二次創作小説(紙ほか)
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.619 )
- 日時: 2014/11/10 13:59
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: RHpGihsX)
「うーん……」
「どうした?」
「なんであたしたちのカードって、クリーチャーが出てこないのかな?」
「あたりまえだろ、カードなんだから」
「でもアニメではクリーチャーが出るよ? あんなふうに出てきたら、ぜったいかっこいいのに」
「そんなことあるわけないだろ……でも、もしも出てきたらかっこいいな」
「だよねだよね! いつか出てきたりしないかな!?」
「ないな」
「うー、ゆーくんのいじわる。そーゆーの、ユメがないってゆーんだよ!」
「ありえないものはありえないんだよ。そんなこと、いっしょうあるもんか」
「——で、結局なんだったんだ?」
「なにがだ」
「さっきの対戦だよ。なんの意味があったの?」
対戦を終えてカードを片付け終えたところで、夕陽は流に尋ねた。
いきなり対戦が始まり、それに流されて対戦を進めたが、結局その対戦はなんのためにしていたのか。
「意味、というほど大袈裟なものではない。少しは気が楽になるかと思ってな」
「……は?」
「悩んでいるのなら気を晴らせばいいと思った。どうだ?」
「……はぁ」
そういうことか、と夕陽は肩を落とした。
「そんなことで悩まなくなるなら、最初からそうしてるよ……」
「ダメか?」
「ダメっていうか……」
解決になっていない、と言うべきか。確かに対戦中はデュエルに熱中していたが、対戦中だけだ。それでどうにかなるわけでもない。
「……すまない」
「いや、いいよ別に。やっぱ、僕一人でどうにかすべき問題なのかもしれないし」
今日はもう帰るよ、と言って、夕陽は立つ。流も玄関口まで見送ってくれた。
「結局なんにもならなかったけど、ありがとう、流。話を聞いてくれただけでも、多少は楽になった気がするよ」
「それなら良かったがな。やはり、俺はその手のことには不得手なようだ」
元からあまり期待してなかったけどね、と心中だけで呟きつつ、夕陽は背を向ける。が、その時、流に声をかけられた。
「……『昇天太陽』」
「? なに?」
「お前は随分と思い悩んでいるようだが……お前の悩みは、それほど難しく考えることなのか?」
「……どういうこと?」
なにか、根本から覆されるような流の言葉に、夕陽は踏み出した足を止める。
「光ヶ丘姫乃の告白に、お前の答えを導き出すだけのことに、悩む要素があるのか?」
「そりゃあ……悩むよ。簡単に答えを出せることじゃないし、今までの関係だって——」
「確かに、軽々に答えを出せることではないだろう。だが、今までの関係を問う前に、今出すべき答えを出せ。一つ聞くが、お前は光ヶ丘姫乃のことが嫌いか?」
「そんなことはないけど、それとこれとは違う——」
「違わないだろう。お前が思っている以上に、お前たちの関係は強固で、単純で、不変なものだと俺は思っている。絶対的に不変とまでは言わないが、お前が、今のお前が純粋に思っていることが、お前たちの関係を悪化させることに繋がるとは、俺には思えない」
「いや、でも——」
急に、捲し立てるような流の言葉に、戸惑う夕陽。言葉が出ない。なんと言えばいいのか分からない。流の言葉を否定するのも、肯定するのも躊躇われる。
「最後に一つ、俺から言えるのはこれで終わりだ。“悩みすぎるな”。悩むことがいい結果をもたらすとは限らない、もっと素直になれ。あまり深く考えてばかりいると、いつか逃げるだけになるぞ」
「…………」
まるで警告だった。その言葉をそのまま受け取ることはできないが、悩しかし無下に突っ撥ねることもできず、
「あ、あぁ……」
夕陽は、曖昧に答えるだけだった。
「……帰り際に悪かったな。今後も、こんな俺で良ければ、話くらいは聞く。じゃあな、『昇天太陽』——」
「——流!」
今度は流が背を向ける。その瞬間に、夕陽は彼を呼びかける。
「……なんだ?」
「僕のこと、夕陽って呼んでくれ」
唐突な要求だった。
「いつまでも『昇天太陽』なんて呼ばれ方をされるのは気分が悪い。僕も流って呼んでるし、流も僕のこと、普通に名前で呼んでくれよ」
「……いいのか? 仮にも、夏には敵対していた俺だぞ」
「そんな昔のことを引きずるなよ。それに敵対してたんなら、僕の悩み相談に乗ってはくれないだろ」
それだけではない。文化祭やクリスマスに正月、そしてひまりの最期のあの時まで——流は夕陽たちと、共に戦った。
「だから流はもう……僕らの仲間だ」
「…………」
ほんの少し。流は驚いたような顔をしていた。夕陽も自分の口からこんな言葉が出るとは思っていなかったので、内心では自分に驚いている。
しばらくの沈黙があり、やがて流が口を開く。
「……そうか」
短い言葉だった。しかし、そこには流の、言葉にしない分の思いも詰まっているように感じられた。
「——じゃあな、夕陽」
「ああ。今日はありがとう、流」
そう言って、二人は背を向けて、別れた。
夕陽が帰り、背を向けたまま戸を閉める流は、ふっと呟いた。
「……これで良かったのだろうか」
「なにがだ?」
流の呟きに、ネプトゥーヌスがカードから出て来る。
「純粋に、夕陽のあの言葉は嬉しかった……だから、今なら俺は、仲間として夕陽にああ言ったと言える。だが、俺のあの言葉は、正しい判断だったのだろうか」
自分が思うことを言っただけだが、もしかしたらあの言葉は、むしろ夕陽を追い詰めてしまうのでは、と今更ながらも後悔が滲む。
「なあ、ネプトゥーヌス……俺は、正しかったのか?」
「……分からん」
流の問いに、ネプトゥーヌスは静かに答えた。
「我は審判ではない。なにが正しいかを、公平の目で見て判断できるだけの力はない。ただ我の口から言えるのは一つだけ……義に従うのみ」
「義、か……」
それはネプトゥーヌスの口癖だった。義、即ち正義。
「流よ、汝の言葉が、汝の義に反しないと思うのであれば、汝の選択は正しい。己の義に反していると思うのであれば、それは間違い。我から言えるのはこれだけだ」
「そうか……」
ならば、流の言葉は、流の正義に沿っているのか。それを考える。
(正義などという大仰な言葉を使う気はないが……これは、俺の意志なのか)
流は思い出す。夕陽の相談に乗ろうと思った契機。少しでも、彼らの力になろうと思った、あの日のことを——
半年ほど前。ある日、学校の屋上で寝ていた時のことだ。
ギィ、と屋上の扉が開く音が聞こえた。
「あ、ここにいた」
聞き覚えのある女子生徒の声。流はそれを無視して、目を閉じている。
「なーがーれーくんっ。零佑君が呼んでたよ。ねぇ、聞いてる? 流君!」
「…………」
「リュウ君」
「ナガレだ」
起きた。流石にそれは譲れない。
声でほとんど分かっていたが、流はその人物の顔を見て、口を開く。
「……朝比奈か」
「ひまりだよ。それより、零佑君が流君のこと探してたよ」
「そうか」
それを聞き、また寝る。
「行かないの?」
「どうせ後でクラスで一緒になる。もしくは、そのうちここを嗅ぎ付けて来るだろう……それに、たまには一人でいたい時もある」
「あー、分かるかも、それ」
と言いながら、ひまりはそれとなく流の隣に座った。
しばらく無言の時間が続いたが、やがてひまりが、どこか独り言のよう、流に呼びかける。
「……夕陽君たち、大変そうだね」
「【師団】が迫っているんだったか……俺たちの所にも、その刺客らしきクリーチャーは来たがな」
それに、と流は付け足す。
「大変なのは、この世界に身を投じている時点で当然のことだ。今更だろう」
「そう、だね……確かにね。夕陽君たちなら、大丈夫だよね」
言葉足らずな流の言葉を、かなりポジティブに解釈したらしいひまりは、そんなことを言う。
本当はもっと厳しいことを言ったつもりだったが、訂正するのも面倒だったので、そのまま放っておく。
「確かに、大変なのは最初から。夕陽君たちも分かってるし、それはみんな一緒……だけどさ、流君」
「……なんだ」
「私たち、二年生だよね。夕陽君たちより、先輩……なんだよね」
「学年上はそうだな。それこそ今更だ」
「だからさ」
スクッと、ひまりは立ち上がった。そして、くるりと半々回転し、流に向き直る。
「私たちで、夕陽君たちをサポートしなきゃね! だって私たちは、あの子たちの先輩なんだから。それが仲間ってことだよね」
「…………」
「勿論、流君も私たちの仲間だよ」
流は、なにも答えなかった。
この時は、特になにも思わなかった。見知らぬ仲ではないので、助け合うくらいはしてもいいだろうと、どこか他人事っぽく考えていた。
だが、この約一ヶ月後、彼女がこの世界から消えた時
流は初めて、彼女の言う仲間を意識した。
そしてそれは、今もなお、続く——
「……やはり、分からないな。とても、難しい……」
あの時のことを思い出し、改めて今の自分の仲間というものを考えてみるが、答えは出ない。
しかし、同時にそれが仲間というものなのかもしれないと思う。そう思えば、悪くはない気分だ。
流は閉めた戸をまた少しだけ開き、夕陽が去っていった、道の向こうを見遣り、そっと口を開いた。
「夕陽……あいつの意志を継ぎたいのは、お前だけではないんだ——」
そして、ぴしゃりと戸を閉めた。