ、空城。いくら相手が動けないからって、くれぐれも先生の評価を落とすようなことはするな」
「しませんよ!」
——と思ったが、やはり白石は白石だった。
相変わらずな担任に、夕陽は溜息を吐く。