二次創作小説(紙ほか)
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.622 )
- 日時: 2015/10/27 01:50
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: arA4JUne)
「ねーねー、ゆーくんは学校を卒業したらどうするの?」
「どうもこうも、普通に中学に上がるだけだろ。特別なことなんてなにもない」
「やっぱそうだよねぇ、おねーちゃんもそうだったらしいし」
「中学までは義務教育だからな、当然だ」
「おねーちゃんは東鷲宮だって言ってたけど、烏ヶ森もいいよね。制服がかっこい」
「やめとけ、あんな遠い学校。普通に近場にしといた方がいいぞ」
「でも、制服カッコイイじゃん。男子のだけど、ブレザーも着れるんだよ? ブレザーって、大人っぽくてカッコよくない?」
「だったら高校でブレザーの学校に行けばいいんじゃないか?」
「あ、なるほど! さっすがゆーくん、頭いい!」
「……お前が馬鹿なだけだろう」
「なんか話しづらくなったから出て来たけど、中途半端に時間空いちゃったな」
携帯で時間を確認すると、二時を少し過ぎたくらい。このまま家に帰ってもいいが、することがない。時間を持て余してしまった。
「このみはいくら時間があっても足りないくらいだし、この余った時間を分けてやりたいよ」
一応、期末考査直前の何日間が、雀宮高校の受験日となっているので多少の余裕はあるが、それでも現在のこのみの成績を鑑みれば、時間はギリギリといったところだろう。別段、心配しているわけでもないが、姫乃が付きっ切りで勉強を見ているというのに、結局進級できませんでした、などということになるのは少々いたたまれない。
などということを考えていると、カードからアポロンの声がする。
「そういえば、夕陽は勉強しなくていいのか? テストが近いんだろ?」
「…………」
黙った。
しばしの沈黙。
「……好き好んで勉強をしたがる学生っていうのは、この世界にはごく少数しか存在しないんだよ、アポロン」
夕陽とて自分から進んで勉強をしたがるような人間ではない。家に帰るとやることがそれくらいしかなくなりそうなので、どこかで時間を潰すことを考える。
「そうだなぁ……どこかカードショップでも行くかな。最近デッキ一つ考えたし」
「汐の店じゃないのか?」
「御舟は今、受験勉強の追い込み時期だからな。もうすぐ受験日らしいし、できるだけ邪魔したくない」
高校受験は余裕と言っていたが、それでも最後まで追い込みをかけているらしい。それだけ、どうしても行きたい学校ということだろう。それを邪魔するわけにはいかない。
「なにさ、みんなべんきょーべんきょーって……そんなにべんきょーが大事なの?」
「プロセルピナ……」
急にポケットから声がしたので、カードを取り出すと、プロセルピナはふくれっ面でまだ拗ねていた。
「このみのは自業自得だけど、御舟は自分の進路のために頑張ってるんだ。一概に勉強が悪いとは言い切れないよ」
そもそも学習という行為が悪いこと、というのは常識的には言えないのだが。
「むー……」
とはいえ、泣く子と変わらぬプロセルピナに、道理がまともに通るとは思っていない。駄々をこねるようなことは言わなかったが、まだ頬を膨らませている。
「……まあそういうわけだから、御舟屋以外の店に行きたいけど、あそこ以外にはほとんど行かないから、あんまり知らないんだよな……とりあえず近場は……」
知っている限りの店を頭の中でピックアップし、夕陽は徐に歩を進めていく。
「——所長、頼まれてた資料、持ってきました」
「んー、サンキュー。そこにプットしといて」
「え、どこですか……?」
「ここだ。この机の上。上に乗ってるゴミは適当にそこの袋に放り込んでおいてくれ」
日本のどこかにある【ミス・ラボラトリ】の研究所にて。
黒村は希野と共に、ラトリに頼まれて持ってきた資料を、所長室に運び込んでいた。
そして当のラトリは、巨大なモニターがいくつも並ぶ中、キーボードとディスプレイに向かっている。
「……なにをしているんですか?」
「ちょっとね。現時点での『神話カード』の所在をチェックしてるの」
定期的に『神話カード』の所在を確認し、情報を更新するのも【ラボ】の仕事。『神話カード』はよく持ち主が変わる。しかし最近では、その傾向が廃れ、一人の所有者が長期間持つことも多くなった。というより、現在の所有者のほとんどは、半年近く同じ『神話カード』を持ち続けている。五割以上の所有者がそうであるのだから、やはり“ゲーム”も変化していっているということだろう。
「今はあまり変化がないと思いますが……なにか動きがあったのでしょうか?」
「希野ちゃんの言う通りかな? まだ確定じゃないけど……少なくとも、持ち主がチェンジのはいるね」
「誰ですか? まさか《太陽神話》とかじゃないですよね?」
「まっさかー。ノンノン。とりあえず一つずつ見ていくけど」
そう言って、画面上に十二枚のカードが表示される。そして十二枚の内三枚が、別の画面へと映し出された。画面の上には【Division】——【師団】と表示されている。
「まずは【師団】。言わずもがな《支配神話》と《生誕神話》をハビング中。それと《冥界神話》」
「《冥界神話》? あまり情報を聞きませんが、それも【師団】の手に?」
「イエス。実は《冥界神話》はもう長いこと【師団】の……第六小隊長、だったかな? のハンドにあるんだけど、その『神話カード』の性質上、情報がキャッチしづらくてね。保留保留で放置状態だよ」
でも、そのうち動くんじゃないかな、とラトリは言って、次の画面操作に入る。
次に、三枚抜けて九枚になったカードから、二枚が抜けた。その二枚が、また別画面に表示され、今度は【Society】——【神格社界】と出る。
「《焦土神話》《賢愚神話》をハビング中なのが、【神格社界】。まあでも、組織の性質上、ほとんど個人でハブしてるのと変わんないけどね。それから……」
また画面から、七枚のカードのうち五枚が別画面に表示され、そこには【Suzumenomiya high school】——【雀宮高校】とあった。
「《太陽神話》《萌芽神話》《慈愛神話》《海洋神話》《月影神話》——『神話カード』の総数だけを見れば最大規模の雀宮高校。彼らも変わりはないね」
「むしろ、俺たちとしては変化を望まない方がいい連中ですね。情報が掴みやすく、一ヶ所に『神話カード』が集中しているから、管理や操作もしやすい」
下手に力を使われて、“ゲーム”を混乱状態にすることもない安全因子であるため、彼らが最大勢力ならそれはそれで構わない。
「んー、まあ、まあね。んで私たち【ラボ】がアテなこと《守護神話》の所有組織、と」
残り二枚になったうちの一枚が、またまた別画面へ移動。画面に表示されているのは【Labo】——【ラボ】。
これでほとんどの『神話カード』の場所は特定できたが、まだ一枚残っている。それが、
「……《豊穣神話》ですか」
「ザッツライト。その《豊穣神話》の所有者が、最近チェンジしたっぽいんだよ」
ラトリが言うに、《豊穣神話》の所有者はしょっちゅう変わっており、昨年では一月に一回くらいのペースで変わっていたらしい。
「最近って言っても、たぶん年明けビフォーの十二月くらいだけど」
「年明けビフォーって……十二月に手に入れたとしたら、その所有者はおよそ三ヶ月、なにも行動していなかったことになりますが」
所有者が変わったという情報を掴んだのが最近ということは、それまでになにか特別なことをしてなかったはず。《豊穣神話》の所有者が、なにかしでかしたという情報は一切掴んでいない。
「だから、そろそろムーヴメントをスタートするんじゃないかと私は踏んでるけど……場所も雀宮にかなり近いし、とりあえず監視と情報収集はキープしておこうか。この案件は、君らに任せてオッケーだよね?」
「え、あたしたちがですか?」
「俺は構いませんが」
元々監視や情報を収集を行っている場所が雀宮近郊なので、黒村としてはいつもの業務のついで、もしくは追加業務程度の認識だ。
しかし、こんな軽い感覚で、『神話カード』の動向を探るという大役を任された希野は、少し戸惑っているようだった。無理もない。ラトリもそれは分かっている。分かっているので、
「ダメそうなら、九頭龍君にでもアスク——」
「やります、やらせてください」
——分かっているうえで、こんなことを言うのだ。
とはいえラトリとしても引き受けてくれるのなら文句はない。快くその案件を任せる。
「オッケー。じゃ、頼んだよ」
「はい!」