二次創作小説(紙ほか)

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.627 )
日時: 2015/04/05 14:38
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: RHpGihsX)

「やったよゆーくん! あたしたちおんなじクラスだって!」
「知ってるっての……それより、あんまり騒ぐなよ」
「? なんで?」
「他の人が、こっち見てるだろ。お前はただでえさえ目立つんだから……変な誤解されてもこまるし……」
「誤解? なにが?」
「……なんでもない。ほら、さっさと教室に行くぞ」
「あ、待ってよゆーくーん!」



 脳内名簿からめぼしいカードショップ選考し、最終的に夕陽が訪れたのは、ショッピングセンターだった。
 勿論デュエルマスターズ・カードは置いてあるが、他にも多数の玩具と一緒に売られており、カードショップというよりはホビーショップだ。『御舟屋』のように税抜き価格で売ってくれるサービスなどなく、シングルカードもないため、普通に買うにはあまり効率は良くない。
 ただしデュエルロード開催店舗で、パックを複数買うと特典のプロモカードが付いてくるのは、『御舟屋』にはない利点だ。それと、ポイントカードがある。夕陽がここをチョイスした理由は、ポイントが溜まるから、というものが大きい。
「とりあえず、エピソード3まで置いてあればいいな。あとは特殊エキスパンションがまだ残ってるといいけど……」
 こういう大型店舗だと、最新弾やその付近のエキスパンションはあっても、少し古い弾や、過去に発売していた特殊エキスパンションはすぐに取り扱わなくなるケースが少なくないので心配だったが、商品棚を見る限り、夕陽の目当てのもの概ね揃っているようだ。
「まあ、シングルで揃えた方がいいっていうのはその通りなんだけど、この辺りの汎用性の高いカードも欲しいからね」
 誰に言うでもなく一人でぶつぶつと呟いている夕陽。傍から見たらどう映るのか。と言っても、他人には聞こえない程度の声量だが。
 現在の財布の中身と、目当てのカードが手に入る期待値を天秤にかけ、どのくらい買おうか考える。とりあえずこのくらいでいいか、と盗難&サーチ防止のためのペラペラな商品サンプルを手に取ってレジへと向かう。
 すると、レジ前で見覚えのある人物が目に入った。
 このみほどではないにしろ小柄な体躯。栗毛のショートボブに、左右を白いリボンで結った少女だ。
(つーか、なにかにつけ背の低い子を見ると、このみと比較してしまうのは如何なものか……)
 そんな自分に若干呆れつつ、夕陽はその少女を呼ぶ。
「柚ちゃん」
「ひゃぅっ」
 驚き竦み上がった。
 その表現以外では言い表せないほどに、少女は怯えるように身体を硬直させていたが、夕陽の存在を視認すると、どこか安心したように夕陽を見上げる。
「ゆ、ゆーひさん……」
「そんなに驚かなくても。久し振り」
「お、おひさしぶりです」
 霞柚。
 それが彼女の名前。
 現在は中学一年生で、夕陽の妹の親友。夕陽も面識はあり、それなりの付き合いはある。それでも今のように、不意に声を掛けられるだけで飛び上がるくらいには気の弱いところがあるのだが。
「今日は、おひとりなんですか……?」
「そうだけど、なんで?」
「このみさんとか、御舟せんぱい——あ、いえ、月夜野せんぱいとかと、一緒じゃないんだなって……いつも、お二人のどちらかと、一緒にいるので……」
「僕って、そんな一人でいることが珍しいと思われてるんだ……」
 ショックを受けたわけではないが、少々心外だ。自分だって一人で出歩くことくらいはある、と誰に言うでもなく心の中で反論する。
 ただし、口に出すと目の前の少女が申し訳なさそうに身を縮めるだけなので、心の中だけに留めておくが。
「……御舟は受験だよ。今が追い込みの時期だからね。このみは進級をかけて勉強中。このままだと、もう一度一年生をやり直す羽目になる」
「え、えぇっ? それって、大変なことなんじゃ……」
「そうだよ、大変だよ。あいつの欠課はこっちにまで飛び火しかねないし……今は光ヶ丘が勉強を見てるけど。柚ちゃんも先の話とはいえ、試験勉強くらいは真面目にやった方がいいよ」
「は、はい、覚えておきます……」
「ま、あいつと違って柚ちゃんなら心配ないと思うけどね」
 あいつ、と一言で言う夕陽だが、その中には二つの人物像が浮かんでいた。
 春永このみと、もう一人は、夕陽の妹。
 そしてその二人共を知る柚は、そこまで理解が及ぶ。
「あいつって……このみさんのこと、ですか? それとも、あき——」
「どっちも。あいつは本当、変なとこばっかこのみに似ちゃったもんだから、こっちも大変だよ」
「そ、そんなことない、と思いますけど……最近は、前みたいな無茶はしなくなりましたし」
「確かに最近のあいつは少し大人しいかもな」
 とはいえ、それでも夕陽の中では手のかかる存在に変わりはない。
 いや、手のかかると言っても、手をかけているわけではないが。特に“ゲーム”の世界に介入してからは。
「それでも妹については柚ちゃんにも迷惑かけてごめんね。本当は兄である僕が面倒を見るべきなんだろうけど、僕が絡むとやたら反抗するしな……」
「い、いえ、そんなこと……むしろ、わたしがいつも助けられてばっかりです」
 彼女の性格からして、きっとそれは本心なのだろう。とはいえあの愚昧が誰にも迷惑を掛けずに立ち回ることができるとは到底思えない。なので兄という立場上、その辺りがどうしても気がかりであった。
「あの、ゆーひさん。一つ、お聞きしてもいいですか……?」
 とそこで、急に柚が話を転換する。
「ん? なに?」
「ゆーひさんの言葉で思い出したんですけど……お兄さんのこと、なにか知りませんか……?」
「お兄さん? 柚ちゃんの?」
「はい……」
「…………」
 夕陽は黙った。同時に、苦い顔をした。
 柚には歳の離れた兄がいて、その存在は夕陽も知っている。夕陽とも年齢が近いわけではなく、また家の事情で妹や柚のように特別親しいわけでもないが、何度か顔は合わせたことがある。
(柚ちゃんのお兄さんって、あの人だよな……柚ちゃんには悪いけど、できれば関わりたくないんだよな、あの人とは……)
 そんなことを思うも、しかしその妹である柚はどことなく悲しげで、心配そうな表情をしている。
 そんな顔をされるとなにか言ってあげたくもなるが、しかし関わりたくないと同時に、あまりかかわりのない相手であるため、夕陽はなにも分からなかった。なので、
「ごめん、僕はなにも知らないんだ」
 と、答えるしかなかった。
「そうですか……」
「なにかあったの?」
「実は最近、お兄さんはよく外出しているんです。でも、お仕事じゃないみたいで……帰って来る時も、怪我をするのはいつものことですけど、最近は特にひどくて……」
 今にも泣きだしそうなほどに表情が沈んでいく柚。
(柚ちゃんのお兄さんの仕事ねぇ……そりゃ傷もできるだろうけど、僕にはなんと言ったらいいのやら……)
 しかし夕陽にとってはまったく無関係のことだった。少なくとも、ここ一年近く柚の兄とは出会っていないし、彼が今どこでなにをやっているのかもわからない。
 柚とは親しい仲なので力になりたいとは思うが、いくらなんでも情報がなさすぎる。これでは力になりようがない。
 そしてそれは、柚自身も分かっているようで、
「……ごめんなさい。こんなこと言っても、ゆーひさんに迷惑かkちゃうだけですよね……」
「いや、そんなことは……」
「心配ですけど、お兄さんなら大丈夫だと思いますし……今度、わたしからもいろいろ聞いてみます」
「う、うん。そうした方がいいんじゃないかな」
「はい! がんばります!」
 と、その辺りでこの話は終わりになった。
 妹についてもそうだが、彼女も少し見ない間に変わったような気がする。去年までは兄に対しても怯えていて、こんなにはっきり自分の意志を言うこともなかった。
(僕の知らないところで、妹たちも成長してるってことなのかな……)
 などと柄にもないことを考えながら、夕陽と柚は別れた。
 柚はまだ買い物があると言って別の場所へと向かい、夕陽はそのまま家へと帰宅する。
 その道中。夕陽はふと思い出した。
「……あれ、そういえば僕、なにしにあの店に入ったんだっけ……」