二次創作小説(紙ほか)

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.617 )
日時: 2014/11/04 19:53
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: RHpGihsX)

「ここがこのみのいえ?」
「うん、そうだよ。きっさてんなの」
「きっさてん……って、なに?」
「おちゃとかだすおみせ」
「あぁ」
「ただいまー……あれ?」
「どうした?」
「おねーちゃんのこてがしない……おでかけしてるのかな?」
「きょうだいがいるのか」
「そうだよ。おねーちゃんがいるんだ。あと、れいにーさんも、ほんとーのおにーちゃんみたいにしてくれるの」
「れいにーさんって、だれ……?」
「ゆーくんは、きょうだいいないの?」
「いるよ、いもうとが。あきらっていうんだ。いまはようちえんだけど」
「へー、あってみたいな」
「じゃあこんどは、ぼくのいえにこいよ」
「うん!」



 学校から徒歩で約三十分。
 住宅街から少し離れたところに、水瀬家はあった。
「うわ……凄ぇ……」
 思わず感嘆の言葉を漏らす夕陽。
 目の前に建つのは、古めかしいが立派な木造の日本家屋。普通の家よりもよっぽど大きく、門扉からして既に荘厳だ。
(まるで柚ちゃんの家みたいだな……流石にあそこほど大きくはないっぽいけど……)
 妹の友人を思い浮かべながら、夕陽はただただ、その家を見上げていた。
「とりあえず入れ」
「あ、うん」
 流に案内されるままに門を潜り、玄関を通り、母屋に入る。
「……?」
 そこで少し違和感を感じた。
 静寂が包む、くすんだ板張りの廊下を歩くうちにも、その違和感は募っていく。
「……なあ、流。今この家、人いないのか?」
「俺は一人暮らしだ」
 にべもなく言い放つ流。その言葉に、多少なりとも夕陽は怯んでしまう。
「一人って……この広い家で?」
「ああ」
「家族は?」
「両親はどっちも死んだ。兄弟も親戚もいない」
「それって……」
 いわゆる、天涯孤独の身。
 親族がまったくいない、少しでも血の繋がった人間がいない、たった一人。
 夕陽はほんの少しだけ、流の闇を、垣間見たような気がした。
「……まあ、気にするほどのことじゃない。両親は俺が物心つく前に既にいなかった。この家は、俺の母親が生前に財産として持っていた家らしいが」
 少しだけ昔話だ、と流は語り始める。
 遠くもなく近くもない。いつものように、どこかを見ている目で。
「俺の両親は、漁師だか船乗りだか知らないが、その手の仕事をしていたらしい。だから海難事故で死んだ」
「死んだって、そんななんでもないみたいに言うなよ……」
「遺影で顔は知っているが、俺の記憶にはぼんやりとしか映っていないのでな。で、そんな俺の面倒を見ていたのは、海の家のあの店長だ」
「あの人が?」
 去年の夏休み。流と初めて出会った夏だ。夕陽たちが海の家でバイトしていた時に、世話になった女性の顔を思い浮かべる。
(そう言えばあの人、木葉さんや澪さんの同級生って、澪さんが言ってたような……)
 世間は狭い。妙なところで人間関係が繋がっているものだ。
「俺の住んでいたところは過疎地域でな。小中高一貫の学校に通っていたが、生徒数の減少で廃校になって、この街に来たんだ」
 この街を選んだ理由は、母親の生まれ故郷だから。そして母親の家があるから、という理由らしい。
「店長の世話になり続けるのも嫌だったしな。まあ、相変わらず大量の海産物を送りつけて来るが。もしも食いたくなったら言え、やる」
「あ、うん。ありがとう」
 ではなく。
「……色々と、大変なんだな。お前も」
「全部昔の話だ。今のお前たちの方が、よっぽど大変だろう」
 過去には執着しないたちなのか、それとももう吹っ切れているのか。流はあっけらかんとしているというか、いつもと変わらぬ調子で、逆にこちらが調子狂う。
(御舟の家庭事情を聞いた時も思ったけど、自分が普通の生活しているだけに、こういうの聞くと気が滅入るよな……)
 本人が気にしていなくとも、聞き手の方が逆に気にしてしまう。
(でも……聞けて良かったかもな)
 流とは、夏休みが終わってから出会い、もう半年の付き合いになる。そう何度も会う仲ではないとはいえ、夕陽は流のことについて、知らないことばかりだった。
 だが、そんな思い過去でも、少しだけでも知ることができた。それは、なんだか嬉しいように思う。
(……って、光ヶ丘じゃないんだから。そんなくさいことは心の中でだって——)
 ふと、姫乃の顔を思い出す。すると途端に、顔が熱くなった。
「……? どうした?」
「いや……なんでもない」
 手で顔面を押さえながら、顔を背ける夕陽。
 やはり思い出してしまうと、どうしても冷静になれなくなる。頭がカァッと、燃え滾るように熱くなる。そのまま沸騰してしまいそうだ。
「……まあ、とりあえずここだ」
 そう言って招き入れられたのは、和室。いや日本家屋なので和室なのは当然だが、そうとしか形容しようがない。樫の木で作られた年代物の机が一つ、部屋の中央に鎮座しているだけだ。いわゆるリビングか、夕陽を招き入れたところから応接室のようなところだろうか。
「……ここは?」
「部屋だ」
 そんなことは分かっている。
「えっと、じゃあ、ここでなにを?」
「これだ」
 流の思考というか、なにがしたいのかがまったく分からず困惑していると、流はスッと、それを出した。
 そして、また脳がフリーズする。
「えっと……それは?」
「デッキだ。対戦するぞ」