二次創作小説(紙ほか)

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.603 )
日時: 2014/10/26 13:25
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: UrB7UrBs)

「……所長」
「んー? ホワット?」
「なんなんですか、今回のこれは」
 北東方面へと進んでいく、黒村とラトリ。クリーチャーを蹴散らしながら進み、そのクリーチャーたちの勢いがやや衰えてきた合間に、黒村はラトリに問う。
「こんな現象は前代未聞です。夥しい数のクリーチャー、町一つを覆い尽くすほどの神話空間、そして今しがた九頭龍たちから報告のあった謎のなにか……これは、なんなんですか」
「そんなの私に聞かれてもアンノウン。それを解明するのが、私たちのワークだよ」
「それはそうですが……」
 なにか引っかかる。いや、そうではない。黒村はただ、探りを入れているだけだ。
 ラトリ・ホワイトロック。若くして【ミス・ラボラトリ】なる“ゲーム”研究機関の創立者。【神格社界】のルカ=ネロ、【神聖帝国師団】のジークフリート・フォン・パステルヴィッツらとも浅からぬ縁らしいが、詳細は不明。その他の経歴も一切不明。とにかく謎に包まれた人物だ。
 はっきり言って黒村は、彼女を疑っている。いや、その表現はやや語弊があるかもしれない。だが、信じきれないのだ。完全な信頼を置くには、彼女は謎が多すぎる。
 彼女の“ゲーム”に対するスタンスも、他の“ゲーム”参加者はおろか、【ラボ】の研究員とも違う。ただ知識欲を満たしたい、“ゲーム”の謎を究明したい、そういったこととは別の思惑があるように思える。
 さらに彼女は、自分たちになにかを隠しているような気さえするのだ。ゆえにこの現象についてもなにか知っているのではないかとカマをかけたような言い方をしたが、上手く躱されてしまった。
「……マスター、よろしいでしょうか」
「アテナ? 君もホワッツ?」
「この近辺一体に分散していた力が消失、代わりにここから約1km地点に、一際大きな力を確認しました」
「それは……」
 このタイミングでこの報告。アテナの言うことを信じるなら、明らかに事態が動いている。
「1kmかぁ。分散してたパワーが集まるってことは、スポット的にもそれなりの場所なのかな? この辺でそんなプレイスある?」
「パワースポットかそれに近いものでなくとも、分散した力を手元に引き戻したと考えるならば、力の場所を客観的に確認できるような場所に集まっているとアテナは考えます」
「客観的に確認できる場所か……周囲の不確定要素的な力やノイズに邪魔されたくないとするなら、高いところか……?」
 この街で高い建造物。ビルなどそういったものはいろいろあるが、ここから1kmという範囲も加味するのであれば——ラトリと黒村は、真っ先にそれへと視線を移す。

 この街における一種の象徴とも言える高層建造物——展望台だ。



 東京におけるスカイツリー、大阪における通天閣ほど有名で立派なものではないが、この街にもそこそこ高いタワーがあり、そこには展望台が併設されている。
 展望台というより、単に前方角に対して有料双眼鏡が設置されているだけだが。主に観光客向けに作られたもので、展望台と言うと語弊がある建物だが、しかし他の特徴が思いつかないため、一般的には展望台と呼ばれている。
 それはともかくとして、そんな展望台へとやってきラトリと黒村。当然のように中にはクリーチャーがひしめき合っていたが、その程度は彼らにはなんの問題もない。適当にいなして先に進む。
「どう、アテナ? なにかフィールする?」
「かなり近いところに強い力を感じます。この建物であることは間違いないでしょう」
「もっと正確な位置は分からないのか?」
 黒村がアテナへと尋ねる。が、アテナはすぐには答えず、少し間を置いて、
「……本来ならばマスターの問いにのみ答えるのですが、今の状況と貴方とマスターの関係を総合して検証した結果、その問いには答えてもよいと判断しました」
「…………」
 意外と頑固というか厳格というか、面倒な性格をしているようだ。
 そんなアテナの一面を垣間見つつも、彼女は答える。
「この地点、即ち地上からおよそ100m弱の高さです」
「100m弱ね。このタワーは確か100mちょっとだから」
「ほぼ頂上か。途中の雑魚のことも考えると、少々面倒だな」
 とはいえ、現状では周囲にそれらしいクリーチャーの姿は全く見えない。ここだけ特別な力が働いているのか、それとも単にクリーチャーの出現場所にばらつきがあるだけなのか。
 とりあえず二人はエレベーターで最上階まで行き、そこから上へと続く階段を探す。もしかしたらエレベーターで移動が終わりかとも思ったがそんなことはなかった。最上階と頂上は別物であるということがよく分かる。
「このドアだね。やっぱりキーでロックされてるけど」
「一般人は立ち入り禁止ですからね。少し待ってください」
 ロックの構造がもっと単純だったら逆に面倒だったが、幸いにも鍵穴のようなものが見えるので、鍵を差し込む型のようだ。
 黒村はなにか細長い針金のようなものを鍵穴に差し込み、なにやらがちゃがちゃと動かすと、針金を引き抜く。そしてドアノブを捻りながら、思い切りその扉に足を叩きつけ、蹴り開けた。
「開きました」
「ワォ、バイオレンス……でもサンクス。レッツゴー!」
 バイオレンス以上にヤバいことをしているのだが、しかし今は手段を選んでいる場合でもない。そのまま非常階段のような階段を駆け上がっていく。
 しかし、その道中。
「……マスター、後方よりクリーチャー反応出現。同時に上空の力が微弱ながらも乱れました。感づかれたようです」
「ばれちゃったか。でも、クリーチャーなんてキャンノットルック?」
 感づかれた、というのも上にいるであろうなにかが意志を持つ物であった場合だが、そのように解釈できなくもない。
 とはいえ、ここからではクリーチャーの姿は見えないが、
「いや……さっき曲がったところの陰にいますね。所長は上に行ってください。放っておいて奇襲されるのも困りますし、ここは俺が食い止めます」
「それ、死亡フラグだよ。まーでも、黒村君ならドントウォーリー、だね! 頼んだよ! アテナ!」
「はい」
 ラトリは黒村を置いて、そしてアテナを連れて、たったかと階段を駆け上がっていく。
 一方黒村は、静かにデッキケースに手を掛けつつ、ジッと曲がり角の陰を見つめる。
「俺は別に構わないが、出て来なくていいのか? 奇襲するならそれはもう失敗だ。そこで隠れていても意味はない——」
 と、その時。
 なにかが超高速で黒村へと突っ込んで来た。
「っ!」
 間一髪、顔を少し傾けるだけでそれは回避できたが、代わりにバランスを崩してしまい、階段から落ちかけた。しかし、手すりにつかまってなんとか体勢を整える。
「……《倍返し アザミ》か」
 直立体勢を取り戻しつつ、上を取られ、通行止めをしてくるクリーチャーを見て、黒村は呟く。
 これまでに報告があったクリーチャーは、《聖邪のインガ スパイス・クィーンズ》《機神装甲ヴァルボーグ》《拷問の魔黒スネーク・テイルコート》《偽りの名 ハングリー・エレガンス》《雷鳴の悪魔龍 トラトウルフ》——夕陽と汐が探偵事務所に来る前に遭遇したものも含めると、《桜舞う師匠》《サイレンス トパーズ》もだ。
「やはり統一性はないか……まあいい」
 今の役目は、目の前に敵を倒すことのみ。
 そう自分に言い聞かせ、黒村とアザミは神話空間に溶け込んでいく——