二次創作小説(紙ほか)
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.609 )
- 日時: 2014/10/29 00:31
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: UrB7UrBs)
ラトリが《グレイテスト・グレート》を倒したことで、この街の騒動は収まった。
正確に言うと、最初に力の集合体が消失した時点で、街のクリーチャーはすべて消えたらしい。なので《グレイテスト・グレート》が実質的な最後のクリーチャーであったらしい。
そんなわけで、めでたく今回の事件は解決したのだった。
とはいえ、この不可解な現象がなんだったのかは分からないままだ。こんなことがまた何度も起こっても困るが、しかしかといって、原因もなにも分からないため、どうしようもないというのが現状である。
つまり、結局なにも変わらないのだ。ただ、今後もこのようなことがあるかもしれない、という可能性を見出したに過ぎない。
なお、後に夕陽たちの住んでいた町でも同じようなことが起こっていたことが発覚するのだが、そちらはかなり軽微なもので、何人がかりかで町のあちこちを小一時間ほど駆け回るだけで、完全に収まったらしい。
今回の事から得られたことは少ない。しかし、なにも得なかったというわけではない。
今後も同じようなことが起こるかもしれない。そしてラトリが見た謎の影——もしかしたら今回の一件は、彼らに新しい敵が迫っていることの予兆なのかもしれなかった。
「かーんせーい!」
「できたぁ……」
2月23日、バレンタインデー前日。
このみと姫乃は『pople』のキッチンにて、達成感に満ちた表情を見せていた。
「見た感じ、今までで一番いい出来だと思うよ。これならゆーくんも一発だね!」
「毒盛ってるみたいだからその表現はちょっと……でも、確かに一番自信作かも」
あとはこの完成品にラッピングをするだけである。
姫乃は脇に置いておいた袋からガサゴソと包装紙を取り出す。
「物は完成したし、いよいよ明日だね。汐ちゃん情報によると、ゆーくんもちゃんと準備したみたいだし、あたしのお膳立てもバッチリ!」
「え? 空城くんが、なに?」
「なんでもないよー。姫ちゃんは明日ことだけを考えてれば……って、そうだ」
このみはなにかを思いついたかのように、ポンッと手を打った。
「ゆーくんのことだし、これを渡すだけじゃ効果薄いかも」
「え……そ、そんなこと言っちゃったら、今ままでの努力全部否定しちゃうよ……?」
「あ、いや、そんなことはないかもだけど、もう一押し、もう一発パンチが必要だよ」
「その言い方だと本当の拳みたいだよ……」
しかし夕陽と付き合いの長いこのみが言うのであれば、そうなのかもしれない。とりあえず姫乃は、彼女の言うことを聞くことにする。
「それに“この後”のことも大事なわけだし、やっぱそろそろ変化が欲しいよね」
「変化?」
「うん。ゆーくんのことだから自分から変化をつけるなんてしないだろうし、姫ちゃんの方から変わっていかないと」
「え、えっと、でも、どうすれば……」
このみの言いたいことはなんとなくわかるが、一口に変化と言われても具体的にどうすればいいのか、姫乃にはさっぱりわからない。
しかしこのみは、ふふふ、と不敵に笑う。
「だいじょーぶ! あたしに考えがあるから。えっとね——」
「……なーんか、今日みんな浮き足立ってるな……」
夕陽は椅子にもたれ、クラスメイトたちを眺めながらそっと呟く。
今に始まったことではないが、街一つを巻き込んだ騒動の後でも平気な顔をして登校し、授業を受けるというのは変な気分だった。
「わいわいきゃっきゃきゃと……騒ぐなとは言わないけど、もう少し大人しくしてほしいかも……」
夕陽の視線の先に映るのは、なにかを渡したり受け取ったりしているクラスメイトの姿。笑い声が絶えないのはいいのだが、その裏でこの世界の終わりを見たかのような狼のような声がする気がするのは、気のせいだということにしよう。
このクラスだけでなく、学校全体で多くの生徒がそんな調子だった。
(そういえばうちの妹もなんか作ってたな)
今日がどのような日であるかをちゃんと把握しておけば夕陽にも理解できた現象であるが、この時の夕陽は別のことを考えていたため、そちらに意識が向かなかったのだ。
(……今日だったよな、2月24日——光ヶ丘の誕生日)
そっと鞄に手を添える夕陽。
このみに唆され、汐に手伝って貰って選んだが、こうなってくると本当にこれで良かったのかと少し不安になる。
(いやいや、変に意識するなよ僕。いつも世話になってるわけだし、これはお礼を兼ねたお祝いだ)
なにに対する言い訳化は分からないが、自分にそう言い聞かせる夕陽。
その時、教室の扉が開いた。
「おーっす、お前ら席つけー、ホームルーム始めっぞー」
気のないというか、気だるげというか、気の抜けたような声で担任教師の白石が教室に入ってくる。
「まあ言っても連絡事項なんてそんなねーんだけど……お? そういやもうすぐ学年末考査か。まー赤点にならないよう頑張れや」
白石は適当すぎる中身のない連絡事項を済ませて、もーねーなー、などと言いながら連絡すべきことが書かれているらしい紙をペラペラさせていた。
「あ、そうそう。春永、あとで先生んとこ来てな」
「あたし? よく分かんないけど分っかりました!」
「おーおー、元気だねぇ……んじゃこれでたぶん終わりだし、もー帰っていいよ。解散解散」
苦笑いを浮かべながらも、やはり適当にホームルームを終える白石。
この適当さ加減に慣れた一年四組は誰も突っ込むことなく、各々が放課後ライフを始めるのであった。
(さて……)
夕陽もそんなクラスメイトたちに混じって立ち上がる。そしてぐるりと教室を見回して、目的の人物を見つける。
「じゃ、あたしは行くね。姫ちゃんガンバ!」
「う、うん。ありがとう、このみちゃん」
目的の人物とはこのみ——などではなく、このみが白石に呼ばれる前に二、三言葉を交わしていた人物、姫乃だった。
このみが教室から出ていくのを確認してから、夕陽は姫乃の元へと歩いていき、
「光ヶ丘——」
「そ、空城くんっ!」
いつものように声をかけようとしたら、逆にこちらが呼びかけられてしまった。しかも平静を保とうとしているこちらとは違い、向こうはどこか必死というか、気がこもっているようだった。
やや出鼻を挫かれてしまった感があり、夕陽も思わず勢いを削がれる。
「え、な、なに?」
「その、えっと……と、とりあえずちょっと来てっ」
姫乃は夕陽の制服の袖をつかむと、それを引っ張りながら教室の外へと出ていく。
それほど強い力で引っ張られているわけではないが、いつもと様子の違う姫乃に気圧されるかのように、夕陽は抵抗せずになされるがまま、彼女に連れられる。というか、普通に混乱していた。
(なんだなんだ? なんか今日の光ヶ丘、少し変というか、なんかアクティブだぞ? なにがあったんだ? このみの馬鹿がなにか変なこと吹き込んだのか?)
などと思いながらも、姫乃は速足で校舎を歩いていく。白石のホームルームは適当だがその分終わりが早い、そのためか廊下にはまだ生徒がほとんどいなかった。
「こ、ここでいいかな……」
姫乃は人通りの少ない、校舎の隅、廊下の曲がり角の陰になっているところまで来ると、その足を止めた。
そして、夕陽を前にまっすぐ立つと、どこか緊張したような面持ちで口を開く。
「いきなりごめんね。でも、わたし、空城くんに渡したいものと——言いたいことがあるから」
「そっか。僕も光ヶ丘に渡すものと言うことがあるんだ」
先ほど教室でやられたことの意趣返し——のというほどではないが、姫乃の言葉を抑えて、夕陽が先んじた。
夕陽は鞄から、先日クリーチャー騒動に巻き込まれながらも商店街で購入した、あるものを取り出す。
「はいこれ。誕生日おめでとう」
自分でも軽い物言いだと思いつつも、友達同士ならこんなものか、と思い直して、取り出したもの——包装紙やリボンでラッピングされた箱——を姫乃に手渡す。
「あ、ありがとう。わたしの誕生日、知ってたんだ……」
「いやごめん、悪いんだけど、このみに言われるまで全然知らなかったんだ。そのプレゼントを選ぶのも、御舟に手伝ってもらったりして……まあ、日ごろの感謝の印、って意味も込めてさ」
おめでとう、と再び言葉にする夕陽。少し気恥しくなってきたので、このみやら汐やらの名前も出したりしたが、祝う気持ちははっきりとあるのだ。それは姫乃にも伝わっているだろう。
「……開けていい?」
「勿論」
姫乃は丁寧にリボンを解き、包装紙を取っていく。そして小さな箱を開けると——
「——リボン?」
中に入っていたのは、黒いリボンだった。ラッピング用のそれではなく、髪を結ったりする装飾用のものだ。
「こういうのって、どういうものを渡せばいいのか分からなくて……最後には僕のセンスで選んだものだし、大したものじゃないんだけどね」
「う、ううん、そんなことないよっ。すごく、嬉しい……っ!」
「そう言ってくれて安心したよ」
実際、本当に安心した。なぜなら、
(昔、柚ちゃんにあげたプレゼントとまったく同じ発想だからな……成長しねぇな、僕も)
ということだからだ。
「じゃ、じゃあ、今度はわたしの、番……これっ!」
軽い調子で渡した夕陽とは対照的に、バッと勢いよく、そしてなにかを強く思うかのように、姫乃もラッピングされた包みを夕陽に差し出した。
「えっと……僕は誕生日、今日じゃないけど……」
「ち、違うよっ。バレンタインデーの、チョコレートだよ」
「あぁ」
今更ながら、ようやく合点がいった。だからクラスの連中はこぞって浮き足立っていたのか。妹がキッチンでなにか作っていたのも、大方部活仲間にでも配るつもりだろう。この日が姫乃の誕生日と強く意識していたので、すっかり失念していた。
「そうか、今日はバレンタインデーだったか、すっかり忘れてたよ。ありがとう、光ヶ丘」
「う、うん……」
姫乃は包みを渡すなり俯いて、しばし言葉を発さなかったが、やがて、
「あ、あの、空城くん……っ」
「なに?」
「…………」
呼びかけたと思ったら、また黙ってしまう姫乃。まるでまだ迷っているような、決意が固まっていないかのように言葉に詰まっている。
しかしやがて、決心したように、顔を上げた。
「あ、あのね、空城くん。そのチョコレート……義理のつもりじゃ、ないよ」
「……?」
少し言っている意味が分からなかった。少し考えて、近年流行っている友チョコとかいうやつだろうか、と思ったが、確かあれは女子同士で渡し合う場合に使う言葉だったはず。
そんなトチ狂ったことを思っているのも、後から思えば、この時点で夕陽は察していたのかもしれない。姫乃のことを。ただ、無意識的にその可能性を排していただけなのだろう。だからこその思考だった。
しかしそんな夕陽の考えなどとは関係なく、姫乃の心中が変わることはない。
「空城くん……ううん」
いつもの呼び名を言ってから、小さく首を振る。今渡したものが完成した時、このみに言われたことを思い出しながら、姫乃は彼の呼び名を言い直す。
「“夕陽くん”」
そして、深呼吸して、しっかりと彼を見据えて。今の自分に伝えられる全てを——
「友達としてじゃない。わたしが思う、一人の男の子として、あなたが——」
——伝える。
「——好きです」